今回は、夫婦の離婚の際に特に問題となる「子の親権」について、女性側(母親側/妻側)の視点から解説していきます。
女性側(母親側/妻側)から、「親権は女性有利というのは本当ですか?」というご相談を受けることがあります。
結論から申し上げると、実際、子供が小さいときは母親が親権獲得に有利なのは確かです。司法統計上も、約9割は母親が親権を得ていますから、相当な問題がない限り、男性側(父親側/夫側)が親権を獲得することは難しいといってよいでしょう。
しかし一方で、状況によっては、父親が親権を得る場合もあります。 裁判所における親権決定のルールをよく理解し、親権が獲得しやすい努力をすることによって、男性側に親権を奪われることのないよう準備が必要です。
「離婚・不貞」弁護士解説まとめ
目次
裁判所における親権決定の5つのルール
初めに、子の親権を決定する流れについて解説します。子どもを持つ夫婦が離婚するときに争点となる「親権者指定」について、まずは夫婦の話し合い8協議)で決定するのが原則です。
話し合いで解決できれば、どのような離婚条件にすることもでき、このことは親権も同様です。
しかし、当事者間で協議を重ねても、夫婦のどちらも親権を譲らない場合が多くあります。離婚条件のうち「お金」の問題は互いの譲歩で解決することもありますが、「子ども」の問題は譲歩が困難です。そのため、話し合いで決定できない場合、調停や裁判で親権を争うことになります。
このことは、離婚自体が、「離婚協議」「離婚調停」「離婚訴訟」の順で検討をしていくのと同様です。
以上のことから、話し合いで決める際にも、「裁判所が、どのような事情を判断要素として親権を決定しているか」を知る必要があります。そして、これから解説する5つのルールが、「親権は女性有利」と言われる理由にもなっています。
【ルール①】母性優先の原則
親権についての争いが調停や裁判に進んだ時、裁判所が重視する1つ目のルールが「母性優先の原則」です。つまり、「母親」を「父親」より優先的に親権者として指定する、というルールです。
「男女平等」の世界といえども、「母乳が出るかどうか」など、身体的な特徴については男女に違いがあり、その点は育児に大きな影響を与えます。
特に、子どもが幼い乳幼児の場合には、「母性優先の原則」が強くはたらき、女性側(母親側/妻側)が親権について有利な判断を得られる可能性が高まります。
【ルール②】現状尊重の原則
裁判所における親権決定の2つ目のルールが、「現状尊重の原則」です。
特に幼い子どもにとっては、両親の離婚によって現在の養育環境が激変することが、大きな精神的ストレスとなってしまうことがあります。そのため、子の養育にこれまで多くかかわってきた方の親を親権者にするほうが現状を変える必要がなくなる、というのがこのルールの理由です。
「これまでの養育環境を変えないほうが、子のために良い」という発想であり、現状の養育環境が十分に整備されていればいるほど、現状尊重のルールが強くはたらきます。
一般的には、父親と比較して母親のほうが、食事・洗濯・幼稚園への送り迎えなど、子どもの養育に関わる時間が長いことが多いため、「現状尊重の原則」もまた、親権が女性側(母親側/妻側)に有利にはたらく理由の1つです。
【ルール③】養育への熱心度
3つ目のルールが、「養育への熱心度」です。養育に熱心にかかわる親ほど、親権を取りやすいという原則です。
子どもの養育にかかわった「時間」で比較すると、「夫が仕事をし、妻は主婦」という家庭ですと女性側に軍配があがりますが、「どちらが育児に『積極的』であったか」という点では、男女どちらが有利ということはありません。
「イクメン」「主夫」といった言葉も流行しているように、熱心度の点では男性側(父親側/夫側)のほうが親権者に近い、という家庭もあります。
しかし、「夫は仕事中心の生活」「育児は妻任せ」という態度の家庭も少なくないため、この「養育への熱心度」の観点から見ても「母親有利」となるケースが多いのが現状です。
【ルール④】子の意思の尊重
次に、注意すべき4つ目のルールは、「子どもの意思の尊重」です。このルールは、子どもが一定の年齢以上になるほど強くはたらきます。
というのも、子どもの年齢が幼いうちから、子どもの意思を強く尊重してしまうと、「甘やかした親が親権を持つ」ということになりかねず、子を甘やかし、誘惑して親権をとろうという親の活動が、むしろ子に害悪となってしまおそれがあるからです。
これに対して、子どもの年齢が10歳前後になると、裁判所も子どもの年齢を一定程度尊重するようになります。子どもの年齢が15歳以上である場合には、裁判所は基本的には、子どもの意思通りに判断すると考えられています。
【ルール⑤】兄弟不分離の原則
最後に、5つ目のルールが、「兄弟姉妹不分離の原則」です。
これは、基本的に子供は兄弟が一緒に暮らすほうが良いとされていることから、子どもが幼いときほど、兄弟姉妹の親権者を同じにするという決め方です。
片方の子どもが大きい場合であっても、この原則が適用された結果、結局両方の子の親権を女性側(母親側/妻側)がとるというケースも少なくありません。
収入・財産は親権の判断要素とはならない
子の養育にはお金がかかるため、一定の経済力・資産が必要となります。この点を逆手にとって、「親権がもらえないのであれば、子どもの費用は払わない」という攻め方を男性側(父親側/夫側)がすることがあります。
しかし、親権を獲得した親には「養育費」をもらう権利があり、「養育費」は収入の比例に応じて支払義務が生じます。そのため、夫婦間の収入格差が大きければ大きいほど、養育費は高額になります。
更に、資産額についても大きな差がある場合には、離婚時に「財産分与」として相当額の請求をできる可能性が高いです。
そのため、親権の指定の際、経済力や資産状況はそれほど重視されません。
男性側(父親側/夫側)としても、子どもに対する本当の愛情があるのであれば、たとえ親権がとれなかったとしても養育費の支払いを怠ることはないはずです。
母親側が不利になるケースと、その対策
以上のとおり、裁判所で親権を決定するときに参考にされるルールはいずれも、「母親有利」となる理由としてはたらきます。しかし、状況によっては、女性側(母親側/妻側)でも親権争いにまけてしまうことがあります。
そこで次に、親権が「母親不利」になりかねないケースと、より確実に親権を獲得するため、そのようなケースでの親権獲得のポイントについて、弁護士が解説します。
養育実績を整備する
養育実績が十分ではない場合、女性側(母親側/妻側)といえども親権を獲得しそこねてしまうことがあります。先ほど解説した「現状尊重の原則」からすると、現状として男性側(父親側/夫側)が十分な育児を行っている場合、男性側有利に親権の判断がなされる可能性があるからです。
このような場合に、より確実に親権を獲得するためには、「養育実績を作ること」とともに、その養育実績について証明する「客観的証拠」を準備することが重要です。
親権を確実なものにするため、とるべき対策は、例えば次のとおりです。
- 学校・幼稚園の行事に参加する
- 子どもと一緒に過ごす時間を多く持つ
- 育児についての日記を作成する
- 子どもと一緒に過ごした写真・動画を撮影する
養育環境を整備する
女性側であっても、離婚後の養育環境が十分でないことが理由で、親権を取り損ねてしまうおそれがあります。
特に、離婚後は、これまでよりも収入が少なくなり、養育費や財産分与がもらえるといえども収入・資産面で厳しい状況となり、日中働きに出なければならないことで、これまでと同様に育児をこなせないおそれもあります。
裁判所から、離婚後の養育環境について疑問視されないよう、次のような努力をアピールしておくことがお勧めです。
- 子どもの面倒を見る両親・親族の協力が得られる
- 協力を得られる両親・親族が近くに住んでいる
- 転居せず、転校が不要である
家裁調査官を味方にする
より確実に親権を獲得するためのポイントの3つ目は、「家庭裁判所の調査官を味方にする」ことです。
親権の争いが話し合いではまとまらなとき、調停や裁判で争うこととなりますが、この際、家庭裁判所の「調査官」という役職の人が、「父母のどちらが親権者にふさわしいのか」について調査を行います。家裁調査官の調査は、例えば次のような事項です。
- 子どもの通う幼稚園・学校を訪問する
- 家庭訪問をし、養育環境を調査する
- 子どもや親と面談をする
調査官が見るのは、主に、「子の福祉にとって適切な養育を行うことができるか」という点です。しかし、調査官も人間ですから、不誠実、非協力的な態度ですと、敵に回してしまうことにもなりかねません。
調査官から「親としてふさわしくない人物なのではないか」という悪い印象を抱かれると、親権の判断においても、少なくとも有利にはたらくことはありません。常識的な身だしなみ、振舞いで対応し、調査に協力し、子への愛情をアピールするようにしてください。
子に過度に働きかけない
女性側(母親側/妻側)が親権を確実に得るためのポイントの3つ目は、「子に過度に働きかけないこと」です。
親権を得たいがあまりに、子どもを味方にしようとして父親の悪口を吹き込んだり、子どもを甘やかして、親権に有利な証言を得ようとしたりするケースがあります。
しかし、親権者指定では、子どもの意思も判断材料の1つでありますが、それだけで判断されるわけではありません。家庭裁判所の調査官は、子どもが押さなければ幼いほど、甘やかしや誘惑に弱いことをよく知っています。
親権者指定は「子どもの福祉」のために判断されるという原則があります。子どもが自分のことをよく理解できる年齢に達するまでは、子どもの意思に反する親権者指定が行われることもあります。
子どもは基本的に両親どちらをも大切に思っているものです。一方が他方の悪口を吹き込むことは子供の福祉に反する行為であり、調査官の心証を悪くする可能性もあります。
積極的に面会交流する
次のポイントは、「積極的に面会交流する」ことです。
親権者指定は「子どもの福祉」を基準として行われ、基本的には、両親双方に会えるほうが「子どもの福祉」にかなうと考えられています。両親どちらにも愛されていることを実感することが、子どもの健全な成長にとって重要だからです。
離婚するのですから、夫婦の仲は悪く、「別れた相手に子供を会わせたくない」と思うかもしれません。しかし、離婚は夫婦の問題であり、子には無関係です。離婚するときは、子供の幸せを考えて行動すべきです。
暴力をふるうなど特別な理由もないのに「子供を会わせたくない」という姿勢では、「子供の幸せのために努力をしていない」とみなされる可能性があります。
親権を獲得したいと考えるなら、面会交流にも積極的であることをアピールしましょう。
子への愛情をアピール
最後のポイントは、当然のことですが、子どもへの愛情を積極的にアピールすることです。
この点で、「子の手続代理人制度」という制度の利用を検討した方がよいケースがあります。
親権を争うときは、子の意思も尊重されますが、調停や裁判での審理を、子が十分に理解し、法的主張をすることは困難です。このような場合に、弁護士が子供の代理人となって、子供が理解できるように説明したり、子供の本音を聞いたりして、裁判官や親に意見をする制度が、「子の手続代理人制度」です。
「子の手続代理人制度」を活用することによって、「子の福祉」のために努力をする親であることのアピールとなり、子どもへの愛情の深さを示すことができます。
不倫をしても親権を獲得する方法
最後に、「不倫」をしてしまって離婚に至った女性側(母親側/妻側)から、「不倫をしたら、親権に影響するのでしょうか」というご相談を受けることがあります。
「不倫」は、法律の専門用語で「不貞」といいます。不貞は、民法に定められた離婚原因の1つです。
離婚原因をみずからつくった配偶者のことを「有責配偶者」といい、自分から離婚をするのが難しくなってしまったり、慰謝料を支払わなければならなかったりといった不利益を負います。
しかし、ここまで解説してきたとおり、子どもの親権は、子どものために決めるものであり、「子どもが、健全に成長できる環境かどうか」という点で判断をします。そのため、不倫をしたからといって、必ずしも親権がとれないわけではありません。
不倫は親権に影響しないのが原則
妻側が不倫をしたことは、妻側で親権をとれない理由とはなりません。つまり、不倫は親権に直接影響しないことが原則です。
また、不倫をすると、慰謝料を支払わなければならないことがありますが、そもそも、資力、収入面は、親権に影響しないことが原則です。特に、乳幼児など、子どもが幼い場合には、母親が優先的に親権者に指定されます。
ただし、実際には、両親が不倫をして別れたことは、子どもに悪影響を与える可能性が高いといえます。
子どもに対する見えない心理的な影響により、今後子どもが内向きな性格になってしまったり、両親の離婚を自分の責任ではないかと攻めてしまったり、異性を怖がってしまったりといった悪い影響が予想されます。
不倫で親権がとれなくなるケース
一方で、例外的ではありますが、不倫で親権がとれなくなってしまうケースがあります。それは、不倫が「子どもの健全な発育環境にとって、悪影響である」と判断されるケースです。
不倫をしたことで、親権者として不適切であると判断されてしまう事例には、例えば次のものがあります。
- 不倫相手に夢中になるあまりに育児放棄・ネグレクト問題を発生させてしまう
- 不倫相手が子供を殴ったり、違法な薬物に依存していたりなど悪影響の大きい人物である
- 不倫相手の浪費により、養育費を考慮しても育児をするのが費用的に難しい
- 子どもが、不倫相手と再婚して一緒に暮らすことを嫌がっている
不倫しても親権をとるための準備
「不倫」をしてしまって離婚に至る場合、親権を確実にとるためにも、不倫関係を終了させることができるのであれば、ただちに不倫関係を清算し、そのことを裁判所にアピールしましょう。
また、不倫関係を清算せず、むしろ離婚後の再婚を考えている場合には、その不倫関係が育児に悪影響を及ぼすようなものではないことを主張する必要があります。
万が一、不倫をしてしまったことが親権に大きく影響してしまう可能性が高い場合には、「現時点での離婚を諦める」という方法もあります。
このことは、例えば進学のタイミングなど、子どもに大きな影響の出にくいタイミングを図って離婚を進めることによって、子どもへの十分な配慮を示すことにもつながります。
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今回は、「親権は女性に有利なのですか」という法律相談に回答し、親権の決定のしかたについて解説しました。
裁判所が親権を決定するときにはいくつかのルールがあり、そのルールが女性に有利な判断を導いていることは確かです。親権をより確実なものにするためにも、事前準備は欠かせません。
一方で、家族のあり方は多様化しており、「イクメン」、「主夫」という言葉も出てきているように、男性のほうが育児に積極的で、女性が家庭の収入を担っている、という家族もいます。
親権について、夫婦間の話し合いで解決しない場合には、ぜひ一度当事務所へご相談してみてください。
「離婚・不貞」弁護士解説まとめ
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