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暴力夫の虐待から子どもを守る方法は?面前DVは子どもに悪影響!

虐待は、どんな理由があっても許されません。
近年、DV(家庭内暴力)は、深刻な社会問題となっています。
夫が妻に暴力をふるう例のなかには、残念ながら夫が子にも手をあげて、虐待に進んでしまうケースも。

「しつけ」を口実に、殴ったり蹴ったりする虐待夫から子どもを守るには、妻が行動を起こさなければなりません。
厳しいしつけが必要なケースはあれど、体罰が許されないのは当然のこと。
日常的に暴行を加える状況ともなれば、しつけの範囲をあきらかに超え、虐待にあたるのは明らかです。

夫によるひどい虐待がくり返されてしまえば、子どもの身がさぞや心配でしょう。
注意しても虐待が止まらないとき、さらに強い危害を加えられるのが恐ろしく、注意もできず放置してしまう方もいます。
しかし、子どもの面前でDVがエスカレートすることも、心理的に強い影響を与えます。

このようなとき、子どものためにも、早急に別居するとともに、離婚を考えざるを得ません。
今回は、虐待夫から子どもを守るため、別居する方法や、別居後に子どもを引きとる方法などを解説します。

この解説でわかること
  • 虐待には、身体的虐待だけでなく、精神的虐待、性的虐待、ネグレクトが含まれる
  • DVが、子どもの虐待にまで発展したら、すみやかに別居するのがおすすめ
  • 家を追い出されたときなど、虐待夫のもとから子どもを引きとるための法的手続を知る
目次(クリックで移動)
解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

豊富な知識・経験に基づき、戦略的なリーガルサービスを提供するため、専門分野の異なる弁護士がチームを組んで対応できるのが当事務所の強みです。

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虐待とは(児童虐待防止法の定義)

虐待とは(児童虐待防止法の定義)

児童への虐待を厳しく禁止する、児童虐待防止法(正式名称を「児童虐待の防止等に関する法律」といいます)では、「児童虐待」は次のように定義されています。

児童虐待防止法2条

この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(18歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。

一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

児童虐待防止法(e-Gov法令検索)

育児にはいろいろな考えがあり、正解はありません。
夫の考え、妻の考えが違うこともあるでしょう。
しかし、虐待やDVが、健全な成長にマイナスで、悪影響なのは間違いないこと。

大人であるあなたにとっては我慢できる夫の暴言や暴力も、子どもの精神には耐え難く、大きなストレスとなります。
緊急のとき、「自分はまだ耐えられる」と思っても、子どもの身の安全だけは確保してください。

虐待の4つの分類

虐待の4つの分類
虐待の4つの分類

「どんな行為が虐待にあたるか」を理解するために、法律上の定義は、以下の4つに分類されています。
これらの類型を知ることで、実際に夫から受けた行為が、具体的に、虐待にあたるかどうかを判断できます。

虐待の種類は、次の4つです。

  • 身体的虐待
    殴る、蹴るなどの子どもの身体を侵害する行為のこと
  • 精神的虐待
    怒鳴ったり脅したりなど、言葉や態度で心理的外傷を与えること
  • 性的虐待
    子どもにわいせつな行為をするなど、を性的な興味関心の対象とすること
  • ネグレクト
    食事を与えなかったり放置したりなど、育児放棄をすること

つまり、直接的に暴行を加える行為が虐待にあたるのは当然ですが、この法律では、許されない「虐待」は身体的虐待にかぎらないことが、きちんと定められているわけです。

なお、直接の危害を加えるケースだけでなく、子どもの面前で夫が妻にDVをする場合にも、子どもに悪影響であり、精神的ダメージとなります。
いわゆる「面前DV」のケースであり、精神的虐待に含まれると理解しておいてください。

虐待としつけの違い

厳しくしつける、いわゆる「頑固おやじ」な父(夫)が悪いわけではありません。
甘やかして、しつけを怠るようでは、むしろ育児放棄になってしまいますから、悪さをしたら厳しく注意し、再発を防止するのも重要なしつけの一貫です。

何度も言い聞かせても従わない子には、優しく注意するだけでは足りないこともありますが、「虐待」と「しつけ」の区別をきちんとつけておかなければ、夫の虐待が進行しやすくなってしまいます。
厳しいしつけと虐待はまったく違いますから、その境目を明らかに区別するのが大切です。

虐待としつけの境界について、次のチャートをご覧ください。

虐待としつけの違い
虐待としつけの違い

虐待としつけの区別は、親側の動機にあります。
しつけの目的は、子どもが正しい行動をするよう導くためです。つまり、子どもの将来を思っての行為です。
子どもに厳しい、というだけであれば、むしろしつけとして適切といえる場合も。

その行動の目的が、親のストレス解消やイライラをぶつけたり、一時的な感情でかっとなって手をあげてしまたり、子どもをいじめたりなど、親の感情によるものであるときには、それは虐待と評価されることとなります。

嫌がることをあえてするのも、程度によってはしつけではなく虐待と評価できます。
受験勉強や習い事の強要、親の理想の強制や、恩着せがましい育児、親の気に入るファッションや髪型にすることなど、知らず知らずのうちに虐待してしまっていることがあり注意が必要です。

同居を続けながら、暴力夫の虐待から子どもを守る方法

悩む女性

虐待があっても、経済的な理由などにより、すぐに離婚に進めない方もいます。
同居したままでも、夫の虐待、DVから子どもを守るべきなのは当然ですから、どんな方法があるか理解しておいてください。
同居する夫の虐待、DVから子どもを守るため、知っておきたい方法は次の2つです。

暴力夫からの虐待やDVがまだ軽度で、「虐待かもしれない」疑いがあるといった程度にとどまるなら、同居を継続して夫婦の関係修復を目指す方針もありうるかもしれません。

同居を続けたり、復縁を目指したりするとき、夫婦関係の修復を優先するあまり、虐待やDVの危険を軽視してはなりません。
身体的な被害はもちろん、子どもの精神面にも強い影響を及ぼすおそれもあります。
虐待を受けてもなお、子どもは父親の愛情がほしいもの、母親が守らなければなりません。

なお、すでに子どもの心身に危険が迫っているときは、早急に別居してください。
「別居して逃げることで、暴力夫の虐待から子どもを守る方法」については、次章で解説します。

虐待、DVの証拠を確保する

同居している最中にも暴力夫から子どもを守るための第一歩は、虐待やDVの証拠を確保することです。
証拠の確保は、別居した後ではなかなか難しい場合も多いため、同居中に、できるだけ早めに進めるようにしてください。

虐待、DVの証拠がまったくないと、離婚を考えたときにも、有利な条件を勝ちとれないおそれがあります。
虐待、DVの証拠として収集しておきたいのは、例えば次の資料です。

  • アザやケガの写真
  • 暴行、脅迫しているところを撮影した動画
  • 暴言、罵声を浴びせている録音
  • 診断書、カルテ、通院記録
  • あなたが毎日つけている日記
  • 110番通報をしたときの通報記録
  • 子どもの証言

スマホを肌身離さず持ち歩いていれば、いざ虐待の被害に直面したときに、すぐに録音・録画したり、写真をとったり、警察に通報したりと対策を講じることができます。

なお、証拠を優先するあまり、子の心身への悪影響が大きくなりすぎ、生命の危険が生じる事態は避けねばなりません。
証拠がまだ集まっていないとしても、危険性が高いときは、我慢しすぎず別居を検討するのも重要なポイントです。

児童相談所の一時保護を利用する

虐待について、警察に通報すると、児童相談所にも情報共有されるのが通常です。
このとき、虐待の危険性が高いと判断されるときは、児童相談所による一時保護が行われます。

児童相談所の一時保護は、虐待の被害を受けるおそれの強い子どもを、児童相談所が一時的に預かる制度です。
児童相談所の一時保護を利用すれば、これ以上の虐待、DVの悪化を防げます。
虐待には、警察、児童相談所、弁護士が連携して支援するのが大切です。

虐待への対応
虐待への対応

しかし、夫から妻へのDVも併発するほど夫婦関係が悪化していると、児童相談所の一時保護が解除されず、夫婦いずれのもとにも当分の間は子どもが戻ってこれなくなってしまうケースも。
保護されている間、子どもは、両親と会うことが制限されたり、学校に通えなくなってしまったりといったデメリットを負うおそれがあります。

以上のとおり、警察に通報する方法や、児童相談所の一時保護を利用する方法には、一長一短あります。

そのため、同居したままで、暴力夫から子どもを守る方法のなかでは、かなり強い効果がある反面、十分注意して利用しなければなりません。
子どもの問題を多く扱う弁護士であれば、児童相談所とのやりとりについても、代理で窓口になれます。

別居して逃げることで、暴力夫の虐待から子どもを守る方法

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

別居すれば、物理的距離を離せますから、暴力夫の虐待、DVから子どもを遠ざけられます。
そこで次に、別居して逃げることで、子どもの安全を確保する2つの方法について解説します。

夫との別居を決意したときも、適切な方法で進めなければ、万が一にも子の安全が脅かされるおそれも。
妻へのDV、モラハラがひどい夫の場合、妻側から別居を言い出されるとますます感情がさかなでされ、状況を悪化させるリスクもあります。

なお、正しい別居のしかたや、別居時の注意点は、次のまとめ解説をご覧ください。

継続的な虐待、DVで、妻の精神がコントロールされ洗脳状態になっていると、「私が悪いのではないか」、「私が我慢すれば子どもは助かるのでは」といった考えで別居タイミングを逃すのは誤り。
前章で解説した「同居を続けながら、暴力夫の虐待から子どもを守る方法」を試しながら、適切な機会をうかがうようにしてください。

DVシェルターなどに避難する

虐待、DVする暴力夫から別居して、子どもの安全を確保するとき、最も重要なポイントは、「別居先の住所を夫に知られないようにする」ということです。
虐待、DVが激しい事案では、実家に避難しても、追いかけて連れ戻されてしまったり、危害を加えられたりして、実家の両親にも迷惑をかけてしまうと予想できるからです。

重度のDV、虐待の事案において、一番安全な避難先はシェルターです。
シェルターは、暴力被害にあって危機にある女性に向け、行政機関や民間団体が運営する一時的な保護施設。
シェルターに入ることを検討している場合、区役所などに相談するのがおすすめです。

シェルターへ一時的に避難するときは、子どもの安全確保のために次の配慮も欠かせません。

  • 通園する保育園に情報共有する
  • 通学する学校に情報共有する
  • 習いごとを一時中止する
  • 登下校中に注意するよう子どもに伝える

夫が保育園に「代わりに迎えに来た」と伝え、子どもを連れ去ってしまうケースもあります。
個別のケースにより、危険度の高いときは、一時的に通園・通学をやめたり、転校したりなどの対策も検討してください。

なお、シェルターは、ずっと滞在できるわけではないため、並行して、次の転居先を選定しておいてください。

モラハラ・DV事案における別居先の選び方は、慎重に進めなければなりません。
モラハラ・DVを受けたときの別居の進め方や注意点について、次の解説も参考にしてください。

保護命令の申立てをする

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

別居して逃げてもなお、生命や身体の危険を感じるときは、裁判所に保護命令の申立てをする方法もあります。

保護命令とは、暴力や強迫を受けた被害者が、裁判所に申立てることで、つきまといや接近を制限する命令(接近禁止命令等)を発してもらう手続きです。
保護命令が発令されると、その内容に応じて、接近の禁止や退去を命じることができます。
このとき、あなたへの接近だけでなく、子どもへの接近も禁止するという内容の保護命令を発令してもらえます(なお、子どもへの接近禁止のみを命じてもらうことはできず、妻への接近禁止と合わせて申し立てる必要がある)。

保護命令に違反すると、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金という刑事罰を受けるため、強い効果があります。

裁判所に保護命令を認めてもらうには、あなたが暴力を振るわれていたこと、子どもが虐待を受けていたことなどの客観的証拠が必要です。
証拠によって裁判所に説得的な説明をしなければなりませんから、事前に十分な証拠を収集する必要があります。

DV、虐待のひどいとき、配偶者が近づくのを禁じ、身を守るため、裁判所の手続きを利用できます。
接近禁止命令などの法的手続きについては、次の解説もご覧ください。

子どもが危ないとき、迷わず警察に通報!

子どもが危ないときは、迷わず警察に通報する

同居中に、暴力夫による虐待、DVがいきすぎて、子どもに危険が及ぶことがあります。
また、別居した後でも、暴力夫による魔の手は、すぐそこまで迫っているかもしれません。

夫による危険な虐待、DVがあるとき、警察に通報する方法で、子どもを守らなければなりません。
このことは、夫と同居中でも別居中でも、離婚後であっても同様です。

警察に通報しておけば、虐待、DVをやめるよう夫に警告をしてくれたり、あなたの電話番号を防犯登録し、次に虐待、DVが再発したときにすぐに臨場してくれたり警備を強めてくれたりといった効果が期待できます。
間に入って仲裁してくれたり、すぐに駆けつけてくれたりといった安心を得られます。

ただ、残念ながら暴力のひどいケースでは、警察に通報すれば夫は逮捕される可能性が高いでしょう。
このとき、暴力を振るった夫は、次の刑事罰に処せられるおそれがあります。

スクロールできます
罪名(条文)法定刑
暴行罪(刑法208条)2年以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金又は拘留・科料
傷害罪(刑法204条)15年以下の懲役又は50万円以下の罰金

しかし、逮捕や処罰はこれまでの暴力の報い。冷静になる機会を与えなければ一生収まらないかもしれません。
夫の逮捕をおそれて我慢しては、子どもの被害が深刻化し、取り返しがつきません。
本当に危険なときには迷ってはなりません。

暴力夫の仕返しが怖い、という方もいますが、虐待、DVがエスカレートする前に行動を起こさなければなりません。
通報をためらい、あなたが身を挺して守っても、「目の前で母親が暴行を受けた」という事実は心理的虐待となり、子どもの心に深い傷を残します。

特に、同居を継続せざるを得ないケースは、離婚の覚悟がつかなかったり、経済的な不安があったり情があったりといったことが理由で、警察への通報は消極的になっている例が多いですが、いずれにせよ、虐待の対象となった子どもの安全を最優先に考える必要があります。

虐待夫から子どもを引きとる方法

ポイント

夫から子どもへの虐待がひどいケースのうち、最も深刻なのは、すでに妻がなにかしらの理由で一緒に住んでおらず、虐待夫のもとに子どもが残されてしまった状態です。

このようなケースでは、一刻も早く、虐待する夫のもとにいる子どもを引きとらなければなりません。
虐待夫のもとにいる子どもをとり戻す方法は、次の4つです。

これらの方法は併用されるケースが多いので、それぞれについて弁護士が解説していきます。

最悪のケースになる原因のなかには、虐待する夫が妻を家から閉め出し、強制的に追い出したり、妻のもとから暴力や脅迫で無理やり子どもを連れ去ったりといった、悪質性の高い例も少なくありません。

暴力夫、虐待夫による連れ去り事案は、とても専門性が強い分野。
離婚をはじめとする夫婦間の問題のなかでも特殊なケースのため、経験豊富な弁護士のサポートが必要です。

監護者指定の調停・審判を申し立てる

「どちらが子育てするか」に争いがあるとき、家庭裁判所の判断を求める方法が「監護者指定の調停・審判」。
虐待する夫のもとに子どもがいるとき、早急に保護する必要があるため、母(妻)に監護権があるとの判断を求めて調停を申し立てます。

監護者指定の調停・審判においては、監護権の指定を希望する事情、夫婦双方の意向、子どもの養育状況、家庭事情、経済事情などを総合的に考慮して、家庭裁判所をまじえて話し合います。

なお、この手続は、婚姻中で別居をしている夫婦でも、すでに親権者を定めて離婚した後でも、子どもを保護する必要があるときには監護者を指定するために利用できます。

監護権と親権との違い、勝ちとる方法など、監護権の基本的な知識は、下記解説をご覧ください。

子の引渡しの調停・審判を申し立てる

子の引渡しの調停・審判は、すでに親権者を定めて離婚をしている場合で、親権者でない親が子どもを連れ去ってしまったときに申し立てられることの多い手続きです。
離婚前でも、子の引渡しについて夫婦間の話し合いによる解決が難しいときは、この手続きを利用できます。

このようなケースでは、子の引渡しの調停・審判の申立ては、さきほど解説した子の監護権者指定の調停・審判とあわせて申立てが行われます。

子の引渡しの調停・審判では、養育環境を変えることによって子どもに与えるダメージの大きさに配慮して、年齢や性別、現在の養育環境などを考慮し、子どもへの精神的負担が少なくなるよう、子どもの意向を尊重しながら家庭裁判所をまじえて話し合いが進められます。

審判前の保全処分を申し立てる

さきほど解説した子の引渡しの調停・審判を本案として、子どもに差し迫った危険があり、かつ、本案が認容される蓋然性があるときは、保全処分の申立てを行います。
保全処分が認められるのは、例えば、DV夫、虐待夫が妻のもとにいた子どもを連れ去ってしまったなど、緊急性の高いケースです。

審判前の保全処分では、本案と同様に、子の性別、年齢、性格、就学の状況や養育環境などが考慮されるほか、特に、家庭内暴力(DV)や虐待の状況を推認させる証拠を提出し、夫側で養育することの危険性、不適格性を強く主張していきます。

児童虐待防止法は、児童への暴言などはもちろん、児童が同居する家庭での配偶者に対する暴力もまた、児童に著しい心理的外傷を与えることを示し、虐待にあたり禁止されると定めています(児童虐待防止法2条4項)。

したがって、暴力夫、DV夫による子どもの連れ去り事案において、必ずしも子どもに直接の暴力がなくても、夫の不適切な行為が虐待であると評価されることが少なくありません。

子の引渡しの強制執行を行う

子の引渡しを求める調停手続きにおいて解決に至らないときは、審判に移行し、家庭裁判所の判断を仰ぐこととなります。
そして、子の引渡しを命じる審判が下された場合には、審判に基づいて、子の引渡しを夫側に求めます。

夫(父)が、審判に基づく子の引渡しに応じないときは強制執行を行います。
強制執行では、子どもの年齢が幼い場合には、裁判所の執行官が、強制的に子の引渡しを実現してくれます。

なお、夫婦ともに弁護士がついて争った場合は、子の引渡しについても、下された審判にしたがって、弁護士により履行が実現される例が多いです。

子どもの引渡しの強制執行について、その実効性を高めるため、民事執行法が改正されています。
2020年4月施行の民事執行法改正と、子の引渡しの強制執行について、次の解説をご参照ください。

虐待夫から避難した後にやるべきこと

虐待夫から避難した後にやるべきこと

最後に、虐待夫から避難し終えた後で、やるべきことについてまとめておきます。
将来を見すえて、適切な行動を心がけてください。

なお、いずれも、虐待やDVによる危険が去ってから考えるべきことであり、まずは安全確保を優先しなければなりません。

婚姻費用を請求する

夫の虐待やDVから避難できたら、婚姻費用を請求しておきましょう。
夫から逃げて別居をするときにも、別居中の生活費である「婚姻費用」は当然に請求できます。

婚姻費用とは、別居中の生活費を意味し、夫婦の協力義務(民法760条)から認められる法的権利です。
そのため、別居中の夫婦であれば請求でき、このことは別居理由が、虐待やDVなど夫の危険性にあるときにも、当然あてはまります。

むしろ、虐待やDVによるやむを得ない別居は、予測が困難です。
これまでどおりの通勤が難しくなったり、危険を避けるために仕事をやめて収入が途絶えてしまったり、転校・転園が必要だったりなどといった事情で、経済的負担が、通常の別居よりもさらに大きくなると予想されます。

なお、モラハラ気質の夫の場合、生活費を請求することで逆上されるおそれもありますから、弁護士を通じて婚姻費用の請求をするのがおすすめです。

別居中の生活費について、請求方法、婚姻費用の相場などは、次の解説をご覧ください。

慰謝料を請求する

過去に受けてしまった暴力による被害については、慰謝料請求をすることも検討してください。
虐待やDVは、不法行為(民法709条)にあたり、慰謝料をはじめとした損害賠償請求の対象となります。

ただし、虐待するような夫が、自分の非を認めてくれるとは思えません。
そのため、この手の請求ケースは、トラブルが長期化してしまう傾向にあります。

裁判所で慰謝料を認めてもらうためには、客観的な証拠の確保が大切なポイントとなります。

虐待夫との離婚を求める

子を虐待したり、DVしたりする暴力夫とは、離婚したいのが当然の考えです。
経済的に不安があるなど、すぐには離婚できなくても、不満は日に日につもりますから、今後長続きするとは到底想像できないことでしょう。

「両親がそろっていることが、子どもの健全な成長のために重要だ」という考えをする相談者もいます。
しかし、それはあくまで、夫婦関係が円満な場合のことです。

虐待やDVなど、暴力の横行する家庭では、たとえ両親がそろっても、子の発育には悪影響。
「生まれてこなければよかった」、「両親が不仲なのは自分のせいでは」と、トラウマを抱えてしまうことも。
不登校になったり、トラウマで人とコミュニケーションがとれなくなる子もいます。

離婚しないことが子どものためとは限らない
離婚しないことが子どものためとは限らない

「離婚しよう」と心に決め、シングルマザーになる覚悟ができたら、離婚条件について夫と話し合わなければなりません。
虐待するような夫に子どもは任せられませんから、親権は必ず確保せねばなりません。
あわせて、今後の子育てのための金銭面も重要ですから、養育費、財産分与、慰謝料など、できるだけの金銭を払ってもらえるよう交渉する必要があります。

虐待やDVする暴力夫が相手だと、当事者間での話し合いは難しいことも多く、弁護士を代理人として依頼し、交渉窓口としたほうが有利な解決を目指せます。

離婚協議の流れと、うまく進めるためのポイントは、次の解説をご覧ください。

離婚条件が、協議ではまとまらないとき、離婚調停を申し立て、調停でも解決できなければ離婚訴訟へ移行します。
虐待を受けたことの証拠が十分にあれば、たとえ夫が離婚を拒否していても、離婚訴訟における判決で、強制的に離婚することができます。

財産分与を請求する

虐待を理由に別居後、離婚を目指すとき、育児に支障のないよう、虐待をして離婚の原因を作った夫には、多くのお金を払ってもらわなければなりません。

離婚条件のなかでも、多額となる可能性のあるのが「財産分与」。
財産分与は、夫婦が協力して築いた財産を、公平の観点から、原則として2分の1ずつ分ける手続きです。
多くの家庭では、夫のほうが妻より、資産を蓄積していることが多いです。

子どもを虐待する暴力夫は、モラハラ気質であることも多く、財産分与を要求しても断られるおそれもありますが、あきらめてはなりません。

財産分与は、婚姻期間中の財産を公平に分けるのが趣旨となっています。
財産分与についての基礎知識は、次のまとめ解説をご覧ください。

まとめ

暴力夫による虐待、DVから子どもを守るため、母親(妻)がとるべき方法を解説しました。
子どもの身の安全を確保するための対策について、ぜひ理解しておいてください。

危険を感じたら、子どもの身の安全を最優先にし、すみやかに別居するのがおすすめですが、安全面に配慮し、住所を知られないようにしたり、シェルターに避難したりなどの注意が必要。

一方で、生活への不安、経済的事情、就学の便などから、即座に別居するハードルが高いときにも、子どもへの精神的ダメージに配慮して進めるようにしてください。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題を数多く取り扱っています。
なかでも、虐待・DVの被害を受ける母子の相談を多数お聞きしてきました。

子どもの虐待、DV事案をはじめ、ご夫婦間のトラブルにお悩みの方は、ぜひ一度、当事務所へご相談ください。

虐待ケースでよくある質問

虐待としつけの違いはどのような点ですか?

虐待、しつけとされる行為は、それぞれ似ている場合がありますが、明確に区別しなければなりません。しつけは子どものためを思ってなされるのに対し、虐待は親の都合で起こります。もっと詳しく知りたい方は「虐待とは(児童虐待防止法の定義)」をご覧ください。

別居して、夫の虐待から子どもを守るには、どんな方法がありますか?

夫の虐待があるときは、すみやかな別居が子どもを安全につながります。別居先をシェルターなど夫に知られていない場所にするとともに、それでもなお危険がなくならないときは、保護命令の申立てをあわせて行います。詳しくは「別居して逃げることで、暴力夫の虐待から子どもを守る方法」をご覧ください。

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