夫婦関係が悪化して、離婚に向けて別居をスタートするとき、「子どもを連れて出たほうがよいのか」という不安についてよくご相談を受けます。妻側(女性側)で、子どもが幼いとき、「大切な子どもを、かならず連れて出たい」という希望が強い方が多いです。
離婚のときに親権を確実にとるためにも、子どもを連れて出る、いわゆる「子連れ別居」がおすすめです。
しかし、別居されて残された配偶者もまた、子どもに愛情があるのは当然です。そのため、子どもを連れて別居しようとするときには、夫婦間の対立がさらに激化することがすると予想されます。
今回は、子どもを連れて別居しようとしている方に向けて、子連れ別居から離婚に進めていくために知っておきたいポイントについて、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。
- 離婚時に親権をとりたいときは、子どもを連れて別居すべき
- 子どもを連れて別居するときのデメリットを解消するため、事前にしっかりと準備して進める
- 子どもの連れ去りという非難を受けず、子どもの心身に悪影響を与えないことが大切
なお、離婚前の別居について、深く知りたい方は、次のまとめ解説を参考にしてください。
子どもを連れて別居するケース(子連れ別居)とは
夫婦関係がうまくいかなくなっても、子どもに対する愛情は、夫婦のどちらも変わらず持ちつづけていることが多いです。
重要な離婚条件の1つとして、「親権」を家庭裁判所で争うこととなってしまったとき、実務的には、「現状、どちらが子どもを養育しているか」、つまり、過去の監護実績という要素がとても重視されます。家庭裁判所では、親権は「子の福祉」を基準に判断されていて、養育環境を大きく変えないことが、子どものためになる場合が多いと考えられているからです。
家庭裁判所の親権判断では、「母性優先の原則」、「現状維持の原則」、「兄弟姉妹不分離の原則」が基本となっているところ、現状維持の原則において有利な判断を受けるために、子連れ別居をしなければならないわけです。
そのため、「離婚に向けて別居したいが、親権は渡したくない」と考えるとき、子どもを連れて別居をするのがおすすめです。一方、子どもを連れて出ていかれてしまった側は、とても大きな喪失感を感じ、激しく抵抗をしてくることもあります。
このようなケースが、いわゆる「子連れ別居」の問題の典型例です。
多くの夫婦では、子どもが幼いうちは妻側(女性側)が育児を担当し、別居するときにも家を出ていくことが多いため、子どもを連れて別居をするケースでも妻側(女性側)の相談が多いです。ただ、現在は夫側(男性側)が育児を担当する家庭が増えており、逆側の立場でも、今回の解説と同じことがあてはまります。
子どもを連れて別居するときの注意点
子どもを連れて別居し、別居後も監護実績をつみあげておけば、親権争いに有利にはたらきます。しかし、子連れ別居をするときには多くの注意点があります。
準備なしに安易な子連れ別居をすると、次のデメリットを受けるおそれがあります。
- 残された配偶者の反感を買う
- 感情的に離婚を反対され、離婚協議が進まない
- 警察へ通報するなど問題が拡大してしまう
- 「子の連れ去り」と評価されてむしろ親権争いに不利になってしまう
そのため、ここでは子どもを連れて別居をするときに、特に注意しておいてほしいポイントを解説します。
子どもに必要な荷物はすべて持ち出す
子どもを連れて別居すると、相手の反感をかってしまい、話し合いが円満に進まないおそれがあります。そのときにも、最悪でも子どもの環境には影響を与えないよう、必要な荷物はかならず持ち出すようにしてください。
別居時の荷物持ち出しでは、現金・預貯金通帳などの貴重品類、運転免許証・パスポートなどの身分証の持ち出しが必須であるほか、子どもを連れて別居するとき持ち出したほうがよい荷物として、次のものをチェックしておいてください。
- 子どもの分の身分証(健康保険証、マイナンバーカードなど)
- 子どもの常備薬
- 子どもの教育に必要なもの(教科書、筆記具など)
- 子どもの思い出の品(写真・アルバム、子どもの作った物など)
- 子どもが安心感を感じる物(お気に入りのおもちゃ、毛布など)
なお、別居時の荷物持ち出しについては、次の解説もご覧ください。
連れ去りといわれないための対策
「子どもの連れ去り」は違法であり、行ってはなりません。子どもを連れて別居することが、「子どもの連れ去り」にあたるかどうかはとても難しい問題ですが、子どもの生活が安定しているのに、その状態をこわしてしまうと、違法とされる可能性が高まります。
残された配偶者から、子どもの連れ去りだと非難されると、警察に通報されたり、親せきや友人にしつこく連絡をされて行方を捜されてり、保育園や学校で待ち伏せされたりといった危険もあります。そのため、「連れ去りではないか」という反論を受けないよう準備が必要です。
具体的には、別居をしたらすぐに連絡して、子どもの身の安全を伝え、今後の手続きの流れについて説明する、というのが重要なポイントです。DV・モラハラが存在するケースのように、自分で直接連絡することに精神的苦痛が大きい場合には、弁護士を代理人として代わりに連絡してもらうのが有効です。
子どもに会えない相手にも配慮する
残された配偶者の側でも、「自宅に帰ってきたら、もぬけの殻だった」とすれば、喪失感はとても大きいと予想されます。今後離婚に向けて進む場合、少しでも相手との信頼関係が回復できるよう、相手の気持ちへの配慮も必要となります。
夫婦関係が悪化したとき、「相手に会いたくない」という気持ちは当然でしょうが、「子どもを会わせたくない」というのはあくまでもあなたの気持ちであり、子どもの気持ちを尊重した対応をすべきです。
家庭裁判所の実務でも、親権や面会交流の争いは、「子の福祉」を基準として検討されるのであり、親の気持ちにしたがうわけではありません。
DV・モラハラ・虐待がある場合の対応
DV・モラハラがある事例のように相手の協力が期待できないケースや、子どもへの虐待がある事例のように子どもに危険が及んでしまうケースでは、子どもを連れての別居を特に急がなければなりません。
身の安全を最優先に考えなければなりませんが、DVや虐待についてはできるだけ証拠を残しておくのが重要なポイントです。このことは、離婚において親権・監護権を必ず勝ちとるのはもちろん、慰謝料請求をする際にも役立ちます。
DV・虐待の証拠として、次のような資料を準備してください。
- DV・虐待している音声の録音
- DV・虐待行為の録画
- DV・虐待によって受けた傷の写真
- DV・虐待の状況をその都度記録した日記
なお、特にDV・モラハラ・虐待があるときは、別居の影響を小さくするためにも、適切な別居先の選定が重要です。
子どもの環境への影響を最小限にする
次に、子どもの養育環境への影響を最小限にするために、子どもをつれて別居を開始した親が行っておくべき対策について解説します。
注意点をきちんと守って別居すれば、子連れ別居のデメリットをかなり回避できます。しかし、「別居をするのは子どもにとってかわいそうだ」といった意見もあるように、夫婦の別居は、子どもの感情面にも大きな影響を与えます。そのため、子どもの気持ちの面でのケアも必要です。
保育園・学校の問題
夫婦の離婚問題が、子どもの教育環境に悪影響を及ぼすことは避けなければなりません。そのため、子どもを連れて別居をするとき、子どもの通う保育園、学校の問題について事前準備が必要です。
別居先が同一学区内であれば、住所の届出を行うほかは通園・通学には影響がありません。これに対して、遠方に別居するケースでは、別居しても通園・通学できるかどうか、また、転校させる場合には、住民票をすみやかに移すなど、編入要件を早く満たすよう手続きを進める必要があります。
子どもへの伝え方
夫婦が仲良くなくて家庭内別居が長く続いていたり、夫婦喧嘩でお互いにののしりあったりといった家庭環境は、子どもの精神に悪影響なのは当然です。さらに別居ともなれば、精神が不安定となってしまう子もいます。
子どもの気持ちへの影響を最小限にするためには、「別居することについて、いつ、どのように子どもに伝えるか」がとても重要です。子どもに別居をつたえるときのポイントは、常に笑顔で話しかけ、子どもが自分を責めてしまわないよう「あなたの責任ではない」とつたえ、夫婦ともに子どもへの愛情は変わらないことをきちんとつたえることです。
このことを示すために、たとえ子連れで別居をした後でも、面会交流のルール作りをしたり誕生日やクリスマスにはプレゼントを贈ったりするのが有効です。子どもがある程度の年齢になっているときは、自由に行き来させることも効果的です。
夫婦の険悪な関係、自分の気持ちを子どもに押し付けることのないよう注意が必要です。
子どもを連れて別居した後の経済面の不安を解消する方法
子どもを連れて別居後に困窮してしまわないよう、経済面の不安を解消する方法について解説します。
子どもを連れて別居するとき、別居後の経済面での不安が頭をよぎる方も多いのではないでしょうか。子連れ別居後にお金がなくなってしまうと、通園・通学できなくなったり習い事をやめねばならなくなったりして、子どもの発育に悪影響です。
婚姻費用の請求
別居後は、収入の少ない配偶者は、収入の多い配偶者に対して、別居後の生活費を請求することができます。
別居後の生活費を「婚姻費用」といい、これを請求することを「婚姻費用分担請求」といいます。婚姻費用は、配偶者の生活費であるとともに、子どもの生活費や、養育に必要となる費用を含んでいます。
子どもを連れての別居が相手の反感をかってしまったとき、「勝手に別居したのだから、生活費は支払わない」と反論されてしまうことがありますが、このような主張は通りません。子どもへの愛情が残っていると期待して話し合っても解決できないとき、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停の申立てを行うようにしてください。
児童手当の受給者変更
児童手当は、中学校卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)の児童を養育していると支給される公的給付です。
児童手当は、子どもを養育するのに充当すべき重要な給付ですが、配偶者のうち収入の多いほうが受給者となっているケースがほとんとです。そのため、子どもを連れて別居するときは、受給者を変更するために相手の協力が必要となります。
相手が任意に協力してもらえるよう、子どもに会えない相手の気持ちにも配慮しながら粘り強く交渉するのが大切です。
児童扶養手当の受給
児童扶養手当は、離婚などによって生じたひとり親家庭の生活の安定と自立の促進のために給付される公的給付です。
18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある児童(もしくは、20歳未満で政令の定める程度の障害の状態にある方)を監護、養育している場合に受給することができますが、原則として、婚姻期間中は受給することができません。
例外的に、父または母が裁判所からのDV保護命令を受けた場合や、父または母の生死が明らかでない場合といったケースでは、婚姻期間中でも受給できる場合があるため、要件を満たす場合には検討しておくべき給付です。
子どもを連れて別居後、連れ去られてしまったら?
子どもを連れて別居をした後で、相手が子どもを連れ去ってしまうケースもあります。保育園の前で待ち伏せし、連れ去ってしまうという悪質な事例もあります。
たとえ親権や面会交流などに争いがある事例でも、このような強硬手段で安全をおびやかすのは許されません。
子どもの連れ去り事例は、緊急性が高く、家庭裁判所でも専門の法的手続きが準備されています。それが「監護者指定」と「子の引渡し」です。これらはいずれも審判という手続きですが、緊急性が高いため、審判の申立てとともに「審判前の保全処分」という、よりスピーディに審理が進む手続きを併用するのが実務です。
相手に子どもを連れ去られたからといって、連れ去りかえそうと強引な手段をとると、結果的に不利になるおそれもあるため、法律で認められた適切な手段をとるのが重要なポイントです。
また、「まだ連れ去られてはいないが、DV・虐待があったので危険だ」というケースでは、相手が近づいてこないようにするために、DV防止法に基づく保護命令手続や、接近禁止の仮処分を裁判所に申し立てるといった対策があります。
まとめ
子どもを連れて別居するケースは、離婚の決意が固いときにはよくあります。同居中に子どもを監護、養育していた配偶者としては、離婚後の親権・監護権を確保するためにも、子どもを連れて出るのが自然だと考えることでしょう。
しかし、離婚に向けて別居し、離婚協議を円滑に進めるためにも、子どもを連れての別居には細心の注意を払わなければなりません。「子どもの連れ去りだ」と主張され、問題が拡大すると、信頼関係が崩壊して話し合いが困難になってしまうケースも少なくありません。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題を得意分野としており、特に、子どものからむ複雑な問題の解決を強みとしています。
子どもを連れての別居をお考えの方は、ぜひ別居前に一度、当事務所へご相談ください。
離婚前の別居のよくある質問
- 離婚前に別居するとき、子どもを連れて出たほうがよいですか?
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離婚に向けて別居を開始し、離婚時に親権をとりたいと考えるなら、子どもを連れて別居するのがおすすめです。家庭裁判所は、親権の判断で、現状の養育環境を変えないことを優先するからです。もっと詳しく知りたい方は「子どもを連れて別居するケース(子連れ別居)とは?」をご覧ください。
- 子どもを連れて別居するときの注意点はありますか?
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子どもを連れて別居し、相手の反感をかってしまうと離婚協議がうまく進まなくなるおそれがあります。相手の気持ちや、子どもの福祉に配慮し、慎重に準備しながら進めるのが重要なポイントです。もっと詳しく知りたい方は「子どもを連れて別居するときの注意点」をご覧ください。