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財産分与の割合の「2分の1ルール」(原則)と修正の裁判例(例外)

離婚のときには、婚姻期間中に協力して貯めた財産を分与する「財産分与」が問題となります。

この財産分与の割合には「2分の1ルール」という原則があります。つまり、家庭裁判所の実務において、財産分与の割合は、夫婦共有財産を2分の1ずつ(半分ずつ)とするのを基本にするといった原則です。夫婦関係は男女平等であり、婚姻関係の清算である財産分与でも、平等に考えるべきだからです。

一方で、この原則には例外もあります。つまり、特殊な事情があるときは「2分の1ルール」が修正され、例外的に、2分の1より大きい(もしくは小さい)財産を分け与えるべきとされる場合があるということです。財産分与について、家庭ごとの個別事情によって修正してほしいと求めるとき、このような例外が認められた事例を理解しておかなければなりません。

今回は、財産分与の割合の「2分の1ルール」とその例外的な修正について、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 財産分与は、夫婦の公平から寄与度は同程度とされるため、2分の1ルールが原則
  • 2分の1ルールを形式的に適用すると公平を損なうとき、例外的に修正を認めた裁判例あり
  • 財産分与の割合について有利に解決したいとき、財産の増減に特別に寄与したことを証明する

なお、離婚時の財産分与について、くわしく知りたい方は、次のまとめ解説をご覧ください。

まとめ 財産分与について離婚時に知っておきたい全知識【弁護士解説】

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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財産分与の割合の「2分の1ルール」とは(原則)

本

財産分与とは、離婚した夫婦の一方が、他方に対して財産の分与をする手続きです(民法768条1項)。例えば「妻が専業主婦、夫の収入で暮らしていた」という家計では、夫が婚姻期間中に貯めた貯金を、妻に半分を分け与えることとなります。

財産分与には、夫婦が婚姻中に協力して築き上げた財産を分けるという「清算的財産分与」という性質があります。このほか、離婚後の弱者救済という「扶養的財産分与」、離婚原因に対する有責性の補償という「慰謝料的財産分与」という性質をあわせもつ場合もあります。

このうち「清算的財産分与」について、夫婦当事者間の公平を意識して、家庭裁判所の実務では「2分の1ルール」が適用されています。

2分の1ルールの計算方法

財産分与については、夫婦双方の財産形成への寄与度を考慮して、公平な分配となるように検討されます。このとき、分与割合は原則として2分の1とされます。

2分の1ルールにしたがうと、分与すべき財産の額は、次のように計算できます。

財産分与額=共有財産÷2−権利者名義の財産

分与される財産額の計算方法
分与される財産額の計算方法

このときに対象となる「財産」には、積極財産(プラスの財産)だけでなく消極財産(マイナスの財産)も含まれることに注意してください。積極財産(プラスの財産)とは現金・預貯金・不動産などに代表される財産的価値のあるもののことをいい、消極財産(マイナスの財産)とは住宅ローンや借金などのことです。

積極財産(プラスの財産)が消極財産(マイナスの財産)よりも少ないときには債務超過となるため、財産分与はできません(清算的財産分与はできませんが、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与が問題となることはあります)。

2分の1ルールが原則となる理由

財産分与の割合は、財産形成に対する夫婦双方の寄与度を考慮し、公平になるように決められており、家庭裁判所の実務では2分の1ルールが原則となっています。このことは、妻側が専業主婦で無収入の場合であっても、共働きで双方に収入がある場合であっても、原則としては変わりがありません。

公平を加味するとき、例えば専業主婦のケースでは、その家事労働による「内助の功」が財産形成にどれほど貢献しているかということを明確に算定することは困難です。だからこそ、妻の貢献が夫に劣るものではないということを考え、公平に2分の1と考えられているわけです。

2分の1ルールの理由
2分の1ルールの理由

かつては女性蔑視的な考え方から、「夫が仕事をし、妻は専業主婦」という場合には妻の家事労働の価値を軽視し、財産分与の割合を2~3割とすることもありましたが、現在はこのような考え方は修正されています。

離婚原因は影響しない

夫婦の一方に離婚原因の存在する場合、例えば、夫婦の一方が不倫・浮気をしたことを原因として夫婦関係が破綻した場合には、この2分の1ルールについて不倫をされた側がとても不公平を感じることがあります。

しかし、実務上、離婚原因がどちらにあるか、また、その責任がどれほど大きいかという点は、慰謝料請求において考慮すべきこととされ、財産分与には影響しないとするのが原則です。

財産分与割合「2分の1ルール」が修正された裁判例(例外)

裁判例

次に、財産分与割合について、例外的に「2分の1ルール」が修正された裁判例を紹介します。

財産分与を2分の1の割合でするのが原則となっているのは、それが夫婦間の公平にかなうからです。逆にいえば、2分の1とすると公平でないという特殊な事情があれば、分与割合が修正されることもあります。2分の1とすることが公平でないケースとは、例えば、財産形成について配偶者一方の寄与が大きい場合や、夫婦間の所得差が大きい場合などです。

財産分与の割合は「2分の1ルール」が原則的な運用となっているため、修正した分与割合にしてほしいと考えるときは、そのように主張する側が、特別な事情について主張し、立証する必要があります。

財産形成に特有財産が寄与したことを理由に修正した裁判例

財産分与の対象となるのは夫婦の共有財産であり、特有財産は対象となりません。そして、共有財産であったとしても、その財産形成に特有財産が寄与したといえる場合には、その共有財産の分与割合について「2分の1ルール」を修正すべきだと判断した裁判例があります。

東京高裁平成7年4月27日判決では、夫婦の共有財産となるゴルフ会員権の購入代金の大部分が、夫の所持していた株式など特有財産の売却によるものであったという事情から、ゴルフ会員権は分与の対象とはなるものの、分与割合は3割6分にとどまると判断しました。

この事例では、夫婦の共有財産となるものについて、その原資を一方が出したというときであっても、「その財産は共有財産にはあたり分与対象にはなる、ただし、割合において調整される」という結論をとりました。3割6分の割合とした算定根拠は示されておらず、類似の事例でどのような割合となるかは、その他の事情によっても違ってくると考えられます。

特殊な才能で財産形成したことを理由に修正した裁判例

夫婦の一方の努力や才能によって相当高額な収入を得ていた場合には、これらの事実が財産形成に大きく寄与していたと考えられます。そのため、このことを理由に「2分の1ルール」を修正した裁判例があります。

財産分与の割合についての裁判例
財産分与の割合についての裁判例

大阪高裁平成12年3月8日判決では、1級航海士の資格を持つ夫が、1年に6か月ないし11か月の海上勤務などにより多額の収入を得ていた一方で、妻は家事、育児をしていたという事情に対して、財産分与の割合を3割(2300万円)と判断しました。

東京地裁平成15年9月26日判決では、一部上場会社の代表取締役である夫が婚姻中に約220億円の資産を形成したことに対して、分与割合を5%(10億円)と判断しました。

大阪高裁平成26年3月13日判決では、医療法人を経営する医師である夫の、医療法人の出資持分に関する分与割合が争いとなったところ、その評価額を純資産評価額の7割とした上で、分与割合を「6:4」と判断しました。

いずれも、夫側の努力や才能によって一般よりも高額な収入を得ていたケースで、「2分の1ルール」が例外的に修正されています。特に、会社経営者・個人事業主のケースでは「自分で稼いだお金」について相手の貢献度があるのか、争いが激しくなることが多いです。

夫婦の財産が別管理だったを考慮し修正した裁判例

夫婦の生活実態によっては、財産分与の「2分の1ルール」があてはまるような典型的な夫婦ばかりではありません。特に、夫婦それぞれに収入があり、夫婦の財産が別管理となっている家庭では、財産分与でも特別な考慮を要する場合があります。

東京家庭裁判所6年5月31日審判では、夫婦の双方がアーティストとして活動して収入を得ていたが、妻が一定期間活動を休止して家事に専念していたというケースで、財産が夫婦別管理となっているため共有財産のみを分与の対象とすることとしながら、妻が一時期無収入となっていて家事に専念していたことから折半では不公平であることを考慮し、分与割合を「6:4」に修正すると判断しました。

同様に、夫婦の生活実態に変化があり、長期間別居していて財産形成に寄与していないといった事情も、「2分の1ルール」が修正される可能性があります。

財産分与割合について有利な解決を得るための方法

OKを出す女性

上記のように「2分の1ルール」を修正する裁判例は複数存在するものの、裁判例はあくまでも個別のケースに対する解決を示すものにすぎません。そのため、似たケースだからといって同じ結論を得られるわけでもありません。「社長だから2分の1ではないはず」といった一般化はリスクがあります。

そこで、実際の財産分与の問題を解決するにあたり、有利な解決を得るための方法と、知っておきたい知識を解説します。

調停前に解決する

財産分与の争いは、まずは夫婦の当事者での話し合いからスタートします。このとき、離婚の協議と同時に進むことが多いです。そして、話し合いでは解決できず決裂してしまったとき、離婚調停、そして、離婚訴訟へと進んでいきます。

そのため、話し合いで解決するのであれば、必ずしも家庭裁判所で適用される「2分の1ルール」のとおりに解決しなくてもかまいません。まずは粘り強く交渉をし、解決を目指すようにします。

このとき、どうしても財産分与割合について2分の1以外の割合を適用したいと考えるとき、その他の譲歩できる離婚条件について相手に譲歩をしてあげる、といった交渉も有効です(総額で見てどちらが経済的に有利か、慎重に分析するようにしてください)。

対象財産とその評価を争う

次に、財産分与額は、分与割合だけでなく、「どの範囲の財産が対象となるか」や、「各財産をいくらと評価するか」といった点によっても変わってきます。

例えば「分与割合が5:5で、対象財産が1000万円」なら分与額は500万円ですが、「分与割合が4:6」と修正されたとしても「対象財産が500万円」であれば分与額は200万円となります。

財産分与の対象財産は、夫婦が婚姻期間中に共同で築き上げた財産、すなわち「共有財産」であり「特有財産」は含まれません。しかし、夫婦であった期間が長くなればなるほど「どの財産が共有財産で、どの財産が特有財産か」という点には当事者間で争いが生じることが多いです。また車や不動産など、評価額が争いになる財産もあります。

夫婦の一方が財産を隠しているような場合にも、対象財産の金額が大きく変わってしまいます。例えば、相手の収入から考えると開示された貯金額が低すぎる場合などには、事前調査が必要です。

より有利な分与方法を主張する

対象財産とその評価、分与割合が決まったとして、実際の財産をどう分けるか、という問題も争いになります。現金・預貯金であればピッタリと半分にできますが、不動産や車、経営している事業などのように、ちょうど半分にわけるのがなかなか難しい財産もあります。

このようなときの財産分与の方法として次の2つの方法があります。

  • 換価分割
    対象財産を売却し、その代金を分与割合に応じて分ける方法
  • 代償分割
    対象財産を片方が取得し、分与割合に相当する金銭を相手に支払う方法
財産分与の3つの分け方
財産分与の3つの分け方

この点で、たとえ分与割合が原則どおり「2分の1」となったとしても、より有利な分与方法を主張することが、財産分与でより良い解決を勝ち取るための重要なポイントです。

夫婦財産契約を締結する

ここまで解説してきたとおり、裁判例において個別事情が考慮された結果、財産分与の割合が「2分の1ルール」の原則から修正される場合は確かにあります。しかし、そのような結論を望む場合には、その主張をする側が個別事情を主張立証しなければなりません。

また、個別事情を主張立証したからといって、その事情が原則的なルールを修正するほどの程度に至っていないと家庭裁判所が判断する場合には、「2分の1ルール」が形式的に適用されてしまうこともあります。

裁判で敗訴してしまうリスクを回避し、事前に予防しておくには、あらかじめ、夫婦財産契約を締結しておく方法が有効です。夫婦財産契約は、いわゆる婚前契約の一種で、結婚前に、夫婦の財産に関すること(特に、離婚時の財産分与に関すること)のルールをつくり、合意しておく契約です。

婚前契約は、日本ではまだあまり利用されていないですが、欧米では一般化しています。特に、会社経営者や医師のように、「2分の1ルール」を形式的に適用してしまうと財産分与額が多額になりすぎて不公平感があるようなケースでは、積極的に利用していくべきです。

ただし、一方にあまりにも不公平な婚前契約は無効と評価されるおそれもあります。婚前契約の作成をお考えの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

まとめ

財産分与における分与割合は、「2分の1ルール」が家庭裁判所の実務ですが、これだけで解決できるわけではありません。個別事情に応じてケースバイケースでの対応が重要です。

財産分与は、夫婦であった期間が長いほど、夫婦の収入差が開いているほど、金銭的に多額の争いとなります。感情的な対立が大きく関心を集めがちな不貞慰謝料などの問題よりも、実は優先して検討しなければならない重大な問題です。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題に精通し、財産分与の深刻な争いについても、豊富な解決実績があります。

財産分与のからむ離婚問題にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

財産分与のよくある質問

財産分与の2分の1ルールとはどのような考え方ですか?

財産分与の2分の1ルールとは、財産分与の分け方で、その分与割合について夫婦公平に、半分ずつ分けるという原則のことです。家庭裁判所の実務で2分の1ルールが採用されているのは、男女平等の考え方から、夫婦の貢献度は同じと考えられるからです。もっと詳しく知りたい方は「財産分与の割合の「2分の1ルール」とは(原則)」をご覧ください。

財産分与の2分の1ルールに例外はありますか?

財産分与の2分の1ルールは、公平の観点から生まれた原則であるため、形式的に適用してしまうとかえって公平が損なわれるとき、修正されることとなります。実際、夫婦の一方の貢献度が明らかに高いケースや収入に大きな差があるケースなどで、例外を認めた裁判例があります。詳しくは「財産分与割合「2分の1ルール」が修正された裁判例(例外)」をご覧ください。

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