離婚協議書は、離婚の際に取り決めた重要な条件を明文化し、将来のトラブルを未然に防ぐための大切な書類です。財産分与や養育費、慰謝料や子供の親権など、生活に直結する重要な離婚条件について、口約束で済ませて離婚届を出してしまうと、後で争いに発展するおそれがあります。
離婚協議書を正しく作成すれば、取り決めた内容が履行されない場合でも法的手段を講じやすくなります。特に、離婚協議書を公正証書にしておくことで、違反時に強制執行(財産の差押え)が可能となります。協議書の準備や作成には手間がかかりますが、離婚後の安心を得るには欠かせません。作成する際は、ケースに応じて必要な項目や内容を知り、漏らさず記載しましょう。
今回は、離婚協議書の書き方や具体的な作成方法について弁護士が解説します。すぐに使える書式例も紹介しますので、離婚を検討している方はぜひ取り組んでみてください。
離婚協議書とは
離婚協議書とは、協議離婚の際に、取り決めた離婚条件を文書に残しておくものです。夫婦いずれかの一方的な要求ではなく、双方が合意し、約束したことを証拠化する重要な役割があります。
離婚協議書の役割
夫婦が離婚する方法には、協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3種類があります。
調停離婚は「調停調書」、裁判離婚は「判決書」という正式な書面を作成し、離婚条件について証拠を残します。しかし、協議離婚は夫婦の話し合いと合意のみに基づく離婚なので、離婚協議書を作成しないと、取り決めた離婚条件が証拠に残らないリスクがあります。離婚の成立時は、例えば次のような重要事項を話し合い、合意に至るのが通常です。
- 離婚時に払う金額(財産分与や慰謝料など)
- 離婚後に継続的に支払い金額(養育費など)
- 子供の養育に関する取り決め(親権・監護権、面会交流など)
口約束しかないと、元パートナーが約束に違反した場合、改めて協議し直したり、調停や訴訟で決め直したりしなければなりません。紛争の蒸し返しを防ぐために、離婚協議書で、離婚時の終局的な解決を定めるべきです。離婚協議書には証拠としての役割があり、取り決めがあったことを示す文章となります。また、公正証書化することで法的拘束力を持たせ、違反した場合でも裁判手続きを経ずに強制執行(財産の差押え)が可能となります。
「協議離婚の進め方」の解説
離婚協議書が必要となるケース
離婚協議書は、将来のトラブル防止のためのもので、何事もなく約束が守られるなら不要です。したがって、特に争いとなりやすい以下のケースで、重要な役割を果たします。
- 財産分与が高額となる場合
- 一方に大きな責任があり、高額の慰謝料を認める場合
- 子供の親権の帰属に争いがあった場合
- 将来の養育費が長期にわたる場合
- DVやモラハラがあって離婚後もトラブルが予想される場合
離婚協議書によって離婚後のトラブルを防ぎ、取り決めた内容の履行を確実にすることができます。どのような項目を記載すべきかは、本解説の書式のほか、次の解説もご覧ください。
「離婚に伴うお金の問題」の解説
離婚協議書の書式・雛形
離婚協議書は、夫婦の話し合いの結果を記載します。そのため、法律上、どのよう内容を書くべき(または、書いてはならないか)というルールはなく、家庭の事情に応じて、合意した内容を自由に記載できます。
とはいえ、離婚時によく争いになる事項に漏れがあると、問題を最終的に解決させる離婚協議書の役割が薄れてしまいます。以下の書式・雛形を参考に、自身の家庭にあてはめ、記載すべき内容を検討してください。
離婚協議書
夫XX(以下「甲」という)と、妻YY(以下「乙」という)とは、離婚について次の通り合意した。
第1条(離婚の合意)
甲と乙は、本日、協議離婚することに合意した。離婚届は甲が先に署名押印し、証人2名に署名押印させて乙に交付し、乙が20XX年XX月XX日までに提出するものとする。
第2条(親権者の指定)
甲乙間の未成年の子A(20XX年XX月XX日生、以下「丙」という)について親権者を父と定め、未成年の子B(20XX年XX月XX日生、以下「丁」という)について親権者を母と定める。
第3条(養育費の支払い)
甲は乙に対し、丁の養育費として、離婚日の翌月から丁が満22歳に達した後最初に到来する3月までの間、毎月25日限り、月額XX万円を、乙の指定する金融機関に振込送金する方法により支払う(振込手数料は甲負担)。
第4条(面会交流)
甲は、丁との間で、月1回、3時間程度の面会交流を行う。日程及び場所は、都度、甲乙間の協議で定めるものとし、丁が7歳になるまでは、事前に連絡の上、乙が送迎を行う。丁が7歳になった後は、年に2回、1泊2日の宿泊をともなう面会交流を行うことができる。
第5条(慰謝料の支払い)
甲は乙に対し、本日限り、離婚の慰謝料として金XXX万円を、乙の指定する金融機関口座へ振込送金する方法により支払う(振込手数料は甲負担)。
第6条(財産分与)
甲及び乙は、下記1記載の不動産を売却し、その代金からローン残高を控除した金額を2分の1ずつ取得するものとする。また、甲は乙に対し、下記2記載の甲名義の預貯金の20XX年XX月XX日時点の残高の2分の1を支払うものとする。
1 不動産 (略)
2 預貯金 (略)
第7条(住宅の取り扱い)
甲及び乙は、前条1記載の不動産に、離婚後も乙が居住することを合意した。不動産に関する未払いの住宅ローン、租税公課その他一切の費用は甲の負担とし、乙は甲に対し、未払いの住宅ローンの半額を、ローン支払い期限のX日前までに甲の指定する金融機関口座へ振込送金する方法によって支払う(振込手数料は乙負担)。
第8条(年金分割)
甲及び乙は、甲乙間の年金分割の割合を0.5とすることに合意した。
第9条(強制執行認諾文言)
債務者は、本証書記載の金銭支払いを怠ったときは、直ちに強制執行に服することを認諾した。
第10条(清算条項)
甲及び乙は、本件離婚が円満に解決したことを確認し、本離婚協議書に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。
【作成日付・署名押印】
なお、上記の書式・雛形はあくまでサンプルなので、家庭の事情に応じて項目の取捨選択を要します。また、子供に障害や難病があったり、一方の財産が相当多額であったりといった特殊な事情によって相場通りの解決とならない場合も、修正や追記が必要です。
離婚協議の段階から、弁護士に交渉を任せることで、個別事情を踏まえて有利になるよう交渉し、その経緯を離婚協議書に反映することができます。
「離婚に強い弁護士」の解説
離婚協議書に記載すべき重要項目
次に、離婚協議書によく記載される項目ごとに、内容や書き方、注意点を解説します。抜け漏れなく作成するためのチェックリストとして活用ください。
離婚の合意
離婚協議書に書くべき最重要の項目が「離婚について双方が合意していること」を明確にする条項です。そもそも離婚の合意が曖昧だと、協議書全体の効力が疑われるおそれがあります。本条項には、合わせて次の内容を記載します。
- 離婚することの合意
- 離婚届にサインする順番
- 証人を誰が用意するか
- 離婚届をどちらが提出するか
- 提出先や提出期限
手続きのルールを細かく取り決めることで、協議書の締結から離婚届の提出まで、スムーズに進めることができます。一方が離婚を拒絶していたり、DVやモラハラがあって対面するのが難しかったりするときには配慮が必要です。離婚の責任が一方にあることを明らかにするため、離婚理由や経緯を記載する例もあります。
次のバリエーションも参考にしてください。
【シンプルな合意条項の例】
「甲と乙は、協議の結果、20XX年XXXX月XX日をもって協議離婚することに合意した。」
【離婚届の提出期限を定める文例】
「甲と乙は、20XX年XX月XX日をもって協議離婚することに合意し、離婚届を同月XX日までに共同で役所に提出することを約束する。」
【離婚理由や経緯を記載する文例】
「甲と乙は、甲の不貞行為を原因とする夫婦関係の破綻を理由に協議離婚することに合意し、20XX年XX月XX日をもって離婚する旨の合意に至った。」
親権者の指定
未成年の子供がいる場合、親権者を定めなければ離婚できません。離婚届には必ず親権者を記載しますが、その前に離婚協議書でも親権者を明確にしましょう。書面上、合意の内容が明確になるよう次の情報を必ず盛り込んでください。
- 子供の氏名・生年月日
- 子供ごとに親権者を「父」「母」などと指定する
子供が複数いるときは、どの子の親権を誰に帰属させるか、書き分けが必要です。なお、親権者と別に監護権者を定めるときは、離婚協議書に必ず定めましょう(離婚届には親権者のみ記載するので、監護権については離婚協議書に書いておかないと合意した証拠が残りません)。
例えば、次の例文を参考にしてください。
【シンプルな親権指定の例】
「甲乙間の未成年の子A(20XX年XX月XX日生)は、母◯◯を親権者とする。」
【親権者と監護権者を別に定める文例】
「未成年の子A(20XX年XX月XX日生)について親権者を父と定め、監護権者を母と定める。」
【離婚後の養育について定める文例】
「未成年の子A(20XX年XX月XX日生」は、母◯◯を親権者及び監護権者と定め、母と共に◯県◯◯市内の母の実家に居住するものとする。」
養育費の支払い
子供を監護する親(監護親)は、他方(非監護親)に養育費を請求できます。離婚協議書に、養育費に関する次の項目を定めるのが通例です。
- 養育費の金額
「養育費・婚姻費用算定表」に従って定めるのが家庭裁判所の実務です。 - 支払日
毎月一定期日(月末など)と定めます。支払者の給料日などを考慮します。 - 支払期間(養育費の終期)
子供が成熟するまで払うのが一般的ですが、成年(満18歳)まで、または大学卒業まで(22歳頃)と定める例が多いです。 - 支払方法
振込先、振込手数料の負担など。
養育費についてよくある記載例は、次のバリエーションを参考にしてください。養育費の支払いは、将来長期にわたるので、事情が変更した場合に備えて柔軟性を持たせたり、遅延した場合のペナルティを規定したりする例が多いです。
【シンプルな支払い条項の例】
「甲は乙に対し、子丙の養育費として月額XX万円を、20XX年XX月から子が満20歳に達するまで、乙の指定する口座に振り込むものとする。」
【支払や増減の条件を定める文例】
「甲は乙に対し、子丙の養育費として月額XX万円を、20XX年XX月から子が満20歳に達するまで、乙の指定する口座に振り込むものとする。ただし、以下の場合は養育費の増減額について協議するものとする。
1. 子の進学や医療費など特別の費用が発生した場合
2. 甲または乙の収入状況が著しく変化した場合」
【遅延時の対応を定める文例】
「養育費の支払いが遅延した場合は、甲は乙に対し、支払額に年利3%の遅延損害金を加算して支払うものとする。」
面会交流
離れて暮らす親が、離婚後に子供とどう交流するかを決めます。「子供に会いたい」と希望する非監護親だけでなく、「健全な発育のため親の責任を果たすべき」と求める監護親にとっても重要です。
面会交流の条項では、次のことを規定します。
- 面会交流の回数や1回あたりの時間
一定の期間に何回会うのかの目安を記載します(「月1回2時間程度」など) - 日程の決め方
夫婦が協力的なときは「後日協議する」とする例もありますが、争いになる可能性があるときは具体的に定めます(「毎月第1日曜日」など)。 - 具体的な交流方法
子の年齢に合わせ、具体的な方法を指定します。幼い子については監護親の協力(送迎や受け渡しなど)、一定年齢以上の子については宿泊の有無を書く例があります。 - 面会交流時のルール
交流時に問題行動を起こすと予想されるときは、禁止事項を定めます。
離婚時に親権争いがあった場合、面会交流はトラブルになりやすいので十分注意し、事細かに決めなければならない例もあります。例えば、次のバリエーションも参考にしてください。
【シンプルな面会交流条項の例】
「甲は、乙が監護する未成年の子丙と、毎月第1土曜日の午前10時から午後5時まで面会交流するものとする。」
【場所や手段を明記する条項例】
「面会交流は、以下の条件で行うものとする。
1. 面会日:毎月第1日曜日の午前10時〜午後5時
2. 面会場所:乙の指定する公共の場所または乙の自宅
3. 引渡と返却:甲は乙の自宅前で子を受け取り、同じ場所に返すことを約束する。」
【通信交流について定める文例】
「甲と子との交流は、面会交流によるほか、通信交流の方法によることができる。通信交流は、面会日以外の日に月2回、乙の承諾のもと電話またはビデオ通話で行う。」
慰謝料の支払い
離婚原因について一方の配偶者に責任があるとき、慰謝料の支払いを取り決める例があります。例えば、夫や妻に不貞やDVがあったケースです。慰謝料の条項で定めるべき内容は、次の通りです。
- 慰謝料の額
慰謝料額を記載します。円滑に協議離婚するには、一定の相場に従った額にするのがよいでしょう(不貞慰謝料の相場は100万円〜300万円程度)。 - 慰謝料の理由
責任を明確にするため、不貞やDVなど、慰謝料の理由を離婚協議書に明記する例があります。支払う側にとっても、後日の追加請求を防ぐ効果があります。 - 支払日、支払い方法
一括払いの場合には支払日、分割払いなら支払期日ごとの支払額についても記載します。分割払いの場合、未払いがあったときは期限の利益を喪失して残額を一括で支払う旨を記載するのが通例です。
慰謝料は、離婚について一方の有責性を表すものなので、協議段階で相手に非を認めさせるには確実な証拠が必要です。慰謝料についてのよくある規定例も参考にしてください。
【シンプルな支払い条項の例】
「甲は乙に対し、慰謝料としてXXX万円を20XX年XX月XX日までに一括で支払うものとする。」
【分割払いを定める文例】
「慰謝料XXX万円の支払いは、以下の条件に従うものとする。
1. 20XX年XX月XX日までに、XX万円を支払う。
2. 残額XXX万円を、20XX年XX月XX日から毎月XX万円ずつ、乙の指定する口座宛に振込送金する方法で支払う。
3. 支払いが一度でも滞った場合には未払い分について年利3%の遅延損害金を加算すると共に、期限の利益を喪失し、元利金を一括で支払うものとする。」
【責任を明らかにする文例】
「甲は乙に対し、婚姻中に行った不貞行為を原因とする損害賠償として、XXX万円を20XX年XX月XX日までに一括で支払うものとする。」
【公正証書化を前提とした条項例】
「甲は乙に対し、慰謝料としてXXX万円を20XX年XX月XX日までに支払う。この取り決めは公正証書として作成し、強制執行認諾文言を付すものとする。」
財産分与
婚姻中に、夫婦で協力して形成した財産を分配するのが、財産分与です。具体的な財産や金額、譲渡の期限や方法などを正確に明記してください(財産の種類や金額が多岐にわたるときは、財産目録や一覧表を添付する方法もあります)。
財産分与条項についても、次のサンプル例を参考にしてください。
【シンプルな財産分与条項の例】
「甲は乙に対し、財産分与としてXXX万円を、20XX年XX月XX日までに支払うものとする。」
【具体的な財産内容を明記する文例】
「甲は乙に対し、以下の財産を分与する。
1. 預貯金:◯◯銀行◯◯支店の普通預金口座(口座番号XXXXXX)の残高全額。
2. 不動産:甲乙の共有名義の自宅不動産(土地と建物)。乙名義に変更するための手続きは甲が行い、その費用は甲の負担とする。
3. 動産:自動車(車種◯◯、登録番号XXXXXXX。」
【不動産の売却・分割を伴う場合】
「甲乙の共有名義の不動産(◯◯県◯◯市所在の土地と建物)については双方の合意に基づき売却するものとし、その売却代金を甲XX%、乙XX%の割合で分配する。なお、売却にかかる費用は双方で折半する。」
財産分与の中でも、特に激しい争いの種となる住宅の扱いについて、別途の条項で定める例もあります。特に、持ち家が財産の相当割合を占めるケースや、その自宅に離婚後も一方が住み続けることを強く希望する場合は、その扱いについて詳細な条項が必要となることがあります。
年金分割
年金分割は、夫婦の年金加入歴を公平の観点から分割する制度であり、離婚協議書にはその割合(通常は0.5)を定めるのが通常です。以下の雛形・テンプレートを参考にしてください。
「甲と乙は、婚姻期間中に形成された厚生年金記録について、乙が分割割合を50%として年金分割を受けることに合意する。」
公正証書化と強制執行認諾文言
離婚協議書を公正証書化しておけば、裁判を経ることなく強制執行(財産の差押え)が可能です。公正証書化には公証役場での手続きを要し、一定の時間がかかるのが通常です。そのため、あらかじめ離婚協議書の文中にも、公正証書化を予定していることを記載します。
以下の雛形・テンプレートを参考にしてください。
「本協議書は、甲及び乙の合意に基づき、公証役場において公正証書として作成するものとし、甲及び乙は本協議書の内容を遵守することに同意する。また、甲は、本協議書に基づく債務不履行があった場合は、直ちに強制執行に復することを認諾する。」
「離婚協議書を公正証書にする方法」の解説
清算条項
清算条項は、将来の追加請求を防ぐ役割があります。離婚協議書に清算条項を定めることで、離婚の争いを終局的に解決し、後日に禍根を残さないようにすることが大切です。夫婦間に債権債務関係がないことを定めるのが通常で、次の文例も参考にしてください。
【シンプルな清算条項の例】
「甲及び乙は、本協議書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。」
【離婚の特性を考慮した条項例】
「甲及び乙は、本協議書に記載された事項をもって財産分与、慰謝料、その他婚姻期間中に生じた一切の債権債務関係を清算したものとし、今後、相互にいかなる名目でも請求を行わないことを確認する。」
【例外を設けた文例】
「(……中略……)ただし、本協議書記載のうち、不動産の財産分与については離婚後も継続して協議するものとする。」
作成日、署名押印
離婚協議書の末尾に、書面の作成日を記載し、両当事者が署名押印します。
署名と押印があることで、夫婦双方が書面に書かれた意思を有していることを表します。末尾の作成日は、離婚を合意した日付を特定するのに役立ち、慰謝料や財産分与の時効の起算日となるので、正しい日付を記載してください。
本件離婚の合意が成立した証として、本離婚協議書を2通作成し、甲乙がそれぞれ1通ずつを保管する。
20XX年XX月XX日
(甲) XXXX 印
(乙) YYYY 印
離婚協議書の作成方法と流れ
次に、離婚協議書の作成方法について、具体的な流れで解説します。
離婚協議書は、必ず離婚届を提出する前に作成することが重要です。協議書の作成前に離婚届を出すと、相手がそれ以上の話し合いに応じなかったり、早期離婚と引き換えに提案した譲歩を撤回されたりするおそれがあるからです。
協議書に必要な情報をリストアップする
離婚協議書には、財産分与や慰謝料、養育費、親権、面会交流など、多くの情報を記載します。その前提として相手と話し合いをしなければなりませんが、後になって抜け漏れが発覚することのないよう、事前に必要な情報を整理しましょう。
せっかく作成した離婚協議書の情報に誤りがあると、書き直しが必要となったり、締結しても後から望む効果を実現できなかったりするおそれがあります。
「離婚までの流れ」の解説
事前に夫婦で話し合う
協議離婚は、夫婦の合意がなければ成立しません。
そのため、離婚協議書を作成する大前提として、夫婦間で離婚条件について合意できている必要があります。「離婚には同意している」という相談をよく聞きますが、希望する条件に差のある状態では、協議離婚はできません。
話し合いが難航する場合は、弁護士を間に入れて感情的な対立を排除するのがお勧めです。
書式に必要事項を記載する
離婚条件に合意ができたら、協議書の書式を準備しましょう。
手書きで作成した離婚協議書も有効ですが、パソコンで作成する方が追記や修正に便利であり、かつ、改ざんなどのトラブルを防ぐことができます。書式例をそのまま使うのではなく、自分の家庭に合った内容を追加、編集し、各項目を漏れなく記載するようにしてください。
完成した協議書を、無料相談で簡単に弁護士に見てもらうのもよいでしょう。なお、協議では離婚条件の合意に至らないとき、離婚調停を申し立てる流れとなります。
「離婚調停の流れと進め方」の解説
離婚協議書を公正証書にする
公正証書にするときは、離婚協議書に署名押印して約束の内容を確定した後で手続きします。具体的には、公証役場で公証人に内容を確認して、公正証書にしてもらいます。公正証書化には、事前の予約や文書のすり合わせが必要となることが多いです。
離婚届を提出する(離婚成立)
最後に、離婚協議書に関するここまでのプロセスが全て終了したら、離婚届を提出して、離婚を成立させます。離婚を先に成立させてしまうと、特に夫婦関係の破綻について責任のある側の譲歩が得られず、交渉が難航する危険があります。
協議書の完成前に勝手に離婚届を出されないよう、離婚届不受理申出の活用も効果的です。
離婚協議書を作成する際の注意点
次に、離婚協議書を作成する際の注意点について解説します。書き方を誤ると、無用なトラブルを引き起こす可能性があるので、よく注意して進めてください。
曖昧な表現は避ける
離婚協議書の内容が不明確だったり、文言が曖昧だったり、見方によって様々な意味に解釈できてしまったりすると、離婚協議書を作成してもトラブルを収めることができません。例えば、「養育費を適宜払う」と記載したり、財産分与の割合を定めたのに対象財産の特定が十分でなかったりといったケースは、その協議書を読むだけでは合意内容を理解することができません。
曖昧な表現を使うのは避け、誰が見ても同じ意味に取れるよう、具体的かつ明確に記載することが重要です。
トラブルになりそうな点を網羅する
離婚協議書に記載しなかった事項について、離婚後に認識の違いが生じ、争いに発展するケースがあります。このとき、協議書作成の段階では「おそらく大丈夫だ」「相手も同じ考えだろう」などと甘く見て、あえて争点にしなかったという人もいます。
しかし、実際には、離婚の場面では、このような争いがたくさん眠っているおそれがあります。例えば、面会交流のルールを明文化しなかったものの、後から「頻度が多すぎる」とか、逆に「色々な言い訳をして会わせてくれない」といった不満が生じる例をよく目にします。
離婚協議書についてのよくある質問
最後に、離婚協議書についてのよくある質問に回答しておきます。
離婚協議書に書くべき内容は?
離婚協議書には、離婚条件について夫婦間で合意した重要な内容を全て記載します。
具体的には「離婚とお金」の問題(慰謝料、財産分与、年金分割など)、「離婚と子供」の問題(親権・監護権、面会交流、養育費など)というように分けて整理しておくのが、漏れなく記載するポイントです。
離婚協議書は手書きでも有効?
離婚協議書は手書きでも有効です。
ただ、手書きだと内容が読みづらかったり、記載漏れがあったときの追記や修正が難しかったりするので、パソコンで作成する方がお勧めです。少なくとも、消えないボールペンで、丁寧に読みやすい文字で書いてください。
なお、手書きであれパソコンであれ、真意に基づくものであることを示すため、署名の末尾に押印をしておきましょう。
慰謝料なしの場合の離婚協議書は?
慰謝料は、必ず定めなければならないものではありません。不貞やDVといった違法性の強い行為がない場合には、慰謝料を定めず離婚するケースも多いです。
離婚協議書に清算条項を記載した場合、そこに書かれた内容以外の債権債務はなくなるのが基本です。慰謝料が発生しないことを確認的に記載して、万が一にも後日慰謝料を請求されるリスクを防ぐ例もあります。
【慰謝料なしであることを確認する文例】
「甲及び乙は、本協議書に基づく離婚において、慰謝料を相互に請求しないことを確認する。」
離婚協議書の必要書類は?
離婚協議書を作成する際には、特に必要書類はありません。協議書はあくまで夫婦の合意を示すもので、どこかに提出することを予定していないからです。
なお、次の資料を準備しておくと、情報の誤りを防ぎ、スムーズに作成できます。
- 夫婦の基本情報を示す資料
免許証、マイナンバーカード、住所、戸籍など - 財産関連の資料
預金通帳、不動産の登記簿謄本、株式や保険契約書など - 子供に関する資料
学費や生活費に関する情報など - 年金分割情報通知書
年金分割を行う際に必要となる書類
なお、離婚協議書を公正証書化する場合には、印鑑証明書と実印、本人確認のできる公的な身分証明書などが必要となります。
離婚協議書を作成するタイミングは?
離婚協議書は、必ず離婚前に作成することが重要です。
夫婦の間で話し合いがまとまった段階で、すぐに作成してください。期間を空けると、相手の気が変わってしまう可能性もあります。離婚後に取り決めようとしても相手が協力してくれないと困ります。
万が一に離婚後のトラブルが生じたときのためなので、破棄したり紛失してしまったりしないよう注意してください。
離婚協議書と契約書の違いは?
離婚協議書も契約書も、締結する当事者の合意を表す点は共通します。
離婚協議書は、離婚に関する取り決めを記載した書面です。夫婦間の合意を文書化したもので、財産分与や親権、養育費といった家庭に関する内容を書きます。これに対し、契約書は、金銭や物品のやり取り、業務の遂行などのルールを定める文書です。
離婚協議書も、広い意味では契約書の一種ですが、その内容が離婚に特化している点が異なります。
まとめ
今回は、離婚協議書について基本知識を解説しました。事情に合わせて活用できるよう、様々な文例を紹介しましたので、作成する際の参考にしてください。
離婚協議書は、離婚後のトラブルを防ぎ、取り決めた内容を確実に履行するために欠かせない重要な書類です。家族の状況に合わせ、適切な離婚協議書を作っておくことが、離婚後の紛争を回避する役に立ちます。慰謝料や財産分与が高額するケースや、養育費の支払いが長期にわたる家庭では、確実な解決のためにも、弁護士のアドバイスを受けながら協議書を作成するのがお勧めです。
離婚協議の段階から必要な情報を整理し、漏れなく協議書に記載することが重要です。協議書を正しく作成することは、将来の不安の軽減に繋がるので、ぜひ弁護士に相談してください。
協議離婚は、夫婦の話し合いで離婚条件に合意し、離婚届を提出することで成立します。この手続きは比較的簡単で迅速に進められる一方、難しい法律問題があっても自分達で乗り越えなければなりません。
合意内容が曖昧なままだと後にトラブルが生じるおそれがあるので、「協議離婚」の解説を参考にして進めてください。