離婚時の財産分与は、夫婦の公平のための手続きですが、「財産分与を放棄したい」「相手に放棄させたい」と考えるケースもあります。
例えば、早期かつ円満に離婚するために、財産分与の請求をしない場合や、分与するとかえって借金の返済を迫られるおそれがある場合など、家庭によっても理由は様々です。財産分与は放棄することができますが、一度権利を放棄すると二度と請求できないので、後悔のないよう慎重に考えてください。逆に「放棄させたい」側においても、離婚時のトラブルを拡大しないよう、離婚協議書に明確に定めるなど、適切な方法で進めるべきです。
今回は、財産分与を放棄する際の注意点やリスク、逆に、相手に放棄させる方法などについて、弁護士が解説します。
- 財産分与は、自由な意思で放棄することができる
- 放棄する際は、早期離婚や他の離婚条件など、メリットと比較して検討する
- 無理やり放棄させると、意思表示の取消しを請求されるおそれがある
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離婚時の財産分与は放棄できる

まず、財産分与を放棄することが可能かどうか、法的な観点から解説します。
財産分与は、婚姻中に夫婦が築いた財産を、公平に分配する手続きです。多くの家庭では、離婚条件の一つとして定めますが、離婚時に財産分与の放棄を考える人も決して少なくはありません。例えば、「円満に別れたい」「早く離婚したい」「相手の財産に期待していない(むしろ借金がある)」など、放棄を検討する理由は様々です。
任意の放棄は可能
結論から言うと、当事者の意思があれば、財産分与の放棄は可能です。
財産分与は、法律上の「義務」ではなく、請求する側に与えられた「権利」です。そのため、請求せずに放棄することは自由です。「放棄」とは、つまり「請求しない」という意味なので、夫婦の合意は不要であり、相手の同意がなくても財産分与請求権を放棄できます。
請求せず放置してもよいですが、明示的に「放棄」するには、離婚協議書で「財産分与を請求しない」旨を記載し、清算条項(互いに債権債務がないことの確認)を付けることで後々のトラブルを防げます。口約束は証拠に残らないので、後から「合意していない」と主張される事態に備え、書面で残しておきましょう。
離婚協議書を公正証書にすれば、更に強い法的効力があります。分与を請求しないなら「裁判を経ずに強制執行できる」というメリットは小さいですが、「脅された」「強要された」「騙された」といった紛争を防ぐことができます。
「離婚協議書の書き方」の解説

財産分与の放棄は裁判所でどのように判断される?
財産分与を放棄したことが、裁判所でどう評価されるかも知っておきましょう。
財産分与を請求する側が権利を行使せず、または放棄すると協議書に定めた場合、裁判でも有効な意思表示であると評価されます。しかし、その意思が「任意」のものか争いになり、経済的に弱い立場にある側の放棄が「強要ではないか」と見られると、裁判で「無効」と判断される可能性があります。財産分与は、離婚時の夫婦の公平が目的なので、一方に有利な主張は、協議書や公正証書などの証拠がないと認められないおそれがあります。
「無理やり放棄させられた場合の対応」の通り、財産隠しがあったり、強要や脅迫があったり、著しく非常識な内容だったりすると、財産分与の放棄は「取消し可能」もしくは「無効」と判断される可能性があります。
この場合、財産分与の請求権は、離婚後2年間は有効なので、離婚時の放棄が無効と判断されれば、後から請求することができるようになります。
「離婚後の財産分与請求」の解説

財産分与を放棄すべきケースとその理由

原則は、受け取れる財産は可能な限り請求すべきですが、複雑な離婚のトラブルの中には、財産分与を放棄した方がよいケースや、積極的に放棄すべきケースがあります。財産分与は、夫婦の公平のための制度ですが、状況によっては放棄する方が有利に働くこともあります。
後になって「放棄しなければよかった」と後悔しないよう、財産分与を放棄する目的や理由を明確化しておくことが重要なポイントです。
財産分与の放棄を検討すべきケースは、例えば次の通りです。
早期の離婚を優先したい場合
第一に、早期の離婚を優先するなら、財産分与を放棄すべきです。
財産分与の話し合いが長引くと、離婚成立に時間がかかるおそれがあります。特に、財産分与は離婚条件の中でも高額化しやすく、大きな争いになります。多くの財産を持つ人ほど「妻に分与したくない」などと考えるので、交渉で解決せず、調停や裁判に発展するケースもしばしばです。早く別れたいなら、財産分与を請求せず、速やかに離婚手続きを進めるのも選択肢の一つです。交渉の激化を避けられれば、離婚に伴う精神的負担も軽減できます。
財産分与を徹底して争うとどのような手続きになるか、どれくらいの時間がかかるかは、弁護士に相談しながら判断するのがお勧めです。
「離婚までの流れ」の解説

借金を分与されてしまう場合
第二に、借金を分与される危険があるとき、財産分与は放棄すべきです。
財産分与は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金)も対象です。夫婦で共に負担していた住宅ローンやカードローン、事業資金などの債務が分与されるおそれがあります。相手の資産が少なく負債が多いとき、財産分与を求めるとかえって不利になります。財産分与を放棄することで、借金の分与からも逃れられるなら、相手に借金のあるケースは放棄を検討すべきです(子供が借金を承継しないためには、相続放棄も必要です)。
ただ、住宅ローンなどの連帯保証人になった場合、離婚しても保証債務は消えません。「財産分与を放棄する代わりに保証人から外してほしい」と交渉するのも一つの方法です。
なお、夫婦の生活のためにした借金は財産分与の対象となりますが、個人的な借金(ギャンブルや浪費、趣味、事業のための借り入れなど)は、分与の対象外とされるのが基本です。
「借金を理由とする離婚」の解説

他の離婚条件の交渉材料とする場合
最後に、財産分与以外の離婚条件の交渉材料とする場合です。
他の離婚条件に関する争いの方が優先度が高いとき、「財産分与を放棄する代わりに、他の離婚条件で譲歩してほしい」と要求するケースです。相手が支払う財産分与が高額なほど、放棄すれば、他の条件についてあなたの希望が叶えられる可能性が高くなります。
- 養育費の増額交渉
財産分与を放棄する代わりに、相手に養育費の増額を求めるケース。一括でまとまった額を受け取る財産分与よりも、子供が成熟するまで安定した収入を確保する方が有利な場合もあります。 - 慰謝料の増額交渉
財産分与を放棄することを条件に、慰謝料を上乗せしてもらうケース。不貞やDVの責任を認める点を強調したり、相手に「財産分与なしで済むなら慰謝料を払う」と妥協させるための交渉材料として用いられます。 - 有責配偶者の離婚
浮気や不倫など、婚姻関係を破綻させた側(有責配偶者)の離婚は、8年〜10年の別居期間を要するのが裁判実務ですが、早期離婚のために財産分与の放棄を条件として相手に離婚を同意してもらうケースがあります。 - 親権や監護権の確保
財産分与を請求すると、相手が親権や監護権を主張してくるおそれのあるケースで、あきらめてもらう代わりに財産分与を放棄することがあります。 - 離婚後の住居の確保
自宅不動産の確保を優先するために、他の財産の分与を放棄するケース。住宅ローンが残る場合は、名義変更やローンの引き継ぎが可能か検討を要します。
ただし、法的には「財産分与を放棄したから」といって、他の条件が希望通りに実現できるわけではありません。親権・監護権のように金銭換算できないものは、相手も譲歩できないことが多いです。この場合、こちらが財産分与を放棄するだけにならないよう、必ず離婚協議書を作成して、書面で合意内容を明らかにしなければなりません。
「離婚時の財産分与」「離婚に伴うお金の問題」の解説


財産分与を放棄する際の注意点

次に、「財産分与を放棄する側」の立場で、放棄時の注意点を解説します。
離婚後の生活資金を確保する
財産分与を放棄するときは、離婚後の生活設計をよく考えましょう。専業主婦(主夫)は特に、財産分与を放棄することで離婚後の生活資金が枯渇しないか、慎重に検討すべきです。熟年離婚の場合など、婚姻期間が長いほど夫婦の「共有財産」への貢献は大きく、財産分与を安易に放棄すると、老後資金にも影響するおそれがあります。
子供のいる夫婦は、財産分与を放棄することを選択するなら、養育費の取り決めをしっかりと行い、継続的な収入を確保することが重要です。
「養育費が支払われないときの対応」の解説

財産の詳細を確認してから放棄する
相手の財産や借金の状況を十分に確認せずに放棄すると、後から「予想外に多くの財産があった」「なぜ放棄したのだろうか」と後悔するおそれがあります。したがって、離婚前に、財産の内容をしっかり把握しておくことが大切です。財産分与の対象となる「共有財産」は、財産目録を作成して、明確に整理しておきましょう。
一旦放棄すると、再び財産分与を求めることはできません。焦って放棄を決めるのではなく、メリットとデメリットを比較し、損得を見極めてください。財産分与を放棄することによる損得の分析では、次の点を考慮しておきましょう。
- 他の離婚条件で譲歩してもらえるか
離婚条件について、自分と相手の希望を表にして、放棄することで得られる譲歩が得になっているかどうか、戦略的に検討してください。 - 税金の問題
金銭的な損得に、税金が絡むことがあります(例:慰謝料なら非課税だが、財産分与として不動産を受け取ると不動産取得税がかかる)。 - お金に換えられない問題がある
親権や監護権、面会交流など、金銭換算できない条件を優先すべき場合があります。 - 将来受け取る金銭の「現在価値」の問題
将来的に受け取れる金銭より、今すぐもらえるお金の方が価値が高いです。早くもらった方が利息分だけ得なので、将来の分割払いなどを検討する場合は、「現在価値」に引き直す(利息分を控除する)べきです。
無理やり放棄させられた場合の対応
放棄後は、「やはり請求したい」と考えても、一度放棄した財産分与を撤回できないのが原則です。ただし、不当な圧力を掛けられて無理やり放棄させられた場合や、財産隠しがあって騙された場合などは、財産分与の放棄を撤回できます。
例えば、次のケースは、改めて財産分与を請求することが可能です。
相手が高圧的に財産分与の放棄を求めてくるときや、放棄の判断を焦らせてくるとき、実はあなたが思っている以上の財産があり、高額の分与を請求できる可能性があります。したがって、焦って判断せず、徹底して調査しなければなりません。
「相手の財産を調べる方法」の解説

財産分与を放棄させる方法

最後に、「財産分与を放棄させる側」の立場で、放棄させる方法を解説します。
財産分与は夫婦の公平のためにあるので、強引に進めても「無理やり放棄させられた場合の対応」の通り無効となってしまいます。有効に放棄させたいなら、相手が納得する理由を説明したり、代替案や譲歩を提示して交渉するのが適切です。
財産分与を放棄するメリットを伝える
まず、話し合いで相手に財産分与を放棄させるには、放棄すべき理由やメリットを伝えることが重要です。離婚の話し合いは感情的になりやすく、特に「財産分与を放棄してほしい」という要求は、相手を刺激する可能性が高いです。冷静かつ論理的にメリットを伝えるのが効果的です。
「財産分与を放棄すべきケースとその理由」のように、「速やかに離婚できる」「借金やローンの負担が避けられる」「養育費や慰謝料を増額することができる」といった提案の中から、状況に応じてメリットを提案してください。
相手が同意したら、合意を証拠化するため、離婚協議書を作成しましょう。財産分与を放棄する際の離婚協議書の書き方は、次の文例を参考にしてください。
第◯条(財産分与の放棄)
甲は、乙に対する財産分与請求権を放棄する。
第◯条(清算条項)
甲及び乙は、双方の間に、本書面に定めるほか、一切の債権債務が存在しないことを相互に確認する。
相手が「強要された」と主張するおそれがあるときは、公正証書化しておけば、裁判になった際にも有力な証拠として活用できます。
「離婚協議書を公正証書にする方法」の解説

放棄の見返りを提示する
財産分与を放棄させるために、引き換えに別の利益を提供する方法もあります。
代替案としては、慰謝料の増額、養育費の増額などが考えられます。また、「不動産は分与したくない」というとき、「預貯金を分与する」という交換条件を提示することで、住宅の所有権は自身に確保する手もあります。逆に、財産の総額が大きいとき、相手が確保したい「自宅に住み続けられる」という利益を提示するのと引き換えに、その他の財産分与を放棄させる例もあります。
いずれにしても、交渉は相手の気持ちを考えながら進めなければなりません。離婚後の夫や妻の生活にも配慮すべきであり、無理な条件を押し付けても、放棄に応じてはもらえません。
「協議離婚の進め方」の解説

財産分与の請求期限を利用する
財産分与の請求権は離婚後2年間であり、この期限を過ぎると、請求権が消滅します(民法768条)。相手が財産分与をせずにいたとき、2年間何もなければ、法的にその後の請求はできません。
これを利用して、相手が財産分与について明確な主張をしない場合には、交渉を長引かせ、請求期限が過ぎるのを待つという戦略もあります。ただし、意図的に長引かせたり、財産を隠したりするとトラブルの原因となります。放棄させる側に悪意があるときは、公平の観点からして、期限を過ぎても請求が認められるリスクもあるので、慎重に対応する必要があります。
「財産分与は2年経過後でも請求できる?」の解説

まとめ

今回は、財産分与を放棄できる理由や方法、放棄時の注意点を解説しました。
財産分与は、高額となることが多く、非常に重要な離婚条件の一つです。しかし、離婚問題は、全ての条件を総合的に考慮する必要があり、財産分与を放棄する方が、結果的に良い解決となるケースもあります。財産分与に固執しすぎず、総合的に有利な解決を目指すべきです。
一方で、相手に財産分与を放棄させたいなら、その理由やメリットをしっかりと説明して、相手の気持ちに立って考える必要があります。
財産分与の絡む複雑な離婚トラブルこそ、ぜひ弁護士に相談してください。
- 財産分与は、自由な意思で放棄することができる
- 放棄する際は、早期離婚や他の離婚条件など、メリットと比較して検討する
- 無理やり放棄させると、意思表示の取消しを請求されるおそれがある
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財産分与は、結婚期間中に形成された資産を整理し、公平に分割するための重要な手続きです。財産の評価方法や分割の割合などが争われると、法律知識に基づいた解決が必要となります。
トラブルを未然に防ぐために、以下の「財産分与」に関する詳しい解説を参考に対応してください。