離婚時の財産分与は、婚姻中に築いた財産を分配する制度ですが、どう分けるかによって離婚後の生活の安定度は大きく変わります。離婚の際に決めるべき金銭的な条件の中でも高額になりやすく、避けては通れない重大な課題です。
一方で、財産分与を考えるにあたっては、「どの財産が分与の対象になるのか」「公平な割合は?」「相手が財産を隠していたら?」といった疑問や悩みを抱える人も多いでしょう。婚姻期間が長いほど、蓄積した財産は高額となり、有利に進めるには法律知識が必要となります。
今回は、財産分与の基本から具体的な手続き、トラブルの対処法など、離婚時に知っておくべき全知識を、弁護士が詳しく解説します。適正な財産分与を実現するため、ぜひ参考にしてください。
- 証拠を集めて財産の全容を把握し、隠し財産を防ぐ
- 公平な財産分与のために、2分の1ルールを基準にして交渉を進める
- 財産分与を有利に進めるには、弁護士に相談して法律知識を得ておく
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離婚時の財産分与とは

はじめに、財産分与の基本について解説します。財産分与の重要性を理解して、離婚時の決断を後悔しないよう、慎重に進めてください。
財産分与の意味と目的
財産分与とは、夫婦が婚姻中に築いた財産を、離婚時に適正に分配する制度です。
婚姻中に形成した財産を清算することで、離婚後の経済的な格差を是正し、特に収入や資産の少ない側の生活を守ることを目的としています。
結婚生活の中で築かれた財産は、夫婦の共同財産とみなされます。たとえ名義が夫や妻のいずれか一方のものだとしても、婚姻中の収入や資産は夫婦の協力によって得られたと考えられるため、公平に分配することが求められます。離婚条件として決めるべき金銭の中でも高額化しやすいため、しばしば争いの元となります。
また、専業主婦(主夫)など収入がなかった配偶者であっても、家事や育児を通じた貢献が認められるときは、財産分与を請求することができます。
離婚すると、夫婦であった間に法律上負っていた同居義務、相互扶助義務はなくなり、生活費(婚姻費用)の支払いもなくなります。これまで一方の収入に依存していた場合、離婚後は経済的に自立して生活する必要がありますが、結婚時に専業主婦(主夫)になったりパートなどで仕事を制限したりした人にとって、すぐには困難です。
一方で、結婚後も仕事を続けていた人は、配偶者の協力のもとに財産を蓄え、離婚後の生活には困らないでしょう。
このような不公平を是正するのが、離婚時の財産分与です。
「離婚に伴うお金の問題」の解説

財産分与の法的根拠(民法768条)
財産分与について、民法768条に次のように定められています。
民法768条(財産分与)
1. 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる
2. 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3. 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
民法(e-Gov法令検索)
財産分与は、離婚時に夫婦の話し合いで内容を決めるのが基本ですが、協議がまとまらない場合には、家庭裁判所が判断することとなります。
また、財産分与の請求権には期限があり、離婚から2年以内に請求しなければならないため注意が必要です(この期間は「時効」ではなく「除斥期間」とされ、期間が経過すると自動的に権利が消滅してしまいます)。
「財産分与は2年経過後でも請求できる?」の解説

財産分与の割合の決め方
財産分与を決めるにあたり、裁判実務では「2分の1ルール」が原則とされています。つまり、夫婦が婚姻中に築いた財産は、原則として2分に1ずつ分けるべきということです。これは、夫婦のどちらが収入を得ていたか、いずれの名義で貯蓄していたかにかかわらず、財産形成に平等に貢献しているという考えに基づいています。
例えば、夫が会社員として収入を得て、妻が専業主婦として家事や育児を担う家庭でも、妻の貢献度を認め、財産を2分の1ずつに分与します。
ただし、一方の特別な貢献があり、他方の寄与割合が低いと判断されるケースや、婚姻期間が極端に短いケース、一方が財産を浪費して減らしてしまった場合などは、2分の1ずつだとかえって公平性を欠くと考えられ、分与割合が変更されることがあります。
「財産分与の割合」の解説

財産分与の対象となる財産とならない財産

全ての財産が、離婚時の財産分与の対象になるわけではありません。
財産分与の対象となるのは、婚姻中に築いた「共有財産」であり、対象とならない「特有財産」とは区別して考える必要があります。財産分与は、離婚時の夫婦の公平のためのものなので、夫婦で協力して形成・維持した財産を分ける一方で、夫婦の寄与のない財産については各自に帰属させるのが公平に適うからです。
財産分与の対象について、民法762条は次のように定めています。
民法762条(夫婦間における財産の帰属)
1. 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2. 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
この条文の定める、「夫婦の一方が単独で有する財産」を「特有財産」(1項)、「その共有に属する」財産を「共有財産」(2項)と呼びます。
財産分与の対象となる財産(共有財産)
財産分与の対象となるのは、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産(共有財産)です。夫や妻の一方のみの名義になっていたり、子供や法人など第三者の名義になっていたりしても、実質的に夫婦の協力によって形成されたといえるなら、共有財産として分与の対象となります。
例えば、以下の財産は、共有財産に該当します。
現金・預貯金
夫婦が婚姻期間中に貯めた現金・預貯金は財産分与の対象となります。
夫婦どちらの名義の口座かは関係なく、婚姻中に蓄えたものは分与の対象となります。ただし、結婚前に貯めた預金や、結婚後に相続した遺産、贈与で得た預金などは対象外なので、「夫婦であった期間に増えた差額」を対象とするケースが多いです。
不動産
結婚したあとで購入した住宅や土地は、財産分与の対象です。
夫婦どちらの名義で購入したか、ローンの名義人や支払いがいずれであるかにかかわらず、共有財産とみなされます。ただし、財産分与の際に住宅ローンに残債があると、離婚後に誰が支払うのかを含め、複雑な話し合いが必要となります。
「財産分与で土地を分ける方法」「共有名義の不動産」の解説


車
婚姻期間中に購入した車は、財産分与の対象となります。結婚中に夫と妻のどちらが主に使用していたかは関係ありません。
「車の財産分与」の解説

株式や投資資産
婚姻期間中に購入した株式、債権などの有価証券、投資信託、仮想通貨など、投資資産についても財産分与の対象となります。これらも、名義人が夫または妻のいずれであるか、どちらの証券口座で運用されていたかなどは関係ありません。
また、会社経営者の場合、自社株も分与の対象となり得ます。
ただし、婚姻前から所有していた株式は「特有財産」であり、財産分与の対象外となります。株価が変動したり、売却と購入を繰り返したりしていると、どの程度の割合が共有財産、特有財産なのか、区分が争いとなるケースがしばしばあります。
「株式の財産分与」「会社名義の資産は財産分与の対象?」の解説


生命保険(解約返戻金)
結婚後に加入した生命保険も、共有財産として分与の対象となります。具体的には「離婚時に解約したら得られたであろう解約返戻金」の金額として評価することが多いです。
年金
夫婦の一方が厚生年金や共済年金に加入し、他方が扶養に入っていた場合、離婚すると将来の年金額に不公平が生じる可能性があり、これを是正するのが「年金分割」です。なお、国民年金は分割の対象外なので、個人事業主など、基礎年金しか加入していない場合は分割が起こりません。
退職金
婚姻期間中に積み立てられた退職金も、共有財産として分与の対象となる可能性があります。退職金が既に支給されている場合に分与対象となるのは当然ですが、退職前であっても、将来受け取ることが確実な退職金は、共有財産に含まれる場合があります。
「退職金の財産分与」の解説

子供名義の財産
子供名義で貯めた財産についても、財産分与の対象となることがあります。形式は子供名義でも、実質は夫婦の共有財産であると考えられる場合があるからです。
例えば、子供名義の預貯金や株式、不動産、学資保険などがこれに該当します。
「子供名義の預貯金の財産分与」「学資保険の財産分与」の解説


借金などの負債
借金やローンなど、負債も、夫婦の生活のためにしたものについては財産分与の対象となります。例えば、生活費のための借入、自宅の住宅ローンや自家用車の自動車ローン、子供のための教育ローンなどが該当します。一方で、個人の浪費や趣味のための借金は、「特有財産」であり対象外です。
なお、住宅ローンを控除すると債務超過の状態(いわゆる「オーバーローン」)の不動産は、財産分与の対象から除外するのが実務です。
「借金を理由とする離婚」の解説

財産分与の対象とならない財産(特有財産)
夫婦の一方が婚姻前から有する財産と、婚姻中であっても自己の名で得た財産(親からの相続や贈与によって得た財産など)は、「特有財産」となり、財産分与の対象外です。
民法768条は、婚姻期間中に取得した財産は「共有財産」と「推定」されると定めるので、「特有財産である(分与の対象とすべきでない)」と主張する側が、証拠により「婚姻前から有していた」または「自己の名で得た」ことを立証しなければなりません。つまり、「共有財産か特有財産か区別できない財産」は、全て「共有財産」として扱われ、分与の対象となります。
特有財産の例には、次のようなものがあります。
婚姻前に取得した財産
婚姻前に取得した財産は「特有財産」であり、財産分与の対象にはなりません。
- 婚姻前の貯金
- 婚姻前に購入した不動産
- 婚姻前から所有していた車や株式
- 婚姻前の収入から生じた財産
例えば、夫が結婚前に所有していたマンションや、妻が独身時代に貯めた貯金は、離婚時の分与の対象になりません。
なお、特有財産でも、結婚後にその価値の増加に配偶者が協力したといえるケースでは、一部が分与の対象となることがあります(例:結婚前に購入したローンを結婚後の給料はら払っていた場合)。
相続や贈与で得た財産
婚姻中であっても、夫婦の一方が自己の名義で取得した財産は、原則として「特有財産」となり、財産分与の対象外です。相続や贈与によって得た財産が典型例です。
例えば、夫が親から相続した土地や、妻が親から生前贈与された現金は、夫婦共有の財産とはならず、離婚時に分与されることはありません。
個人的な借金や負債
夫婦生活とは無関係の、個人的な借金や負債は、財産分与の対象になりません。
- 結婚前から抱えていた借金
- ギャンブルや浪費のための借入
- 個人的な買い物のクレジットカードローン、リボ払い
- 経営する会社の事業ローン
財産分与の種類と特徴

次に、財産分与の種類について解説します。
財産分与には、大きく分けて「清算的財産分与」「扶養的財産分与」「慰謝料的財産分与」の3つの種類があります。それぞれ目的が異なるので、財産分与を請求されたときは、どのような意味合いの主張かを理解して、反論しなければなりません。
なお、多くの財産分与は「清算的財産分与」の意味を持ちます。
清算的財産分与
清算的財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産を、公平に分けることを目的とした財産分与であり、最も基本的な考え方です。
清算的財産分与は、婚姻中に築いた「共有財産」を対象に、原則として2分の1ずつ、平等に分けます。離婚時の財産分与についての一般的なケースなので、全ての財産分与の話し合いは、この「清算的財産分与」を前提として進みます。
離婚時の夫婦の公平のためのものであり、夫や妻いずれかの責任を追及するものではないので、「離婚についてどちらの非があるか」にかかわらず決めるのが基本です。そのため、不貞行為やDVなど、相手に有責行為がある場合でも、清算的財産分与にはさほど影響しないことが多いです(慰謝料など、他の離婚条件において考慮されます)。
「不倫による離婚でも財産分与は必要」の解説

扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、離婚後すぐには一方の配偶者が経済的に自立するのが難しい場合に、他方が生活の支援を行うための財産分与です。
結婚によって仕事を辞めて専業主婦(主夫)となった場合、離婚後すぐには安定した収入を確保できないことが多く、このようなケースで扶養的財産分与を請求することがあります。また、病気や障害、育児の負担などを理由にすぐ就労するのは難しい場合や、長年夫婦関係にあり、高齢で再就職が困難な場合にも、扶養的財産分与が議論されます。
このようなケースは、離婚後の夫婦に明らかな経済的格差があり、一方が生活に困窮しかねず、公平性を欠くため、配慮を要するからです。
扶養的財産分与は、次のような内容となるケースがあります。
- 一定期間の生活費の支払い
離婚後に生活が安定するまでの間、一定額を毎月支払うことを内容とする。 - 一時的な経済援助
再就職や新生活を始めるために、まとまった金額を支払うことを内容とする。
金額や期間は、夫婦の収入格差や生活状況を考慮して、話し合いで決めます。いずれにしても、扶養的財産分与は永続的なものではなく、「再就職できるまで」や「一定期間のみ」の期間限定の支援となるのが原則です。
「扶養的財産分与」の解説

慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与とは、その中に「慰謝料」の意味を含めて払われる財産分与です。
例えば、配偶者が不貞行為(不倫や浮気)をしていたり、DV(家庭内暴力)が行われたりするケースで、婚姻関係が破綻する原因を作った側に対し、その責任に応じて請求されます。
慰謝料的財産分与は、本来の清算的財産分与に加えて、慰謝料として上乗せして支払われます。「慰謝料」そのものとの違いは曖昧ですが、次のようなケースで活用されます。
- 慰謝料を認めるほどの証拠はないが、全く無傷では不公平である有責行為がある場合
- 慰謝料と財産分与を一体化させて早期解決を図る場合
- 「慰謝料」とすると責任を認めたようで、払う側の抵抗感が強い場合
つまり、慰謝料的財産分与は、様々な事情で慰謝料を別途請求するのが難しいケースで、財産分与の形で補填し、公平を保つために利用されます。その金額は、慰謝料と同じく、破綻に至るまでの経緯や責任割合、精神的苦痛の程度などによって判断されます。
「慰謝料的財産分与」の解説

財産分与の手続きと流れ

次に、財産分与をするための方法と、手続きの流れについて解説します。
財産分与の手続きは、まずは夫婦の話し合いにより、合意で決めるのが原則です。しかし、合意できないときは家庭裁判所の関与が必要となります。
財産の調査と目録の作成
はじめに財産を調査し、リストアップして目録を作成します。
財産目録は、対象となる財産をわかりやすく整理し、各財産が現在いずれの名義か、その評価額などを記載します。目録の作成には、夫婦の預貯金通帳、不動産の登記簿や証券口座の取引明細など、財産を示す証拠を開示し合う必要があります。
感情的な対立が激しく、相手が非協力的であったり、財産隠しが疑われたりするときは、弁護士に依頼して財産開示を請求するなど、徹底した調査が必要となります。
「相手の財産を調べる方法」の解説

協議による財産分与
まずは、夫婦間の話し合いで、財産分与請求を行います。
夫婦の話し合い(協議)による合意で決めるのが、最もスムーズかつ早期に財産分与を進める方法です。離婚時の話し合いは、離婚の協議と同時に進め、協議離婚の条件として約束し、離婚届の提出後に分与を行うのが通例です。
口約束だけでは後々トラブルになるおそれがあるので、離婚協議書の中に財産分与について定め、公正証書にすることで証拠化しておきましょう。公正証書にしておけば、約束通りに分与されないときは裁判を経ずに強制執行(財産の差押え)ができるので、特に「離婚するかどうか」に争いがあったケースや、財産分与を分割払いとするケースで重要となります。


調停による財産分与
夫婦間で財産分与の合意ができないときや、相手が話し合いに応じないときは、家庭裁判所に調停を申し立てます(離婚前なら離婚調停、離婚後なら財産分与請求調停)。離婚時に財産分与で揉めると、離婚そのものの成立が遅れてしまいます。
調停では、夫婦の共有財産の一覧やその証拠を提出し、中立の立場である調停委員に仲介してもらいながら夫婦の意見を調整し、合意が成立すれば調停調書が作成されます。調停なら、直接交渉は避けられるので、感情的な対立を抑えて合意を促進することができます。
調停不成立の場合は、離婚前なら離婚裁判(離婚訴訟)の提起に進み、離婚後であれば自動的に審判に移行します。
「財産分与の調停」の解説

審判または裁判による財産分与
調停でも話し合いがまとまらなかった場合は、審判または裁判によって、財産分与についての裁判所の判断を下してもらうことができます。
審判による財産分与
離婚後の財産分与では、調停が不成立となった場合には自動的に審判に移行し、家庭裁判所が職権で財産分与の内容を決定します。審判の内容に不服があるときは、2週間以内に異議申し立て(即時抗告)が可能です。
裁判による財産分与
離婚前の財産分与では、調停が不成立となった場合、一旦争いは終了し、離婚を求める側が離婚裁判(離婚訴訟)を提起するかどうかを選択します。
離婚裁判となった場合には、裁判手続きの中で主張と証拠を提出し、判決によって財産分与が決定されます。判決に不服があるときは、2週間以内に控訴することが可能です。
「離婚裁判の流れ」の解説

実際に財産を分割する手続き
財産をどのように分けるか、協議や調停、訴訟などで決めたら、実際に財産を分割する手続きに進みます。具体的な分け方は財産の種類により異なりますが、不動産なら所有権移転登記申請、株式は株主名簿の書き換えなど、権利を移転する手続きを要します。
財産の分け方には、次の3種類があります。
- 現物分割
財産それ自体を2つに分割し、夫婦それぞれの所有とする方法。現預金など、物理的な分割が容易な財産に向いている一方で、自宅不動産などのように分割が困難な財産には適しません。 - 換価分割
財産を売却して現金化し、その売却代金を夫婦それぞれで分割する方法。ただし、換価が適正な価格でされたかどうかが争いになるおそれがあります。 - 代償分割
財産を夫婦の一方が取得し、他方に対して分与割合に相当する金銭(もしくはその他の財産)を与える分割方法。
離婚後の財産分与請求
離婚時に決めなかったなら、財産分与は離婚後でも請求できます。
離婚後の財産分与は、離婚から2年以内に行わなければ、調停や審判などの裁判所の手続きで請求することができなくなります。
離婚後の財産分与は、協議によって決められない場合には財産分与請求調停を申し立て、調停が不成立の場合には自動的に審判に移行します。離婚前後はあわただしく、相手の不倫が原因である場合などは感情的になって財産分与を決めずに別れてしまう人もいます。
しかし、分与の準備から調停の手続きなどに時間を取られると、2年の期間は長いようであっという間に過ぎてしまいます。速やかに準備し、期限に遅れないよう対応しなければなりません。
「離婚後の財産分与請求」の解説

財産分与を有利に進めるためのポイント

次に、財産分与をできるだけ有利に進めるためのポイントを解説します。
財産分与は、離婚後の経済的な安定に大きく影響するので、損しないためには事前に準備して財産を把握し、戦略的に交渉しなければなりません。
財産の証拠を収集する
財産分与の前に、夫婦の財産を全て洗い出し、その証拠を確保することが不可欠です。
対象となる財産を全て正確に把握しておかなければ、本来であれば得られたはずの分与を見過ごしたり、相手の財産隠しによる不正を許してしまったりする危険があります。
集めるべき財産の証拠は、財産の種類ごとに異なりますが、例えば次の通りです。
【預貯金】
- 通帳のコピー
- 銀行の口座残高証明書
【不動産】
- 登記簿謄本
- 固定資産税評価証明書
【車】
- 車検証
- 売買契約書
- 自動車税納税証明書
- 自賠責保険証
【株式・投資資産】
- 証券口座の取引履歴
- 保有株式のリスト
【生命保険】
- 保険証券・約款
- 保険料の引き落とし履歴
【年金・退職金】
- ねんきん定期便
- 退職金の支給明細
- 勤務先の退職金規程
【借金】
- ローン契約書・ローン残高の明細
- 借用書
- 返済の明細
財産分与を避けようとする相手が、財産を隠すケースもあるので、疑わしいときは隠し財産がないかどうかチェックすることも大切です。例えば、通帳に怪しい入出金がないかどうか、銀行や証券会社から頻繁に郵便物が届いていないか、などを確認してください。
財産を第三者名義に移転するなど、悪質な財産隠しをされた可能性のあるときは、弁護士に依頼して徹底的に調査してもらうことも検討すべきです。
「離婚時の財産分与をしない方法」の解説

財産の価値を適正に評価する
財産分与の際には、財産の価値を適正に評価することが重要です。特に、不動産や株式などの資産は、価格が変動しやすいので注意すべきです。
不動産なら固定資産税評価証明書、上場株式なら市場価格によって評価するのが通例ですが、争いになるケースでは、財産価値は一義的には決まりません。このとき、不動産なら不動産鑑定士による鑑定評価、非上場株式の場合には会計士に依頼するなどして評価を定めます。
なお、財産分与の基準時については、財産の確定は「別居時」、財産の評価は「離婚時(分与時)」とするのが公平に適うと考えられますが、例外もあります。
「財産分与の基準時」の解説

財産分与について弁護士に相談する
財産分与を有利に進めるには、専門家のアドバイスを受けることが有効です。
弁護士に相談することで、財産分与に関する法律知識をもとに、交渉や調停を有利に進める戦略についてアドバイスを受けることができます。
また、財産分与は原則として非課税ですが、不動産の分与には譲渡所得税が発生したり、不相当に高額な分与をすると「贈与」とみなされて贈与税を課されたりする可能性があります。税金に関する疑問は、税理士への相談も有益です。
感情的な対立が大きく、冷静に話し合いができない場合にも、弁護士を依頼して窓口になってもらうことで、ストレスを軽減することができます。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

財産分与でよくトラブルになる事例と対処法

財産分与を進める際、夫婦であった期間が長く、分与が高額になるほど、トラブルが生じがちです。最後に、財産分与でよくあるトラブルの内容と対処法を解説します。
相手が財産を隠している場合
財産分与の際、配偶者が財産を隠していると、本来受け取れるはずの財産が減ってしまいます。隠しやすい財産には、次のような例があります。
- 銀行口座から現金を引き出して別口座に移す。
- 判明していない預金口座を見せない。
- 不動産の名義を親族などの第三者に移す。
- 仮想通貨にして隠す。
- 現金や貴金属を自宅に隠しておく。
相手が財産を隠している可能性がある場合は、適切な調査を実施して、財産を発見しなければ損してしまいます。まずは通帳やネットバンキングの履歴をチェックして、不審な出金や資金移動がないか確認してください。突然に大きな金額が引き出されているときは、相手に使途を確認します。
弁護士に依頼すれば、弁護士会照会や職務上請求などを活用して、財産を特定できる場合があります。また、裁判手続きに移行した後は、調査嘱託を申し立てることもできます。
不正があったことを証拠によって裁判所に説明すれば、公正な財産分与を実現できます。財産隠しがあれば、調停委員や裁判官も積極的に味方になってくれることが期待できます。
住宅ローンや負債の扱い
住宅ローンが残っている不動産がある場合、離婚後に自宅に誰が住み続けるか、その際のローンの支払い方法など、複雑な法律問題が生じます。解決策は、家庭の事情によっても様々なケースがありますが、例えば次のようなパターンが考えられます。
- 夫婦のどちらかが住み続け、住む側の単独名義に変更してローンを引き継ぐ(ただし、ローンの支払人を変更するには、金融機関の承認が必要)。
- 持ち家を売却してローンを清算し、売却代金を折半する(ただし、完済できない場合には、残債を夫と妻のいずれが負担するかが争いになる)。
- 離婚後も共有のまま、ローンを2人で払い続ける。
ただ、離婚後にもトラブルを持ち越す解決は、紛争が再燃する危険があるのでお勧めしません。「妻が住むが、夫がローンの支払いを約束する」といった対処法も、将来一方がローンの支払いを怠るというトラブルが生じるリスクがあります。
まとめ

今回は、財産分与に関する法律知識について、詳しく解説しました。
財産分与は、家庭によっては相当高額になることもあり、「離婚自体には同意している」としても、財産分与について合意ができないことで離婚できず、紛争が長期化するケースもあります。財産分与について自身に有利な考え方と方針を知り、損しないように進めることが重要です。
財産分与について大きな争いとなるケースでは、事前に弁護士に相談するメリットが大きいです。証拠集めを徹底し、財産隠しを防ぐには、できれば別居前に相談した方がよいでしょう。
- 証拠を集めて財産の全容を把握し、隠し財産を防ぐ
- 公平な財産分与のために、2分の1ルールを基準にして交渉を進める
- 財産分与を有利に進めるには、弁護士に相談して法律知識を得ておく
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
財産分与は、結婚期間中に形成された資産を整理し、公平に分割するための重要な手続きです。財産の評価方法や分割の割合などが争われると、法律知識に基づいた解決が必要となります。
トラブルを未然に防ぐために、以下の「財産分与」に関する詳しい解説を参考に対応してください。