財産分与は「離婚から2年以内に請求しなければならない」という法律上のルールがあります。しかし、2年経過後でも、財産分与を請求したいと考える人もいます。

気付いたら2年経過していた…あきらめるしかない?

隠し財産を見つけても、2年経過後は請求できない?
実は、離婚から2年経過したとしても、例外的に財産分与の請求が認められるケースがあります。特に、財産分与を不当に妨げたり、財産を隠していたりなど、分与する側に悪質な行為があるときは、公平の観点からも、離婚から2年経過後でも請求を認めるべきです。
今回は、財産分与を離婚から2年経過後に請求できるケースについて、弁護士が解説します。
- 離婚から2年経過すると、財産分与の請求権は消滅する
- 例外的に、財産隠しなどの事情があれば、2年経過後でも請求可能
- 2年経過後でも、相手が財産分与の話し合いに応じるよう交渉できる
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財産分与の期限とその例外

財産分与は、離婚成立から2年以内の期限があります。民法768条2項但書が「ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。」と定めるからです。
財産分与を請求する側、される側の公平性を保つため、離婚の成立から2年過ぎると、原則として財産分与は請求できません。期限が過ぎると請求権が消滅し、「やっぱり請求したい」と思っても裁判所は認めません。この期限は、法的には「時効」ではなく「除斥期間」と呼ばれ、「中断」や「停止」もありません。
ただ、全てのケースで、財産分与の時効が適用されるわけではなく、例外的に、2年経過後でも財産分与を請求可能な場合があります(「2年経過後でも財産分与を請求できる例外ケース」参照)。請求できる財産に気付いたら、できるだけ早く弁護士に相談するのがお勧めです。
「離婚後の財産分与請求」の解説

2年経過後でも財産分与を請求できる例外ケース

次に、財産分与を2年経過後でも請求できる例外的なケースを解説します。
相手が話し合いに応じてくれた場合
離婚から2年というのは、家庭裁判所の調停で財産分与を請求できる期限です。したがって、2年経過後も、相手に分与を求めて話し合いを提案することは可能です。相手が協議に応じた結果、当事者同士で合意できるなら、2年経過後でも財産分与をしてもらうことができます。
一方で、財産分与をする側にとって「払いたくない」のは当然で、協力的に話し合いに応じてくれるとは限りません。応じてもらいやすくするには、相手にもメリットとなる提案が必要です。
例えば、次の提案が、交渉材料として利用できます。
- 財産分与を受け取る代わりに、慰謝料を減額する
- 将来の養育費について再度協議をする
- 今後の関係性を見直し、子の両親として円満な関係を築く努力をする
以上のことから、2年を過ぎてもあきらめず、まずは話し合いを提案しましょう。
「協議離婚の進め方」の解説

当事者の合意がある場合
「後から分与する」と約束していた場合、離婚から2年経過後でも財産分与を請求できる可能性があります。ただし前述の通り、2年の期間は「時効」ではなく「除斥期間」で、経過すると自動的に権利が消滅するので、約束があっても任意に応じてくれないと強制はできません。
口頭の約束も有効ではあるものの、証拠がないと「言った・言わない」の水掛け論となります。特に、2年経過後だと、相手が応じてくれなければ財産分与を請求できないので、元配偶者を説得するためにも、書面での約束(離婚協議書や公正証書など)があった方がよいでしょう。
どうしても口約束しかできない場合にも、メールやLINEのやり取りを残したり、会話を録音したりする方法で記録を残しておいてください。
「離婚協議書の書き方」の解説

相手が財産を隠していた場合
離婚後2年を過ぎていても、相手が財産を不当に隠していたことが明らかになったときは、例外的にその後も財産分与を請求することができます。
相手が不当に財産を隠していた場合、離婚時に適切な財産分与ができておらず、夫や妻の問題行為によって権利行使が不当に妨げられたことを意味します。そのため、期限を過ぎた後でも、例外的に財産分与の請求が認められて、救済される可能性があります。悪質な財産隠しを許せば、「財産隠しをして2年逃げ切った方が得だ」という公平を損なう結果となりかねません。
例えば、財産隠しの具体例には、次のものがあります。
- 自分名義の銀行口座を申告しなかった。
- 不動産を所有しているのを隠していた。
- 会社の株や投資資産を意図的に隠した。
- 株主である会社の決算書を偽造した。
- 財産の名義を親族に移して隠蔽した。
元配偶者が意図的に財産を隠していたケースは、話し合いで解決するのは難しいでしょう。裁判所に速やかに調停の申し立てを行い、隠していた財産の分与を強く請求してください。
不当に財産分与させなかった場合
元配偶者が、暴力や脅迫によって財産分与をさせなかったケースでは、離婚から2年経過後でも、例外的に救済される可能性があります。例えば、次のような不当な圧力を加えた場合、時効や除斥期間の主張をするのは信義に反すると考えられます。
- 離婚時に「財産分与を請求したら危害を加える」と脅された。
- 精神的に追い詰められ、財産分与を放棄せざるを得なかった。
- 相手から「財産分与はない」と聞かされていたが、弁護士に相談して嘘であることが分かった。
これらの圧力の結果として、離婚時に財産分与を放棄していたとしても、その放棄の意思は、錯誤(民法95条)や詐欺・強迫(民法96条)によって取消し可能です。
除斥期間は、時効と違って中断することはなく、援用も不要であるのが原則ですが、裁判例でも、除斥期間の援用を必要とした上で、その援用が信義則に反すると判断したケースもあります(最高裁令和6年7月3日判決)。
「離婚時の財産分与の放棄」の解説

不法行為や不当利得などの他の手段で請求できる場合
離婚から2年経過し、財産分与の請求が難しくても、不法行為や不当利得など、他の法的根拠に基づく金銭を請求できないか、検討してください。
悪質な財産隠しがあった場合、これによって不当に利得を得た(不当利得)、または、財産分与請求権を侵害した(不法行為)といった理由で、不当利得返還請求や不法行為の損害賠償請求が認められる可能性があります。
実際、不法行為を理由とした損害賠償の請求を認めることで救済した裁判例(浦和地裁川越支部平成元年9月13日判決)も存在しており、次のように判断されています。
…(略)…国債中金200万円分については夫婦の共有財産に属しており、したがって、離婚に際しては財産分与の協議対象とすべき財産であったことになる。しかるに原告は被告に対しそれを秘していたことから、被告は原告に対する共有持分権ないしは財産分与請求権の行使をする機会を失ってしまったことになる。そうすると、原告の右行為は、被告に対する共有持分権侵害の不法行為ということになる。
三 右認定の事実からすると、被告の反訴請求は、原告に対し金200万円の2分の1である100万円の支払を求める限度で正当ということになる。
同様に、相手の悪質な行為によって財産を把握できなかったり、財産について誤った認識をもったりした結果、財産分与請求権の放棄に同意してしまった場合や、脅されて財産分与の放棄を強要された場合にも、期限を過ぎた後でも救済される余地があります。
浦和地裁川越支部平成元年9月13日判決
なお、不当利得返還請求権の時効は5年、不法行為の時効は、損害及び加害者を知った時から3年(生命・身体の侵害の場合は5年)、不法行為時から20年とされています。
「離婚時の財産分与」の解説

2年経過後の財産分与請求を弁護士に相談するメリット

最後に、離婚から2年経過後の財産分与を弁護士に相談すべきメリットを解説します。
財産分与の請求は、2年以内であっても複雑な交渉が必要になるケースが多く、まして2年経過後だと、更にハードルは高くなります。
例外に該当するか判断できる
弁護士に相談すれば、離婚から2年を過ぎても財産分与を請求できる例外ケース(財産隠しや脅迫、不当な圧力など)に該当するかどうか、裁判例や法律に基づいて正しく判断できます。
あくまで例外であり、本来は2年経過する前に請求すべきだったことから、非常に困難な事案と考えられるので弁護士のサポートを受けるべきです。
交渉や裁判の代理人になってもらえる
財産分与を離婚から2年経過後に請求しても、相手が応じてくれれば交渉することができます。
しかし、離婚後の元夫婦には大きな感情的な対立があり、当事者間での話し合いは困難なことが多いでしょう。弁護士が代理人として交渉することで少しでも有利に駆け引きをし、2年経過後であっても話し合いに応じてもらう助けとなります。弁護士を窓口とすれば、精神的負担を軽減できるメリットもあります。
証拠集めのサポートを受けられる
離婚から2年経過後でも財産分与を請求できる例外に当てはまることは、請求側が立証する必要があります。そのため、財産隠しや不当な圧力などについて、証拠を集めておかなければなりません。特に、相手が悪意をもって財産を隠そうとしているとき、徹底した調査が必要です。
財産分与について弁護士に相談することで、どのような証拠を入手すれば有利に進められるか、アドバイスを受けることができます。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

まとめ

今回は、離婚から2年という財産分与の期限の例外について解説しました。
例外的に、財産分与を2年経過後でも請求できるケースが存在します。夫や妻が財産を隠していた場合や、不当な圧力を受けて請求できなかった場合など、事情があれば救済される可能性があります。したがって、2年経過したからとて、あきらめるのは時期尚早です。また、除斥期間が経過していても、不当利得返還請求や不法行為など、他の手段を活用すべきケースもあります。
重要なのは、できる限り早く行動を起こすことです。2年以内に請求できればよいですが、そうでなくても、請求が認められる可能性を広げるには、早いに越したことはありません。複雑な財産分与の争点の絡む離婚問題は、弁護士に相談し、サポートを受けるのが適切です。
- 離婚から2年経過すると、財産分与の請求権は消滅する
- 例外的に、財産隠しなどの事情があれば、2年経過後でも請求可能
- 2年経過後でも、相手が財産分与の話し合いに応じるよう交渉できる
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財産分与は、結婚期間中に形成された資産を整理し、公平に分割するための重要な手続きです。財産の評価方法や分割の割合などが争われると、法律知識に基づいた解決が必要となります。
トラブルを未然に防ぐために、以下の「財産分与」に関する詳しい解説を参考に対応してください。