離婚調停の呼出状と共に、家庭裁判所から答弁書の提出を指示されます。
突然の通知に戸惑い、「どう書けばいいのだろうか」「何を主張すればいいのか」と不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
離婚調停の答弁書は、自分の考えを調停委員や相手方に正確に伝えるための大切な書面です。一方で、感情的な内容や不適切な表現をすれば、調停がスムーズに進まなくなったり、自分に不利な印象を与える危険もあります。
今回は、離婚調停における「答弁書」の役割や法的な意味、記載のポイント、実際の記載例までを弁護士が解説します。調停を有利に進める第一歩として参考にしてください。
- 答弁書は、調停を申し立てられた側(相手方)の主張を伝える重要書面
- 離婚調停の答弁書では、感情的な表現は避け、冷静に争点を明確にすべき
- 弁護士に相談すれば、答弁書作成に加え、調停同席も、戦略的に対応可能
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離婚調停における答弁書とは

はじめに、離婚調停における答弁書の基本について解説します。
夫婦間で、離婚するかどうかの協議が決裂した場合、調停に移行します。この際、離婚を求める側(申立人)が提出する「申立書」に対し、争う側(相手方)が提出するのが「答弁書」です。つまり、離婚調停の答弁書は、離婚を争う側(相手方)の主張を、端的に伝える書面です。
答弁書の役割
離婚調停における答弁書とは、調停を申し立てられた側(相手方)が、自らの意見や主張をまとめた書類のことを指します。答弁書では、調停を申し立てた側(申立人)の主張に対して認否を記載したり、反論を展開したりします。
離婚調停では、答弁書の提出は法的な義務ではないものの、家庭裁判所は、相手方の主張を知り、争点を整理するために、必ず提出を求めてきます。当事者においても、自分の意見や考えを文書で整理し、調停委員や裁判官にあらかじめ伝えることで、今後の調停の進行をスムーズに進める助けとすることができます。
答弁書を提出する理由
離婚調停における答弁書は、調停委員や相手に自分の立場や意見を事前に伝えるための書類です。また、調停を円滑に進めるためにも重要になります。
答弁書を提出する主な理由は、次の通りです。
- 自分の立場や意見を事前に明示する
答弁書を提出することで、調停を申し立てられた側(相手方)の考えや希望を、調停委員や裁判官に事前に正確に伝えることができます。口頭だと感情的になったり誤解を生んだりするリスクがありますが、書面であれば事前に冷静に読んでもらえます。 - 調停を円滑に進めることができる
答弁書は、家庭裁判所における調停期日の進行を、できるだけ効率的に進める助けになります。限られた時間の中で、調停委員が双方の話を聞き、意見調整を図るために、事前に提出された答弁書の情報を参考にすることができるからです。 - 客観的に争点を整理できる
答弁書で主張を明らかにすれば、夫婦の主張が食い違う部分を明らかにし、あらかじめ争点整理をしておけます。離婚に同意しているか、面会交流や養育費の方針、財産分与や慰謝料についての考え、といった条件ごとに意見をまとめましょう。
このような役割があるので、答弁書を提出しないと、調停委員から「準備不足である」「夫婦間の問題に真剣に向き合っていない」という印象を与えるおそれがあります。答弁書の提出を怠ると、非協力的である、誠意がないといった評価を下されて、調停委員が自分の主張を十分に反映してくれないおそれもあるので注意してください。
準備は手間ですが、答弁書の不提出は、離婚調停の流れを自分にとって不利なものにするおそれがあることをよく理解すべきです。
「離婚調停を申し立てられたら?」の解説

答弁書の提出期限と提出先
答弁書の提出期限に法律上のルールはありませんが、通常は、指定された調停期日の1週間前が目安となります。この期限は、調停委員が内容を精査し、準備をするために必要な時間を考慮してのものなので、遅れると円滑な進行を妨げるおそれがあります。
提出方法は、裁判所窓口に持参する方法、郵送による方法、FAXで送付する方法のいずれでも構いません。いずれの場合も、答弁書の写し(副本)を相手にも送ります。
なお、提出した答弁書の写しは手元に残しておきましょう。調停期日では、答弁書の内容も踏まえて調停委員とやり取りをするため、確認できるようにしておく必要があるからです。
「離婚調停の流れ」の解説

離婚調停の答弁書の作成手順

次に、離婚調停の答弁書を作成する手順を解説します。
裁判所から送付された書類を確認する
離婚調停の申立てを受けると、家庭裁判所から以下の書類が届きます。
- 呼出状(調停期日の日時・場所の指定)
- 調停申立書の写し(申立人の主張が記載された書面)
- 答弁書用の様式
- 事情説明書
- 子についての事情説明書(未成年の子がいる場合)
- 連絡先などの届出書
- 調停手続に関する説明書面
これらの書類を見落とさず、一通り目を通すことが第一歩です。
呼出状には離婚調停の日程が記載されているので、出席できるか確認してください。また、申立書を読み込んで、相手が何を主張しているのか、どの点に争いが生じそうなのかを確認してください。
「離婚までの流れ」の解説

申立書で相手の主張を把握する
答弁書は、相手の主張に対する反論なので、適切に書くためには、まず相手(申立人)がどのような主張をしているかを正確に把握することが欠かせません。
特にチェックすべきなのは、申立人が離婚を望む理由です。
例えば、性格の不一致、家庭内暴力(DV)、不貞、長期間の別居など、申立人の主張を知ることができます。これに対して、あなたが「事実と異なる」「一方的だ」と感じるなら、答弁書での反論は必須です。逆に、ある程度は内容を認めて、自分なりの事情を補足したい場合にも、答弁書にそのように記載しておくことができます。
また、離婚するかどうかだけでなく、親権や養育費、面会交流、財産分与や慰謝料など、相手が求める離婚条件も把握しておきましょう。
「法定離婚事由」の解説

争点ごとに意見や希望を整理する
相手の主張を理解できたら、争点ごとに意見や希望を整理します。
答弁書は、あなたの考えをまとめて調停委員に伝える書面なので、争点を整理して、立場を明確にしておくことが重要です。
離婚するかどうか
まずは、自分が本当に離婚したいかどうかを考えてください。
離婚に同意するなら、答弁書では条件面の主張をすべきですし、離婚に同意しないなら、そもそも希望しない理由を答弁書にしっかり記載すべきです。「まだ決めかねている」という場合は、「現時点では離婚を決断できない」と率直に記載しても問題ありません。
離婚条件に関する考え
離婚に応じる方針なら、子供に関する条件(親権・面会交流・養育費など)とお金に関する条件(財産分与・慰謝料など)の希望について、答弁書にしっかり記載しましょう。
特に、親権が争いになる離婚調停は長期化し、離婚裁判(離婚訴訟)に発展しやすいです。家庭裁判所は「どちらが子の福祉に適しているか」を基準に判断するので、感情だけでなく監護状況に基づいた説明をすることが大切です。
解決の方針について
離婚調停では、法律に基づいた正しい解決でなくても、現実的な妥協点を夫婦の話し合いで探ることもできます。この場合、答弁書でも、あなたの希望として「これくらいの金額までなら譲れる」などと記載しておくことで、調停を円滑に進める助けとすることができます。
「離婚に伴うお金の問題」「子供がいる夫婦の離婚」の解説


提出期限からスケジュールを立てる
調停期日の1週間前が答弁書の提出期限だとすれば、その少なくとも1週間前には、草案の作成に取り掛かるのが理想です。答弁書に意見をまとめた結果、それを基礎づける証拠がある場合には、調停期日までに集めておく必要もあります。
また、離婚の争いが複雑だったり、感情的対立が激しかったりすると、自分だけでは答弁書作成が困難なこともあります。この場合、自分が不利にならず、しっかりと主張を伝えられるよう、早めに弁護士に相談するのがお勧めです。
弁護士は、書面作成だけでなく、調停当日の同席やアドバイスなど、戦略的にサポートすることができます。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

離婚調停の答弁書の書き方

離婚に対する自分の主張が固まったら、実際に答弁書を書いていきます。この際の構成や書式、記載すべき内容についても解説しておきます。
答弁書全体の構成と書式
離婚調停の答弁書は、家庭裁判所のサイトでひな形を入手するか、呼出状に同封されてくる書式を活用することができます。
裁判所の様式によれば、相手(申立人)や自分(相手方)の氏名・住所、事件番号といった基本的な情報のほかに、申立ての趣旨に対する答弁などを記載します。その他、申立書に記載されている情報に誤りがある場合には、答弁書で指摘し、反論することも可能です。
答弁書に記載すべき内容
離婚調停の答弁書に必ず記載すべき内容は、次の通りです。
- 裁判所名、事件番号など
呼出状に記載された内容を正確に転記する。 - 申立人、相手方の氏名
- 申立ての趣旨に対する答弁
離婚に同意するかどうか、親権はいずれが持つべきかについて、自分の考えを記載します。 - 答弁の理由
離婚調停の答弁書の中心的な部分です。離婚や別居に至る経緯、離婚に応じる理由、応じない理由、親権や面会交流、養育費に関する希望、財産分与や慰謝料に関する意向などを具体的に記載しておきましょう。
事実関係を記載する場合は、「いつ・どこで・何があったか」を、明確かつ具体的に記載するのがポイントです。
離婚調停の答弁書を作成する際の注意点
答弁書は、相手や調停委員に、離婚に関する考えを伝える重要な書面です。
そのため、自分の主張が伝わらなかったり、誤って伝わったりすることのないよう、細心の注意を払って作成してください。
簡潔で分かりやすい表現を心がける
離婚調停の答弁書は、簡潔で分かりやすい表現を用いてください。
長文で複雑な書き方では、自身の考えが調停委員にうまく伝わらない、もしくは誤解されるおそれもあるためです。委員の読みやすさも考え、離婚調停に至る経緯を時系列でまとめて整理しましょう。
なお、相手の主張が事実と大幅に食い違っていたり、主張したいことが多かったりする場合は、別紙に記載して提出することも可能です。
感情的な記述を避ける
離婚調停の答弁書で、感情的な表現を使うのは逆効果になります。
調停委員に大切な事実が伝わりづらくなる上に、根拠もなく相手を一方的に貶めたり、自分の意見に終止していたりする表現は、名誉毀損と判断されるおそれもあります。必ずしも違法でなくても、調停委員からのイメージは悪化するでしょう。
主張を裏付ける証拠を添付する
答弁書で主張する内容に説得力を持たせるには、裏付けとなる証拠を添付することが非常に重要です。例えば、離婚調停では、以下の証拠を検討してください。
- 不貞の証拠となる写真や動画
- 夫や妻とのLINEやメールのやり取り
- 収入を基礎づける資料(給与明細、源泉徴収票など)
- 医療機関の診断書
- 相手の財産を証する資料(預金通帳、不動産登記簿謄本など)
調停委員が見やすいよう証拠番号を付け、合わせて証拠説明書を提出します。
「離婚裁判で証拠がないときの対処法」の解説

答弁書の提出方法とその後の流れ

答弁書が完成したら、家庭裁判所に提出した上で、調停当日に向けた準備をしてください。以下では、離婚調停の答弁書の提出とその後の流れを解説します。
答弁書と一緒に提出すべき書類
答弁書を裁判所に提出する際は、以下の書類も一緒に提出しましょう。提出期限までに漏れなくそろえられるよう、余裕を持って準備してください。
- 事情説明書
調停に先立って、事前に当事者の基本情報を提供するための書類。 - 子についての事情説明書
未成年の子がいる場合、裁判所が子供の状況を把握するために提出する書類。 - 財産目録
財産分与の計算を行う際の基礎となる情報を記載した書類 - 戸籍謄本(全部事項証明・3ヶ月以内)
- 年金分割のための情報通知書
離婚とともに年金分割における按分割合に関する調停を求める場合に必要。
「離婚調停の陳述書の書き方」の解説

当日の調停期日の対策を行う
調停に臨む前に、自分の希望を口頭でしっかりと伝えられるよう、答弁書を再度読み込んでおきましょう。答弁書の内容を説明できないと、その後の展開が希望に沿うものになりません。また、どこまでなら譲歩できるか、調停が不成立になった場合にどうするかなど、相手の希望とも照らし合わせてシミュレーションをしておいてください。
早期離婚を優先する場合には、希望の条件についてある程度は妥協せざるを得ないこともあります。一方で、親権など、どうしても譲れない離婚条件について当事者の意向が対立するときは、調停不成立として離婚裁判(離婚訴訟)に移行すべきケースもあります。
「離婚調停の服装」「離婚調停中にやってはいけないこと」の解説


離婚調停の答弁書のよくある質問
最後に、離婚調停の答弁書について、よく寄せられる質問に回答しておきます。
離婚調停の答弁書を弁護士に相談するメリットは?
離婚調停の答弁書は、裁判の訴状ほど厳格なものではありませんが、法的な観点から不備がなく、不利な内容になっていないかを弁護士にチェックしてもらうことは有益です。弁護士に相談することには、以下のメリットがあります。
- 離婚について、法的に有利な主張を知ることができる。
- 相手の主張が法的に妥当か、一方的なものかを検証できる。
- 記載すると将来不利になる表現を回避できる。
離婚問題は、当事者の感情が衝突し、答弁書にはどうしても感情的、主観的な記載が盛り込まれがちです。弁護士に依頼すれば、感情に整理をつけながら、調停委員に有利に伝わりやすい内容とすることができます。
あわせて、調停期日に同席してもらい、調停の進行や主張・反論について、法的観点からのアドバイスを受けながら進めることができます。
「離婚調停を弁護士に依頼するメリット」の解説

離婚調停で答弁書を提出しないとどうなる?
離婚調停は、訴訟とは異なり、答弁書の提出は義務ではありません。
答弁書を提出せずに調停を欠席したとしても、相手の主張を認めたものとして扱われることもありません。ただ、期日前に自らの主張を伝えられるチャンスを放棄するに等しく、不利な流れになるおそれがあります。
答弁書を提出しないと、調停期日における委員からの質問について、準備なく答えざるを得ないリスクがあります。そして、「非協力的な態度」「準備不足である」と受け取られて、信頼を損なうこともあります。
つまり、答弁書の不提出は、法的には問題ないものの、事実上、自らを不利な立場に置くリスクを抱えてしまうので、可能な限り提出すべきです。
「調停委員を味方につけるには?」の解説

まとめ

今回は、離婚調停における答弁書について詳しく解説しました。
離婚調停における答弁書は、調停委員や相手方に、自身の立場や考えを正確かつ簡潔に伝えるための重要な書類です。主張すべきポイントを整理し、感情的な表現を避けて事実を明記すれば、調停を円滑に進める助けになります。
突然に調停を申し立てられ、「答弁書をどう書いたらよいか分からない」と感じる方は、早めに弁護士へ相談することが重要です。答弁書の提出は、調停手続きの始まりに過ぎません。しかし一方で、今後の方向性や結果に大きな影響を与えます。
弁護士に相談すれば、単なる答弁書の書き方のみにとどまらず、離婚調停を有利に進めるためのポイントを教えてもらうことができます。
- 答弁書は、調停を申し立てられた側(相手方)の主張を伝える重要書面
- 離婚調停の答弁書では、感情的な表現は避け、冷静に争点を明確にすべき
- 弁護士に相談すれば、答弁書作成に加え、調停同席も、戦略的に対応可能
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離婚調停を有利に進めるには、財産分与や親権、養育費、不貞行為の慰謝料請求など、状況に応じた法律知識が必要です。お悩みの状況にあわせて、下記の解説もぜひ参考にしてください。
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