外国人と結婚を考える際、外国に移住するにせよパートナーを日本に招くにせよ、日常を離れた「ワクワク感」がある一方、大きな不安を感じることでしょう。結婚準備を進める中で、外国人のパートナーから婚前契約書(プレナップ)の締結を求められることがあります。
日本では馴染みの薄い婚前契約書(プレナップ)ですが、内容や注意点を理解して適切に作成しなければ、夫婦関係が悪化して離婚に至った場合に、自身の希望が反映されないリスクがあります。
今回は、外国人と結婚する際に注意すべきポイントとして、婚前契約書(プレナップ)の作成を中心に、弁護士がわかりやすく解説します。
- 婚前契約(プレナップ)は、資産の多い富裕層や外国人の結婚で活用される
- 婚前契約(プレナップ)は、結婚前に夫婦で協議して作成する必要がある
- 婚前契約(プレナップ)通りに約束を守ってもらえるよう公正証書化すべき
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婚前契約書(プレナップ)とは
婚前契約書(プレナップ)は、結婚をする前に、主に財産や資産についての取り決めを文書化して、ルールとして定めておく契約書のことです。英語の「Prenuptial Agreement」を和訳したもので、主にアメリカで慣習として定着しています。
婚前契約書(プレナップ)を作成する動機・目的は、主に、個人資産の保護にあります。この契約書には、以下のような事項を定めるのが一般的です。
- 財産・資産の取り扱いに関するルール
- 離婚時の財産分与の取り決め
- その他の離婚条件(親権・面会交流・養育費・慰謝料など)
- 夫婦生活における義務やルール、禁止事項
- 夫婦生活におけるルール違反のペナルティ(不倫・暴力・DV・モラハラなど)
婚前契約書(プレナップ)を作成するのは「ロマンチックではない」「せっかく結婚するのに愛情を損なうのではないか」と不安を感じる人もいます。しかし、特に国際結婚の場合には、外国人配偶者の側から作成を求められるケースも珍しくありません。
国際結婚で婚前契約書(プレナップ)を作成する理由
婚約から結婚に進む準備は、全て夫婦の話し合いと合意のもとに進めるのが基本です。婚前契約書(プレナップ)の締結を求められ、「ロマンチックでない」と不快感を抱いたとしても、相手が作成を希望するなら、真剣に話し合いをしなければ、後々トラブルの原因になってしまいます。
弁護士の視点から見て、婚前契約書(プレナップ)を作成しておいた方がよい人は、例えば以下のケースです。
- 夫婦間の財産や資産の格差が大きい場合
- 夫婦の一方が会社経営者であり、離婚後に財産分与の争いが予想される場合
- 離婚歴があり、前の婚姻関係が完全に整理できていない場合
- 再婚で子供がいて、特定の財産を子供に優先的に分与したい場合
- 一方が家庭に入り専業主婦(主夫)になる予定の場合
- 国際結婚で、どちらの国の法律に従うかトラブルが予想される場合
これらの状況では、離婚時に財産の分配や条件を巡る大きな争いが予想されます。婚前契約(プレナップ)というと、ハリウッドスターやプロスポーツ選手のような「お金持ちの問題」と思いがちですが、資産家でなかったとしても、離婚時の揉め事を防ぐ手段として有効です。
特に国際結婚の場合には、文化や風習、人種や宗教の違いから、明確に文書化しておかないと「言った・言わない」の水掛け論になります。日本人は「言語化しなくても理解し合える」と思いがちですが、言語や文化の壁がある国際結婚では、婚前契約書(プレナップ)があれば回避できたトラブルで悩むケースも多いものです。
「離婚までの流れ」の解説
国際結婚の婚前契約書(プレナップ)のポイント
次に、国際結婚の婚前契約書(プレナップ)を作成する際のポイントを解説します。
婚前契約書(プレナップ)を作成していない場合、外国人との国際結婚でも、日本で生活をしている場合は日本法が適用されます。その結果、一般的な財産分与のルールに従い、「婚姻中に増加した財産を2分の1ずつにする」ことが原則となります。
しかし、夫婦の一方の財産が高額である場合や、財産を優先的に残したい対象(連れ子など)がいる場合、通常のルールに従うことが一方の配偶者の希望に沿わず、パートナー間で争いが起こる可能性があります。
関係が良好なうちに作成する
恋愛初期は「恋は盲目」とも言うように、パートナーとの国際結婚のリスクやデメリットに気づきにくいものです。しかし、異なる文化や習慣、言語を持つ相手と結婚することには、当然ながら多くのリスクを伴います。
国際結婚の婚前契約書(プレナップ)を作成する際は、パートナーとの関係が良好なうちにしっかりと話し合い、内容を詰めておくことが重要です。一度作成した契約書を後から変更することは可能ですが、関係が悪化してからの交渉は困難なことも多いので、早めに準備してください。
どの国の法律を適用するか
国際結婚・国際離婚の際には、「どの国の法律を適用して決めるか」が争いとなることがあります。諸外国の中には、日本人にとって驚くような結婚や離婚のルールがある国もあります。
外国人との関係でも、結婚後の夫婦生活を日本でするなら、日本法に従って決めるのが一般的です。ただ、争いになった後で話し合うと必ず揉めるので、トラブルを避けるためには「どちらの国の法律に基づくか」を事前に取り決めておくことが重要です。
どの言語で作成するか
外国人のパートナーの中には、日本語が堪能ではない方もいます。夫婦間の普段の会話が日本語ではない(相手の母国語や英語で意思疎通している)カップルも多いでしょう。この場合、日本語のみで婚前契約書(プレナップ)を作成してもパートナーに理解されず、意味がありません。
日本語の読めない外国人との国際結婚で、婚前契約書(プレナップ)を作るときは、英訳・母国語訳の準備が必要となります。「話せるけれど読めない」という外国人は少なくないので、生活に必要な会話ができたとしても油断は禁物です。
公正証書化しておく
最後に、作成した婚前契約書(プレナップ)は、公正証書化しておくのがお勧めです。
公正証書は、公証役場で作成される公文書で、「強制執行認諾文言」を付けることで、契約に基づく金銭請求について、裁判を経ずに強制執行(財産差押え)が可能にする効力があります。つまり、パートナーが公正証書の内容に従わなかったとき、金銭請求権については、裁判所に申し立てて強制的に実現させることができるのです。
公正証書は、本人同士で作成する以外にも、委任状があれば弁護士に依頼することも可能です。結婚予定だがパートナーが海外在住である場合、弁護士に依頼すれば、来日することなく公正証書を作ることができます。
国際結婚のその他の注意点
最後に、婚前契約書(プレナップ)の作成に加えて、国際結婚のその他の注意点についての解説しておきます。
在留資格・永住権・帰化
外国人のパートナーが日本に住み続けるには、在留資格(ビザ)の取得が必要です。通常、日本人と結婚する場合には「日本人の配偶者」(通称「日配(ニチハイ)という在留資格を取得します。
更に、日本の滞在歴が長くあり、結婚生活が安定している場合には、永住権の取得や帰化申請を希望する外国人の方もいます。
DV・モラハラ問題
DV(ドメスティックバイオレンス・家庭内暴力)やモラハラは許されない行為であり、どのような理由があっても容認されるものではありません。しかし、国際結婚では、文化や風習の違いが些細な行き違いを生み、それがきっかけで家庭内のトラブルがエスカレートすることがあります。
小さな衝突が積み重なると、最終的にDVやモラハラに発展するケースは少なくありません。DVやモラハラをきっかけとする国際離婚では、パートナーが母国に帰国してしまうと、離婚手続きを進める大きな支障となってしまいます。
外国人との子どもの問題
外国人との国際結婚で、特に注意を要するのが、離婚時の「子の連れ去り」問題です。
国境を超えた子供の不法な連れ去りについては国際的な取り組みがなされており、「ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)」がその指針となります。
この条約は、外国人との国際結婚はもちろん、日本人同士の結婚であっても、国境を越えた不法な子供の移動に関する問題のルールとなっています。国際結婚において、離婚時に子供の安全と権利を守るため、条約を理解し、適切な手続きを進めることが不可欠です。
国際結婚の婚前契約書(プレナップ)のよくある質問
最後に、国際結婚の婚前契約書(プレナップ)についてよくある質問に回答します。
国際結婚で婚前契約書を作成しないとどうなる?
国際結婚では、婚前契約書(プレナップ)は必須ではないですが、作成していないと、財産分与や親権の取り決めでトラブルが起きがちです。
特に、国際結婚では、どの国の法律を適用するかに争いが生じたり、それぞれの背景とする文化や風習が異なることが大きな対立につながったりします。そのため、夫婦間のルールを文書化するため、国際結婚こそ婚前契約書(プレナップ)の意義は大きいです。
婚前契約書を作成するタイミングは?
婚前契約書(プレナップ)は、必ず結婚前に作成します。結婚後でも、夫婦間のルールを決めることは可能ですが、婚前契約書(プレナップ)として扱うことはできません。
離婚時に争いとなる財産分与のルールは、結婚に向けた準備の中で早めに決めないと、冷静に話し合うのは困難でしょう。また、結婚直前に作成を急ぐと、内容を十分検討せずに署名してしまうリスクがあるため、早めに準備してください。
国際結婚の婚前契約書の作成を弁護士に依頼できる?
国際結婚の婚前契約書(プレナップ)は、弁護士に依頼して作成することが可能です。弁護士に依頼することで、法的に有効で、かつ双方が納得できる内容の契約書にすることができるメリットがあります。外国法の絡む国際結婚は特に、家事事件に詳しい弁護士のサポートが重要です。
作成にかかる弁護士費用は、内容や分量、複雑さによりますが、11万円〜33万円程度が相場の目安です。公正証書化を希望する場合には、別途手数料がかかります。作成には数週間〜1ヶ月程度かかるので、結婚準備の早い段階で相談しておくのがよいでしょう(お急ぎの事情がある場合には、弁護士にご相談ください)。
まとめ
今回は、国際離婚における婚前契約書(プレナップ)の基本について解説しました。
日本人同士でも、夫婦仲が悪くなると互いの主張が対立し、話し合いでは離婚できないケースがあります。協議で解決しない離婚問題は、調停や裁判に進みますが、国際離婚だと、法的な取扱いが複雑になったり外国法が絡んだりして、紛争が長期化するリスクがあります。
これらのリスクを避けるためにも、婚前契約書(プレナップ)を作成して、夫婦のルールを明確にしておくことた大切です。婚前契約書(プレナップ)の作成を通じて、国際結婚・国際離婚のリスクを軽減したい方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
- 婚前契約(プレナップ)は、資産の多い富裕層や外国人の結婚で活用される
- 婚前契約(プレナップ)は、結婚前に夫婦で協議して作成する必要がある
- 婚前契約(プレナップ)通りに約束を守ってもらえるよう公正証書化すべき
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