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財産分与の対象財産となる「共有財産」とは?【弁護士解説】

財産分与では、対象となる財産とそうでない財産を区別することが必要となります。

財産分与の対象となる財産のことを、法律用語で「共有財産」といいます。共有財産にあたるものが多ければ多いほど、当然ながら分与額は高額になります。そのため、財産分与を請求する側では、できるだけ共有財産の範囲を広くし、財産分与を払う側はできるだけ共有財産の範囲を狭く解釈しようとします。

財産分与の対象となる共有財産かどうかを判別するためには、財産分与の基準時の問題(いつからいつまでの財産が対象となるか)、財産の名義の問題(名目上、誰の財産か)、財産の原資の問題(元となった財産は誰のものか)などを総合して検討しなければなりません。

今回は、財産分与の大賞財産となる「共有財産」に関する法律知識について、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 共有財産は、夫婦の協力で作られたため、公平の観点から財産分与の対象となる
  • 共有財産には、不動産・動産・株式などのほか、退職金や借金なども含まれる
  • かならずしも名義が共有でなくても、夫婦の一方が貢献していれば共有財産になる可能性あり

まとめ 財産分与について離婚時に知っておきたい全知識【弁護士解説】

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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財産分与の対象となる「共有財産」とは

ポイント

共有財産とは

財産分与の対象となる「共有財産」とは、夫婦が婚姻期間中(かつ別居前)に、協働で形成した財産のことです。

民法では次のとおり、婚姻期間中に夫婦が取得した財産は、共有財産と推定されることとなっています。

民法762条(夫婦間における財産の帰属)

1. 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2. 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

民法(e-Gov法令検索)

「推定」というのは、法律用語で「逆の立証が成功しないかぎり法的にそのように評価される」という意味です。つまり、「ある財産が共有財産ではない」と主張する側(分与する側)が、その財産が特有財産であると証明できないかぎり、その財産は共有財産として分与の対象になるという意味です。

共有財産となるかどうかは、財産の名義ではなくその実質で判断します。この点は「財産取得の名義による区別」の問題として後述します。

例えば、「妻は専業主婦、夫が仕事をしている」という家庭では預貯金が夫単独名義でされていたり家を買うとき夫名義であったりするかもしれませんが、それでもこれらの財産が妻の協力のもとに形成・維持されていると判断できる場合には、共有財産として財産分与の対象となります。

また、財産分与では夫婦の協力によって獲得した財産を対象とするため、婚姻を開始した時点から別居時点までの期間を対象とするのが原則です。別居後は、たとえ夫婦であっても財産取得に協力しないのが普通なので、別居後に取得した財産は対象とはなりません。

この点は「財産分与の基準時」の問題として後述します。

例えば、「夫が家に残り、妻が家を出て別居を開始した」という家庭で、夫が仕事を続けて別居後も貯金を殖やし続けたとしても、別居後に増えた貯金額は、財産分与の対象とはなりません。

共有財産が財産分与の対象となる理由

財産分与には、清算的財産分与、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与の3種類があります。最も多いのが清算的財産分与のケースですが、このとき共有財産が分与の対象となる理由は、夫婦間の公平性にあります。

清算的財産分与では、夫婦の生活実態にあわせて分与をします。結婚したことによって夫婦の一方が仕事をつづけ、他方が仕事をやめて育児・家事に専念したという事情があるとき、夫婦であった期間、家事労働による「内助の功」により財産の形成・維持に寄与したという点について、配慮をすべきという考え方がとられています。

たとえ仕事をやめなかったとしても、仕事をセーブしたりキャリアをあきらめたりしたとき、年功序列・終身雇用の文化が根強く残る日本においては、生涯年収が低下すると予想できるからです。

このような夫婦間の公平の考え方から、清算的財産分与は、原則として分与割合を「5:5」とする、いわゆる「2分の1ルール」が実務で用いられます(ただし、個別事情を考慮して貢献度に差がある場合には、このルールを修正した裁判例も多くあります)。

なお、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与は、かならずしも夫婦関係の清算の意味だけではないため、その分与額が共有財産からだけでなく特有財産から支出されることがあります。

特有財産との違い

共有財産とは異なり、財産分与の対象とはならない財産が「特有財産」です。

特有財産とは、さきほど解説した民法762条1項で規程された「夫婦の一方が婚姻前から有する財産」と「婚姻中自己の名で得た財産」のことです。これらの財産は、その形成・維持が他方の配偶者の協力により行われたとは考えられないためです。

特有財産とは
特有財産とは

例えば、婚姻前から有していた預貯金や不動産、親から相続した不動産、親から贈与を受けた金銭などが特有財産です。

ただし、特有財産に形式上あたるように見えても、他方の配偶者の協力が観念できるようなケースでは、財産分与の対象とした上で2分の1ルールを修正する、という結論をとることもあります。「特有財産」については次の解説で詳しく説明していますので参考にしてみてください。

財産分与の対象となる「共有財産」の例

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財産分与について争うときには、「共有財産」が分与の対象となるため、「何が共有財産にあたるのか」についてくわしく知らなければ、損してしまうおそれがあります。

そのため、ここでは、共有財産にあたる可能性のある財産の例について、それぞれ種類ごとに解説します。なお、前段階の準備として、夫婦の財産が隠されることのないよう調査が必要です。

現金・預貯金

現金・預貯金は財産分与の対象となる共有財産です。

金融機関の種類を問わず、銀行だけでなく信金、JAなどあらゆる金融機関が対象となります。また、普通預金はもちろん、定期預金、当座預金なども財産分与の対象です。

夫婦の一方が隠し財産として貯めていたへそくりも、本来であれば夫婦が共同で貯めるべきお金だと考えられるため、財産分与の対象となります。

社内預金・財形貯蓄

社内預金・財形貯蓄は財産分与の対象となる共有財産です。

夫婦の一方の協力により、夫婦の他方が十分な給与収入を得ることができる」というケースが、財産分与によって調整をすべき典型的な事例です。そのため、その給与から一定額を貯金する社内預金・財形貯蓄といった金銭が財産分与の対象となる共有財産にあたるのは当然です。

なお、年金については年金分割においてその公平性を調整することとされています。

不動産

結婚生活中に、一方の配偶者が不動産(土地・建物)を購入していた場合、これも財産分与の対象となる共有財産です。これに対して、結婚前から所有していた不動産や、相続・生前贈与によって取得した不動産は財産分与の対象外です。

不動産の財産分与を行うにあたり、住宅ローンを組んでいたときには、売却額からローン残額を控除した金額が対象財産となります。頭金が特有財産から支払われていたような事例では、その金額も差し引いて解決することが多いです。

なお、債務超過(オーバーローン)の状態の不動産は、財産分与の対象とはなりません。

生命保険

生命保険は、財産分与の対象となる共有財産となります。財産分与の基準時(別居時)において解約すると生じる解約返戻金相当額が、財産分与の対象とされるのが実務です。

夫婦の一方に対して、結婚生活中にかけられた生命保険は財産分与の対象となるものとされており、その名義、受取人、原資などによっては変わりません。

そのまま支払をしたほうが有利だという場合、これまで夫婦の一方が支払ってきた掛け金についてどのように清算するかについて、財産分与の手続きのなかで合意をするのが通常です。

学資保険

学資保険もまた、財産分与の対象となる共有財産となります。

学資保険が子どもの名義で掛けられていることも多いですが、この場合でも、その原資が夫婦の財産から支出されているときには財産分与の対象とするのが通常です。

ただし、学資保険の場合、そのまま掛け続けることが有利であることが多く、かつ、子どものための保険のため、夫婦の双方とも別居後も掛け続けることに異議がないというケースが多いです。そのため、実務的には、離婚後に子どもを監護・養育する側が、学資保険を引き継ぐことが多くあります。

退職金

近い将来に退職金が支払われる予定があるときには、退職金もまた財産分与の対象となる共有財産です。

退職金は、賃金の後払い的な側面があります。財産分与の趣旨が、一方の貢献によって他方が得た収入について貢献度に応じて分与するというものであるからです。

ただし、財産分与の基準時(別居時)から退職予定日まで長期間空くときは、退職金は財産分与の対象とはなりません。

株式・債権・投資信託などの有価証券

株式・債権・投資信託などの有価証券は、財産分与の対象となる共有財産にあたります。

これらの有価証券で評価額が一定ではないものについては、離婚時を基準として金額を定めるのが通常です。ただし、非上場株式のように客観的に価格が決まりづらいものについては、会計士の評価を得るなどの手続きが必要となります。

投資として株式を保有している場合はもちろん、自分の経営している会社の株式も対象となります。

家具・家電などの動産

家具・家電などの動産は、財産分与の対象となる共有財産です。ただし、実際に使用した家具・家電は、中古で販売するのも難しく、売れたとしてもあまり高額にならないため、財産分与ではそれほど重要視されません。同居の自宅に残る人がいるときは、その人が取得するのが一般的です。

これに対して、絵画や骨とう品などの貴重品、宝石やアクセサリーなどの貴金属については、売却して代金を分与するか、もしくは、一方が取得する場合には分与額に相当する代価を支払うという方法で財産分与を行います。

自動車

自動車もまた、財産分与の対象となる共有財産です。

ただし、中古の自動車は、よほどの高級車でもない限り売却額がそれほど高くないことが予想されます。また、自動車ローンが残っているということもよくあります。

そのため、自動車は財産分与の際、実際に使用している側が取得し、一定の金額を財産分与額から控除するという取扱いをすることが多いです。

借金・ローンなどの負債

借金や住宅ローン、自動車ローンなどの負債もまた財産分与の対象となります。

つまり、ここまで解説してきたプラスの財産の分与(積極的財産分与)だけでなく、マイナスの財産の分与(消極的財産分与)も対象となるということです。プラスの財産、マイナスの財産のいずれもが存在するとき、金銭解決をする場合には、プラスの財産額からマイナスの財産額を控除した金額が、財産分与の対象財産となります。

ただし、財産分与の対象となる負債は、あくまでも夫婦の共同生活を目的として行われたものに限られるとされています。夫婦の共同生活のために借入をしたのであれば離婚後も夫婦で返済していくべきということです。

これに対して、ギャンブルのための借金や事業性融資など、一方当事者が自分のためだけに借入た負債は、財産分与の対象とはならず、他方の配偶者には分与されないのが実務です。

対象財産を確定するときの注意点

注意点

最後に、財産分与の対象財産を確定するときに、注意しておいてほしいことについて解説します。

財産分与の基準時

財産分与の基準時は、別居時とされています。つまり、結婚したときから別居までの間に、形成・維持した財産が、財産分与の対象となります。

このように期間を区切る理由は、夫婦が協力して財産を形成したといえるのは同居期間中であり、別居をした後は協力関係が失われたと評価できるからです。

この財産分与の基準時は、「どの財産が対象財産か」という争点だけでなく、株式・不動産のような評価額が変動する財産について「いつの時点の評価額で分与するか」という争点にも影響します。

ただし、「別居時が財産分与の基準時となる」という点について、次のようなケースでは難しい問題が生じます。

  • 単身赴任による別居後、そのまま夫婦関係が破綻に至った場合
    当初の別居には「単身赴任」とう正当な理由があり、その後も財産の形成・維持に協力をしていたと考えられることから、「別居時」ではなく「破綻時」を財産分与の基準時とするという解決になります。
  • 一旦別居したが、頻繁に行き来があった場合
    別居後も頻繁に行き来があり、夫婦生活の実態があったという場合には、その後も財産の形成・維持に協力をしていた場合もあることから、この場合も「破綻時」を財産分与の基準時とすることになります。
  • 別居の直前・直後に大きな財産の変動があった場合
    このような事例では財産隠しが疑われます。悪質な財産隠しと評価できるケースでは、別居の直後にあった財産変動を考慮せずに分与の対象を決めることがあります。

財産取得の名義による区別

夫婦が協力して形成・維持した財産が、夫婦の一方の単独名義になっている場合や、夫婦以外の人の名義となっていることがあります。例えば、子どもの名義で将来のための貯金をしていたり、夫婦で形成した財産を実家の両親に送金したりといったケースです。

このようなケースでは、共有財産と特有財産の区別について形式的に考えることはできず、財産ごとに、次のいくつかの事情を総合考慮して、夫婦間の公平の観点から慎重に判断しなければなりません。

  • 実質的にその財産を支払ったのが誰か
  • 誰がその財産を管理していたか
  • 財産を他人名義としている理由や経緯
  • その財産の使途・目的

財産取得の原資による区別

財産分与の基準時(別居時)に存在する財産でも、その原資が分与対象ではないという理由で、財産分与の対象から除外すべき財産があります。

結婚前から保有していた財産や相続によって取得した財産が「特有財産」として対象外となると解説しましたが、そのような特有財産を原資として、いわばそれらの財産が形を変えて存在するものについても、対象から除外する必要がある場合があるということです。

例えば、分別管理されていた独身時代からの預貯金で購入した不動産などがこれにあたります。ただし、このような財産を「特有財産が形を変えただけなので、分与対象外である」と主張するのであれば、そのように主張する側が証拠を準備し、立証しなければなりません。

まとめ

財産分与の対象となる「共有財産」について解説しましたが、共有財産と特有財産の区別は難しいケースもあります。特に、夫婦当事者間の話し合いで解決ができない場合には、調停申立てをして裁判所で争うこととなります。

裁判所では「特有財産であること」を、その財産を分与の対象から外したい側が主張立証しなければなりません。そのため、財産分与の対象財産について争いがあるときには証拠の準備をしっかりしておかなければなりません。

また、そもそもの前提として、財産を隠されてしまっているとき、きちんと調査しないと財産分与で損してしまいます。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所
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弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題に精通しており、多数の解決実績があります。

多額の争いになりやすい重大な法律問題である、財産分与についても、多くのケースを経験しています。お悩みのある方は、ぜひ一度ご相談ください。

財産分与のよくある質問

財産分与の対象となる共有財産にはなにがありますか?

財産分与の対象となる共有財産とは、結婚をしてから別居するまでの間に、夫婦の協力によって築きあげた財産のことです。財産の種類を問わず、不動産、動産、株式、車両、生命保険、退職金などが含まれます。プラスの財産だけでなくマイナスの財産である借金も含まれます。詳しくは「財産分与の対象となる「共有財産」の例」をご覧ください。

なぜ、共有財産は分与しなければならないのですか?

夫婦になったとき、片方が将来のキャリアをあきらめたり、専業主婦(専業主夫)として無収入になったりしたとき、それでもなお、家事労働などによって家庭の財産に貢献していると考えられます。このことから、離婚後の不公平になってしまわないよう、共有財産を分与の対象としておかなければなりません。詳しくは「財産分与の対象となる「共有財産」とは」をご覧ください。

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