離婚・男女問題

財産分与の範囲と評価の「基準時」とは?【弁護士解説】

2021年6月16日

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野英之(第一東京弁護士会所属)です。当事務所は「離婚問題」に注力し、豊富な実績を有しています。離婚は身近な問題ですが、実は多くの法的リスクを内在しています。

自身での解決が難しいとき、法律の専門知識を活用することで速やかに解決できることがあります。ぜひ一度当事務所へご相談ください。

財産分与の基準時

財産分与を争うときに知っておくべき重要な問題として、「財産分与の基準時はいつか」という問題があります。

注意しなければならないのは、この「財産分与の基準時」ということには、2つの意味があるという点です。

  • ①財産分与の財産確定の基準時
    「いつの時点の財産を分与の対象とするのか」という問題
  • ②財産分与の財産評価の基準時
    「分与の対象となった財産について、いつの時点の価格を評価の基準とするのか(時期によって価値が変動する株式・不動産などの財産)」という問題

結論から申し上げると、①の財産分与の対象財産の「確定」の基準時は「別居時」を原則とし、②の対象財産の「評価」の基準時は「離婚時」とするのが実務の扱いです。ただし、個別事情に応じて修正される場合があります。

そこで今回は、

  • 財産分与の基準時の意味
  • 財産分与の対象財産の「確定」の基準時は、「別居時」が原則
  • 財産分与の対象財産の「評価」の基準時は、「離婚時」が原則

といった財産分与の基準時の問題について離婚問題を多く取り扱う弁護士が解説します。

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財産分与の対象財産の「確定」の基準時とは

財産分与の基準時

財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた財産について、公平の観点から、貢献度に応じて分配する制度です。

財産分与を行う方法は、まず財産分与の対象となる財産を確定し、分与割合(原則として2分の1ルールが適用されます)と分与方法を決定し、分配するという流れになりますが、このとき、財産を確定しなければならないこととの関係上、「いつの財産を対象とするのか」、いわゆる、財産分与の対象財産の確定の基準時が問題となります。

財産分与には、清算的財産分与、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与の3種類がありますが、今回の解説は、最もよく起こる清算的財産分与に関する基準時の問題です。

扶養的財産分与、慰謝料的財産分与はいずれも「夫婦の財産を公平にわける」という意味ではないことから、「別居時」が基準となるわけではありません。

扶養的財産分与は、離婚後の弱者救済を目的としていることから、離婚時の財産状況を見てその必要性を決めるべき問題です。また、慰謝料的財産分与は離婚原因に対する責任の補償を目的としていることから、あまり財産状況によっては金額が左右されません。

「別居時」が原則

財産分与の対象財産を確定する基準時は、「別居時」が原則となります。

そもそも財産分与は、さきほど解説したとおり、夫婦が協力して築き上げた財産、すなわち「共有財産」を対象としており、結婚前から有していた財産と結婚後に自己の名において取得した財産である「特有財産」は対象としていません。これは、「貢献がある場合には、財産を分けるべき」という基本的な考え方からくるものです。

夫婦の財産について、民法には次のような重要な定めがあります(762条1項が特有財産、2項が共有財産を定めています)。

民法762条(夫婦間における財産の帰属)

1. 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2. 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

たとえ夫婦であったとしても、離婚に向けて別居を開始する場合には、別居後にはもはや財産の形成・維持に対する協力関係は終了するのが通常です。そのため、別居時を基準時とする場合には、別居後に夫婦の一方が取得した財産は、財産分与の対象とはなりません。

以上の理由から、財産分与の対象財産は、別居時までに形成・維持されていた財産と考えるべきです。そのため、その基準時は「別居時」が原則となるのです。

ただし、後述する通り、夫婦の協力関係は家族の事情によって異なりますから、「別居時が基準時」という原則だけで割り切れるわけではなく、当然ながら例外を認めた裁判例は多く存在します。

財産分与の対象財産の範囲の基準時について「離婚時(事実審の口頭弁論終結時)」と読める有名な判例に最高裁昭和34年2月19日があります。

しかしこの裁判例では「訴訟の最終口頭弁論当時」の財産を考慮することを示したのみで、かつ、「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮する」(民法768条3項)ことを挙げ例外を認めており、「離婚時を基準とするのが判例」と一般化できるものではありません。

実際の家庭裁判所の実務は、夫婦の協力関係の有無によって判断されており、その結果、多くの事例では別居時が基準となっています。

まとめ解説
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基準時が争いとなる理由

財産分与の対象財産の「確定」の基準時が争いとなる理由は、個人の財産は増減するからです。例えば、次のような例を考えてみてください。

私は、2020年12月、離婚を決意して家を出て、別居を開始しました。

その後、妻と離婚の話し合いをしましたが、妻は私が大きな財産を持っていると考え、到底支払うことのできない財産分与を請求してきたため、2021年1月に離婚調停を申し立てました。

2021年4月、調停離婚が成立しそうになりましたが、私は離婚調停中に転職を経験し、無収入期間があったため、別居時点で持っていた貯金は大幅に目減りしてしまいました。

私としては、2021年4月の離婚成立時点の貯金額を前提として財産分与をしたいのですが、妻は2020年12月時点を基準時であると主張しています。

このように、別居時と離婚時が異なり、その間に財産が増減する場合、夫婦の一方にとって有利な基準時は、他方にとって不利な考え方となってしまいます。

結論を申し上げると、上記の例のように別居期間内に自分の生活に支出して貯金額を減らしたようなケースでは、別居時が基準時であると判断されます。しかし、次に解説するように、「別居後もしばらくの間は家計が同一であった」など、家族の事情によってこの基準時の原則には例外があります。

別居時を基準としないケース

財産分与の基準時

清算的財産分与の「夫婦が協力して築き上げた財産を公平に分ける」という考え方から、夫婦の協力関係があると考えられる「別居時」までが、対象財産の確定の基準時となることを解説しました。

しかし、夫婦の協力関係は家族の事情によりますし、対象財産の種類によっても、別居時を財産分与の基準時とすることが公平の考え方に反するケースがあります。そのため、裁判所の実務では、例外的に、別居時を財産分与の基準時としない例があります。

そこで次に、別居時を基準としないケースとその理由について解説していきます。

別居後も家計が同一であった

夫婦の事情によっては、別居後にすぐに財産についての協力関係がなくなってしまうわけではない事例があります。その典型例が、別居後もしばらくの間は家計を同一にしていたようなケースです。

特に、夫婦の双方が経営者で、別居後も協力して事業を営み、一緒に財産を蓄積していたというようなケースでは、財産分与の基準時が「離婚時」に修正されるべきです。

子どもがいる場合には、子どもの養育環境を維持するために別居後も送金を続けているという家族も少なくありません。

財産分与の対象財産の確定の基準時について、別居時を基準としながら、公平の観点から個別の事情を考慮して修正するという実務の対応では、これらの別居後も家計が同一であったケースでは、家計が分離された時点を基準時としたり、別居後の財産変動について公平の観点から考慮すべきものを追加・控除したりすることで、適正な分与額を決定します。

当初の別居に正当な理由があった

夫婦の別居には、婚姻関係を解消することを目指した別居と、そうでない別居があります。そして、別居当初は離婚を決断していなくても、長期間離れていたことにより、結果的に別居に至る場合も少なくありません。

例えば、当初の別居が単身赴任や海外留学など、正当な理由のある別居であって、その後に離婚をしたという場合、別居後もしばらくは財産の形成に夫婦が協力していたという可能性が高いといえます。

正当な理由のある別居には、次のようなものがあります。

  • 単身赴任のための別居
  • 海外留学のための別居
  • 里帰り出産のための別居
  • 子どもの通園・通学のための別居
  • 病気療養のための別居(ただし、病気の原因について夫婦に責任のない場合)

そのため、別居から離婚に至るケースのうち、当初の別居には正当な理由がある場合には、形式的に別居時を基準とするのではなく、夫婦関係が破綻した時点を基準時とするよう修正すべきです。

別居と同居を繰り返していた

別居と同居を繰り返している場合には、「別居時」が複数存在するため、どの別居時を基準とするのか、もしくは、離婚時を基準とすべきなのかについて、個別事情を考慮して公平の観点から判断する必要があります。

少なくとも「当初は別居したけれど、その後に仲直りして同居し、更に別居した」というケースでは、最初の別居時が財産分与の対象財産の確定の基準時とはならないことは明らかです。

このように別居と同居を繰り返すような場合には、財産分与の基準時については、次のような事情を総合考慮して「いつの時点で、財産に関する夫婦の協力関係がなくなったか」という基本に戻って検討すべきです。

  • 別居した理由・経緯と、その後に同居に戻った理由・経緯
  • 別居していた期間
  • 別居と同居を繰り返した回数・頻度
  • 別居中の夫婦間の交流の状況
  • 別居中に得られた財産について、夫婦の協力・貢献の有無

なお、別居と同居を繰り返す事例には、別居中に他の異性と交際、肉体関係をもつケースがあります。しかし、不倫による離婚でも財産分与は必要となる点については、次の解説で詳しく説明しています。

参考解説

別居せずに離婚した

次に、離婚前に別居をしないケースがあります。つまり、同居のまま離婚の話し合いを進め、離婚が成立したというケースです。

このような場合には、財産分与の対象財産の確定の基準時について、別居時点とすることはできず、離婚時を基準時とすることが原則となります。同居をしている以上、その間は家計が同一であり、財産の形成・維持について夫婦間で協力関係が保たれている場合が多いからです。

ただし、同居中であっても夫婦仲が完全に冷え切っており、まったく夫婦としての実態をなしていないような、いわゆる「家庭内別居」の場合には、個別の事情に応じて検討しなければなりません。

一応形式的には同居しているけれど、家計は完全に独立しているとか、取得した財産について他方の配偶者の協力・貢献が一切なかったという場合には、同居中といえどもその財産は財産分与の対象外とすべき場合があります。

参考解説

別居後に退職金を受け取った

近い将来に退職金をもらう予定がある場合には、退職金もまた財産分与の対象となることがあります。

この場合、退職金をもらうのが別居後になったとしてもその退職金が財産分与の対象となるという点で、財産分与の対象財産の「確定」の基準時が「別居時」であるという原則の例外と考えることができます。

ただし、分与される退職金の金額は、夫婦の協力と貢献度が認められる範囲で分与されるものと考えられています。そのため結婚から別居までの期間に相当する金額を退職金規程などに照らして算出して決定するのが通常の実務であり、離婚時までに相当する金額を分与してもらえるわけではありません。

参考解説

基準時前後に大きな財産変動があった場合の対応

財産分与の基準時

以上のとおり、財産分与の対象財産は、別居時に存在するものを対象とするのが原則ですが、別居前後に大きな財産変動がある場合には、例外的にその財産の動きを考慮しないこととするケースがあります。

別居後に一方の配偶者が財産を支出していた場合、その支出が、相手の配偶者のためであったり子どもの養育のためであったりするようなケースでは、このような財産の減少も考慮して、減少後の財産を分与の対象とすべき場合があります。この場合、別居時を基準時とする原則を修正することとなります。

これに対して、別居後の財産の支出がパチンコやギャンブルなど単なる浪費であったり、一方の配偶者にしか利益のない支出であったりするようなケースでは、このような財産の移動を考慮することなく、別居時の財産を基準として分与すべきです。

別居前後に大きな財産変動があるケースの中には、財産隠しが強く疑われる事例があります。財産を他の口座に移したり、親や友人など第三者に譲渡したりするといった場合です。

このような財産隠しが疑われるケースでは、その財産の移動を財産分与の際に考慮すべきではないと反論すべきことは当然、その前提として、夫婦共有の財産をしっかり調査しておかなければなりません。夫婦共有の財産を調べる方法は、下記解説を参考にしてください。

参考解説

参考解説

財産分与の対象財産の「評価」の基準時とは

「財産分与の基準時」というとき、2つの意味があると説明しました。1つはここまで解説してきた財産分与の対象財産の「確定」の基準時であり、もう1つは財産分与の対象財産の「評価」の基準時です。

「評価」の基準時の問題とは、不動産や株式のように、時期によって価格が変動するような財産について「どの時点の評価を基準として財産分与額を決定するか」という問題です。

このような財産の価格の変動は、夫婦の協力とは無関係に、外的要因によって決まるものです。そのため、直近の価格を反映するのが最も公平であると考えられており、原則として「離婚時」が基準時となります。

なお、「離婚時」とは、協議離婚の場合にはその話し合いの成立時、調停離婚の場合には調停成立時、裁判離婚の場合には事実審の口頭弁論終結時を指します。

この「評価」の基準時を「離婚時」とするという問題は、「その資産自体は変わらないが、その評価が変わる」という不動産や株式などのケースにあてはまる話です。

これに対して、預貯金や住宅ローン、生命保険のように、「その評価が変わる」わけではなく「その資産自体が変わる」財産については、財産分与の対象財産の「確定」の基準時の原則とおり、「別居時」を基準に金額を算定することとなります。

参考解説

参考解説

財産分与の基準時の問題を、有利に解決する方法

財産分与の基準時

以上の通り、財産分与の基準時の問題は、対象財産の確定の基準時が「別居時」、対象財産の評価の基準時が「離婚時」を原則とするものの、裁判例では個別事情を考慮して例外がありうることを解説しました。

裁判例において認められる例外は、あくまでも個別事例の解決であり、似たような事例だからといって同様に例外が認められるわけではありません。そのため、財産分与の基準時の問題を有利に解決しようとするのであれば、事前準備が不可欠です。

そこで最後に、財産分与の基準時の問題が相手方配偶者との間で争いになったとき、有利に解決する方法を解説します。

別居の合意書を作成する

別居をする時点で、将来、財産分与の基準時についての問題が大きな争点となることが予想される場合には、別居時にその点についての合意を書面化しておくことが有効です。

特に、相手の不貞やDVなどの有責性を理由として別居を開始するような場合には、責任のない側としては「財産分与の基準時について自分側に有利にしておきたい」という思いがあることでしょう。このような場合、別居をする際に相手の非をきちんと追及した上で、自分にとって有利な合意書を作成しておくべきです。

参考解説

夫婦財産契約を締結する

会社を経営している方や、高額の財産を持っている方、家族から高額の相続・贈与が予定されている方などは、離婚をすることとなると財産の問題についてトラブルとなる可能性が高いといえます。

このような場合には、結婚をするときから、将来の財産分与に向けて相手と合意をしておくことが有効です。このような結婚時の夫婦の財産に関する合意を、法律の専門用語で「夫婦財産契約」といいます。

参考解説

別居後、弁護士から通知を送る

別居をしても、しばらくの間は家計を同一にすることはしばしばあります。特に、夫婦の片方が専業主婦(専業主夫)であって無収入のケースでは、すぐに家計を分けてしまっては生活が困窮してしまう事態が予想されます。

離婚協議が開始した後もしばらくの間家計を同一にする理由は、相手に対する恩情であり、配慮に他なりません。しかし、財産分与の検討に入ると、このような恩情、配慮によって財産分与の基準時が後ろ倒しされてしまい、自分にとって不利に働いてしまうおそれがあります。

このような事態を避けるためには、別居後すぐに離婚協議を開始するとともに、次のような当方にとって有利な主張を、弁護士から通知書を送付して意思表示してもらうことが有効です。また、話し合いが難しいときは調停を起こすこともおすすめです。

  • 別居後の困窮を避けるための恩情として、一定期間は給与口座を変更しない、家族カードを使っても良いという配慮をする。
  • ただし、既に別居時に婚姻関係は破綻しており、財産の形成・維持について夫婦間の協力関係はなくなっている。
  • したがって、財産分与の基準時は、あくまでも別居時である。

参考解説

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財産分与の基準時

今回は、財産分与の基準時には2種類の意味があり、対象財産の「確定」の基準時は「別居時」であり、対象財産の「評価」の基準時は「離婚時」であること、ただしこの原則には、家族の個別事情を踏まえた例外を認める裁判例が存在すること、といった点について解説しました。

よく「財産分与の基準時は別居時」である、という一般論で説明されることがあります。しかし、財産分与の基準時には2つの意味があることから、この1つだけのルールを一般化することはできません。

財産分与の基準時を別居時としてしまうと不公平だと考える場合には、この原則を修正するために、自身にとって有利な主張を積極的に行う必要があります。実務では、個別事情に合わせて最適な財産分与が争いとなります。

離婚と財産分与の問題についてお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

まとめ解説
財産分与について離婚時に知っておきたい全知識【弁護士解説】

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