離婚は、夫婦双方の合意があれば成立しますが、夫婦の片方が、他方の同意なく勝手に離婚届を出してしまうケースがあります。無断で出した離婚届であっても、形式的な要件を満たしていれば役所が受理して離婚が成立するので、後から大きなトラブルとなってしまいます。
婚姻届は夫婦双方で提出しても、離婚届はいずれか一人で出す家庭も多いため、役所としても、夫婦双方と証人の署名があれば、離婚を成立させてしまいます。しかし、相手に無断で離婚届を出すのは違法であり、最悪は、犯罪となって刑事事件に発展するおそれもあります。
今回は、離婚届を勝手に出すとどうなるのか、万が一勝手に出された場合の対処法や、無効にするための手続きについても弁護士が解説します。
- たとえ相手が署名していても、勝手に出された離婚届は無効になる
- 署名を偽造した離婚届を出すと、文書偽造罪などの犯罪になるおそれがある
- 勝手に出された離婚届を無効にするには、調停・審判や訴訟で争う方法による
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離婚届を勝手に出すとどうなる?

はじめに、離婚届を勝手に出すとどうなるのか、解説します。
離婚届を勝手に出すという場面では、無断で出した側は法律上の責任を負う可能性があり、一方で、出された側にとっては、自分の意思に反して離婚が成立してしまうおそれがあります。
離婚届を提出する際の要件
離婚届は、夫婦が協議離婚を成立させるための重要な書類であり、提出する際は、次の要件を満たす必要があります。
- 夫婦双方の署名があること
- 証人2名の署名があること
- 記載事項に不備がないこと
- 特に、未成年の子がいる場合は、離婚後の親権者を定めていること
以上の要件を満たせば、役所に離婚届を受理してもらうことができます。これに加え、離婚を成立させるには、離婚届の提出時に夫婦双方に離婚をする意思がなければなりません。しかし、離婚届の提出を受けた役所は、実際に離婚意思があるかどうかまで調査せず、夫婦どちらか一方が提出した離婚届も有効に受け取ってもらうことができます。
その結果、形式的に有効な離婚届の提出があっても、実際は離婚について片方の配偶者が同意していないとき、「離婚届を勝手に出された」という問題が生じます。
「離婚までの流れ」の解説

離婚届を勝手に出されるケースとは
離婚届を勝手に出されるケースには、例えば次のような例があります。
離婚届の署名を偽造される場合
1つ目の例が、離婚届の署名を偽造されるケースです。
- 配偶者の欄も自分で書いて出す
- 友人に代筆してもらう
このような行為は、夫婦間で離婚の話し合いがまとまらないとき、離婚を強く望む一方がすることが多いです。署名を偽造されても、離婚届に正しい情報が記載してあれば役所では受理される可能性が高く、偽造の離婚届でも離婚が成立してしまいます。
未成年の子がいると、離婚届を出す際には親権者の記載が必要です。子供の将来の生活を安定させる必要があるので、親権者の記載のない離婚届は受理されません。
離婚届を無断で出す場合、親権についても、勝手に有利な記載(自分が取得するなど)をして出すケースが多く、特に大きな争いとなります。
預けた離婚届を無断で提出された場合
2つ目の例が、預けていた離婚届を無断で提出される場合です。離婚届の署名は本物でも、「提出すること」に同意がないケースです。
例えば、不貞が発覚した責任を取って、署名済の離婚届を相手に預け、「次に不倫したら提出されても構わない」と約束するケースが典型です。浮気したことで負い目を感じ、言うなりになって署名済の離婚届を預ける人は少なくないですが、「不貞」という非があっても、離婚届の提出時に、双方の離婚意思が必要となる原則は変わりません。
相手本人だけでなく、義両親や親族が「離婚した方が良い」と考えて、離婚届を提出してしまうケースもあります。
「義理の両親からの離婚強要」の解説

過去に作成した離婚届を流用された場合
一度離婚届を作成したけれど、その後に気が変わったり、一旦は円満に復縁できたりする家庭もあります。それでも、過去に作成した離婚届は、何年前のものであっても、勝手に出されると離婚が成立してしまいます。
「協議離婚の進め方」の解説

離婚届を勝手に出したら犯罪になる
勝手に離婚届を出した場合、刑事責任を負う可能性があります。つまり、犯罪行為になり、逮捕されたり刑罰を科されたりするリスクがあるのです。家庭内のことだと、罪の意識なく軽い気持ちで行われがちですが、れっきとした犯罪行為であることを理解してください。
離婚届を勝手に出したことで成立し得る罪は、次の通りです。
公正証書原本不実記載等罪
離婚による身分変動は、戸籍に記録されますが、不正があるとその記録を誤ったものに変更してしまいます。その結果、公正証書原本不実記載等罪(刑法157条1項)にあたり「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処せられます。
私文書偽造等罪・偽造私文書行使等罪
離婚届は私文書ですが、相手の署名を勝手に書いたり、印鑑を勝手に押したりして作成者を偽る行為は「偽造」として罰されます。私文書偽造等罪(刑法159条1項)及び偽造私文書行使等罪(刑法161条)に該当すると、「3月以上5年以下の懲役」に処せられます。
重婚罪
無効な離婚届を出した後に別の人と結婚すると、重婚罪(刑法184条)が成立する可能性があります。重婚罪は「2年以下の懲役」に処せられます。なお、重婚は、民法でも禁止されており(民法732条)、不適法な婚姻は取り消しを請求できることとなっています(民法744条)。
離婚届が勝手に出された場合の対処法

離婚届が勝手に提出された場合、速やかに対処することが重要です。特に、夫や妻が強く離婚を望むケースでは、離婚届が勝手に出されるおそれが強いため、警戒を怠らないでください。
以下では、具体的な対応方法について解説します。
受理通知を確認する
離婚届を受理したとき、出頭しなかった人には受理通知が送付されます(戸籍法27条の2第2項)。離婚届は、夫婦のいずれか一方でも、代理人でも出せますが、出頭しなかった人には(夫婦の片方が届け出た場合は他方に、代理人が届け出た場合には双方に)受理通知で知らされます。
受理通知は、住民登録している住所へ、離婚届の受理から1週間を目安に届きます。離婚届を勝手に出されていないか不安な方は、受理通知が届いているかを確認しましょう。
離婚届不受理申出を行う
署名済の離婚届の悪用に気付いた場合など、相手が無断で届け出る前に知れたなら、速やかに離婚届不受理申出をしましょう。不受理申出は、離婚届が勝手に出されるのを防ぐために、「離婚意思はないので受理しないでほしい」と申し出る制度です(詳しくは「離婚届不受理申出を活用する」参照)。
弁護士に相談する
離婚届が勝手に出されたことが分かったら、「離婚問題」として早急に対応するには弁護士への相談がお勧めです。
弁護士は、役所に問い合わせたり戸籍を確認したりして、相手の不正を突き止めるサポートをします。悪質なやり方が明らかになったら、離婚無効を争う調停や審判、訴訟を任せることもできます(「離婚届を勝手に出された問題を弁護士に相談するメリット」参照)。
「離婚の弁護士費用の相場」の解説

警察に相談する
離婚届の無断提出の問題は、「刑事事件」として対応することもできます。
「離婚届を勝手に出したら犯罪になる」の通り、離婚届の署名を偽造したり無断で出したりする行為は、私文書偽造罪などの犯罪に該当する可能性があります。刑事事件として対応する際は、警察に相談し、被害届を提出するのが適切な対処法です。なお、被害届を受理してもらうには、離婚届が無断で出されたことを示す証拠をもとに、被害について具体的に説明する必要があります。
告訴する
警察は「民事不介入」が原則です。家族の問題は、犯罪に該当すると説明しても、捜査を開始してもらうのがなかなか困難です。このとき、告訴をすることで警察に強く働きかける方法があります。
告訴は、犯罪の被害者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告して訴追を求める行為です。離婚届を勝手に出す行為についての罪は、いずれも法定刑が「長期5年未満の懲役」のため、公訴時効は3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。
時間の経過と共に証拠は散逸してしまうので、捜査機関に立件させたいなら、早めに告訴する必要があります。
「犯罪被害者側の弁護士費用」の解説

勝手に出された離婚届を無効にする方法

「結婚」が合意なく成立しないのと同じく、双方の合意なく「離婚」させられることもありません。そのため、届出時に離婚意思が合致していないとき、勝手に出したり偽造したりした離婚届は無効です。ただし、一度受理された離婚届を無効化するには、裁判手続きを踏む必要があります。
離婚届が勝手に出された場合、法的な手続きで無効を主張することで、戸籍を元の状態に戻すことができます。以下では、その具体的な方法を解説します。
離婚の無効確認請求の流れ
離婚届が勝手に出されて受理されたとき、離婚を無効にするための法的手続きが「離婚無効確認請求」です。具体的には、家庭裁判所に対して、離婚届が自分の意思に基づかないものであることを証明し、その無効を認めてもらう手続きです。「調停前置主義」が採用されるので、まずは調停を申立てて話し合いをし、決裂する場合には訴訟で争うという流れで進みます。
ただし、離婚届を無断で提出された場合、感情的な対立が激化し、調停での解決は困難なことも少なくありません。このときは、訴訟を起こし、無効を確認する判決を得る必要があります。
離婚届を無効にするために必要な証拠
調停であれ訴訟であれ、離婚届の無効を認めてもらうには、「偽造」や「あなたの意思に反して勝手に出したこと」を客観的な証拠によって示す必要があります。犯罪にもなり得る悪質な行為なので、相手が「勝手に出した」と認めてくれることは期待できません。
離婚届の無効確認を認めてもらうための証拠は、次のものを準備してください。
実際に提出された離婚届の写し
実際に提出された離婚届の写しを、市区町村役場で入手します。離婚届は、署名の筆跡、(押印されている場合は)印影、提出日時などを確認できる重要な証拠となります。
署名が偽造されたことを示す資料
- 署名が異なることを示す筆跡鑑定結果
- 自身の筆跡や署名のサンプル
- 普段使用する印鑑と異なる印影
- 印鑑証明書や印鑑登録カード
離婚の意思がなかったことを示す資料
離婚の意思は、離婚届の提出時にあることを要するので、この時点で意思がないことを示す資料があれば非常に役立ちます。
- 配偶者とのメールやLINE、SNSのやり取り
- 配偶者との会話の録音
- 離婚届提出前後の話し合いを記録したメモや日記など
離婚届の提出経緯に問題があることを示す資料
- 離婚届の提出経緯を裏付ける資料
(自分が提出者ではないことを示すための目撃証言や、その日時に別の場所にいたことを示すアリバイなど) - 離婚届の提出者に関する役所の記録
- 提出時期に夫婦関係が正常であったことを示す資料
(同居していることを示す住民票、円満な結婚生活を送っていたことを示す写真や動画など) - 配偶者が無断で離婚届を出したことを自白するメールやメッセージ、不正を計画していたことを示すメモやスケジュール帳など
法的手続きで争わなければならないケースは、しっかりと準備しないと、「あなたが書いたものだ」「不倫の責任として『いつ出されても構わない』と約束していたはずだ」などと反論を受け、不利な流れになるおそれもあります。
無効確認請求が認められた後の手続き
無効確認請求が裁判所で認められた後は、一旦成立していた離婚を取り消すために、戸籍を訂正する手続きが必要です。戸籍訂正の申請は、審判または判決が確定した日から1か月以内に、確定した審判書または判決書の謄本と確定証明書を、役所に提出して行うことができます。
また、離婚届の無断提出が悪質で、精神的苦痛を負った場合、離婚を無効とするだけでなく、不法行為(民法709条)に基づいて慰謝料を請求できるケースもあります。
離婚届を勝手に出されるのを防ぐには

離婚届の勝手な提出や偽造について、「事後的」には無効を主張して争えます。ただ、できれば「事前に」予防策を徹底し、勝手に出されないようにすべきです。
離婚届不受理申出を活用する
離婚届不受理申出は、離婚届が勝手に出されるのを防ぐために、市区町村役場に申請する手続きです。不受理申出は、あなたに離婚意思がないと明らかに示す意味があるので、勝手に離婚届が提出されても受理されることはなくなります。不受理申出に有効期限はなく、申出が撤回されるまでの間、離婚届を受理されない状態は続きます。
不受理申出を活用することで、離婚に関する話し合いがまとまらない場合でも、相手が感情的に無断提出をするリスクを避けることができます。不受理申出があると、離婚届が出された際に役所が本人の意思を確認するので、不正が行われたことを速やかに察知できます。
離婚届や印鑑の管理を徹底する
離婚届の押印は必須ではなくなりましたが、偽造されてしまう原因が、印鑑の管理が徹底されていないことにあるケースがあります。家庭内で見えるところに放置したり、夫や妻に管理を任せていたりすると、離婚争いが激化して感情的になった際、「偽造して届出しよう」という気持ちが湧きやすくなってしまいます。
離婚届の重要性からして、署名をして預けておくのはやめた方がよいでしょう。不貞の責任を追及されて致し方ない場合にも、離婚の意思がなくなったなら早急に回収を試みるべきです。たとえ家族でも、離婚の可能性がある段階では、重要な書類や印鑑などを不用意に渡してはいけません。
離婚届を勝手に出された問題を弁護士に相談するメリット

次に、離婚届を勝手に出されたとき、弁護士に相談するメリットを解説します。
無断で離婚届を提出され、意思に反した離婚が成立した場合、いち早く無効にし、戸籍を元に戻すには弁護士のサポートが有効です。放置すると、別の人と結婚されたり、無効を証明する証拠が失われたりするリスクがあります。同意のない離婚届が法的に無効でも、長期間放置すると、元の関係に戻るのは事実上難しくなってしまいます。
調停を有利に進められる
離婚無効を争う「調停」は、話し合いを基本とした手続きです。そのため、調停委員と対話を重ね、調停期日における手続きを理解しながら戦略的に進める必要があります。
離婚問題の得意な弁護士は、家庭裁判所での調停に精通しており、調停委員に有利な判断をしてもらうための話し方や振る舞いを心得ています。また、相手が弁護士を付けた場合は、直接交渉は控え、代理人を通じたやり取りが必要となります。
調停委員を味方につける方法」の解説

必要な書面の作成をスムーズに進められる
無断提出された離婚届を無効にするには、調停・審判や訴訟といった裁判所の手続きが必要です。この際、調停なら「申立書」、訴訟なら「訴状」を提出しなければなりません。これらの書面は法的な要件を満たす形で作成し、必要な部数を準備する必要があります。
離婚問題に精通した弁護士は、調停申立書や訴状などの書面作成に慣れており、依頼すれば準備をスムーズに進めることができます。書式も豊富に用意しているので、書類の不備による手続きの遅れを防ぐことができます。
法的に有効な証拠収集ができる
裁判所に離婚届の無効を認めてもらうには、客観的な証拠が不可欠です(必要な証拠については「離婚届を無効にするために必要な証拠」参照)。
署名などを偽造された場合、実際に提出したものの写しを入手できれば、筆跡が異なるなどの問題点を指摘できる可能性があります。その他にも、弁護士に相談すれば、交渉の経緯からして離婚の意思がなかったことを裁判所に説得的に説明するためのアドバイスを受けられます。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

離婚届を勝手に出された場合のよくある質問
最後に、離婚届を勝手に出された人からのよくある質問に回答しておきます。
離婚届が受理されたか確認する方法は?
離婚届が受理されたかどうかを確認する方法には、次のものがあります。
- 受理通知を確認する
- 戸籍謄本や全部事項証明書を取得する
- 離婚届受理証明書を発行してもらう
離婚届が受理されてから戸籍に反映されるまでには一定の時間を要することがあるので、勝手に出された疑いのあるときは、受理通知を確認したり、市区町村役場の窓口で受理証明書を発行してもらったりする方法がお勧めです。
離婚届を勝手に出すとバレる?
離婚届を悪用しようと考えているなら、絶対に止めておきましょう。離婚届を勝手に出しても、結局は相手にバレてしまいます。離婚届を提出する際に出頭しなかった人には受理通知が送られ、届出がされたことを知らされるからです。
勝手に出した離婚届に時効はある?
勝手に出した離婚届は無効ですが、提出から期間が経過したとしても「時効によって離婚が成立する」ということはありません。離婚の無効確認請求はいつでも行うことができ、この争いで裁判所が無効を認めれば、離婚は無効となります(なお、長期間経過することによって証拠がなくなり、無効を請求する側に不利に働くことはあり得ます)。
なお、離婚届の無断提出によって成立する犯罪の公訴時効は3年です。
まとめ

今回は、離婚届を勝手に出されるケースについて解説しました。
協議離婚は、夫婦の合意によって成立するものなので、勝手に出された離婚届は無効です。しかし、形式的な要件を満たせば、役所では受理され、離婚が成立してしまいます。離婚の無効を争って戸籍を修正してもらうには、裁判所において調停や審判、訴訟で争う必要があります。
十分な話し合いをせず、離婚届を勝手に出す行為は違法であり、夫婦の信頼関係を大きく損ないます。署名の偽造などの悪質なものは、刑事責任を問われる可能性もあります。万が一のトラブルを避けるには、離婚届不受理申出を出して予防するのが有効です。もし、離婚届を勝手に提出されたときは、家庭裁判所での裁判手続きを起こすために、弁護士に相談してください。
- たとえ相手が署名していても、勝手に出された離婚届は無効になる
- 署名を偽造した離婚届を出すと、文書偽造罪などの犯罪になるおそれがある
- 勝手に出された離婚届を無効にするには、調停・審判や訴訟で争う方法による
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協議離婚は、夫婦の話し合いで離婚条件に合意し、離婚届を提出することで成立します。この手続きは比較的簡単で迅速に進められる一方、難しい法律問題があっても自分達で乗り越えなければなりません。
合意内容が曖昧なままだと後にトラブルが生じるおそれがあるので、「協議離婚」の解説を参考にして進めてください。