離婚時に夫婦の財産を分ける「財産分与」は、日本では、婚姻期間中に築いた財産を、原則として2分の1ずつ分けるのがルールとされます。夫婦は互いに平等で、仕事をしていなくても家事や育児の貢献も評価し、半分ずつに分けるのが公平だと考えられるからです。
しかし、この原則には例外があり、財産分与の割合が変更されるケースもあります。例えば、一方の収入が著しく多いなど、貢献度に差があったり、婚姻期間が極端に短かったり、配偶者が浪費や借金によって財産を減らしていたりするなど、家庭の事情に応じた修正を要するからです。
今回は、財産分与の割合について2分の1とする原則ルールと、変更される例外的なケースについて、弁護士が解説します。
- 財産分与は、貢献度によって公平に分けるために、2分の1が原則とされる
- 形式的に半分にするのはかえって不公平なとき、例外的に割合が変更される
- 財産分与の割合を有利に変更したいなら、特別な貢献を証明すべき
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財産分与の割合は2分の1が原則

はじめに、財産分与の割合は2分の1が原則である点について解説します。
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を、離婚時に分ける手続きで、協力して形成した財産を公平に分配し、離婚後の生活の安定を図ることを目的としています。専業主婦(主夫)だと、貢献度が収入や資産に直接表れづらいですが、家事や育児を通じた貢献が財産形成に寄与したと考え、2分の1ずつ分けるのが原則となります。
原則となる2分の1ルールの理由
日本の財産分与で、原則として「2分の1ルール」が適用されるのは、夫婦が共同で築いた財産については、互いに等しく貢献したものと考えるのが公平に適うからです。
たとえ収入に差があったり、専業主婦(主夫)で無収入だったりしても、2分の1ずつに分けるのが基本です。例えば、夫のみが外で働いて収入を得ている家庭でも、妻が家事や育児を担い、間接的に夫の仕事を支えていたと認められるケースでは、夫婦の貢献は同等とみなされます(かつては家事労働が軽視され、専業主婦の妻の分与割合が2〜3割とされるケースもありましたが、女性蔑視であり、現在ではこのような考え方はされません)。
したがって、財産分与は、原則「2分の1ずつ分ける」のが公平だと考えられます(なお、例外的に「2分の1ルール」が適用されないケースは「財産分与の割合が変更される例外的ケース」参照)。
「離婚時の財産分与」の解説

2分の1ルールの計算方法
財産分与の原則である「2分の1ルール」が適用されるとき、分与額を算出するにあたって、計算方法は次のようになります。
- 財産分与額 = 共有財産 ÷ 2 − 権利者名義の財産
具体的には、夫婦の財産を全て合計して2分の1とし、そこから自身の名義の財産を控除したものが、相手に分与すべき額となります。
財産分与の対象となる財産は、婚姻期間中に築き上げた夫婦の「共有財産」です。例えば、夫婦の収入で購入した不動産、預貯金や株式、家具家電、退職金などが対象となります。一方、結婚前に所有する財産や、親からの相続や贈与で得た財産などは、「特有財産」であり対象外です。また、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金やローンなどの負債)も対象となります。
「共有財産」の解説

財産分与の割合が変更される例外的ケース

次に、財産分与の割合が変更される例外的なケースを解説します。
財産分与は、2分の1ずつ分けるのが原則となるのは、それが夫婦間の公平に適うからです。実際には、夫婦の貢献度に差があったり、家庭の特殊な事情があったりして、2分の1とすることが帰って公平でないケースもあり、この場合、財産分与の割合が変更されることがあります。
裁判例でも、2分の1よりも自分の貢献度が大きいと主張し、認められたケースがあります(なお、2分の1ルールは、裁判実務でも原則となっているので、分与割合の変更を主張する側が、変更すべき理由について立証する必要があります)。
特殊な才能や能力により財産を築いた場合
財産形成において一方の貢献が極めて大きいと認められる場合、分与の割合が変更されることがあります。特殊な才能や能力によって財産を築いたケースが典型例です。この場合、夫婦の貢献度に著しい差があるため、2分の1に分けるのは公平でないと考えられるからです。
例えば、次のような事例があります。
会社経営者のケース
夫婦のどちらかが会社経営者で、その努力により収入を大幅に増やし、多額の資産を形成した一方、配偶者は関与していないなら、2分の1ルールを適用しないことがあります。
東京地裁平成15年9月26日判決は、一部上場企業の代表取締役である夫が婚姻中に約220億円の資産を形成した事案で、財産分与の割合は5%(10億円)と判断されました。
専門職のケース
医師や弁護士、芸術家など、特定の技能や資格による高収入を得たとき、その財産は「個人の能力に依存する」と判断され、貢献度に応じた分与割合に変更されることがあります。
裁判例でも、大阪高裁平成12年3月8日判決は、1級航海士の夫が、1年に6か月〜11か月の海上勤務により多額の収入を得た一方、妻は家事、育児を担っていた事案で、財産分与の割合を3割(2300万円)としました。また、大阪高裁平成26年3月13日判決は、医療法人を経営する医師である夫の、医療法人の出資持分に関する分与割合が争われた事案で、その評価額を純資産評価額の7割とした上で、分与割合を「6:4」と判断しました。
「会社名義の資産は財産分与の対象?」の解説

一方が財産の形成に関与していない場合
夫婦の一方が財産の形成にほとんど関与していない場合に、2分の1ルールが適用されないことがあります。専業主婦(主夫)で無収入だとしても、家事や育児を通じた寄与があるなら、基本的には2分の1の割合で分けるべきと判断されます。
しかし、婚姻期間が短く、家事や育児による貢献がない一方で、生活費をほぼ片方の収入に依存していた場合は、貢献度が低いと言わざるを得ず、分与割合が調整されることがあります。
特有財産が財産形成に寄与した場合
婚姻前から持っていた財産は、「特有財産」として財産分与の対象外です。そして、共有財産であっても、その財産形成において特有財産が寄与したといえる場合には、財産分与の割合を2分の1から変更すべきと考えられるケースがあります。
例えば、次のような事例があります。
資産の購入代金が特有財産であるケース
東京高裁平成7年4月27日判決は、共有財産となるゴルフ会員権の購入代金の大部分が、夫の所持していた株式など特有財産の売却によるものであった事案で、ゴルフ会員権を分与の対象としながら、その分与割合は3割6分にとどまると判断しました。
特有財産を原資として購入された財産について、特有財産(が形を変えたもの)と考えるのか、それとも上記判断のように共有財産としながら分与割合を調整するのかは、ケースバイケースの検討が必要です。
婚姻前から所有する不動産や株式を運用したケース
例えば、夫が結婚前から所有していたマンションが婚姻期間中に値上がりした場合、この値上がり分が夫婦の共有財産とみなされるかどうかが争点になります。
不動産そのものは特有財産でも、結婚後の給与からローンを返済したなど、その運用に夫婦の収入が関わっていたなら、少なくとも一部は分与対象とされる可能性があります。
「特有財産」の解説

一方の浪費が激しい場合
夫婦の一方が過度な浪費を繰り返すケースも、財産分与の割合が修正されることがあります。浪費が原因で財産が減少したのに、2分の1ずつに分けるのは公平でないと考えられるからです。
例えば、パチンコや競馬などのギャンブル、過度なブランド品の購入、無計画な投資などは、不適切な浪費であると判断されます。これらの原因で生活費や貯金を使い込んでしまったときは、配偶者の負担を考慮して、浪費していない側の取り分が多くなるよう修正されることがあります。
ただし、浪費の事実を証明する必要があるので、銀行の取引履歴やクレジットカードの明細など、支出の実態を示す資料を準備しておくべきです。
「借金を理由とする離婚」の解説

夫婦の財産が明確に区別されていた場合
生活実態によっては、財産分与の「2分の1ルール」が妥当な典型的な夫婦ばかりではありません。特に、共働きでそれぞれ収入があり、夫婦の財産が明確に区別されている家庭だと、財産分与でも特別な考慮を要することがあります。
東京家庭裁判所6年5月31日審判は、夫婦の双方がアーティストとして活動して収入を得ていたが、妻が活動を休止して家事に専念していた事案で、夫婦の財産が別管理となっているため共有財産のみを分与の対象とすることとしながら、妻が一時期無収入となって家事に専念していたことから折半では不公平であることを考慮し、分与割合を「6:4」に修正すると判断しました。
同様に、夫婦の生活実態に変化があり、長期間別居していて財産形成に寄与していないといった事情も、「2分の1ルール」が変更される理由になります。
「離婚前の別居の注意点」の解説

財産分与の割合は他の離婚条件には影響しない

財産分与は、離婚時の夫婦の公平を目的とした制度であり、他の離婚条件とは区別して考える必要があります。財産分与の割合について考える際にも、他の金銭的な条件とは混同せず、別個に主張しなければなりません。
養育費と財産分与は関係ない
養育費は子供のための権利であり、財産分与とは無関係です。財産分与の割合を2分の1とするか、それとも原則的な割合を変更するかによって、養育費が増減することはありません。
財産分与で多くの財産を受け取っていても、それを理由に養育費を減額する必要はありません。養育費は、「養育費・婚姻費用算定表」に基づいて、夫婦の収入差と子供の年齢・人数によって決まる一方で、財産分与は、夫婦の共有財産の額によって決まるからです。
財産分与の割合を変更するなどして、離婚時に一括で金銭を支払う代わりに、「養育費を減額してほしい」と要求されることがあります。しかし、このような主張を受け入れると、将来の養育環境を不安定にしてしまうリスクがあります。養育費は子供の生活を守るための重要な費用なので、離婚時の財産の状況にかかわらず、将来も継続して適正な額を払うべきです。
「養育費が支払われないときの対応」の解説

不貞の慰謝料と財産分与の関係
不貞やDVなどの有責行為をした相手には、慰謝料を請求できます。しかし、慰謝料の有無や額もまた、財産分与の割合に影響しないのが原則です。
したがって、たとえ自分が不倫や浮気をしてしまっても、財産分与を請求することが可能です。ただし、財産分与と慰謝料を相殺する形で調整されることはあり得ます。不貞行為があるケースでは特に、夫婦間に感情的な対立が生じることが多いです。適正な財産分与を受け取るには、慰謝料とは目的が異なることを説明し、相手の不公平感をなくす努力が必要となります。
「不倫による離婚でも財産分与は必要」の解説

財産分与の割合を有利に変更する方法

最後に、財産分与の割合を有利に変更する具体的な方法を解説します。
財産分与の割合は2分の1が原則ですが、状況によっては有利な割合に変更できます。しかし、自身に有利な解決を得るには、まずは協議をし、決裂した場合には調停、訴訟といった法的手続きで、自身の主張を証拠によって証明することが不可欠です。
協議で有利な割合を交渉する
財産分与の争いは、まずは夫婦の当事者間の話し合いからスタートします。
離婚時に争うときは、離婚の協議と同時に進め、離婚の条件として合意します(離婚時に財産分与を決めなかったときは、離婚後でも財産分与について協議できます)。このとき、夫婦間で合意できれば、財産分与の割合を2分の1から変更することも可能ですが、そのためには、話し合いの過程で相手を説得し、有利な条件を引き出さなければなりません。
財産分与を有利に変更するための、交渉のポイントは次の通りです。
- 財産の形成における貢献度を強調する
例えば「自分の収入が極めて高い」「特殊な技能によって貯蓄を増やした」などといった有利な事情について、証拠を示して具体的に説明してください。 - 相手に不利な事情を指摘する
例えば「相手に浪費癖があった」「寄与割合が極めて低い」など、十分な貢献がなかったり、財産を減らしていたりする事情を指摘し、取り分を減らすよう求めましょう。 - 他の離婚条件とセットで調整する
慰謝料や養育費などとセットで交渉して、有利な割合を確保できる可能性もあります。財産分与以外に譲歩してもよい金銭があるなら、例えば「養育費を上げる代わりに、財産分与の割合を少なくしてほしい」などと交換条件で交渉することができます。
財産分与が高額になるほど、協議では感情的になりやすいので、冷静に進めなければなりません。相手が応じなかったり、冷静な話し合いが難しかったりするときは、調停や裁判などの法的手続きに移行する方が良い解決を目指せることもあります。
「協議離婚の進め方」の解説

分与割合以外の主張も検討する
次に、財産分与の割合のみに固執せず、その他の争い方も検討してください。
2分の1の原則を変更するよう主張しても、あくまで例外的な扱いなので裁判所に認めてもらえない可能性があります。それでも、財産分与の対象や評価額、基準時など、他の争点で有利な判断を得られれば、結果的に分与額を増やすことができます。
例えば、「分与割合が2分の1で、対象財産が1,000万円」なら分与額は500万円ですが、「分与割合が3分の2」というように不利な修正を受けてもなお、対象財産が600万円なら分与額は200万円に過ぎません。分与する側なら、「特有財産であるため分与の対象外である」「財産分与の基準時の評価とすべき」といった主張が有効です。
夫婦の一方が財産を隠している場合にも、分与額は大きく変わってしまいます。相手が財産を隠している可能性のあるとき、弁護士に依頼して開示を請求するなど、事前調査が必要です。
「財産分与の基準時」の解説

調停や裁判で貢献度を証明する
裁判では、原則として2分の1の分与割合とされますが、自分の貢献が大きかったことを証拠により証明できれば、割合を変更し、取り分を増やせる可能性があります。例えば次の証拠を収集しておくことが、法的手続きを有利に進める役に立ちます。
- 収入の多さを示す証拠
給与明細、源泉徴収票、確定申告書、課税証明書など - 家計が区別されている証拠
家計簿、各自の名義の通帳など - 経営者や専門職としての貢献度が高いことを示す証拠
資格証明書、経営する会社の決算書など - 相手の浪費や借金の証拠
クレジットカード明細、借用書、督促状など
協議で合意が得られなければ、家庭裁判所の調停や裁判で分与割合の変更を求めることができます。具体的には、離婚時の争いなら、協議が決裂した場合は離婚調停を申し立て、調停が不成立となるときには離婚裁判(離婚訴訟)を提起します(離婚後は、財産分与請求調停を申し立て、調停が不成立になったら自動的に審判へ移行します)。
「離婚までの流れ」の解説

まとめ

今回は、財産分与の割合について解説しました。
財産分与は、夫婦の離婚時の公平のための制度なので、原則として2分の1の割合が適用されるのが基本です。しかし、実際には、貢献度が異なったり、一方の浪費や借金によって財産が減少していたりといった個別の事情に応じて、分与割合が変更されるケースもあります。
財産分与の割合について有利な解決とするには、協議での交渉を有利に進めたり、調停や裁判で証拠に基づいた主張をしたりすることが重要で、その前提として、証拠集めは欠かせません。
適正な財産分与を実現するためにも、不安があるときは弁護士に相談し、法律知識に基づいた専門的なサポートを受けるのがお勧めです。
- 財産分与は、貢献度によって公平に分けるために、2分の1が原則とされる
- 形式的に半分にするのはかえって不公平なとき、例外的に割合が変更される
- 財産分与の割合を有利に変更したいなら、特別な貢献を証明すべき
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財産分与は、結婚期間中に形成された資産を整理し、公平に分割するための重要な手続きです。財産の評価方法や分割の割合などが争われると、法律知識に基づいた解決が必要となります。
トラブルを未然に防ぐために、以下の「財産分与」に関する詳しい解説を参考に対応してください。