離婚調停で話し合いをしても夫婦が合意に至らなかったときには、離婚調停は「不成立」となり、終了します。調停が不成立になったとき、その後の流れをよく理解し、有利に進めていかなければなりません。
離婚へと向かう流れは、離婚協議、離婚調停、離婚訴訟という順で進みます。
「調停前置主義」というルールがあり、離婚訴訟を起こす前には、かならず離婚調停をしなければなりません。そのため、離婚調停が不成立で終了したときには、離婚を強く望む側では、離婚訴訟を起こすかどうかを検討することとなります。
今回は、離婚調停が不成立で終了するときの流れと、調停終了後の選択肢、対応方法について、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。
- 親権争いなど、夫婦間の争いが激しいケースでは、離婚調停が不成立となるおそれあり
- 離婚調停が不成立になったとき、離婚を望む側では離婚訴訟を起こすのが基本
- 離婚調停が不成立となり離婚訴訟に進むとき、法定離婚原因があるかよく検討する
離婚調停の不成立とは
離婚調停の不成立とは、調停を成立させることができず、手続きを終了することです。このとき、離婚調停のなかでは、離婚問題を解決できなかったことを意味します。
離婚調停は、家庭裁判所で行われる法的手続きですが、あくまでも夫婦の話し合いを重視した制度です。そのため、合意がまとまらない限り、調停を成立させることはできず、片方が離婚を拒絶していると、離婚することができません。
調停不成立までの流れ
離婚調停の期日では、夫婦が互いに調停委員と話をしながら離婚条件の調整を行います。
それぞれの求める離婚条件が、ある程度は譲歩できるとき、調停委員が調整をして、合意するまでの話し合いを促進してくれます。このような調停期日における話し合いは、合意が成立する可能性のある限り、何期日もくり返されます。
しかし、一方が相場を超える高額な請求に固執したり、調停委員の説得に応じないなどのケースでは、期日を続行しても調停が成立しないと予想されるため、調停委員会の判断により、調停不成立となります。調停不成立となると、調停の席上で「調停不成立です」と伝えられ、調停が終了します。調停委員や裁判所からのくわしい説明はなく、書面の送付などもされません。
調停不成立となる典型的なケース
調停不成立は、夫婦間の合意を成立させるのが、離婚調停のなかではどうしても難しいと調停委員が判断するケースです。
離婚調停となっている時点で、夫婦間の話し合いでは解決できなかったということであり、ある程度対立が激化するのは当然です。多少のハードルがあっても、調停委員は調停を成立させようと説得し、尽力してくれます。それでもなお、次のような例では、調停不成立となることが多いです。
- 一方が復縁を求めている
離婚条件であれば多少の譲歩で調整できますが、そもそも「離婚するかどうか」に決定的な対立があるとき、譲歩は困難です。
(参考情報:復縁したい人が離婚請求に対応するための全知識) - 夫(または妻)が初回期日から調停に出席しない
調停への参加は任意で、不参加のペナルティはありません。参加しないことは、話し合う意思がないことを示しており、合意の可能性は到底ありません。 - 不倫・DVなど、離婚原因となる事実に決定的な対立がある
不倫・DVなど、離婚原因について一方の責任が強いほど、相手はこれを否定する傾向にあります。客観的な証拠が十分でないとき、合意が困難なことがあります。 - 相場を超える高額の請求に固執している
財産分与・不貞慰謝料などは、幅はあるものの一定の相場があります。相場を超える請求に固執しているとき、合意が困難なことがあります。 - 子どもの親権・監護権に争いがある
金銭請求と異なり、子どもの問題についてはゼロイチの問題であり、中間的な解決で譲歩できません。 - 一方の財産隠しが疑われる
財産分与は、財産が多いほど多額の請求となります。財産隠しが疑われるとき、信頼関係が築けず、話し合いを進めることが困難です。
(参考情報:財産分与で夫婦共有の財産を調べる方法)
金銭請求のみであれば、大きな金額の差がないかぎり、離婚調停の話し合いで溝を埋められます。
しかし、DV・モラハラ事案で加害者に自覚のないときや、子どもの親権・監護権のようにお金で解決できない対立は、離婚調停で解決できる可能性が低く、調停不成立となることが予想されます。
調停不成立以外で、離婚調停が終了する場合
離婚調停が終了するケースには、離婚調停が成立するケース、調停不成立以外のパターンがいくつかあります。
離婚調停を申し立てた側は、相手の同意なく、離婚調停を取り下げることができます。離婚調停を取り下げると、離婚調停は終了します。復縁をしたときや、調停外で離婚の合意ができたときなどには、離婚調停を取り下げることがあります。なお、離婚調停を取下げたときでも、調停内で一定の話し合いを行っていれば、「調停前置主義」を満たし、離婚訴訟を起こせます。
その他、調停を行うのに適しないと調停委員が判断したとき(家事事件手続法271条)や、当事者が死亡して婚姻が解消されたときにも、離婚調停は終了します。
離婚調停が不成立となった後の進め方
離婚調停が不成立で終わってしまったとき、次の4つの選択肢から、自分の求める方針にとって最も有利なものを選択する必要があります。
どの方針が最適かは、裁判で「離婚を認める」という勝訴判決がとれる可能性がどの程度あるか、を基準に判断するのが重要です。特に「離婚訴訟を起こす」ことを選ぼうとするときは、この点についての検討が必須です。
適切な選択をするためには、離婚についての法律と裁判例の知識を理解しておかなければなりません。
再び離婚協議を行う
調停不成立となった後の1つ目の進め方は、夫婦間で再び離婚協議を行うことです。離婚調停が不成立となったときには、当事者同士で再び話し合いをすることができます。このとき、調停を任せていた弁護士との委任契約が終了していれば、本人間での話し合いができます。
離婚調停では、およそ1ヶ月に1回の期日が開かれ、その都度話し合ってきましたが、協議であれば特に期日や期限を気にせずに話し合いすることができます。離婚調停で合意に至らなくても、あきらめず粘り強く説得したり、条件を変えて交渉したりすることで、離婚条件について合意に達することがあります。
調停不成立となったあと、再度協議を行うときには、次のことに注意してください。
- 離婚調停で相手が弁護士を依頼していたとき、調停不成立の後の交渉も弁護士が依頼を受け続けるか確認する
- 離婚調停で合意できなかった条件に固執せず、柔軟に検討する
- 協議が長引きそうなとき、先に協議中のルール(同居か別居か、生活費の支払いなど)を決めておく
離婚訴訟を起こす
調停不成立となった後の2つ目の進め方は、離婚訴訟を提起することです。「調停前置主義」があるため、まずは離婚調停で話し合いを行ってからしか離婚訴訟を提起できませんが、調停が不成立となったのであれば、その後は離婚訴訟を起こせます。
離婚訴訟では、離婚調停と違って、民法770条1項に定められた「法定離婚原因」が存在する限り、相手の同意がなくても判決で離婚を認めてもらえます。このとき、家庭裁判所は、子どもの親権・監護権、慰謝料、財産分与などのその他の離婚条件についても判断を下します。
民法770条1項
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
民法(e-Gov法令検索)
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
したがって、離婚調停が不成立に終わったとき、離婚訴訟に進めるのが適切かどうかは、「法定離婚原因を証明できるかどうか」で判断します。法定離婚原因が証明できなければ、離婚訴訟を起こしても、請求が棄却されてしまい、離婚はできません。
そのため、調停不成立となったとき、すぐに離婚訴訟を起こすのか、それとも協議に戻ったり、一旦冷却期間を置いたりといった方法がよいのかについて、弁護士による専門的アドバイスを受けることが有益です。離婚訴訟の流れについては、詳しくは次の解説もご覧ください。
なお、離婚調停が不成立で終了した後、2週間以内に離婚訴訟を起こすと、調停申立て時に支払った申立手数料を、離婚訴訟の手数料に充当することができます。
再び離婚調停を申し立てる
調停不成立となった後の3つ目の進め方は、再び離婚調停を申し立てることです。離婚調停を申し立てる回数に制限はなく、調停は何度でもできます。一旦は調停不成立により終了してしまっても、時間を置いたり、調停外での交渉を継続したりしているうちに状況が変化し、再度の離婚調停で離婚できるケースもあります。
再び離婚調停をしたほうがよい状況の変化には次のような例があります。
- 相手に別のパートナーができた
- 子どもが大きくなって独り立ちした
- 自分に新しいパートナーができ、子どもが生まれた
- 相手が職に付き、離婚しても収入面で困らなくなった
また、離婚理由には、不貞行為などの積極的な理由以外に、「長期間の別居により、もはや夫婦としての実態がなくなったこと(破綻していること)」を離婚理由とするケースがあります。
そのため、離婚調停が一度は不成立になっても、別居期間を十分に積み重ねて、夫婦としての実態がなくなった(破綻した)状態となった後で、再び離婚調停をするという例がよくあります。特に、不貞をしてしまったなどの有責配偶者(破綻について責任のある配偶者)のとき、少なくとも8〜10年の別居期間を積み重ねることが必要とするのが、裁判例の実務です。
審判離婚を求める
調停不成立となった後の4つ目の進め方は、審判離婚を求めることです。審判離婚は、離婚調停が不成立となったときに、裁判官の判断により、審判によって夫婦を離婚させるという決定です。
調停で合意はできなかったとはいえ対立は少ないときや、どうしても夫婦の一方が調停に出席できないときに、裁判官の裁量により審判離婚が選ばれることがあります。ただし、審判離婚は、とても稀であり、例外的な手続きと考えてください。
なお、審判離婚には異議申立てをすることができます。
調停不成立の後、離婚訴訟を有利に進めるためのポイント
最後に、離婚調停が不成立に終わった後、離婚訴訟を有利に進めるために理解したいポイントを、弁護士が解説します。
できるだけ調停不成立を避ける
一旦不成立となった調停は、やりなおしできません。調停不成立を撤回してもらったり、異議申立てしたりもできません。せっかく離婚調停をしたのですから、調停不成立で終了する前に、十分な話し合いを尽くし、できるだけ調停不成立を避ける努力をするのが大切です。
離婚を求める側では、調停不成立となった後は離婚訴訟を起こすことになりますが、時間と手間が多くかかりますから、見通しなく安易に不成立とすべきではありません。まして「訴訟になったら隠していた切り札を出そう」などと出し惜しみすべきではなく、離婚調停に全力をそそぐべきです。
調停不成立を避けるために、離婚調停があくまでも話し合いの延長なのを理解し、求める離婚条件に順位付けをし、柔軟な譲歩を検討するのが大切なポイントです。あなたが一定の譲歩をし、離婚調停を成立させようという姿勢を示すとき、相手が独りよがりだと、こちらに対する調停委員の心象がよくなり、味方をして相手を説得してくれることが期待できます。
有責配偶者が、離婚訴訟を起こすべきか
離婚訴訟で離婚を勝ちとるためには、民法770条に定める「法定離婚原因」があることを証明しなければなりません。例えば、不貞行為が離婚原因だと主張するときは、夫婦以外の異性との肉体関係について証明しなければならず、ラブホテルに出入りした写真・動画といった証拠を入手しておく必要があります。
そして、自分が不貞を行ってしまったなど、有責配偶者(破綻について責任のある配偶者)であるとき、離婚訴訟でも離婚は容易には認められず、少なくとも8〜10年以上の別居期間を必要とするものとされています。
ただし、有責配偶者でも離婚が絶対にできないわけではなく、相手に不利益がないなど一定の条件のもとに離婚を認めた例もあります。また、有責配偶者でも、訴訟提起をして離婚に向けた強い意思を示すことによって、相手が離婚条件に応じてくれる可能性も上がります。
離婚調停の内容を離婚訴訟でも主張する
離婚調停が不成立で終了し、その後すぐに離婚訴訟を起こしても、離婚調停の内容が離婚訴訟に引き継がれることはありません。離婚調停を行う「調停委員会」と、離婚訴訟を行う家庭裁判所の裁判官は別の裁判体が担当するからです。
そのため、離婚調停であなたがした有利な主張、証拠があるならば、離婚訴訟でも再び同じ主張立証をするのが大切です。
離婚調停で、有利な流れで進んでいたときには、調停の各期日でどのようなやりとりがされ、どのような指摘があったかなどについて、書面にまとめて訴訟で提出することがおすすめです。
DV・モラハラが問題となっているケースで、離婚調停の席上で相手が暴れたり騒いだりして調停の進行を妨害したといった事情があるときには、このような点が裁判所に伝わるよう、離婚訴訟でもきちんと伝えていく必要があります。
離婚訴訟のデメリットに注意する
離婚訴訟は、離婚調停とは違って強制的に離婚を実現することのできる協力な手続きですが、その分デメリットもあります。
離婚を求める側では、法定離婚原因があるときには、調停不成立となったとき離婚訴訟を起こす決断をしますが、このときデメリットをきちんと理解して決断することが大切です。
離婚訴訟のデメリットには、次のようなものがあります。
- 公開の手続きである
離婚調停が非公開なのに対して、離婚訴訟は公開の手続きです。夫婦間の問題は他人に知られたくないことが多く、プライバシー面で大きな不利益となるおそれがあります。 - 審理期間が長い
離婚調停はおよそ3〜6ヶ月程度で終了するのに対し、離婚訴訟は6ヶ月〜1年程度かかります。期日間の話し合いで状況が動くことは期待できず、月に1回程度開かれる期日を中心にゆっくりと審理が進みます。 - 費用がかかる
弁護士を依頼しているとき、離婚調停にかかる費用よりも、離婚訴訟にかかる費用のほうが高いことが一般的です。 - 厳密な立証が必要となる
離婚調停では話し合いが重視され、必ずしも完璧な証拠が求められないことがありますが、離婚訴訟では証拠が重視され、証拠による立証のできない事実は認めてもらえません。
法定離婚原因があり離婚を勝ちとれるというメリットと、以上のデメリットを比較し、離婚訴訟に進むべきかを検討してください。
以上のデメリットがとても大きく感じ、離婚訴訟には進まないという決断をするときには、一旦別居期間を置いて考えたり、再度2人で離婚協議をしたりといった、より穏当な解決を目指す道もあります。
まとめ
今回は、離婚調停が不成立に終わった後の適切な対応について、弁護士が解説しました。
調停不成立で終了した後の選択肢には、①再び離婚協議を行う、②離婚訴訟を起こす、③再び離婚調停を申し立てる、④審判離婚を求めるという4つがありますが、いずれも一長一短です。
自分の方針にしたがって、有利になるよう戦略的に考えていかなければなりません。離婚についての戦略はケースバイケースで、離婚理由や、手元にある証拠によっても変わります。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題について大きな争いとなっているケースを多数担当しています。
早期に弁護士を依頼することで、離婚を有利に進めることができます。すみやかに希望する解決に達するため、法的なアドバイスやサポートを受けることができます。ぜひ一度、当事務所へご相談ください。
離婚調停のよくある質問
- 離婚調停が不成立に終わるのは、どんなケースですか?
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離婚調停は、あくまで話し合いを重視した手続きなので、離婚について合意できず、決裂したときには、調停不成立となります。特に、子どもの問題で争いがあるケースなど、互いに譲歩が難しいとき、離婚調停は不成立となりやすい傾向にあります。もっと詳しく知りたい方は「離婚調停の不成立とは」をご覧ください。
- 離婚調停が不成立になった後、どう進めたらよいですか?
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離婚調停が不成立になっても、その後も離婚を求めつづける場合には、離婚協議を再開する、離婚訴訟を起こす、調停を再度申し立てる、審判離婚を求めるといった選択肢があります。ケースに応じて、最適な方針を選ばなければなりません。詳しくは「離婚調停が不成立となった後の進め方」をご覧ください。