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離婚時の財産分与を放棄するときの注意点【弁護士解説】

離婚するときには、財産の少ないほう(例えば妻)は、財産の多いほう(例えば夫)に対して、夫婦の共有財産の2分の1を分け与えるよう、財産分与を請求できます。

一方、この財産分与請求権は、「権利」ですから、放棄することもできます。

一度、権利を放棄してしまうと、二度と財産分与を請求できません。そのため、離婚後に後悔しないよう慎重に考えなければなりません。逆に「財産分与をしたくない」と考え、相手に権利を放棄させようとする側においても、離婚後のトラブルのもととなってしまわないよう、離婚協議書にきちんと定めるなど、適切なやり方で進めていく必要があります。

今回は、財産分与を放棄する方法と、その際の書面の書き方や注意点について、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 財産分与を放棄する側では、早期離婚や他の離婚条件など、メリットを交渉で勝ちとる
  • 財産分与を放棄するときは、清算条項付きの離婚協議書を作成する
  • 財産分与を無理やり放棄されてしまったときは、意思表示の取消を求められる

まとめ 財産分与について離婚時に知っておきたい全知識【弁護士解説】

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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財産分与は放棄できる!

マルバツ

財産分与は、婚姻期間中に、夫婦が協力してつくりあげた財産(共有財産)を、公平の観点から分け与えるという考え方です。財産分与は、離婚時に請求するのが通常ですが、離婚後2年間は請求することがでいます。

財産分与の原則的なルールをわかりやすくまとめると次のとおりです(詳細はリンク先で解説しています)。

財産分与は、「財産分与請求権」という民法で定められた権利ですから、請求せずに放棄することも自由です。例えば、財産分与を請求して争うよりも、すみやかに離婚して縁を切るのを優先したいとき、財産分与を放棄するのが有効です。

財産分与を放棄するときは、単に請求せずに放置しておくこともできますが、明示的に放棄するためには、離婚協議書に「財産分与を放棄する」と記載するか、もしくは「その他一切の債権債務は存在しない」という清算条項をつける方法がおすすめです。

いずれの方法でも、財産分与を放棄するような重大な離婚は、後からもめごととなる可能性が高いため、離婚協議書を作成して公正証書にしておくことで、証拠としての価値を高めておくのがおすすめです。

財産分与を放棄したほうがよいケース

ポイント

どうせもらえる財産であればもらっておいたほうが得なことが多いですが、難しい離婚問題のトラブルのなかには、財産分与請求権をあえて放棄したほうがよいケース、財産分与を積極的に放棄すべきケースがあります。

財産分与の放棄を検討すべきケースは、例えば次のものです。

早期の離婚を優先したい場合

財産分与は、離婚条件のなかでも高額となりやすく、激しく争いをはじめると、紛争が長期化するおそれがあります。そのため、財産分与を求めることよりも早期の離婚を優先するときには、財産分与を放棄しておくべきです。

早期の離婚を優先して、財産分与をあきらめるときには、次の判断材料を検討しておいてください。

  • 財産分与を争ったときどのような手続になるか
    (交渉で解決できるか、調停・訴訟となるか)
  • 財産分与を争ったときどれくらいの期間がかかるか
  • 争いに勝ったときもらえる財産分与の金額
  • 早期離婚を優先したとき、予想される相手の対応
    (すぐに応じてもらえるか、他にも争点がありそうか)

先の見通しについて誤った判断をして損をしてしまわないよう、弁護士のアドバイスを得ておくのがおすすめです。

借金を分与されてしまう場合

財産分与の対象財産には、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、住宅ローンや借金などのマイナスの財産も含まれます。そのため、相手の財産が少なく、借金が多いようなとき、財産分与を求めるとむしろあなたにとって不利になってしまうことがあります。

借金が多く、財産分与するとかえってあなたのお金が減ってしまいそうなときには、財産分与を求めないことができます。

住宅ローンが残っていてオーバーローン(債務超過)となっている不動産(家・土地)は財産分与の対象外とするのが家庭裁判所の実務ですが、このことを明らかにし、住宅ローンの負担を負い続けなくてもよいよう、あらかじめ家の財産分与を放棄しておく事例もあります。

ただし、配偶者(パートナー)が積極的に、借金の一部を負担するよう求めてくる危険があります。夫婦生活や子どものためにした借金は、分与の対象となりますが、その使途が不明なときや、個人の浪費目的のとき、そのような借金の負担は拒否できます。

借金まではないにしても、財産分与がごく少額となることが予想されるときにも、細かい端数を争うよりも、他の問題を優先した方がよい場合があります。

他の離婚条件の交渉材料とする場合

財産分与以外の離婚条件にも争いがあって、そちらのほうが優先順位が高いというとき、財産分与を放棄することで、その他の離婚条件の交渉材料に使おうという方針をとることがあります。このようなケースで、相手が「財産分与を払いたくない」ということほうが優先順位が高いと考えるとき、あなたが財産分与を放棄すればお互いWin-Winの解決に落ち着けられます。

財産分与を交渉材料として勝ちとる条件とは、つまり、お金の金額よりも大切な離婚条件です。例えば、次のような解決事例があります。

  • 財産分与を放棄するかわりに、養育費を増額してもらった事例
    現在もらえる金額より将来の安定を優先する方針です。
  • 財産分与を放棄するかわりに、親権・監護権を勝ちとった事例
    お金に代えることのできない子の親権・監護権を優先する方針です。
  • 有責配偶者だが、財産分与を放棄する代わりに離婚に応じてもらえた事例
    本来、有責配偶者からの一方的な離婚は難しく、少なくとも8〜10年の別居期間を必要とするのが裁判所の実務ですが、財産分与より離婚をすることを優先する方針です。

ただし、このような交渉材料を使った駆け引きは、相手がその交渉に応じてくれてはじめて意味があります。

法的には、財産分与の放棄が、養育費や親権・監護権などその他の条件と関係しているわけではないことに注意が必要です。きちんと相手も譲歩してくれないときに、こちらだけ財産分与を放棄してしまうような結果にならないよう、必ず離婚協議書を作成するなど書面で合意内容を明らかにしておかなければなりません。

財産分与を放棄するときの注意点

矢印

次に、財産分与を放棄する側の立場で、財産分与を放棄するときの注意点について解説します。

財産分与の放棄は、上記のケースにご紹介したように、さまざまな目的を達成するために行うことでしょうから、「何のために財産分与を放棄するのか」という目的・理由を明確にしておくのが、重要なポイントとなります。

財産分与を放棄する時の書面の書き方

財産分与を放棄するとき、あとからトラブルとなる可能性が高いため、かならず書面を作成しておくようにします。

離婚時に放棄するケースでは離婚協議書、離婚前や後に放棄するケースでは念書、合意書、確認書といった題名の書面に、次のような「放棄」もしくは「清算条項」のいずれかを書いて、署名押印してください。書式・文例は次のとおりです。

第○条(財産分与の放棄)

甲は、乙に対する財産分与請求権を放棄する。

第○条(清算条項)

甲及び乙は、甲と乙との間に、本書面に定めるほか、一切の債権債務が存在しないことを相互に確認する。

明示的に「放棄する」という書き方でなくても、「清算条項」でも財産分与を放棄したこととなる点は注意が必要です。

ただし、後から、あらたに明らかになった財産があるときや、相手の不当な財産隠しによって、財産を知らずに放棄してしまったといったケースでは、清算条項を結んだ後でも財産分与を請求できます。

離婚協議書の場合には、あわせて公正証書化しておくようにします。公正証書は、公文書となることによって証拠価値が高まるとともに、万が一違反があったときには強制執行(財産の差押え)ができるという協力な効果を持ちます。

財産分与を放棄する場合に大切なのは、証拠としての価値が高まるというメリットですが、その他の財産分与以外の離婚条件では、養育費や慰謝料など金銭請求を記載するというとき、強制執行(財産の差押え)のメリットも享受できます。

公正証書とは
公正証書とは

放棄したら、再度財産分与を求められない

財産分与請求権を放棄するのは自由ですが、一旦放棄してしまったら、その後に再度財産分与を求めることはできません。

そのため、相手に放棄を求められているが悩んでいるとか、財産分与を放棄することが自分にとってメリットが大きいかどうかわからないといったケースでは、あせって財産分与請求権を放棄してしまわず、一度立ち止まって考える必要があります。

財産分与の請求は、離婚後2年間は可能ですから、すみやかな離婚を優先したいときであっても、考える時間的余裕はまだ十分にあります。放棄してしまえば、2年の期限前でももはや請求することはできません。

財産分与の放棄による損得を分析する

前章でも解説のとおり、財産分与を放棄するかどうかを自由な意思で判断するために、あなたと相手の求めている離婚条件を表に整理して、放棄したほうが得かどうかを分析的に検討するのがおすすめです。

このとき、単純にもらえる金額、手放す金額を比較するだけでなく、表向きの金額にはあらわれない次のような事情にも配慮することがポイントです。

  • 税金の問題
    慰謝料としてもらえば非課税だが、不動産を財産分与で受けとるときには不動産取得税などの手続き費用がかかる
  • お金に代えられない問題
    子どもの問題(親権・監護権、面会交流の有無)はお金には代えられない重要度があります。
  • 将来のお金の現在価値の問題
    将来的にもらえるお金より今もらえるお金のほうが価値が高いです。早くもらったほうが利息分だけ特をすると考えるのが法律の実務です。

無理やり放棄させられてしまったとき

財産分与を放棄することは自由ですが、相手から無理やり放棄させられてしまうことは避けなければなりません。そのようなとき、財産分与をしたくないと考える相手の不当な圧力の疑いが強いからです。

無理やり放棄させられてしまったときには、強迫(民法96条)、財産の詳細についてわからないまま、「放棄したほうが得だから」とだまされて放棄させられてしまったときは錯誤(民法95条)もしくは詐欺(民法96条)により取り消しが可能です。

相手から高圧的に財産分与の放棄を求められているとき、もしかしたら、あなたのみえている以上の財産があって、より高額の分与が請求できるのではないかという疑いもあります。より多くの財産をとられてしまうのが怖くて、財産分与を放棄させようとしているのかもしれませんから、徹底した調査が必要です。

まとめ

今回は、財産分与を放棄できる理由と、財産分与を放棄する側の立場で注意しておいてほしいポイントを解説しました。

財産分与は、高額となることが多く、非常に重要な離婚条件の1つです。しかし、離婚問題は、すべての離婚条件を総合的に考慮して対応する必要があり、財産分与については放棄したほうがうまくいくケースもあります。

財産分与をもらうことだけにこだわるって大切なものを見失うことなく、ときには財産分与を放棄し、その他の離婚条件や速やかに離婚すること自体を優先したほうが結果的に将来幸せになれるケースもあります。

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弁護士法人浅野総合法律事務所
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弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題に精通しており、財産分与が大きな争いの種となるケースについても豊富な解決実績があります。

離婚にともなう財産分与の問題にお悩みの方は、ぜひ当事務所へご相談ください。

財産分与のよくある質問

財産分与を放棄したほうがよいケースには、どんなものがありますか?

財産分与を放棄したほうがよいケースは、1つは、財産分与よりも大きなメリット(多くは、離婚自体や子どもなど、お金に代えられない条件)があるケース、1つは、借金があるなど財産分与すると損するケースです。もっと詳しく知りたい方は「財産分与を放棄したほうがよいケース」をご覧ください。

財産分与を放棄するときの注意点はありますか?

財産分与を放棄するときは、そのことを客観的に明らかにし、事後のトラブルを防止するため、かならず離婚協議書などの書面に定めておいてください。このことは、放棄する側にとってはもちろん、放棄させる側にとっても大切なポイントです。詳しくは「財産分与を放棄するときの注意点」をご覧ください。

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