妻が家を突然出て行ってしまったとき、「離婚したくない」と望む夫側(男性側)では、どのように対応したらよいのでしょうか。
あまりに突然の出来事ですと、寝耳に水で、「むしろ、自分は円満だと思っていた」という場合もあります。このような場合、あなたの思いもよらないことが妻が家を出る原因になっていたり、無神経な言動があったりという可能性もあるため、きちんと過去の言動を振り返らないと、交渉は難航してしまいます。
妻が家を出てしまって、そのまま放っておけば、弁護士から内容証明が届き、離婚に向けて進んでいく流れになることも少なくありません。
大切なことは、「なぜ妻が家を出て行ってしまったのか」という理由を分析し、その理由ごとに、反省すべき点は反省し、謝罪すべきことは謝罪するといったケースバイケースの対応を理解しておくことです。
今回は「妻が家を出て行ったけど、離婚したくない」という夫側(男性側)の相談者に向けて、具体的な対処法について弁護士が解説します。
「離婚・不貞」弁護士解説まとめ
目次
妻が家を出た理由は?理由ごとの対処法
妻が家を出て行ったことは、あなた(夫側)にとってはあまりにも唐突なことかもしれませんが、妻側では前々から十分な時間をかけて準備をしていたというケースが多くあります。
そのため、「なんとなく、思いつきで家を出た」ということはむしろ少なく、妻側では家を出るにあたって決定的な理由があるということが少なくありません。
「妻に戻ってきてほしい」という気持ちが先行するあまりに、理由を全く考えずに謝罪をしたり、妻の意見を無視したりすることは、むしろ逆効果と言わざるを得ません。妻の気持ちをまったく考えずに、自分が変わろうとする努力を全くせず、ただ戻ってきてほしいと願うのは、わがままです。
そこで、夫側の対処法についても、思い当たる理由があるかどうかをしっかり振り返り、それに応じて適切な対処法をとる必要があります。
あなた(夫側)に非がある場合
「同居しているときから、喧嘩が絶えなかった」といった場合には、妻が出て行った理由には思い当たる節があることもあるのではないでしょうか。妻が家を出た理由に思い当たるものがあり、かつ、それがあなた(夫側)の非があるものであった場合の対処法について解説します。
この場合には、非を認めて謝罪をする方法がお勧めです。自分に非があると考える場合には、どれほど小さな理由だと思ったとしても、まずは謝罪をすべきです。自分にとっては些細な事でも、妻側にとってはとても重要なことかもしれないからです。
あなた(夫側)に非があって妻が家を出てしまった場合には、できる限り早期に、誠実に謝罪をすることが、妻に戻ってきてもらうために重要です。謝り方が適当だったり、妻が求める謝罪ではなかった場合、それだけで愛想をつかされてしまうかもしれません。
「喧嘩が絶えなかった」「口もきいておらず、家庭内別居状態であった」など、いつ別居してもおかしくない状態であった場合には、まずは心当たりがないか考えてみてください。
相手方(妻側)に非がある場合
妻側が家を出て行ったことについて、むしろ妻側に非があるというケースもあります。
例えば、妻側に不倫があったケース、妻側が家事を全くやらずに家を出て行ったケースなどです。このような場合でも、もしあなたが、「妻に戻ってきてほしい」と思うのであれば、妻が出て行った理由について許容することが必要となる場合があります。
少なくとも、妻側の言い分を一方的に否定するのではなく、相手の目線に立って言い分を真摯に聞かなければなりません。
妻側の非が許せないからといって、一方的に責任追及をするだけでは、妻が戻ってきてくれる可能性はますます少なくなります。過去のあなたの言動から「もう話し合いをすることは難しい」と考えて、不倫や浮気に走ったり、家事がおろそかになってしまったのかもしれません。そのため、まずは話し合いを誠実に行うという態度を示すことが重要です。
妻側に不倫の疑いがある場合
妻が家を出て行ったことについて、むしろ妻側に非がある場合であっても、妻に戻ってきてほしいのであればこれを許容しなければならない場合があると解説しました。
しかし、妻側の理由の中でも、「他に好きな男性ができた」という理由だけは、妻に戻ってきてほしいという夫にとっては許容することはできません。明確にそのように告げられた場合はもちろんのこと、全く心当たりがなく「このような小さな理由で別居をするのか」と思うような場合、背後に他の男の影があることがあります。
妻側の浮気、不倫が疑われる場合であっても、冷静になることが大切です。他人の恋愛感情をコントロールすることはできませんが、少しでも妻の気持ちが戻ってきてくれるよう、妻の愛情が離れてしまったことについて自分に原因がないかどうか、もう一度振り返ってみてください。
なお、妻が家を出て行った理由が、「他に好きな男性ができた」といったものであることが予想される場合には、不倫の証拠収集のため、探偵に依頼することも検討してください。不倫をした証拠が十分にあれば、妻は「有責配偶者」となり、離婚に責任のある側となりますから、妻側からの一方的な離婚が困難になるためです。
理由が思い当たらない場合
妻が突然家を出て行ってしまった理由がまったく思い当たらないという場合、あなた(夫側)が自分を客観視できていない可能性が高いです。妻としても、家を出ていくというのは大きな決断であり、覚悟が必要ですから、その背後にはそれなりの理由があると考えられるからです。
このような場合には、第三者に客観的な意見を聞くことが、妻の気持ちを理解するためには重要です。
それほど切羽詰まっているのでなければ、まずは友人や親に相談をして、意見を求めるのもよいでしょう。
しかし、家を出て行った妻が離婚を求めて来たり、慰謝料請求をしてきたりといったことが予想される場合には、お早めに弁護士に相談することがお勧めです。
妻に戻ってきてもらうために、別居中にすべきこと
妻が家を出て行ってしまった理由を分析し、基本的な対応方針を決めたら、次に、妻に戻ってきてもらうために別居中にできる努力をしましょう。妻と別居してしまったからといって、漫然と過ごしたり、寂しくて不倫に走ってしまったりといったことは、妻との復縁をもっと難しくしてしまいます。
別居をしている間の態度や行動が、妻の気持ちを動かすことにつながる場合が少なくないからです。
そこで次に、妻に戻ってきてもらいたい夫側に向けて、別居中にしておくべきことについて弁護士が解説します。
過去の振り返りを行う
妻に戻ってきてもらうために別居中にすべきことの1つ目は、過去の振り返りを行うことです。
さきほど解説した通り、家を出るという大きな決断をした妻には、理由があると考えられます。そして、その理由は、夫側の過去の言動にあることが少なくないからです。このような場合、夫側が過去の振り返りをして自分の非に気付き、悔い改め、将来の改善を誓わなければ、妻に戻ってきてもらうことはかないません。
「好きな男ができた」「実家の両親の介護が必要」といった、一見妻側の非とも思える理由であっても、その根底には夫側の態度が原因となっていることも多いものです。
過去の振り返りをするときには、妻側の目線に立って、妻の気持ちをよく理解することが大切です。
「戻ってきてほしい」と伝える
妻に戻ってきてもらうために別居中にすべきことの2つ目は、「戻ってきてほしい」という気持ちをしっかり伝えることです。
妻側からすれば、自分から突然家を出て行ったわけですから、そう簡単な気持ちでは家に戻ることはできません。「戻ってもいいかも」と思ったとしても、自分から出て行った手前、なかなか戻りづらいことは理解できるでしょう。
そのため、夫側から、「戻ってきてほしい」と強く伝え、妻側の後ろめたさを取り除き、決断の後押しをすることが必要となります。
このときの気持ちの伝え方は、特に重要となります。また、電話やLINEでしつこく何度も連絡をすることは、妻に恐怖心や不快感を与えることにつながり逆効果となることがあります。次に説明するように、過去の振り返り、謝罪、反省、今後の2人のことなどを簡潔な手紙にまとめて伝えるのが適切です。
妻に手紙を書く
妻に戻ってきてもらうために別居中にすべきことの3つ目は、妻に手紙を書くことです。
しつこく何度も連絡したり、妻がいるであろう実家の近くにいって様子見をしたり、実家を訪問したりといった行為は、妻に恐怖心や不快感を与え、ますます妻の態度を強硬なものとしてしまうおそれがあります。ストーカー行為として警察に通報されてしまうリスクもあります。ましてや、暴言を吐いたり、暴行を加えたりすることは当然許されません。
妻の友人を通じて情報収集をすることも、妻の耳に入れば、良い気持ちはしないことを理解してください。
このように、妻と接触しようという行為は、自分本位な行為であることが多く、良い結果にはつながりません。手紙であれば、妻は自分の都合のよい時間に読むことができ、嫌な内容であれば読まないこともできます。結果的に、あなた(夫側)の気持ちを正確に伝えることにも役立ちます。
当然ながら、何通も長文の手紙を書くことは、結局しつこく連絡を取ることと変わりません。1通の手紙で、簡潔に気持ちを伝える努力をすることがお勧めです。連絡方法が適切かどうか心配なときは、弁護士を窓口として話し合いを行うこともできます。
婚姻費用(生活費)をしっかり払う
妻に戻ってきてもらうために別居中にすべきことの5つ目は、婚姻費用(生活費)をしっかり払うことです。
法律上、夫婦は相互に助け合う義務があり、収入差がある場合には、収入の多い方が、収入の少ない方に対して、生活費の負担として一定額を支払うこととなっています。これを専門用語で「婚姻費用」といいます。
このように法律上義務となっていることはもちろんのこと、妻に戻ってきてほしいと考えるのであれば、生活費の支払をしないことで更に妻の愛情を失ってしまうことは避けなければなりません。妻から請求されたにもかかわらず婚姻費用(生活費)を支払わないことは、「悪意の遺棄」という離婚理由にあたるおそれがあり、ますます妻と円満にやり直せる可能性を狭めてしまうこととなります。
妻側から婚姻費用(生活費)の要求があった場合に支払うのはもちろん、妻に戻ってきてほしいと願うのであれば、婚姻費用(生活費)を支払うことを自ら申し出たり、調停や裁判で認められるよりも高額の婚姻費用(生活費)を支払ったりすることで、愛情の深さを示すことも1つの方法です。
なお、婚姻費用は、実務上、養育する子の年齢と人数、収入差に応じて、算定表に基づいて決められます。婚姻費用の具体的な決め方については、次の解説も参考にしてください。
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不受理申出をしておく
別居中に、離婚を進められてしまわないために、不受理申出をしておきましょう。不受理申出とは、自分の意思に反して離婚の手続きが進行してしまわないよう、離婚届が受理されないように役所に行う申入れのことです。
この不受理申出をしておくことで離婚の意思がないことを明示することができ、自分の意思に反した離婚届を受理されなくする効果があります。
あわせて、突然家を出て行った妻に対しても、あなた(夫側)が離婚をする意思がないという強い態度を示すことができます。不受理申出を行うことによって、妻側からの離婚の要求を食い止め、その間に、家に戻ってきてくれるよう話し合いを行うことができます。
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妻から離婚の要求や、慰謝料請求があったときの対応
妻が、既にあなたに愛想をつかしていたり、円満な復縁の可能性が一切ないという場合があります。その極致が、妻からの離婚の要求があった場合や、妻からの慰謝料請求があった場合です。このような場合、別居時に置手紙が置いてあったり、弁護士から連絡があったりして、妻側の強固な意思が明らかになることがあります。
あなたが、妻に戻ってきてほしいと願うにもかかわらず、妻から「離婚をしたい」という意思が示されたとき、どのように対応したらよいのかについて弁護士が解説します。
結果的に離婚をしてもかまわない場合
妻が家を出て行ったあとで不倫、浮気の事実が明らかになったなど、あなた(夫側)としても結果的に離婚をしてもかまわないという心境に至ったときには、離婚の話し合いを進めていくこととなります。
最初は「離婚をしたくない」「妻に戻ってきてほしい」と思っていたとしても、妻側の強硬な態度や、あなたに対する愛情のなさを実感し、離婚の方向へと進む方も少なくありません。
夫婦間で、「離婚をする」ということについては争いがなかったとしても、その離婚条件に争いがある場合には、話し合いをきちんと行わなければなりません。離婚のときに話し合っておくべき離婚条件には、次のようなものがあります。
- 子の親権、監護権
- 子の養育費
- 非親権者と子との面会交流
- 慰謝料
- 財産分与
夫婦であった期間が長ければ長いほど、財産分与や慰謝料といった金銭に関する離婚条件が高額化し、大きな争いの種となることがあります。また、夫婦間に子がいる場合、お金だけでは解決できない重要な問題であり、話し合いだけでは収まらず離婚調停、離婚訴訟に発展することもあります。
どうしても離婚したくない場合
家を出た妻や、その代理人となった弁護士から、離婚を要求されたり慰謝料を請求されたりしても、なおどうしても離婚したくない場合、その理由をよく考えてみるようにしてください。
離婚をしたくない理由が、世間体、子どものため、親に説明がつかないなど、妻に対する愛情以外の理由であるとき、そのような考えで復縁しても、円満に夫婦関係を続けていくことはもはや難しいかもしれません。
妻側の気持ちは離婚に向いているけれども、あなた(夫側)の気持ちが決まらないという場合には、離婚はせずにしばらく別居を続け、話し合いを継続することがお勧めです。
時間をかけて粘り強く交渉することによって、妻側が、あなたの愛情や大切さに気づいてくれれば、円満に復縁する方向での話し合いができる時期が来る可能性もあります。
妻よりも、子どものことが気になる方へ
離婚をしたくない理由が、妻への愛情よりも、子どもへの愛情にあるという方は、離婚に向けて話し合いを進めてみるのも1つの手かもしれません。
例えば、「子どものためには、今離婚はしたくない」「子どもが学校を卒業してからにしたい」とご相談される方がいます。しかし、離婚をせずに仮面夫婦を続けたり、四六時中夫婦喧嘩を見せ続けていたりするのと、思い切って離婚をするのと、どちらが子どものためになるのか、という問題に正解はありません。
このとき、離婚をするのであれば、子どもに関する離婚条件についてしっかりとした話し合いが必要です。具体的には、子の親権、監護権、養育費、面会交流についてです。離婚後に後悔しないよう、慎重に判断するようにしてください。
妻が戻ってきてくれたときの対処法
突然家を出て行った妻が、ふらりと帰ってきたとき、まずは感謝することが大切です。
家に戻ってきたことで安心してしまい、妻を責めたり、束縛したりすれば、またすぐに家を出て行ってしまうかもしれません。高圧的な態度で問い詰めることも、全くお勧めできません。
妻が戻ってきてくれた場合には、まずは妻が戻ってきた理由を考えてみてください。そして、あなた(夫側)が気持ちを伝えたことや謝罪したことが功を奏したと思える場合には、今後、夫婦関係を良好に保つためには、あなた(夫側)が妻に伝えた謝罪や気持ちをきちんと守り、変わっていかなければなりません。
もしかしたら、妻が家に戻ってきた理由は「子どもがかわいそうだ」「生活していくだけの資金がなく不安だ」といった消極的な理由から、とりあえず一旦出戻っただけなのかもしれませんから、油断大敵です。ただ、どのような理由で戻ったにしても、あなた(夫側)にとって、妻との関係を構築しなおすチャンスが与えられたことに違いはありません。
重要なことは、出て行ったことに腹を立てたり、感情的に責めたりするのではなく、夫婦の今後のことを考えて、真摯に向き合っていくことです。
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今回は、妻が突然家を出てしまったときに、「妻に戻ってきてほしい」と願う夫側の立場に立って、その具体的な対応策について弁護士が解説しました。
自分本位であったり、感情的になったりして、しつこく連絡したり妻を責めたりすることは、「妻に戻ってきてほしい」という方針からすればむしろ逆効果です。
弁護士は、離婚問題を数多く取り扱っていますが、あなた(夫側)の「家を出た妻に戻ってきてほしい」という気持ちを無視して離婚をお勧めすることは決してありません。離婚や夫婦関係についての法律上のルールをきちんと理解しておくことは、妻に戻ってきてもらうためにも役立ちます。
ご離婚や夫婦間の問題についてお悩みの方は、ぜひ一度、当事務所へ法律相談をご依頼ください。
「離婚・不貞」弁護士解説まとめ