「家庭内別居が長期間続いていますが、離婚を認めてもらうことはできますか」という法律相談を受けることがあります。しかし、この質問は、家庭内別居についての認識が誤っているといわざるをえません。
家庭裁判所の実務では、家庭内別居は、実際に別居をしているケースに比べて、とても軽視されています。家庭内別居の期間がかなり長く、夫婦間では「すでに破綻している」と思っていても、実際に別居をしていないかぎり「夫婦関係が破綻している」とは到底認めてもらえないケースも多いです。
とはいえ一方で、子どもの養育環境の問題、生活費などの経済的な問題、世間体や仕事の都合といったさまざまな事情で、家庭内別居をつづけざるをえない方がいるのも事実です。
今回は、家庭内別居のままでも、できるだけ早く離婚する方法と、離婚までにかかる期間、注意点について、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。
- 家庭内別居だけでは法定離婚原因とは認めてもらえないおそれがある
- 家庭内別居のままで離婚を進めるときは、同居中の証拠収集を怠らない
- 家庭内別居中に、不倫・浮気が発覚したとき、慰謝料請求が問題になる
なお、離婚前に別居するとき知っておきたい注意点は、次のまとめ解説をご覧ください。
家庭内別居とは
家庭内別居は、すでに夫婦関係が破綻しているにもかかわらず、同居を続ける夫婦のことです。法律上の明確な定義はありませんが、次のような状態にあてはまるような冷めきった家庭は、家庭内別居だといってよいでしょう。
- 寝室が別
- 長期間、性交渉がない
- 食事が別
- 家事(風呂・洗濯など)もそれぞれ別に行う
- 1日に1度も顔を合わせない
- 顔を合わせても言葉を交わさず無視する
- 顔を合わせるとストレスを感じる、同じ空気を吸うのも嫌だ
今回解説するとおり、家庭内別居は、少なくとも「離婚を求める」という方針においては利点がなく、ただちに解消して別居をスタートさせるべきです。
夫婦関係が劣悪なまま同じ家に住み続けることは、夫婦いずれにとってもストレスとなることはもちろん、子どもの健全な発育にも悪影響を与えます。
本人間では家庭内別居を「もはや破綻している」と考えていても、法的な判断は違います。家庭裁判所の行う「破綻」の判断基準からすれば、夫婦が同居しているかぎりは「まだやり直せる可能性は十分にある」と評価されてしまい、法律上の「破綻」ではないと判断される可能性が高いです。
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家庭内別居のメリット
家庭内別居を選択する夫婦が多くいる理由は、家庭内別居にもメリットがあるからです。家庭内別居のメリットは、手間と費用がかからず、現状を変える必要がないことです。
家庭内別居であれば、生活費や家賃・光熱費が少なくて済み(もしくは、相手方が負担してくれ)、家事の手間も少なくて済みます。子どもの養育環境を変える必要もありません。世間体や職場のことについても気にする必要がありません。
家庭内別居のデメリット
これに対して、家庭内別居を続けることのデメリットは、本解説で説明するとおり、離婚に向けた進みが遅くなってしまうことです。離婚への決意が固いのであれば、覚悟をもって同居を打ち切って、別居を開始するべきです。
無理と我慢を重ねることによりストレスが増しますので、子どもの養育環境にも悪影響です。「子どもには不仲なことはバレていない」と思っていても、意外と空気で察するものです。
離婚を決断しているのであれば、早期に別居を開始することにまったくデメリットはなく、むしろ離婚にとって有利にはたらきます。相手から別居を拒絶されているなど、外的要因によって別居を遅らせてしまっている方は、下記の解説もあわせてお読みください。
家庭内別居でも離婚できる?
離婚を決意しているにもかかわらず家庭内別居を続けている夫婦は少なくありません。別居には大きな覚悟が必要である反面、同居をつづけておけば生活費の負担が少なくすみ、子どもの養育環境を考える必要もなく、世間体も保たれます。
結論を申し上げれば、家庭内別居でも離婚すること自体は可能です。ただし、別居をしていたほうが、「離婚をできる限り早く、有利な条件で進める」という目的をより達成しやすいのは言うまでもありません。
法定離婚原因とは
民法において定められる、離婚訴訟において強制的に離婚請求が認められる理由として、民法に定められているのが「法定離婚原因」です。つまり、法定離婚原因が存在すれば、相手が離婚に反対していても離婚ができるというわけです。
民法に定められた法定離婚原因は、民法770条1項に定められた次の5つです。
民法770条1項
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
民法(e-Gov法令検索)
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
家庭内別居でも法定離婚原因があれば離婚できる
家庭内別居中にすぎなくても、その間に不貞やDVなどのような法定離婚原因にあたることが明らかな事情があれば、離婚請求を認めてもらうことができます。ひいては、離婚協議の話し合いでも、相手があきらめて離婚に応じてくれる可能性が高いといえます。
不貞やDVなどの明らかな離婚原因があるときは、むしろ、家庭内別居中であることによって、別居後に争うよりも証拠がとりやすいともいえます。相手の加害行為を録音・録画しやすいのはもちろん、相手の生活リズムを把握していれば探偵に依頼して不貞の証拠を入手するのも容易です。
「家庭内別居」自体が法定離婚原因になるか
しかし、このように明らかな離婚原因がない場合、例えば「性格の不一致」、「価値観の相違」といった理由で離婚をしたいと考えるときは、「家庭内別居」の事実事態は、離婚原因とは評価されないのが実情です。
「性格の不一致」などの理由は、その程度が強度であったり、相手に責任があると考えられたりする場合には、法定離婚原因のうち「その他婚姻を継続し難い重大な理由」にあてはまりますが、相当重大なケースに限られるからです。
むしろ、他に離婚原因が見当たらず、長期の別居期間を確保し、これを離婚理由として離婚を進めるしかないときには、家庭内別居にとどまっていては、肝心の別居期間がまったくたまりません。ましてや、自分が不貞をした有責配偶者の場合、8年~10年程度の別居期間が必要であるとされていますから、家庭内別居を続けていては、いつまで経っても離婚ができません。
家庭内別居から離婚できるまでに必要な期間
以上のとおり、家庭内別居でも離婚原因にあたる場合はあり、離婚ができないわけではありませんが、早期の段階で別居を開始しておく場合に比べて、離婚が遅れてしまうのは明らかです。ここで「家庭内別居から離婚できるまで、どの程度の期間を見ておけばよいですか」という法律相談がよくあります。
家庭内別居以外に、不貞行為やDVのような明らかな離婚原因があったり、相手が話し合いの結果離婚に同意してくれるような場合には、家庭内別居であっても即座に離婚することができます。
これに対して、「性格の不一致」による離婚請求のように、法定離婚原因にあたらないようなケースで、離婚までに必要な別居期間の目安は2年~5年です。この中に家庭内別居期間は含まれません。有責配偶者の場合、必要な別居期間の目安は8年~10年で、同じくこの中には家庭内別居期間は含まれません。
離婚までに必要な別居期間についての説明は、下記の解説で詳しく行っていますので、よければ参考にしてください。
家庭内別居で離婚する方法
次に、家庭内別居のまま離婚に進める方法について解説します。
すみやかに別居するほうが離婚を早められる可能性が高いと解説しましたが、諸事情によってどうしても家庭内別居をやめられず、それでも離婚を求めるケースがあります。このとき、家庭内別居によるデメリットをできるだけ回避するため、早めに離婚調停、離婚訴訟など法的手続きを進めていく方法が有効です。
同居中にできる準備を怠らない
別居をせず、家庭内別居状態のまま離婚を進めていくことには、若干ながらメリットもあります。つまり、相手に離婚原因が存在すること、相手に慰謝料請求の根拠があることの証拠を取得しやすいという点です。
このメリットを生かし、同居中にしかできない離婚の準備をしっかり進めておくようにしましょう。
不貞行為やDV・モラハラの証拠を収集しておけば、離婚を早められる可能性があるからです。家庭裁判所は証拠を重視して審理を進めるため、証拠がまったくないと、相手の非を認めてもらえず、仮に早く別居しても離婚できないおそれがあります。
家庭内別居のまま離婚協議する方法
別居中の離婚協議だと、相手の所在を確認したり、相手の交渉窓口(本人か、弁護士か)を確認したりといった手間がかかりますが、家庭内別居のまま離婚協議をスタートさせれば、同居しているわけですからすぐに話しかけて話し合いできます。
ただし、家庭内別居の状態で、すでに何か月も口をきいていないとか、無視を続けているといったケースでは、形式的には同居しているとはいえ、話し合いはなかなか困難なケースもあります。
このとき、家庭内別居で、同居をしていても、弁護士に依頼して離婚協議を進めるケースも実務上は少なくありません。この場合は、弁護士に任せた以上、同居中といえども離婚の話を当事者間ではしないようにしなければなりません。
なお、家庭内別居のまま離婚協議を進めるときは、感情的対立が激化してDV・モラハラに発展して身の安全を害されないよう、細心の注意が必要です。
家庭内別居のまま離婚調停・離婚訴訟を行う方法
形式的には同居しているけれども夫婦の実態はないという状態で、本人間で話し合いをしながら離婚条件のすり合わせを行うということには、相当な困難が伴います。
そのため、別居していれば弁護士に依頼して協議で解決できるようなケースでも、家庭内別居のまま進めるのであれば、早めに離婚調停の申立てへと進むほうがよい場合も少なくありません。
離婚調停であれば、家庭裁判所の期日の日に夫婦双方が、(おそらくは別々に)裁判所に出廷し、調停委員を介して主張を伝えあい、離婚条件のすり合わせを行えます。
家庭内別居から離婚を求めるときの注意点
次に、家庭内別居から離婚を求めるとき、同居中であるがゆえに気をつけなければならない注意事項について解説します。
離婚をしてしまえば一緒に住まないのは当然ですから、離婚を早めるには、その状態になるべく早く近づけるのがベストです。家庭内別居で、同居しながら離婚を求めるというのは、子どもや仕事、世間体といったもののために一定の無理をしている状態です。そのため、そのストレスや矛盾からくるデメリットが現実化しないよう、注意して進めなければなりません。
ルールづくりをする
夫婦関係がすでに破綻していると考えていても、完全に別居するのではなく家庭内別居を選ぶということは、「同居を継続しておけるだけの最低限の信頼関係」は残っていることを意味します。
そのため、家庭内別居をするときには、最低限のルールづくりをしておかなければなりません。最低限のルールづくりは、次に解説していく「離婚原因をつくらない」、「子どもへの影響を最小限にする」、「生活費の分担請求をする」といった点でも有効です。
家庭内別居をするとき定めておきたいルールは、次のようなものです。
- 重要な家事の分担
- 入ってよい場所、入ってはいけない場所
- 禁止事項
- 子どもへの接し方、育児の分担
- 生活費の分担と支払方法、家計のお金の管理
家庭内別居が長期化すると、お互いに言葉を交わさず無視し合い、話し合いすらできなくなるおそれもあります。家庭内別居の初期段階で、このようなルールをあらかじめ定めておけば、少なくともしばらくの間は守ってくれる可能性が高いです。
自分から離婚原因を作らない
家庭内別居を続けるためには、すでに夫婦仲がよくないにもかかわらず同居を続けなければなりません。そのため、配偶者にとって、相当なストレスがかかります。
家庭内別居からくるストレスのあまりに、不倫・浮気に走ってしまったり、家庭内暴力(DV)、モラハラや虐待を行ってしまったりすると、自分から離婚原因を作ってしまうこととなります。これらの行為は、離婚で不利になるだけでなく、慰謝料請求を受けてしまう原因ともなります。
家庭内別居を選択する夫婦は、当初はこれらの明白な離婚原因はなく、性格の不一致、価値観の差異などの事情から不仲がはじまる夫婦が多いです。また、前章で解説した通り、家庭内別居自体は法定離婚原因にあたらないと評価されるのが家庭裁判所の実務です。しかし、その後に離婚原因を自ら作ってしまえば、将来の離婚において不利にならざるを得ません。
子どもへの影響を最小限にする
子どものいる夫婦の中には、子どものためを思って家庭内別居を選択する方がいます。「子どもが大きくなるまでは、夫婦そろって生活したほうがよい」という意見です。
しかし実際には、家庭内別居は子どもの精神に大きな影響を与えています。夫婦仲が良いのであれば、父母がそろっていることが子どもの情操教育に良い影響を与えますが、家庭内別居を続けてトラブルが絶えないようだと、子どもは敏感に気づきます。むしろ「子どものためにも、早期に別居すべき」という状況の夫婦も少なくありません。
家庭内別居が子どもに与える影響を最小限にするためには、子どもに責任はないことを説明し、愛情を示し続けること、笑顔で話しかけ続けるのが重要なポイントです。特に、離婚後に親権・監護権を獲得したいのであれば、監護実績をきちんと作り、その証拠を記録化しておくようにしてください。
婚姻費用の分担を請求する
家庭内別居中のルールとして生活費の分担について定めておくのが重要だと解説しました。この夫婦間で分担すべき生活費のことを、法律用語で「婚姻費用の分担」といいます。
別居中に、収入の少ない方が収入の多い方に対して別居後の生活費を請求することを「婚姻費用分担請求」といいますが、婚姻から生じる費用を分担しなければならないことは同居中でも変わりありません。このことは民法に次のように定められています。
民法760条
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
民法(e-Gov法令検索)
家庭内別居だと、家事や食事をともにすることはなく、各自で用意して別々にしているケースが多いです。そのため、専業主婦の場合など、生活費を払ってもらわなければ、家庭内別居中にも生活が立ち行かなくなってしまう危険があります。
婚姻費用の分担を請求する方法は、同居中であっても別居中であっても変わるところはなく、まずは養育費・婚姻費用算定表に基づいて算出した金額を話し合いで請求し、話し合いで解決できない場合には婚姻費用分担請求調停を家庭裁判所に申し立てます。
別居中の生活費の請求については、下記の解説を参考にしてください。
家庭内別居と離婚について当事務所によせられる法律相談
最後に、家庭内別居をしながら離婚を求める相談者から、当事務所によく寄せられるその他の法律相談について回答します。
Q1 家庭内別居中に不倫・浮気が発覚したら慰謝料請求できる?
不倫・浮気のことを、法律用語で「不貞行為」といいます。不貞行為は、夫婦である間に、他の異性と肉体関係を持つことで、発覚すると、慰謝料請求をすることができます。
一方、夫婦関係が「破綻」していたと判断されると、破綻後に行われた不貞について、慰謝料請求の対象とはならないとするのが裁判例の実務です(「夫婦関係が破綻していたから、不貞行為にあたらない」という反論を、法律用語で「破綻の抗弁」といいます)。
裁判例の実務において、「破綻しているかどうか」の判断基準は、夫婦の主観ではなく、客観的事情により判断することとされており、このとき重要視されるのが「別居しているかどうか」という点です。この点で、家庭内別居でどれほど「夫婦関係はもう終わっていた」と反論したところで、家庭裁判所では慰謝料請求を否定する事情とはならないのが実情です。
例外的に、家庭内別居で、かつ、建物の1階と2階で分かれて生活しているなど生活区域が異なり、収入や財布も別々であったといったケースでは、家庭内別居でも破綻の抗弁が認められるケースがあります。家庭内別居を「破綻」と認めてもらうためには、別居の合意書を作り、離婚に向けた家庭内別居だと明確にしておくのも有効です。
Q2 家庭内別居の後の離婚では財産分与は不要?
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力してつくりあげた財産(共有財産)を、その貢献度に応じて分与する制度です。一般的には、婚姻関係の開始から別居時までに積みあがった財産について、2分の1ずつとするのが実務のルールとなっています。
しかし、家庭内別居から離婚をする方からは「家庭内別居だったのだから、財産構築への貢献はなかったのではないか」、「家庭内別居開始時を基準時として財産分与を判断すべきだ」というご相談を受けることがあります。
この点でも、前章で解説したとおり「家庭内別居は、破綻ではない」という考えを原則とする家庭裁判所の実務からすれば、収入や財産が明確に分けられているような例外的なケースでない限り、財産分与は原則どおり、別居時を基準とすると判断されると考えられます。
まとめ
夫婦の特別な事情によって、家庭内別居を選ばざるをえない場合があることは十分理解できます。家庭内別居にもメリットはありますし、家庭内別居をした結果、その後に修復し、円満に復縁した夫婦もいます。
しかし、「将来もずっと、一緒に暮らし続けられるだろうか」と自問してみたとき、将来の離婚が想像できてしまったときには、これ以上家庭内別居をつづけていくメリットはありません。
特に「子どものためには一緒に暮らしたほうがよい」という理由で家庭内別居をつづける方は、現在の冷え切った家庭環境が、子どもにとって本当に良いものかどうか、よく考える必要があります。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題を注力分野としており、別居を検討している方からの多数のご相談をお寄せいただいています。
家庭内別居にデメリットが多いとはいえ、別居にも相当な覚悟が必要です。事前準備を行って有利な離婚につなげていくためにも、別居を検討している方は、ぜひ一度、別居前にご相談ください。
離婚問題のよくある質問
- 家庭内別居とはどのような意味ですか?
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家庭内別居とは、すでに夫婦仲がうまくいっていないけれど、子どもや仕事、世間体などさまざまな理由で同居しつづけることです。家庭内別居を選ぶ夫婦は少なくないですが、法的には「別居」と評価されない可能性が高く、離婚を遅らせてしまう危険があります。もっと詳しく知りたい方は「家庭内別居とは」をご覧ください。
- 家庭内別居でも離婚できますか?
-
家庭内別居それ自体は、法的には「別居」と評価されないおそれがあり、どれほど家庭内別居が長く続いてもそれだけでは離婚原因とは認めてもらえないおそれがあります。家庭内別居とあわせて、不貞、DVなどの証拠を入手できれば、法定離婚原因にあたり、離婚を認めてもらえます。詳しくは「家庭内別居で離婚する方法」をご覧ください。