財産分与で、財産を分け与える側(例えば夫)にむけて、「離婚の財産分与をしたくない」という時にしっておいてほしいことと、財産分与を拒否する方法について解説します。
財産分与は、夫婦が協力して生活してきたときに公平の観点から財産を分け与える制度で、相手(例えば妻)が専業主婦だとしても請求されてしまいます。
しかし、財産分与はかなりの高額になるケースもあるため、収入の多い側から
- 「こんなに払わなければならないのはこまる」
- 「なんとか財産分与を拒否したい」
- 「財産分与を少しでも減らしたい」
という相談を受けることがあります。相手があまり財産形成に協力していないと考えられるときや、むしろ浪費でお金を減らしてきたのではないかという不満があるとき、特にこのような疑問が生まれます。
- 財産分与は、公平の観点から認められるもので、拒否できないのが原則
- 財産を隠す、使ってしまうという方法が事実上有効なことがある
- 財産分与の対象、財産分与の割合などについて有利な主張をすることが、減額につながる
なお、離婚時の財産分与について深く知りたい方は、次のまとめ解説をご覧ください。
まとめ 財産分与について離婚時に知っておきたい全知識【弁護士解説】
財産分与をしたくない時、拒否できる?
まず、原則として財産分与を拒否し、まったくなしにしてしまうのは難しいです。たとえ一方が専業主婦(または専業主夫)で、財産形成に貢献していないようにみえても、実際には家事や育児などで貢献していると法的には評価され、財産分与が必要となります。
しかし、相手から請求された財産分与があまりに高額だったり、不当だったりするとき、財産分与を減額したり、財産分与を拒否したりすることができます。
このとき、財産分与と離婚についての夫婦の話し合いや、調停で、財産分与を拒否して争うことができます。離婚前であれば、離婚の争いとともに離婚調停で争い、不成立のときには離婚訴訟を起こします(これに対し、離婚後に財産分与が争いとなるときは、財産分与請求調停で争い、不成立のときには財産分与請求審判に移行します)。
なお、すでに離婚時に離婚協議書を公正証書で作っているとき、これに基づいた支払いがされないときはただちに強制執行(財産の差押え)をすることができます。
離婚協議書などで財産分与についての合意をしているとき、その支払期限を守らないと、遅延損害金をあわせて請求され、結果的に支払う金額が多くなってしまいます。そのため、財産分与の合意を書面で交わしているときは、財産分与を拒否するのはおすすめではありません。
財産分与の拒否、減額の要求は、必ず、財産分与についての合意をする前に行うようにしてください。
財産分与を拒否する8つの方法
次に、財産分与を払う側が、財産分与を拒否したり、少しでも減額したりする方法について弁護士が解説します。
財産分与をもらう側(例えば妻側)が、少しでも多くの支払いを受けるための方法は、①対象財産をしっかり調査する、②対象財産(共有財産)の範囲を広く主張する、③対象とならない財産(特有財産)の範囲を狭く主張する、④分与割合について有利な主張をする、という4つの方法があります。
逆に、財産分与を支払う側(例えば夫側)では、この逆の反論をすることが、財産分与を拒否したり、少しでも減額したりすることにつながります。
財産分与をもらう側 | 財産分与を支払う側 |
---|---|
対象財産を調査する | 財産を隠す |
共有財産を広く主張する | 財産を使ってしまう 夫婦財産契約を結ぶ 離婚時に「財産分与しない」と合意する |
特有財産を狭く主張する | 特有財産を広く主張する |
有利な分与割合を主張する | 有利な分与割合を主張する 離婚の責任を追及し、譲歩を求める |
それぞれの方法について、順に解説していきます。なお、上の表にはのせていませんが、最終手段として「離婚しない」という方法が有効なのかについてもあわせて解説します。
財産を隠す
財産分与したくないとき、財産を隠すことで分与を拒否しようと考える方が多いです。結論を申し上げると、財産を隠す方法は、「絶対にバレない」のであれば、財産分与を拒否する方法として事実上有効です。
ただ、隠し財産が発覚してしまうと、財産分与を請求されることはもちろん、次のような大きなリスクを伴います。
- 調停委員や裁判官のイメージが悪くなり不利な判断を受けてしまう
- 相手から損害賠償を請求されてしまう
- 「まだ隠し財産があるのでは」と疑われ、話し合いが進まなくなる
そのため、証拠などからどうせ発覚してしまう財産を隠すのはおすすめできません。なお、任意の財産開示を拒否しても、相手が弁護士を依頼し、弁護士会照会や調査嘱託などの方法で財産調査を行うとき、よほど巧妙に隠しても残念ながら突き止められてしまうことが多いです。いずれの制度も、あなたの承諾なく財産が開示されてしまいます。
財産分与したくないからといって銀行のお金を引き出して現金化しておいても、通帳の記載などからすぐに露見してしまいます。離婚直前に高額の引き出しを何度もしていれば、財産隠しを強く疑われてもしかたありません。
財産を使ってしまう
「どうせ半分とられてしまうなら、全部使ってしまおう」という方もいます。財産分与を拒否するために、自分の財産を全て使ってしまうという方法です。
この方法は、財産分与を拒否するという点では有効です。ただ、相手に分け与える財産が少なくなる反面、自分の手元に残る財産も減ってしまうため、一長一短です。また、「離婚直前に財産分与から逃れるために使ったお金は財産分与では考慮しない」という判断を裁判所から受けてしまうおそれもあります。
そして、財産分与したくないために使ったことが明らかであったり、あまりに浪費が激しかったりすると、それ自体が離婚原因となり、夫婦関係を破綻させたことについてあなたの責任を追及されるリスクがあり、やりすぎは禁物です。
特有財産の主張をする
財産分与の対象外となる財産を、「特有財産」といいます。夫婦の財産のうち、財産分与の対象となる「共有財産」と特有財産の区別がはっきりしないとき、特有財産を主張する側が証明責任を負うこととなっています。
民法762条(夫婦間における財産の帰属)
1. 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
民法(e-Gov法令検索)
2. 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
そのため、財産分与をしたくないと考えるときには、相手の求める財産が、特有財産であることを証拠により証明する必要があります。
特有財産とは、「婚姻前から有する財産」と「婚姻中自己の名で得た財産」(贈与・相続など)のことをいうため、次のような証拠を準備しておいてください。
- 「婚姻前から有する」ことの証拠
婚姻前の預貯金明細・通帳の写し、不動産登記簿謄本など - 「婚姻中自己の名で得た」ことの証拠
(贈与された財産のとき)贈与契約書
(相続した財産のとき)遺言書、遺産分割協議書、生前贈与契約書
有利な分与割合を主張をする
財産分与の割合は、夫婦平等の観点から2分の1ルールが原則とされますが、裁判例でも例外的に折半以外の割合での分与が認められているものもあります。裁判例でも例外的な解決が認められたケースには、医師などその人の能力や資格が共有財産の形成に大きく形成しているケースです。
そのため、財産分与をしたくないと考えるとき、その理由が「2分の1では公平ではない」ということにあるのであれば、あなたにとってより有利な分与割合を主張することで、財産分与を減額することができます。
このとき、あなたの側で、共有財産の形成に対するあなたの寄与、貢献が大きいことを立証するようにしてください。
夫婦財産契約を結ぶ
夫婦の財産について、結婚前に取り決めしておく方法が「夫婦財産契約」です。夫婦財産契約では、婚姻中に生じる生活費などの負担とともに、離婚時の財産分与についても定めておくのが通常です。
夫婦財産契約を結んでおくと、財産分与についての裁判所の実務(夫婦の共有財産について、2分の1ルールを原則として分与する)を必ずしも適用されることなく、家庭の事情にあった解決とすることができます。
夫婦財産契約について、民法では次のように定められています。
民法755条(夫婦の財産関係)
夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。
民法756条(夫婦財産契約の対抗要件)
夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない
民法(e-Gov法令検索)
ただし、一旦結んだ夫婦財産契約は、結婚後に変更したり修正したりすることができないため注意が必要です。また、夫婦財産契約を第三者や承継人に対抗するためには、婚姻届を提出する前に登記しておくが必要です。
離婚時に「財産分与しない」と合意する
離婚時(婚姻中)に、「離婚時の財産分与をしない」と合意することは有効です。つまり、相手に財産分与請求権をあらかじめ放棄してもらう方法です。ある財産についてのみ、財産分与の対象としないという合意をすることもできます。
財産分与請求権は「権利」なので自由に放棄できます。ただし放棄を強制することはできません。まずは話し合いをし、相手の理解を求め、財産分与を放棄してもらえるよう求めるようにしてください。
「離婚時に財産分与をしない」と合意するとき、あとから「言った言わない」の水掛け論にならないよう、必ず合意内容を書面にしておくようにしてください。具体的には、「債権債務は一切存在しない」という「清算条項」を定めた離婚協議書を作成しておく方法です。
甲及び乙は、本件離婚協議書に定めるもののほか、一切の債権債務を有しないことを相互に確認する。
このような離婚協議書は、後日のトラブルを回避するため、離婚協議書を公正証書にする方法がおすすめです。公正証書は、公文書として強い証明力を持ちます。
離婚の責任を追及し、譲歩を求める
財産分与は、離婚原因によらず発生します。そのため、たとえ妻(または夫)が不倫したとしても、財産分与は請求されてしまい、拒否はできません。
しかし、財産分与は公平の観点にもとづくのですから、相手に不倫や浮気、DV、モラハラなどがあるとき、すんなりと分与することにはとても大きな怒りをおぼえることでしょう。
このとき、相手に離婚の責任を追及することは、財産分与の観点からも「相手の譲歩を引き出せる可能性が上がる」という点で意味があります。法律上、財産分与をしなくてよくなるわけではないものの、相手が責任を感じ、後ろめたい気持ちになるなら、財産分与を減額できる可能性があります。
また、不貞慰謝料の請求ができるときは、財産分与とあわせて議論することで、支払う総額を減らすことができます。特に、離婚調停など話し合いにより解決できるとき、相手の責任を強く主張することで、結果的に財産分与が減額できるケースは多くあります。
離婚しない
財産分与は、婚姻期間中に形成した財産について、「離婚時に」分け与えるものです。ですから、離婚しないのであれば財産分与は発生しません。
そのため、相手の求めてきた財産分与があまりにあなたにとって不利な内容だったり、高額請求だったりするとき、一旦離婚を拒否するという手も有効です。離婚を拒否し続けることで、離婚を強く求める相手が、財産分与について一定の譲歩をしてくる可能性もあります。
ただし、離婚もずっと拒み続けることはできませんから、どこかで妥協点を探さなければなりません。相手の離婚の意思が固いときには、離婚協議、離婚調停、離婚訴訟という流れで法的手続きに進んでいき、争いが長期化するおそれがあります。
あなたにとっても離婚がずっとできなくなってしまいますから、相手の要求する財産分与があまりに不当な場合の最終手段だと考え、安易に駆け引きの材料にはしないようにしてください。
財産分与したくない時の注意点
最後に、財産分与したくない時に、財産分与の交渉を進める上で注意しておきたいポイントについて弁護士が解説します。
粘り強く、財産分与の放棄を求める
離婚を早くしたいという方のなかには「財産分与は求めないから、少しでも早く別れてほしい」、「お金をもらうより、早く縁を切りたい」という方がいます。
このようなとき、財産分与をしたくない側では、早期の離婚を条件として、財産分与を放棄してもらえるよう粘り強く交渉することが功を奏します。財産分与請求権は、相手が納得するなら放棄してもらうことができます。
ただし、財産分与は、離婚後も2年間は請求することができるため、間違っても「財産分与は置いておいて、先に離婚を進めてしまう」という間違いをおかさないようにしてください。
財産分与の期限(離婚から2年)に注意
財産分与は、離婚から2年が経過すると、調停・審判では請求できなくなります(民法768条2項但書)。
この期間の起算点は離婚時であり、協議離婚のときは離婚届の受理日、調停離婚のときには調停成立日、審判離婚、裁判離婚のときは審判または判決の確定日を基準とします。
離婚後にしばらく経ってから財産分与を請求されたときには、財産分与の期限(離婚から2年)が経過していないかどうか注意するようにしてください。期限が既に経過していたときは、原則として財産分与を拒否できます。
相手の財産を把握する
たとえあなたのほうが収入や資産が多くて、財産分与を払う側だったとしても、相手の財産を正確に調査・把握しておくことが大切です。相手名義の財産もまた、夫婦共有の財産であり、財産分与では、それぞれの名義の財産を2分の1ずつに分けることとなるからです。相手の名義の財産を正確に調査、把握していなければ、その分だけ、財産分与として払う額が多くなってしまいます。
特に、相手が専業主婦(専業主夫)のとき「こちらは財産分与を払うだけだから」と財産調査をせずにあきらめてしまうことはおすすめできません。専業主婦(専業主夫)でも、小遣いをためていたり、バイト代を貯金したり、投資で増やしていたりなど、あなたに内緒のへそくりをもっていることがあります。
借金も分与の対象となることに注意
財産分与の対象となる財産には、プラスの財産だけでなくマイナスの財産があります。マイナスの財産とはすなわち、住宅ローン、自動車ローン、教育ローンなどの借金(負債)のことです。
夫婦生活や子どものためにした借金は、財産分与の対象となり、離婚後も夫婦で分けあうこととなります。住宅ローンが残っていてオーバーローン(債務超過)の自宅などは、財産分与の対象にすらならないのが家庭裁判所の実務です。
したがって、財産分与を少しでも減らしたいとき、借金も財産分与の対象とすることを忘れないようにしてください。
まとめ
今回は、離婚時に財産分与をしたくないと考える方に向け、財産分与を拒否するための方法について弁護士が解説しました。
夫婦間に大きな収入格差があるときや、一方の努力で財産が形成されていたというとき、財産分与を拒否したいと考えるケースが多くあります。しかし、納得いかないケースでも、あまりに無理して財産分与を回避しようとすると、大きなリスクを負うこととなります。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題に注力し、財産分与が高額の争いとなるケースについても豊富な解決実績があります。
法的に認められる範囲で、少しでも財産分与を減らしたいときは、弁護士から法的アドバイスを受けることが有効です。2人の話し合いで解決できないとき、ぜひ一度ご相談ください。
財産分与のよくある質問
- 財産分与を拒否できますか?
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財産分与は、夫婦の公平のために認められるため、基本的に拒否はできません。ただし、財産分与の決め方を理解し、あなたにとって有利な主張をすることが、財産分与の支払いをなくしたり、減額したりすることにつながります。詳しくは「財産分与を拒否する8つの方法」をご覧ください。
- 相手が財産分与の減額に応じてくれないときどうしたらよいですか?
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財産分与の話し合いは粘り強く行うようにしてください。話し合いで合意できないときは、調停で争う方法もあります。どうしても納得いかないとき「離婚しない」という交渉方法が有効なこともあります。もっと詳しく知りたい方は「財産分与したくない時の注意点」をご覧ください。