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アルコール依存症を理由に離婚するときの注意点と責任、慰謝料請求

夫(または妻)がアルコール依存症となってしまったとき、離婚を考えてしまう夫婦は少なくありません。

アルコール依存症が悪化すると、自分の健康に害があるのはもちろん、仕事を満足にできずに家計がかたむいてしまったり、配偶者に暴力を振るってDVに発展したりするおそれがあります。親がアルコール依存症になってしまうと、子どもの養育環境にとってもマイナスであり、お酒が原因で虐待が起こってしまうこともあります。

今回は、法的な観点から、アルコール依存症と離婚、慰謝料請求の問題について、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • アルコール依存症は、強度なときには、法定離婚原因となり、慰謝料請求の理由にもなる
  • アルコール依存症で別居するためには、違法性が強いことを証明するのがポイント
  • アルコール依存症で離婚するとき、親権取得に悪影響とならないよう注意する

なお、その他の法定離婚原因にどのようなものがあるか、離婚を検討している方は次のまとめ解説をご覧ください。

まとめ 法定離婚原因とは丨相手が離婚を拒否しても裁判で離婚できる理由5つ

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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アルコール依存症を理由に離婚する方法

矢印

はじめに、相手がアルコール依存症になってしまったとき、これを理由に離婚する方法を解説します。

重度のアルコール依存症は、本人の健康被害だけでなく、家族にとても大きなダメージを与えるため、離婚にむけた手順を参考に、離婚を検討していくことが必要になります。

飲酒を理由に離婚すべきケースかどうか

アルコール依存症は、単なる「酒好き」、「酒癖が悪い」というのを超え、病気として扱うほど悪化した症状のことです。

夫(または妻)の酒癖がとても悪いとき、家族や友人など周囲からも「離婚したほうがよいのでは」とすすめられるケースがあります。相手がアルコール依存症だと、一緒にいる自分も精神的ダメージを受け、うつ病などのメンタル疾患にかかるおそれもあります。

そのため、まずは自分の配偶者(パートナー)の状況が、アルコール依存症を理由に離婚すべきほどのものなのかどうか、判断してください。この判断には、厚生労働省の示す次の基準が参考になります(依存症の診断基準は、ICD-10によるものと、DSM-IV-TRによるものが有名です)。

アルコール依存症の診断基準
アルコール関連の分類(厚生労働省)

医学的な判断はともかくも、離婚すべきかどうかの見きわめのためには、家庭や社会に影響が出ているにもかかわらず、本人がアルコール摂取を「やめたくてもやめられない」という状態にあるかどうかという点で判断するのがわかりやすいです。

厚生労働省では「アルコール依存症かどうか」のチェックリストも提供されているので、参考に判断するのがおすすめです。

「依存症って?〜依存症を『正しく知って』『支える』ために」(厚生労働省)

協議・調停で離婚する

相手がアルコール依存症の疑いがあり、離婚したいと考えるときは、まずは夫婦間の話し合いからスタートしてください。協議がうまくいかないときは、離婚調停を申し立て、引き続き、調停委員にとりもってもらいながら話し合いを続けます。

あなたの配偶者が、「酒好き」、「酒癖が悪い」という程度を超えて、アルコール摂取を自分でコントロールできていないとき、アルコール依存症の疑いがあります。

アルコール依存症は、本人の健康被害だけでなく、仕事ができなくなって家族に迷惑をかけたり、DV・モラハラの原因となったりします。お酒ばかり飲む親を見て育つと、子どもの健全な発育にもよいとはいえず、子どもへの悪影響にもなります。虐待に発展してしまうケースも少なくありません。

別居する

お酒を飲んだ相手から、なぐられたり蹴られたり、物を投げつけられたりして、命の危険があるとき、アルコール依存症を理由に離婚を求めるのはもちろんですが、まずは早急に別居するのがおすすめです。

DV・モラハラのケースでは、「話し合って、離婚の同意がとれてから別居しよう」と考えていると、相手が話を聞いてくれず、心身の疲労がますますたまり、限界になってしまうおそれがあります。

早めに別居しておけば、アルコール依存症の相手でも、冷静になって考え直してくれることもあります。そうでなくても、できるだけ長期の別居実績を積み重ねておくことで「長期間の別居」を理由に離婚を認めてもらいやすくなります。

訴訟で離婚する

協議、調停で解決できないときは、離婚訴訟を起こす必要があります。離婚訴訟では、民法に定められている「法定離婚原因」(民法770条1項)があるときに限って、離婚を認めてもらうことができます。

民法に定められた「法定離婚原因」は次のとおりです。

民法770条1項

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

民法(e-Gov法令検索)

この法定離婚原因の中に「アルコール依存症」と明確に定められてはいません。

しかし、家族に重大な影響を与えるようなアルコール依存症は、「悪意の遺棄」「強度の精神病」「その他婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるとされ、離婚ができます。どんなケースで離婚が可能かについては、次章で解説します。

アルコール依存症で離婚できるケース

喧嘩する男女

次に、「相手のアルコール依存症を理由に、離婚できるか」について、具体的なケースごとに解説していきます。

アルコール依存症を理由として離婚ができるケースは、大きく分けて次の5つです。

相手が離婚に同意するとき

相手が離婚に同意するときには、離婚協議、離婚調停、離婚訴訟のどのタイミングであっても、離婚することができます。離婚は、夫婦の合意で成立するのが原則だからです。

そのため、アルコール依存症を理由に離婚を思い立ったときには、まずは相手と話し合いをするのが重要です。アルコール依存症がまだそれほど進行していなければ、「迷惑をかけた」という罪悪感から、すんなりと離婚に応じてくれるケースも少なくありません。

相手が離婚に同意するときは、あわせて、子どもの親権・監護権、養育費、面会交流、財産分与といった条件についても決め、離婚協議書を作成しておきます。

日常的に暴力を振るわれたとき

相手が、お酒を飲んでDVや重度のモラハラをくり返すときは、「婚姻関係を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)があるとされ、家庭裁判所でも離婚が認められるケースがあります。

このようなとき、DV・モラハラの被害にあったと裁判所に理解してもらうためにも、次のような証拠を収集しておくのがおすすめです。

  • 相手が暴力を振るったときの録音・録画
  • 暴力を振るった際に飲んでいたお酒の写真など
  • 診断書・カルテ
  • 暴力を受けたときのキズの写真

ただし、暴力・暴言などにより危険が迫っているときは、DV・モラハラの証拠が十分に収集できていなかったとしても、なにはともあれ別居を優先すべきです。

「悪意の遺棄」にあたるとき

夫婦には、相互扶助義務があるため、アルコール依存症となり、お酒ばかり飲んで仕事をしない、家事をしない、家庭をかえりみないというときは、この義務に違反して「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)という離婚原因にあたります。

そのため、このようなひどい状況にあるときには、裁判所でも離婚を認めてもらうことができます。

裁判例(東京地裁平成16年2月2日判決)にも次のように、「悪意の遺棄」にあたるとして離婚請求を認めた例があります。

被告は嫉妬深くて酒癖が悪く、酒を飲んでは暴れることを繰り返していたが、平成14年6月16日、原告が暴力を振るうなら出て行って欲しいと訴えたところ自宅に戻らなくなり、生活費を全く入れなくなった。そのため、原告はパートに出て収入を得てはいるものの、生活保護によって原告及び子供らの生活を支えることを余儀なくされている。

3 前項(2)の事実は民法770条1項2号(悪意の遺棄)の離婚原因に該当するというべきであるから、原告の本訴離婚請求には正当な理由がある。

東京地裁平成16年2月2日判決

「強度の精神病」にあたるとき

アルコール依存症が、「強度の精神病」(民法770条1項4号)という離婚原因にあたり、離婚が認められるケースがあります。

「強度の精神病」といえるためには、単に病気という程度を超えて、回復が困難といえる必要があります。それほどにはひどくなく、回復が十分可能なのにこちらから見捨ててしまうと、逆に「悪意の遺棄」だと反論を受けるおそれがあります。

まずは医師の診断を受けてもらうことが重要です。あわせて、アルコール依存症は精神障害保健福祉手帳の交付対象ともなっているため、手帳の交付を受けることが、重度のアルコール依存症にかかっていることを証明するのに役立ちます(ただし、初めて治療を受けた日から6ヶ月を経過しないと申請できないため、まずは医療機関に相談するようにしてください)。

長期間の別居があるとき

アルコール依存症が発覚したことから別居をスタートし、別居期間が長期間となっているときには、そのこと自体が「婚姻関係を継続し難い重大な事由」(民法770条1項)とされて離婚を認めてもらえるケースがあります。

特に、あなたの側にも不貞行為をしたなどの責任があるとき、「有責配偶者」(破綻について責任のある配偶者)となるため、離婚するためには、少なくとも8〜10年以上の別居期間を必要とするのが、裁判例の実務です。

アルコール依存症で離婚する時の注意

本

最後に、アルコール依存症を理由とした夫婦間の問題を解決するとき、注意しておいていただきたいポイントについて弁護士が解説します。

子どもの親権を勝ちとるには

アルコール依存症は、子どもの健全な発育にとって悪影響です。親が家でお酒ばかり飲んでいるのを見て育つことが、子どもによいわけがありません。アルコール依存症になった相手は、精神的にとても不安定になります。お酒ばかり飲んでいる人には、もはや子育ては任せられないと感じることでしょう。

夫側、妻側のいずれでも、相手がアルコール依存症になってしまったとき、「ぜひとも自分が親権・監護権を勝ちとりたい」というご相談が多く寄せられています。

子どもの親権・監護権を、アルコール依存症の相手に渡さないためには、「そのアルコール依存症の程度がどのように育児に悪影響があるか」を、わかりやすく裁判所に伝えるため、証拠を準備しておかなければなりません。

  • 相手が子どもの前で泥酔しているところの写真・動画
  • お酒を飲んで子どもを虐待したところの写真・動画
  • 子どものケガの写真、診断書、カルテなど
  • 保育士、教師など第三者の証言

子どもに悪影響があるようなアルコール依存症のケースは非常事態であり、すみやかに対応が必要となります。次の注意点もぜひ参考にしてください。

慰謝料請求するときの注意点

配偶者のアルコール依存症により、心身を傷つけられたとき、離婚をするとともに慰謝料請求を検討することがあります。

アルコール依存症によって暴力を振るわれてケガを負わされたり、日常的な暴言・罵倒により精神的苦痛を受けたりしたとき、不法行為(民法709条)として損害賠償請求をすることができます。

飲酒を理由として、配偶者に対する慰謝料請求を認めた裁判例には、次のようなものがあります。

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裁判例慰謝料額事案
東京地裁平成28年6月30日判決300万円離婚前、数年間はほぼ毎晩飲酒し、顔を殴打するなどした。
東京地裁平成16年2月2日判決100万円暴力、わがまま、飲酒やパチンコによる浪費癖、精神障害のある子どもの養育への無理解など。
東京地裁平成16年1月15日判決300万円仕事をしなくなり、朝から飲酒、競馬。飲酒の上、暴力をふるい、ぶつを投げつける。育児には無関心で、病気になっても看病をしない。

これらの裁判例から理解できるように、より高額の慰謝料請求を認めた事案には、単なるアルコール依存症というだけでなく、暴力、暴言、浪費、育児への悪影響など、さまざまな被害が認定されています。

そのため、より高額の慰謝料を認めてもらうためには、DV・モラハラを受けたことの証拠を収集することが重要です。

なお、アルコール依存症が悪化してしまったとき、仕事をしていなかったり貯金もなくなっていたりなど、実際には慰謝料をもらうことが困難なことがあります。このようなときには、財産分与を多くもらうといった方法で調整してもらうこともできます。

義両親に伝えても改善しないおそれ

相手のアルコール依存症がひどいとき、義両親に伝えれば注意してくれるのではないか、と考える方も多いです。「酔っ払ってしまい、保育園への送迎をしない」、「酔って子どもの前で醜態をさらす」など子どもに悪影響が出ると、義両親にとっては孫の問題ですから、強く注意してくれるのではと期待してしまいます。

しかし、配偶者が、アルコール依存症を患ってしまった原因が、幼少期の家庭環境にあるようなケースも少なくありません。そのため、義両親が味方になってくれるとは限りません。

ただでさえ、離婚の話し合いでは、義両親は配偶者(パートナー)の味方となるのがほとんどで、あなたの肩を持ってくれることはありません。両親・義両親などの第三者を離婚の話し合いに同席すべきでない理由は、次の解説もご覧ください。

逆に悪意の遺棄といわれないよう注意

アルコール依存症を理由に「悪意の遺棄」と主張できるケースがあると解説しました。しかし、逆に、アルコール依存症によって生活がまともにできない相手(パートナー)を、そのまま放っておいて離婚してしまうとき、あなたのほうが「悪意の遺棄」だといわれてしまうおそれがあります。

離婚によって相手の生活が立ち行かなくなり、あなたが「悪意の遺棄」といわれてしまわないために、相手の離婚後の生活にも配慮が必要です。次のような方法をとることが、円滑に離婚を進めるために有効です。

  • 離婚後もしばらくは生活費を負担する
  • 離婚時に扶養的財産分与を支払う
  • 生活保護を受給してもらう

復縁を望むときの注意点

夫(または妻)のアルコール依存症が明らかになった後も、夫婦生活を続けたいとあなたが考えるとき、一緒に乗り越える努力をしなければなりません。重度のアルコール依存症に陥った相手は、医師の診断すら拒否するおそれがあります。

アルコール依存症を克服するため、アルコール依存症を専門とする医療機関を受診したり、自助グループへ参加したりといった方法を、相手と話し合いながら一緒に考えていくようにしてください。

ただし、アルコール依存症を克服することは相当困難な道ですから、情で解決できるような問題ではありません。離婚せず付き合っていく覚悟があるのか、慎重に検討してください。

まとめ

今回は、アルコール依存症を理由に離婚を検討している方に向けて、アルコール依存症が離婚原因となるかどうか、ケースごとの注意点などを解説しました。

アルコール依存症は、家族に重大な被害を与えますが、これまで夫婦として力を合わせてやってきたのですから、一緒に乗り越えていくのか、離婚するのか、慎重に検討する方が多いでしょう。いざ離婚となってしまったときに備えて、証拠収集の準備をかならずしておくようにしてください。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題に注力し、得意分野としています。

アルコール依存症になってしまった配偶者との離婚問題にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

離婚問題のよくある質問

アルコール依存症を理由に離婚できますか?

アルコール依存症を理由に離婚したいとき、相手の同意が得られればすぐに離婚できますが、相手が離婚を拒否するときには、離婚するためにはそのアルコール依存症が強度であり、離婚してもしかたないものだと裁判所に証明できなければ離婚できません。詳しくは「アルコール依存症で離婚できるケース」をご覧ください。

相手のアルコール依存症で離婚するとき、親権はもらえますか?

配偶者がアルコール依存症になってしまうと育児に悪影響であり、子どものためにも、離婚時には親権を勝ちとりたいことでしょう。親権は、子どもの福祉の観点から判断されるため、親権を得るためには、相手のアルコール依存症が子どもに悪影響なことを立証するのが大切なポイントです。詳しくは「子どもの親権を勝ちとるには」をご覧ください。

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