
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。
精神疾患の配偶者との結婚生活に限界を感じ、離婚を決断する人は少なくありません。
しかし、夫婦には法律上の協力扶助義務があるため、精神疾患だというだけで離婚は認められません。一方、症状が重度で、夫婦関係が破綻している場合などは、離婚が認められるケースもあります。当事務所にも次のような相談がよく寄せられます。
配偶者が精神疾患を抱えるケースでは、本人の判断能力や治療経過、子供の監護や離婚後の生活への影響など、通常の離婚以上に配慮を要します。また、2026年4月施行の民法改正により、従来の「強度の精神病」に関する規定は削除されました。
今回は、精神疾患の配偶者と離婚できるケース・できないケースを整理し、離婚する方法と注意点、民法改正を踏まえた対応について、弁護士が解説します。
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/

はじめに、精神疾患を理由に離婚することができるかについて解説します。
突然攻撃的になったり、感情が不安定で涙を流したり、予想外の異常行動が目立ったりするなど、精神疾患を疑うことがあります。しかし、夫婦は互いに協力扶助義務を負うため、精神疾患を発症したというだけで離婚できるわけではありません。
離婚が可能なのは、例えば次のケースです。
相手が離婚に同意している場合、理由を問わず離婚を成立させることができます。
この場合、話し合いで合意し、離婚届を提出することで協議離婚が成立します。また、離婚調停で調整した結果として調停離婚が成立することもあります。ただし、重度の精神疾患により正常な判断ができない場合、話し合いは難航しがちです。病気により経済的な自立が困難だと、将来の生活不安を理由に離婚を拒否されるケースもあります。
一方的に有利な条件で離婚を成立させると、離婚意思がない、あるいは「錯誤」(民法95条)があったことを理由に離婚の取消しを主張されるおそれもあります。トラブルを避けるには、精神疾患になった配偶者の生活を保障する内容で、離婚協議書を作成するのが有効です。
「離婚協議書の書き方」の解説

相手が離婚に同意しない場合、協議・調停では解決せず、離婚裁判(離婚訴訟)に進みます。裁判離婚を成立させるには、民法770条1項に定められた「法定離婚事由」が必要となります。
改正前の民法770条1項4号では「強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」を離婚事由と定めていました。この「強度の精神病」には統合失調症や躁うつ病、認知症などが含まれ、夫婦の協力扶助義務を十分に果たせない程度の精神障害を指すと解されていました。また、「回復の見込みがない」とは、精神医学的な観点から、夫婦間の協力義務を果たせる程度にまで回復する可能性がないこと(不治)を意味するとされていました。
そのため、症状が軽度であったり、治療により回復が見込めたりする場合、離婚は認められません。裁判所では、医師による鑑定結果などを踏まえて判断することとなります。

弱ったときこそ夫婦は助け合うべきであり、疾患にかかった配偶者が、支援を受けられないまま離婚されて窮地に陥ることを避けるため、裁判例でも厳しく判断される傾向にあります。
裁判で離婚が認められる条件(法定離婚事由)として、従来は「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」が定められていましたが、2026年4月施行の民法改正により削除されました。ただ、この規定が削除されても、精神疾患の配偶者と離婚できないわけではありません。
改正後は、相手の精神病によって正常な夫婦生活が破綻した場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断されれば、これまで通り裁判で離婚が認められます。
では、どのような場合に、精神疾患による離婚が認められるのでしょうか。
最高裁判例は、「病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じ、ある程度において、前途にその方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない」と判断しており、今後の療養や生活の見通しが確保されることが必要であるとされています(最高裁昭和33年7月25日判決)。
これは法改正前の「強度の精神病」の規定に関する判断ですが、法改正後は「婚姻を継続し難い重大な事由」の一部として、病状の程度、別居期間、介護の状況、離婚後の病者の保護体制などが総合考慮されることとなり、基準は大きくは変わらないと考えられます。
離婚の理由となる精神疾患は、重度のものでなければなりません。一時的な心身の不調では、裁判で離婚することはできません。精神疾患の重さや回復可能性については、医師による医学的な判断が尊重されます。よく問題となる疾患には、統合失調症、躁うつ病、認知症などがあります。
実務上、病者の離婚後の療養や生活について具体的な方途が講じられ、将来の見通しが立っていることが条件とされます。離婚によって一方が困窮する状況では認容されません。これには、生活費や療養費の負担、配偶者に代わる保護者の存在、療養先の確保といったものが含まれます。
例えば、介護保険サービスや生活保護などを活用して離婚後の生活が送れる場合や、配偶者が離婚後も経済的な援助を表明している場合、離婚が認められる傾向にあります。逆に、治療を実家に任せきりにし、扶養の負担を拒否しているケースでは、離婚は認められません。
離婚後の生活が立ち行かなくなると、裁判所は離婚を認めないおそれがあるため、「見捨てた」と評価されないためにも次のような計画を示すことが離婚成立のポイントとなります。
「離婚に伴うお金の問題」の解説


次に、精神疾患を理由とした離婚の事前準備について解説します。
前述の通り、精神疾患を理由に裁判離婚が認められるかどうかについては厳格に判断されます。そのため、事前準備をしっかりと行うことが重要です。
配偶者の精神疾患を支える家族にとって、看病や経済的な負担は非常に大きなものです。
献身的にサポートを続けても、自身の精神的・肉体的な負担が限界に達し、共倒れになるリスクがある場合は、離婚を決断すべきタイミングといえます。また、うつ病などの症状による感情の起伏や攻撃性が、子供に悪影響を与える場合にも注意が必要です。子供の様子に異変が見られるなど、健全な成育環境が脅かされていると感じた際は、離婚に向けた準備を検討すべきです。
心身の弱った配偶者を必要以上に刺激しないことが大切です。
日本では、離婚の多くは話し合いによる「協議離婚」で成立しています。きっかけは精神疾患でも、相手の同意が得られれば理由を問わず離婚できます。必要以上に刺激し、感情的に対立が深まると、話し合いで離婚に同意してもらうことが難しくなってしまいます。
「協議離婚の進め方」の解説

精神疾患を理由とする離婚では、医学的な判断が不可欠となります。
そのため、精神疾患を疑わせる症状があるとき、早い段階で医師の診療を受けさせることが重要です。夫婦関係が悪化する前なら、病院へ付き添う対応も有効です。離婚協議が始まり、夫婦関係が悪化すると、医師の診療に応じてもらうことが難しくなるケースも少なくありません。
相手が症状を軽視しているうちに悪化してしまうケースもあります。関係が悪化すると、その病気の原因は夫婦間のストレスにあると主張されることもあります。
精神疾患になった夫や妻との婚姻関係を続けるなら、一緒に乗り越える必要があります。
この場合、適切な治療を受けることはもちろん、夫婦間のストレス、自身の不倫・浮気、DV・モラハラなどが原因であると指摘されたときは、それらの問題を改善しなければなりません。不用意な行動は関係をさらに悪化させ、離婚を早めるおそれがあります。
復縁を目指す際には、自身も精神科や心療内科に通ったり、夫婦でカウンセリングを受けたりといった方法が有効です。
最後に、精神疾患を理由に離婚を進めるときの注意点を解説します。
妻の精神疾患を理由に離婚するケースでは、子供の親権が争いになることが多いです。
一般に、母親側が親権を取得するケースが多く、子供が幼いときは特に、「母性優先の原則」がはたらきます。このことは、妻が精神疾患であっても当てはまります。精神疾患を発症していても、育児ができる状態であれば、親権の判断には影響しないのが原則だからです。
ただし、重度の精神疾患によって育児が困難な状態であったり、精神疾患が原因となって子供を虐待していたりするときは、親権者として不適格であると判断されます。
「父親が親権を取る方法」の解説

精神疾患だけでは必ずしも法定離婚事由に該当しない場合でも、その他の事情も合わせて「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断されることがあります。長期の別居がその典型例であるため、離婚を希望するのであれば、早い段階で別居に踏み切るべきケースが多いです。
ただし、相手が精神疾患で生活が困難な状態に陥っているのに別居することは、「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)と判断されるリスクがあります。この場合、婚姻関係を破綻させた「有責配偶者」とされ、離婚請求が認められにくくなってしまいます。
「離婚前の別居の注意点」の解説

精神疾患や認知症が重度だと、意思能力がないと判断されるおそれがあります。
この場合、離婚手続きを自身で進めることができないため、特別な対応が必要となります。具体的には、成年後見開始の手続きを取り、成年後見人を被告として訴訟を提起する必要があります。自身が相手方の成年後見人となっている場合は、成年後見監督人の選任が必要です。
配偶者の精神疾患があなたの行動による場合、離婚請求を認めてもらうのは非常に困難です。例えば、不倫発覚やDV・モラハラが原因となっているケースです。この場合、婚姻関係を破綻させる原因となった「有責配偶者」からの離婚請求は、信義則上、認められないのが原則となります。

特に、相手が精神疾患になり、離婚後の生活基盤が整っていないほど、その主張の身勝手さが際立ちます。そのため、責任が自分にあるときは、より一層献身的に介護を行い、それでもなお回復が難しく夫婦生活を続けていけないことを裁判所に理解してもらう必要があります。
「有責配偶者は地獄?」の解説

精神疾患になったこと自体を理由に、相手に慰謝料を請求することは原則としてできません。病気にかかることは個人の責任ではなく、不法行為に該当しないからです。
一方で、配偶者の悪質なDVやモラハラが原因でうつ病などの精神疾患を発症した場合は相手の行為が不法行為にあたるため、慰謝料を請求できる可能性があります。慰謝料を請求したい場合は、医師の診断書や、暴言・暴力の記録などの客観的な証拠を集めておくことが重要です。

今回は、精神疾患を理由として離婚できるかどうかについて解説しました。
精神疾患を理由とする離婚は、認められる可能性はあるものの、病気になった配偶者の保護が重視され、回復の可能性や離婚後の生活保障が十分でなければ認められない可能性があります。
精神疾患を理由とする裁判離婚は、従来、「強度の精神病」に関する規定を根拠に、病状が重く、夫婦間の協力義務を遂行できない程度の障害が必要とされてきました。また、裁判実務では、離婚後の療養や生活について具体的な目処が立たない限り、安易な離婚は認められないとされてきました。この基準は、2026年4月施行の改正民法のもと、「強度の精神病」の規定が削除された後も、「婚姻を継続し難い重大な事由」の中で判断されます。
配偶者に精神疾患を疑わせる症状があるときは、通常以上に離婚協議の進め方に注意を要します。精神疾患を理由に離婚しようと考えている方は、ぜひ弁護士に相談してください。
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/