夫婦の一方が、相手方に無断で、承諾を得ずに勝手に離婚届を提出してしまうことがあります。勝手に離婚届が出されてしまったとしても、役所の職員は、形式の整った離婚届が出されている限り、離婚を成立させてしまいます。
離婚は、夫婦の双方が合意(同意)しなければ成立しないのが原則ですが、離婚届は、夫婦それぞれの欄に署名・捺印がされれば、役所に受け取ってもらう(受理してもらう)ことができてしまうために起こる問題です。
婚姻届は、夫婦そろって出しに行く方も多いでしょうが、離婚届は、夫または妻が単独で出したり、代理人が出しに行ったりするケースもあるためです。
そこで今回は、あなたに無断で、相手方配偶者が勝手に提出した離婚届の効力と、離婚の取り消しかた、戸籍を元通りにする方法について、離婚問題を得意とする弁護士が解説します。
「離婚・不貞」弁護士解説まとめ
目次
離婚届が勝手に出されてしまうケースとは?
「離婚届が勝手に出されてしまう」というと、実際にそのような事態に直面した方でなければ、どのようなケースで離婚届が勝手に提出されてしまう、という問題が起こるのか、容易には想像しづらいかもしれません。
役所は、離婚届を形式的にしか審査せず、実質的に、離婚の同意が本当にあるのかどうかを調べることはありません。
そこでまずは、離婚届が、あなたの承諾なく勝手に出されてしまうケースについて、解説します。まだ離婚の合意に至っていない方は、離婚届を勝手に出されてしまわないよう、次の解説を参考に注意してください。
署名、捺印を偽造されるケース
まず、「離婚届が勝手に提出されてしまう」ケースの1つ目は、離婚届に記載すべきあなたの署名捺印が、相手方配偶者によって偽造されてしまうケースです。
署名、捺印が偽造されたものであったとしても、市役所・町村役場は、署名が本物であるかどうか、印鑑が実印であるかどうか、といった点をチェックしてくれることはありません。
離婚届の夫・妻の欄に、それぞれ正しい氏名が記載されており、印鑑が押されていれば、役所には受理され、離婚が成立してしまいます。
提出に同意していない離婚届を提出されるケース
次に、「離婚届が勝手に出されてしまう」ケースの2つ目は、離婚届に記載された署名捺印は本物だが、離婚届の提出には同意していなかったというケースです。
提出の意思のない離婚届を作成してしまう場合とは、例えば、浮気・不倫(不貞)が発覚し、その責任として「次不倫したら離婚届を提出する」と言われて、署名押印済みの離婚届をあずけてしまうケースが典型例です。
このような場合、離婚届を提出して離婚をする気はないものの、浮気をしたことに負い目を感じ、相手方の言うなりに、離婚届に署名押印をしてしまうことがあります。
途中で気が変わったり、円満な夫婦関係に戻ったりしても、一度署名押印した離婚届がある以上、その離婚届を勝手に出されてしまうと、役所に受理されて離婚が成立してしまうことになります。
離婚届を勝手に出すと犯罪!
相手方の同意なく、離婚届を勝手に出してしまうことは「犯罪」となります。つまり、刑法などの法律によって、逮捕されたり、刑事罰を科されてしまったりする危険性のある行為だということです。
例えば、離婚届を勝手に出してしまうことによって、犯してしまう可能性のある罪には、次のような犯罪があります。離婚届の無断提出は、犯罪という意識なく、軽い気持ちで行われますが、れっきとした犯罪です。
電磁的公正証書原本不実記録罪
結婚・離婚などの身分関係は、国・役所が戸籍によって公的に記録していますが、離婚届などの手続を行うことで、これを誤った記録に変えてしまうことができます。
相手方の同意のない離婚届を勝手に出すことによって、戸籍を誤った内容に変更する行為は、「電磁的公正証書原本不実記録罪」にあたります。
電磁的公正証書原本不実記録罪にあたると、刑法によって「5年以下の懲役また50万円以下の罰金」に処せられる可能性があります。
有印私文書偽造罪・偽造有印私文書行使罪
戸籍が公的な文書であるのに対して、離婚届自体は「私文書」です。ただし、離婚届には印鑑が押してあることから、「有印私文書」として、保護の必要な重要な文書であるものとされています。
夫婦の一方の欄に、相手方の署名押印を勝手に書いてしまう行為は、有印私文書である離婚届を偽造することとなり、これを提出して行使することで、「有印私文書偽造罪・偽造有印私文書行使罪」にあたります。
有印私文書偽造罪・偽造有印私文書行使罪にあたると、刑法によって、「3か月以上5年以下の懲役」に処せられる可能性があります。
重婚罪
勝手に離婚届を提出したり、偽造した離婚届を提出したりすると、その離婚は、調停や訴訟によって無効となる可能性があります。
すると、その後に更に別の人との間で婚姻届を提出した場合には、「重婚罪」が成立する可能性があります。
重婚罪にあたると、刑法によって「2年以下の懲役」にあたりうる他、民法によって重婚にあたる婚姻は取り消しうることとなります。
刑事罰の時効は5年
離婚届を勝手に提出したり、偽造したりすることは、以上のとおり、れっきとした犯罪にあたるわけですが、警察が捜査し、逮捕、送検してくれることはなかなか難しく、犯罪の責任を追及したければ、告訴・告発することになるでしょう。
離婚届を勝手に出したり、偽造したりすることの法定刑は、いずれであっても「懲役5年以下」となることから、刑事訴訟法によって時効は「6年」と定められています。
つまり、離婚届を勝手に受理されてしまってから5年の間に、告訴・告発しなければ、刑事事件として責任追及することは難しいということです。
告訴・告発して、警察・検察に捜査してもらったり、刑罰を科してもらったりするためには、「他の異性と結婚したい」「不倫相手と結婚したい」など、悪質性を示す動機を立証するのがよいでしょう。
離婚届を勝手に出されたら、離婚は無効!
離婚は、夫婦双方の意思の合致によって成立します。婚姻(結婚)が、夫婦双方の合意がなければ成立しないのは当然のことであり、始まり(結婚)が合意である以上、終わり(離婚)もまた合意によることとなります。
そのため、離婚の意思がおたがいに合致していない限り、勝手に離婚届を出されてしまったり、離婚届の署名押印を偽造されてしまったりしても、その離婚届は、受理はされても無効となるわけです。
とはいえ、離婚届が無効となったとしても一旦は役所に受理され離婚が成立してしまった後は、自分で離婚届の無効を証明し、取り消すための手続を踏まなければなりません。無効な離婚届を撤回するための手続を、弁護士が解説します。
調停・審判で、離婚の無効を証明する
法的には無効であり、犯罪にもなりうる、勝手に提出された離婚届ですが、区役所、市区町村役場は、形式さえ具備していれば離婚届を受理してしまいますし、「無効な離婚届であるかどうか」を調査してくれるわけでもありません。
そのため、離婚届の無効を証明し、勝手に提出された離婚届によって成立した離婚を取り消すためには、当事者が離婚届の無効を証明するための手続を行わなければなりません。
具体的には、戸籍を訂正してもらうためには、家庭裁判所に調停を申し立てて、相手方が「離婚届が無効である」ことに合意する場合には、「合意に相当する審判」を入手し、これを役所に届け出て戸籍を訂正してもらう必要があります。
離婚届を勝手に出した相手方が、「離婚届が無効である」ことに同意してくれない場合には、調停は不成立となりますので、その後、離婚無効を請求する訴訟を起こす必要があります。
訴訟で、離婚の無効を証明する
勝手に離婚届を提出してしまった相手方が、「離婚届が無効である」ことに合意してくれない場合には、家庭裁判所で訴訟をして、同様の確定判決を得る必要があります。
訴訟において、離婚届が偽造であることや、相手方の意思に反して一方的に提出されたものであることを証明できれば、裁判所は、判決で離婚の無効を認めてくれることとなります。
離婚の無効については、「調停前置主義」といって、訴訟で争う前に、まず調停において話し合いを行わなければならないことがルールとなっているため、まずは調停をし、不成立となった場合に訴訟をするという流れになります。
そのため、既に離婚届が、あなたの意思に反して勝手に提出されてしまったことが明らかになった場合には、速やかに調停申立てから対応していかなければなりません。
離婚を無効にするための証拠が重要
ここまで解説したような、調停や審判、訴訟において、無効な離婚届の提出によって作出された戸籍を訂正してもらうためには、「離婚届が無効である」ことを証明する証拠が重要となります。
相手方が、離婚届を勝手に提出したこと、離婚届を偽造したことを認めてくれればよいですが、犯罪にもあたりうる重要な行為であるため、まったく証明せずとも認めて謝罪してくれることはレアであるといってよいでしょう。
離婚届が無効であることを証明するための証拠は、ケースによって臨機応変に考えて準備しなければなりません。
というのも、「離婚届が自筆でないこと」を証明したとしても、本人から依頼を受けての代筆や、承認があった場合などには、自筆でなくても離婚届は有効になるからです。
戸籍を訂正する手続が必要
離婚の無効について、裁判所における審判や判決を勝ち取ることができた場合であっても、裁判所で勝っただけで戸籍が修正されるわけではなく、戸籍訂正の申請を、自分で行わなければなりません。
戸籍訂正の申請は、審判または判決が確定した日から1か月以内に、確定した審判書、判決書の謄本と、家庭裁判所で発行してもらえる確定証明書を、役所に提出することで行うことができます。
「合意に相当する審判」の審判書、離婚無効請求訴訟における判決書は、いずれも確定をすれば、戸籍を訂正するための書類となります。
不受理申出制度で、離婚届を提出されないよう対策!
今回解説したのは、既に、離婚届を無断で提出されてしまったり、署名押印を偽造されてしまったりしたときの、離婚の無効を証明して戸籍を訂正してもらうための方法でした。
このような勝手に離婚届を提出されてしまわないようにするための対策として「離婚届不受理申出」の制度が準備されています。
市区町村役場に対して不受理申出をしておくことによって、離婚の意思がないことを明らかにし、その後に勝手に、もしくは偽造されて提出された離婚届を、受理されないようにしておくための制度のことをいいます。
不受理申出制度には特に有効期限はなく、無期限で、不受理届を撤回するまでの間、離婚届が相手方から一方的に、無断で提出されても、これを受理せず、離婚はあなたの意思なく成立しなくなります。
勝手に離婚届を出されたら…弁護士に依頼するメリットは?
勝手に、無断で離婚届を提出されてしまい、自分の意思に反して離婚させられてしまったという場合、いち早く戸籍を元に戻すことをお勧めします。
そのまま放置しておけば、相手方が他の異性と結婚してしまうこともあり、法律上は無効な離婚であるとしても、放置しておいたことで、事実上、元の円満な夫婦生活に戻ることは困難となってしまうケースも多いものです。
しかし、勝手に出されてしまった離婚届に対応するためには、家庭裁判所における手続など、法律の専門知識がなければ対応しづらい方法を含んでおり、弁護士などの専門家に依頼して対応してもらうことには大きなメリットがあります。
調停での話し合いを有利に進められる
離婚無効を争うための調停は、裁判所で行われるとはいえ、あくまでも話し合いを基本として進行します。
そのため、調停委員と会話をしながら進める必要があるため、調停期日における手続をよく理解して、戦略的に、調停委員を説得しなければ、有利に進めることはできません。
離婚問題を多く取り扱っている弁護士であれば、家庭裁判所で行われる調停に多く出席していますから、調停委員に有利な判断をしてもらうための、戦略的な話し方、振舞い方をよく理解しています。
申立書・訴状の記載に迷わない
勝手に離婚届を出されてしまったり、偽造した離婚届を出されてしまったりしたときに、調停・審判や訴訟など、面倒な法的手続が必要なことは納得いかないかもしれません。
しかし、役所が、形式的な審査しかしないのがルールであるため、離婚の無効を証明したいのであれば、あなたが調停申立てや訴訟提起をしなければなりません。
調停を申し立てるときには「調停申立書」、訴訟を提起するときには「訴状」が必要であり、それぞれ法的な要件を満たした書面を、必要な部数用意する必要があります。戸籍や印紙、郵券なども必要となります。
離婚問題を得意として取り扱っている弁護士であれば、家庭裁判所に提出しなければならない調停申立書、訴状などの書面を書きなれていますし、書式も豊富に準備しております。
法的に有効な証拠収集ができる
離婚届が無効なものであることを、家庭裁判所に理解してもらわなければ、離婚の無効を勝ち取ることはできません。そして、家庭裁判所を説得するためには、証拠が重要となります。
離婚届を、あなたの意思に反して勝手に提出されてしまったことを、裁判所に対して説得的に理解してもらうための証拠を収集する必要があります。
そのためには勝手に提出された離婚届けの写しを入手したり、その他に、離婚届提出の時点で、離婚の意思がなかったことを示す証拠を収集する必要があります。
「離婚問題」は浅野総合法律事務所にお任せください!
今回は、あなたの意思に反して離婚を勝手にされてしまったケース、すなわち、あずけておいた離婚届を無断で提出されてしまったり、離婚届を偽造されてしまったりしたケースについて、その対応策を中心に、弁護士が解説しました。
離婚は、夫婦双方の同意によって成立しますから、勝手に出されてしまった離婚届による離婚は無効ですが、戸籍を修正してもらうためには離婚が無効であることを裁判所において、調停や裁判で立証しなければなりません。
不倫をしてしまったとか、DV・モラハラと責められてしまったことにより、離婚届を勝手に出されても泣き寝入りする方もいます。しかし、離婚の責任がどちらにあるか、離婚条件などについて離婚前の十分な話し合いが必要であり、離婚届を勝手に出す行為は卑劣です。
離婚届を勝手に提出されてしまってお悩みの方は、当事務所へお早めにご相談ください。
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