離婚調停がなかなか終わらない状況は、精神的にも経済的にも大きなデメリットがある一方で、実はメリットが隠れているケースもあります。
一般には、離婚調停は半年から1年程度で終わりますが、財産分与や親権など、互いに譲れない条件があると長期化しがちです。できるだけ早く離婚したい人も多いでしょうが、長期化することでかえって冷静に考える時間を得られたり、相手の不貞の証拠を集める期間を確保できたりと、結果的にはメリットをもたらすこともあります。
とはいえ、あくまで限定的なケースで、多くの場合、調停が長期化すれば精神的に疲弊し、弁護士費用も増加するなど、デメリットの方が気になります。特に、意図的に引き延ばそうとしてくる相手に対しては、短期間で離婚を成立させるための対策が不可欠です。
今回は、離婚調停が長期化する原因、そのメリット・デメリット、そして調停を有利かつ迅速に進めるための方法を、弁護士が解説します。
- 離婚調停が長引いた際、その時間を有意義に使えればメリットになる
- 離婚調停が長引いてしまう理由を知り、その対策を事前に講じておく
- 相手が不当に長引かせてきたら、事前準備を徹底し、調停委員を味方につける
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離婚調停の一般的な期間と審理回数
まず、離婚調停は、実際にどれくらいの期間で終わるのでしょうか。裁判所の統計(令和5年司法統計年報)によると、離婚調停の半数以上(約57%)が6ヶ月以内に終結しています。
審理期間 | 件数(総数56,844件) |
---|---|
1月以内 | 3,199 |
3月以内 | 12,029 |
6月以内 | 17,557 |
1年以内 | 16,684 |
2年以内 | 6,681 |
2年超え | 694 |
また、同統計によれば、調停が開かれた回数(実施期日回数)は以下の通りです。
実施期日回数 | 審理回数 |
---|---|
0回 | 4,704 |
1回 | 7,205 |
2回 | 11,141 |
3回 | 9,659 |
4回 | 7,273 |
5回 | 5,227 |
6~10回 | 10,041 |
11~15回 | 1,449 |
16~20回 | 199 |
21回以上 | 36 |
調停期日の回数で最も多いのは「2回」ですが、全件の平均回数は約3.8回となります。したがって、「離婚調停は、半数以上が半年以内に、2回から4回程度の話し合いで終わることが多い」というのが一つの目安です。しかし、最も多い回数(2回)と平均回数(約3.8回)に差があるように、争点が多かったり、意見の対立が激しかったりして、審理が長期化するケースも決して珍しくはありません。
自身のケースが標準的な期間を超える場合、それが事案の複雑さによるものなのか、あるいは相手が意図的に引き延ばしているのかなど、状況を冷静に見極めることが重要です。
「離婚調停の流れ」の解説

離婚調停が長引く原因

次に、離婚調停が長引く主な原因について解説します。長期化の原因を知れば、事前に対策を立てやすくなります。
【相手が離婚自体を拒否している】
相手が離婚を頑なに拒否する場合、調停は平行線をたどり、長引きがちです。
不貞行為やDVといった明確な「法定離婚事由」(裁判で離婚が認められる法律上の原因、民法770条1項)がないケースでは、この傾向が顕著です。なぜなら、調停が不成立になっても、その後の裁判で離婚が認められる可能性が低いので、相手としても「調停で譲歩する必要がない」と強気な姿勢を崩さないからです。
その結果、合意形成は困難を極め、時間だけが過ぎていくことになります。
【争点が多い、または対立が激しい】
財産分与、慰謝料、子供の親権や養育費、面会交流など、離婚時に決めるべき条件(争点)が多岐にわたる場合、合意形成に時間がかかり、調停が長引きがちです。特に、子供の親権は、夫婦の双方にとって譲れず、対立が激しくなることが多いです。
【主張を裏付ける客観的な証拠がない】
不貞行為やDVなどを理由に慰謝料を請求する場合も、その主張を裏付ける客観的な証拠がなければ、相手に「そんな事実はない」と反論されて水掛け論になります。証拠が不十分だと、調停委員も相手に強く説得できず、調停は長引きます。
以上のように、離婚調停が長引く原因には、「相手の強硬な姿勢」といった相手側の要因だけでなく、「主張や証拠の準備不足」といった自分側の要因もあります。相手の態度を変えるのは容易でない一方で、自身の準備を万全に整えておくことは、離婚調停を早期に終わらせるために不可欠です。
「離婚を弁護士に相談する前の準備」の解説

離婚調停を長引かせるメリット

離婚調停の長期化はデメリットばかりではありません。ここでは、調停が長引いた場合に、その時間を戦略的に活用することで得られるメリットについて解説します。
離婚条件をじっくり交渉できる
調停を長引かせると、焦って不利な条件で合意してしまうリスクを避け、離婚条件について十分な時間をかけて検討できるメリットがあります。
一度成立した離婚条件を後から覆すのは極めて困難です。離婚調停で合意した内容は、確定判決と同じ法的効力を持つ「調停調書」に記載され、違反すれば強制執行により財産を差し押さえられてしまいます。相場から大きくかけ離れた養育費や、不十分な財産分与では、安易に合意すれば離婚後の生活が苦しくなりかねません。
また、時間の経過が、お互いの感情的な対立を和らげる冷却期間となり、建設的な話し合いにつながる可能性もあります。
「離婚に伴うお金の問題」の解説

証拠の収集に時間をかけられる
離婚調停が進行している間も、主張を裏付ける証拠を収集することは可能です。
離婚調停を長引かせれば、証拠集めのための時間を確保できるメリットがあります。慰謝料請求などの場面で、根拠のない主張は相手にも裁判所にも一蹴されてしまいます。例えば、不貞行為を立証するための写真や動画、相手が財産を隠している疑いがある場合には、弁護士会照会や調査嘱託といった法的な手続きを用いて金融機関の取引履歴を取り寄せるなど、信頼性の高い証拠を集めるには一定の時間が必要です。
客観的な証拠によってあなたの主張に説得力が生まれれば、調停委員が相手を説得しやすくなり、離婚に向けた話し合いを有利に進められる可能性が高まります。
「離婚裁判で証拠がないときの対処法」「不倫の証拠写真」の解説


生活費(婚姻費用)を受け取りながら交渉できる
離婚調停を長引かせることには金銭的なメリットもあります。
法律上、夫婦は離婚が成立するまで、たとえ別居していてもお互いの生活レベルが同等になるよう助け合う義務(生活保持義務)を負います。この義務に基づき、収入の多い側は少ない側に対して、生活費(婚姻費用)を支払う必要があります。
金額は、裁判所が公表する「養育費・婚姻費用算定表」に基づき、双方の収入と子供の年齢・人数に応じて算定します。毎月支払われるのが基本なので、離婚までの期間が長引くほど、受け取れる金額は大きくなります。
収入が少ない側(例えば「妻」)にとって、婚姻費用は、目先の生活費に困って不利な条件で離婚してしまう事態を避け、腰を据えて交渉を続けるための生命線となります。
「別居中の生活費の相場」の解説

監護実績の蓄積が親権獲得に有利に働く
最後に、調停が長引くことが、親権の判断でも有利に働く可能性があります。
家庭裁判所が親権者を決める基準は、「どちらの親と暮らすのが子供の健全な成長にとって良いか(子の福祉)」という点です。「子の福祉」を判断する上では、子供の生活環境の安定が優先されるため、監護の継続性が一つの考慮要素となります。
離婚調停が長引いている間、子供を安定した環境で育てられれば、監護実績を蓄積でき、あなたが親権者として適格であることを示せます。食事や通学、通院の付き添いなど、具体的な監護の記録(写真、連絡帳、母子手帳など)が、有利な証拠になるのです。
また、子供が15歳以上の場合、裁判所は法律に基づき、必ず子供自身の意見を聴かなければなりません(家事事件手続法152条2項)。この点でも、調停期間中も良好な親子関係を維持することが、親権獲得に有利に働きます。
ただし、親権を有利にしたい一心で、一方的に子供を連れ去ったり、不当に離婚調停を長引かせたりするのはお勧めできません。違法な「子の連れ去り」と判断されると、親権者としての適格性を疑われ、親権争いで極めて不利になります。子連れ別居を検討する際は、DVなどの緊急性がある場合を除き、慎重に進める必要があります。


離婚調停を長引かせるデメリット

次に、離婚調停が長引いた場合のデメリットを解説します。
離婚調停を長引かせることには、メリットがある一方で、デメリットも確実に存在します。そのため、闇雲に引き延ばすのは得策とは言えません。
冷静な判断を下せなくなる
離婚調停が長引くと、なかなか終わりの見えない交渉が続くことで精神的に疲弊し、冷静な判断が難しくなることがあります。ピークに達すると、「早く終わらせたい」という一心で、正当な権利を十分に主張しないまま、不利な条件で合意してしまう人もいます。
時間をかけてじっくり考えるメリットと、精神的な負担が増大するデメリットを比較して、時には譲歩して区切りをつける判断も必要です。
「離婚までの流れ」の解説

弁護士費用がかさむ
弁護士に依頼した場合、調停が長引くほど費用がかさむ可能性があります。
法律事務所の料金体系にもよりますが、期日への出席の回数に応じて「日当」や、作業時間に応じて費用が加算される「タイムチャージ制」を採用していると、離婚調停が長引くほどに、かかる費用が増えていくからです。
また、調停が不成立に終わり訴訟へ移行する場合、着手金が別途必要となるのが通常です。これにより、想定した費用を大幅に上回るおそれがあります。調停を長引かせることで得られる利益と、増加する弁護士費用を比較して検討しなければなりません。
「離婚調停にかかる費用」の解説

訴訟に発展するリスクが高まる
離婚調停で合意に至らない場合、調停は不成立となり、終了します。その後、離婚を求める側が、訴訟を提起するか、あるいは一旦あきらめるかの選択を迫られます。ここで離婚裁判(離婚訴訟)を選択すると、更に紛争は長期化することとなります。
また、離婚調停は非公開であるのに対し、離婚裁判は原則として公開の法廷で審理され、夫婦間のプライバシーを第三者に知られる可能性が生じます。
訴訟となると様々な負担が調停よりも大きくなるので、長引かせることにメリットがあったとしても、可能な限り調停段階での解決を目指すことに大きな意義があります。
「離婚調停の不成立とその後の流れ」の解説

相手が離婚調停をわざと長引かせる際の対処法
次に、相手が意図的に、離婚調停を長引かせようとしている際の対処法を解説します。
ここまで説明したように、長期化にはメリットとデメリットがありますが、相手が引き伸ばしを図っているなら、あなたにとってデメリットの方が大きいことでしょう。
調停委員に協力を求める
相手が意図的に調停を長引かせている場合、その問題点を調停委員に伝え、協力を求めるのが有効です。調停委員は中立な立場ですが、手続きの円滑な進行にも責任を負っています。一方が非協力的な態度が進行を妨げていると判断すれば、是正するよう働きかけることが期待できます。

具体的には、以下のような相手の行為について、感情的にならず、客観的な事実と共に委員に伝えましょう。
- 前回までの主張を、合理的な理由なく何度も覆す。
- 裁判所から提出を求められた資料を、正当な理由なく提出しない。
- 病気などの正当な理由なく、期日を欠席したり、直前に変更を繰り返したりする。
- 具体的な反論や提案を一切しない。
- ただ「嫌だ」「無理だ」と繰り返すだけで話し合いにならない。
その際、自身は早期解決を強く望むことも明確に伝えてください。
調停委員が相手の非協力的な姿勢を認識すれば、進行を促すよう相手を説得したり、場合によっては「これ以上話し合っても合意の見込みはない」と判断し、調停不成立で終了させる方向で手続きを進めたりすることがあります。
「調停委員を味方につけるには?」の解説

調停を打ち切り、訴訟する
相手の引き延ばしが続き、これ以上の話し合いが困難だと判断するなら、調停を打ち切り、訴訟へ移行することも検討してください。訴訟は調停よりも厳格な手続きであり、相手が不誠実な対応を取り続けることは難しくなります。
調停を打ち切るには、次の方法があります。
- 申立ての取下げ
離婚調停を取り下げて、訴訟を改めて提起する方法です。離婚調停の取り下げには相手の同意は不要であり、かつ、十分に審理された後なら、「調停前置主義」の観点からも訴訟が可能であると判断されます。 - 調停不成立で終了させる
もう一つは、これ以上の話し合いは無意味だと裁判所に判断してもらい、調停不成立として終了させる方法です。
いずれの場合も、自動的に訴訟へ移行するわけではないため、自身で家庭裁判所に訴訟を提起する必要があります。ただし前述の通り、訴訟に移行することで弁護士費用が増え、審理期間が更に長引くリスクがあることを覚悟しなければなりません。
「離婚裁判の流れ」の解説

弁護士に相談する
意図的に調停を長引かされたとき、最も有効な対処法は、弁護士への相談です。
弁護士は、現在の調停の状況を分析し、相手の引き延ばしの意図や手口を見抜き、今後の方針や必要な証拠、法的に説得力のある主張の組み立てについて具体的にアドバイスします。弁護士を代理人に選任すれば、調停期日に同席し、法的な観点から主張や反論が可能です。また、相手や裁判所とのやり取りを任せることで、長引くことによる精神的な負担も軽減できます。
弁護士費用は必要ですが、いたずらに調停を長期化させられることによる経済的・精神的な損失と比較すれば、できるだけ早期に専門家に依頼することで、結果として納得のいく解決につながる可能性を高めることができます。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

離婚調停を長引かせることなく早く終わらせるには?

最後に、長引きがちな離婚調停において、早期解決を目指す方法を解説します。
調停委員と良好な関係を築く
調停委員は、中立的な立場で合意形成を促進します。その調停委員と良好な関係を築ければ、あなたの主張に真剣に耳を傾けてもらい、相手の説得も熱心に行ってくれるなど、事実上有利な形で話を進められる可能性が高まります。
そのためにも、離婚調停には真摯な姿勢で臨みましょう。時間厳守や丁寧な言葉遣いといった基本的な礼儀やマナーはもちろん、委員の質問には誠実に回答してください。裁判所から提出を求められた資料は速やかに準備し、手続きに積極的に協力する姿勢も大切です。
また、委員が示す解決案には、真摯に耳を傾けましょう。双方の主張の妥協点を探り、譲歩できる点は柔軟な姿勢を示すことが、結果として調停委員や裁判所からの信頼に繋がります。
「離婚調停の服装」の解説

必要な証拠や書類を揃えておく
離婚調停は、当事者が提出する書面や証拠をもとに進みます。準備が不十分だと主張の説得力が欠けたり、資料提出が遅れたりして、無用に長引いてしまいます。
このような事態を防ぐため、離婚に至る経緯を時系列で整理し、離婚を求める理由、親権、養育費、財産分与、慰謝料などに関する希望について、事前にまとめておきましょう。また、主張を裏付ける証拠も、すぐに出せるように準備しておいてください。
不貞ならばラブホ出入りの写真、財産分与ならば預貯金、不動産、保険、有価証券など婚姻中に形成した財産のリストなど、家庭裁判所から必ず提出を求められるものは、あらかじめ準備することが円滑な進行にとって不可欠です。
「モラハラの証拠」の解説

自分と相手の主張を整理しておく
離婚調停が長引くことを避けるには、落とし所を考えることも重要です。
離婚調停は、双方の妥協点を見出す手続きでもあります。あなたが全ての要求に固執すれば、相手も譲らず、調停は停滞してしまいます。このような事態を避けるには、「絶対に譲れない条件」と「譲歩しても良い条件」に優先順位をつけておきましょう。
同時に、相手の立場や性格から、どのような主張をしてくるかを予測することも大切です。相手が固執しそうな点を見極め、それに対する反論や、相手が納得しやすい代替案をシミュレーションしておくことで、冷静かつ優位に交渉を進めることができます。
双方にとって納得のいく形で早期に決着させるには、戦略的な準備が欠かせません。
「離婚で弁護士を立てるタイミング」の解説

まとめ

今回は、離婚調停が長期化した場合のメリットについて解説しました。
離婚調停の多くは、半年から1年で終結しますが、争点が多かったり、相手が非協力的だったりすると長引くおそれがあります。調停が長期化したとしても、その時間を活用して有利な証拠を集めたり、婚姻費用を受け取りながら交渉したりなど、戦略的に動けばメリットもあります。
ただ一方で、それ以上に、精神的・経済的な負担の増大や、訴訟に発展するリスクなど、デメリットも深刻です。何より、長期化による疲労から冷静な判断力を失い、本来受け入れるべきでない不利な条件で合意してしまう事態は、絶対に避けなければなりません。
離婚調停を「ただ長引かせる」のは得策ではありません。自身の状況を客観的に分析し、時間をかけるメリットがあるのかどうか、冷静に判断すべきです。また、判断に迷ったり、相手の引き延ばし戦術に不安を感じたりするなら、一人で悩まず専門家である弁護士にご相談ください。
- 離婚調停が長引いた際、その時間を有意義に使えればメリットになる
- 離婚調停が長引いてしまう理由を知り、その対策を事前に講じておく
- 相手が不当に長引かせてきたら、事前準備を徹底し、調停委員を味方につける
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離婚調停を有利に進めるには、財産分与や親権、養育費、不貞行為の慰謝料請求など、状況に応じた法律知識が必要です。お悩みの状況にあわせて、下記の解説もぜひ参考にしてください。
複数の解説を読むことで、幅広い視点から問題を整理し、適切な解決策を見つける一助となります。