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配偶者(パートナー)の精神疾患を理由に離婚するときの注意点

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

精神疾患を理由に離婚するときの注意点

配偶者が精神疾患にかかってしまったとき、夫婦として支え合うことが難しく、離婚を決断せざるを得ないことがあります。一生懸命治療に専念したとしても気持ちが折れてしまうことも少なくありません。

しかし、夫婦は相互に扶助する義務を負っており、一方が精神疾患になったというだけで必ずしも離婚できるわけではありません。

よく離婚の原因となり得る精神疾患には、うつ病、統合失調症、認知症などの種類がありますが、その症状や程度、理由などによっても離婚できるかどうかは異なります。夫(または妻)のDV・モラハラを理由とするうつ病といった夫婦関係を原因とするものから、ブラック企業の長時間労働による適応障害のように夫婦間の問題以外のものもあります。

今回の解説では、

  • 精神疾患を理由に離婚できるか
  • 精神疾患で離婚が認められるかどうかの判断基準
  • 精神疾患を理由に離婚するときの事前準備と注意点

といった、配偶者が精神病にかかって限界を感じている方に向けた離婚の法律知識を、弁護士が解説します。

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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精神疾患を理由に離婚できるか

精神疾患を理由に離婚するときの注意点

夫(または妻)が突然攻撃的になったり、感情的になって泣いてしまったり、予想もしない異常行動が目立つときなど、精神疾患にかかったのではないかと疑うことがあります。

しかし、夫婦には助け合う義務があることから、相手が精神疾患にかかったからといってすぐに離婚できるわけではありません。そこで、はじめに「精神疾患を理由に離婚できるか」という点について弁護士が解説します。

相手が離婚に同意する場合

夫(または妻)の同意があれば、精神疾患にかかっているときでも離婚できます。協議離婚、調停離婚の場合、合意が成立すれば離婚することができます。

しかし、重い精神疾患にかかった配偶者には、正常な判断が困難なことがあり、症状がひどい時はまともに離婚協議ができない例があります。精神疾患にかかって仕事ができないとき、離婚すると生活ができないことから離婚を拒絶する例もあります。

このようなとき、あなたにとって一方的に有利な離婚条件で離婚すると、後からその判断には誤りがあったとして「錯誤」(民法95条)を理由に離婚は無効だと争われるおそれもあります。トラブルを避けるためには、精神疾患にかかった配偶者が将来の生活に困らないように一定の保障を約束し、そのことを離婚協議書に記載しておく方法が有効です。

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相手が離婚に同意しない場合

相手が離婚の話し合いに同意しないとき、離婚協議・離婚調停・離婚訴訟の順で離婚に向けた争いが進みます。離婚訴訟では、「法定離婚原因」(民法770条1項)があれば、相手が離婚を拒絶していたとしても裁判で離婚することができます。

民法770条1項

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

精神疾患が疑われる状況で離婚を求めるとき、法定離婚原因のうち「強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(民法770条1項4号)に該当するかを検討します。「強度の精神病」で「回復の見込みがない」ときにはじめて、裁判で離婚を認めてもらうことができ、精神病が軽度だったり、早期に回復の見込みがあったりするときは離婚できません。

ただし、この要件は裁判例ではかなり厳格に判断されています。精神疾患のように弱ったときこそ夫婦が助け合うべきで、離婚して生活面・経済面の支援を得られないと残された配偶者が窮地に陥るからです。そのため裁判所では、法定離婚原因にあたる精神病は相当強度のものに限られると考えられています。

最高裁判例では、次のように述べ、相手が精神疾患にかかってもすぐに離婚することはできず、離婚後の相手の生活が困らないよう配慮しなければ離婚は認められないことを示しています(最高裁昭和33年7月25日判決)。

最高裁昭和33年7月25日判決

諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない。

措置入院させることができるか

措置入院とは、精神疾患にかかった人に入院を強制する行政の制度で(精神保健福祉法29条)、本人の医師にかかわらず入院させることとなります。

配偶者(パートナー)の精神疾患が相当重度なときには、措置入院の対象となることがあります。このようなとき、本人の同意がなくても医師の診療を受けさせることができます。

ただ、措置入院の対象となる精神疾患は、その病状からして自傷・他害のおそれが強いものに限られます。そのため、夫(または妻)が精神疾患にかかって現に自殺しようとしたとか、子を虐待したといった現実的な危険がないと、措置入院とはなりません。そのため、精神疾患と離婚の問題で、措置入院の制度で解決できるのはごく例外的なケースに限られます。

精神疾患で離婚が認められるかどうかの判断基準

以上のことから、精神疾患で離婚が認められるためには、精神病の程度が強度で、かつ、回復の見込みがないことが必要です。精神疾患がこのような重度のものとなっているかどうかは、次の基準で判断されます。

医師の見解

まず、精神疾患の内容や程度の判断では、医学的な判断が尊重されます。そのため、相手のかかった精神疾患が、裁判で離婚が認められるほど「強度」で「回復の見込みがない」かどうかを判断するには、まずは医師(主治医など)の見解を聞いて検討する必要があります。

民法にいう「精神病」の中には、医学的には様々な病気が含まれることとなりますが、特に離婚のきっかけとなりやすいものには次のものがあります。

  • 統合失調症
  • うつ病・うつ状態
  • 適応障害
  • 認知症(アルツハイマーなど)

これらの病気について、医学的な見地からみて回復が困難であるといえる程度に達していることが、法定離婚原因(民法770条1項)があるとして裁判で離婚が認められるために必要となります。必ずしも入院しているからといって直ちに離婚できるわけではありません。

なお、類似する例としてアルコール依存症や薬物中毒を理由とした離婚は、「強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(民法770条1項4号)でなく「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(同5号)にあたる可能性のある事情です。

夫婦関係に与える影響の大きさ

精神疾患が、法定離婚原因(民法770条1項)と認められる程度に「強度」かつ「回復の見込みがない」とされるためには、夫婦関係を破綻させるほどの程度である必要があります。

裁判所でも、夫婦の精神的繋がりが残っており、協力して乗り越えていこうという気持ちが残っているときは、医学的に相当重度な精神病であっても法定離婚原因にはあたらないと判断しています。

この点で、夫婦のいずれか一方(特に精神疾患にり患してしまった側)が結婚生活を継続する意思が強いときや、実際に協力して乗り越えようとしている最中のときなどには、まだ支え合ってやり直せると判断されやすく、裁判で離婚を認めてもらうのが難しい傾向にあります。

従前の経過

離婚を認めてもらえるほどの強度かつ回復の見込みのない精神疾患であるというために、従前の経過も重要な判断要素となります。

これまでにどの程度症状が継続していたか、治療をしていたか、配偶者や家族が治療にどれほど協力したかといった事情により、離婚を認めてもよい状況といえるかどうかが変わるからです。十分に世話をし、看病して治療を継続してきたけど、長期間にわたって精神疾患が回復せず、これ以上は限界だという段階に至って初めて、裁判で離婚することができるわけです。

そのため、精神疾患による離婚を決めたときでも、まずは本人にきちんと医師の診療を受けてもらい、治る可能性がないかどうか努力を尽くさなければ離婚は認められません。

離婚後の展望

精神疾患を理由に離婚されてしまった配偶者の、その後の生活が立ち行かなくなってしまうおそれのある場合には、裁判所は離婚を認めてくれません。

そのため、精神疾患で離婚するのは仕方ないとしても、「見捨てる」のではなく、離婚後の生活基盤に配慮し、計画的に支えていく意思を見せなければ、離婚裁判に勝つことは難しいです。

精神疾患による離婚を認めてもらうため、離婚後の展望として準備すべきことは次のような内容です。

  • 離婚後も一定額の生活費を定期的に支払う
  • 精神疾患を治療するための施設に入居させる
  • 相手の実家と話し合い、実家で療養できるように手配する
  • 行政の支援制度を調べ、受けられるサポートの手続きをする

精神疾患を理由として、できるだけ早く離婚したいときには、特に「離婚とお金」の問題に関する離婚条件についてある程度譲歩をして、相手が離婚後の生活に困らないようにするという配慮を見せることが効果的です。

精神疾患で離婚するための事前準備

精神疾患を理由に離婚するときの注意点

精神疾患を理由に裁判で離婚を認めてもらうためには「強度の精神病で回復の見込みがないとき」(民法770条1項4号)に該当することが必要で、その判断は裁判所では厳格にされていると解説しました。

これらのことから、精神疾患を理由に離婚を認めてもらうために、事前に行っておきたい準備についても理解しておく必要があります。

必要以上に刺激しない

夫(または妻)精神疾患にかかったときでも、判断能力に問題なければ、相手の同意を得ることによって協議離婚を成立させることができます。必要以上に刺激してしまい、感情的な対立を大きくしてしまうと、精神疾患が悪化し、離婚が更に難しくなってしまうおそれがあります。

そのため、離婚協議の序盤から必要以上に刺激することは避けたほうがよいです。特に、軽度の精神疾患で、配偶者の自覚がないとき、強く指摘をすると話し合いがうまく進まなくなってしまうおそれがあります。

医師の診療を受けてもらう

精神疾患を理由とした夫婦問題の解決には、医学的な判断が不可欠です。そのため、精神疾患が疑われるときは医師の診療を受けてもらうことが大切です。まだ破綻前であれば、病院に付きそう方法も有効です。

離婚協議を開始した後は夫婦間の意見が対立してしまい、あなたの勧めにしたがって医師の診療を受けてもらうことが難しいことが多いです。精神疾患が軽度だったり、相手のほうではストレスの原因があなただと考えていたりするとき、医師の診療を勧めても拒否されてしまうこともあります。

そのため、精神疾患が疑われるとき、早めに病院にいくよう勧めておく必要があります。

夫婦関係が悪化するより前から医師の診療を受けてもらうことは、精神疾患が強度で長期間続いていることを示すのにも役立ちます。加えて「精神疾患の原因が夫婦間のストレスにあった」と主張されづらくする効果もあります。

復縁を目指すときの対応

精神疾患にかかった夫(または妻)との夫婦生活を続けようとするとき、一緒に病気を乗り越える必要があります。

医師の診療を受け、医学的な観点から治療を行うことは当然ですが、夫婦間のストレスやあなたの不倫・浮気、DV・モラハラが原因だと主張されているときは、その原因を特定し、あなたの行動を改善しなければなりません。不用意な行動は、離婚を早めてしまうおそれがあります。

復縁を目指すときは、自分も精神科や心療内科を受診したり、夫婦で一緒にカウンセリングを受けに行ったりといった方法が役立ちます。

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精神疾患で離婚するときの注意点

最後に、精神疾患で離婚するとき注意しておくべき点について解説します。

妻の精神疾患と子どもの問題

妻が精神疾患にかかり、これを理由に離婚を検討しているとき、心配なのは子供の問題ではないでしょうか。

子どもの親権は、一般的に母親側(女性側/妻側)に有利(母親側)に有利とされています。特に子どもが幼いうちは「母性優先の原則」が強く働き、父親側(男性側/夫側)で親権をとることは非常に困難です。

妻が精神疾患にかかっているときも、育児が可能なのであれば親権の判断には影響しないのが原則です。しかし、強度の精神疾患で育児が困難なときや、病気が理由でDVや虐待などが行われたときは、父親側の親権が認められる可能性があります。

参考解説

別居するときの注意点

「強度の精神病で回復の見込みがないとき」(民法770条1項4号)の法定離婚原因にあたるほどの病気ではないケースでも、別居期間が長期であれば、夫婦関係は破綻しているとして「その他婚姻を継続し難い重大な事由」と評価してもらえる可能性があります。

そのため、早期に別居することが、離婚への近道となることがあります。

ただ、相手が精神疾患で、自分で生活することが困難な状況に陥ってしまった後で別居することは、「悪意の遺棄」(同項2号)としてあなた側に離婚原因があるという反論を受けてしまう危険もあります。もし離婚に向けた別居を検討しているときは、精神疾患が軽度なうちにしなければなりません。

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自分で離婚手続をする判断能力がないときの対応

相手の精神疾患が強度なとき、自分で離婚手続を進めるだけの判断能力がないことがあります。うつ病が悪化すると、無気力で自分では何もできない状態の人もいます。

離婚のような家族の問題は、本人の気持ちを尊重して決めるべきですが、強度の精神病によって判断能力を失っているときには、成年後見の申立てを行い、後見人を選任してもらい、後見人を相手に離婚訴訟を起こすことが必要です(人事訴訟法14条1項)。このとき、後に離婚を考えているときは、夫婦といえども自分が後見人となることはできません。

なお、すでに夫婦間で自分が成年後見人に選任されているときには、成年後見監督人を相手方として離婚訴訟を提起します(人事訴訟法14条2項)。

精神疾患の責任が自分にあるときの対応は

相手の精神疾患の責任があなたにあるとき、離婚は相当困難です。例えば次のような例です。

  • あなたの不倫発覚をきっかけに精神病になったケース
  • あなたに重大なDV・モラハラがある事例

有責配偶者(夫婦の破綻について責任ある配偶者)からの離婚請求は裁判では認められづらいです。自分で離婚原因を作っておきながら離婚を求めるのは身勝手だという理由です。

このことは、相手が精神疾患にかかり、離婚後の生活基盤が整っていないほど、その身勝手さはより際立ちます。そのため、精神疾患の責任があなたにあるときは、より一層献身的に介護を行い、それでもなお回復が難しく夫婦関係をこれ以上続けていけない状態にあることを裁判所に理解してもらわなければなりません。

離婚問題は浅野総合法律事務所にお任せください!

精神疾患を理由に離婚するときの注意点

今回は、夫(または妻)が精神疾患にかかってしまったときの離婚問題について弁護士が解説しました。

配偶者の精神疾患を疑わせる症状があるとき、通常の場合にも増して、離婚協議の進め方には注意しなければなりません。なるべく刺激せず、精神科・心療内科の診療やカウンセリングを受けるなどの治療を勧めるようにしてください。

精神疾患を理由に離婚しようとするとき、相手が拒否しても離婚できるかどうかは、その精神疾患の症状の内容、程度、回復の見込みなどによって異なります。離婚問題に発展していると、夫婦が協力して治療を進めることも困難です。また、夫婦間のストレスが精神疾患の原因となっていることもあります。

精神疾患を理由とした離婚をはじめ、離婚問題にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

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