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離婚調停する時、婚姻費用分担請求調停を同時に申し立てるべきか

婚姻費用分担請求調停とは、離婚が成立するまでの生活費を相手に請求するための調停です。離婚調停を申し立てる際、婚姻費用分担請求調停をあわせて申し立てるケースがよくあります。

離婚調停をするときに、相手よりも収入が少ない場合や育児を主に担っている場合は、婚姻費用分担請求調停を同時に行った方が有利に解決できます。婚費請求によって、別居後の生活の不安を軽減することができるからです。夫婦の収入を相手に依存していた専業主婦の人や、別居後に生活費を受け取れていない場合は、速やかに調停を申し立てて婚姻費用を請求すべきです。

今回は、離婚調停をするとき、婚姻費用分担請求調停をあわせて行う理由と、同時に申立てをするメリット・デメリットについて、弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 婚姻費用分担請求とは、夫婦の相互扶助義務に従って生活費を分担させること
  • 離婚調停と婚姻費用分担請求調停を同時に行うことで生活不安が解消できる
  • 先に婚姻費用を決めておけば、離婚について早期解決を働きかけられる

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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婚姻費用分担請求調停とは

民法では、夫婦は結婚しているうちは同居し、相互に扶助・協力する義務を負うことを定めています。この義務は、夫婦が同居中でも別居中でも変わりません。

そのため、たとえ離婚に向けた話し合いが進んでいる間でも、収入の多い方(例えば夫)が、収入の少ない方(例えば妻)に対し、生活費を負担する義務があります。このように婚姻から生じる費用負担を「婚姻費用」といい、その支払いを求めることを「婚姻費用分担請求」と呼びます。婚姻費用について定める民法760条は、次の通りです。

民法760条(婚姻費用の分担)

夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

民法(e-Gov法令検索)

婚姻費用の内訳には、次の費用が全て含まれています。

  • 食費
  • 家賃
  • 水道光熱費
  • 携帯電話代・インターネット代
  • 医療費
  • 交通費
  • 子供の養育費・教育費

つまり、配偶者と子供が生活するのに必要な一切の費用を含み、その一部には子供の養育費が含まれます。

婚姻費用は、まず話し合いで決めるのが原則ですが、交渉で解決できない場合は「婚姻費用分担請求調停」(婚費調停)を申し立てることになります。婚費調停では、養育費・婚姻費用算定表に基づいて、夫婦それぞれの年収や子供の年齢、人数に基づいて婚姻費用を決めるのが家庭裁判所の実務です。ただし、調停で合意に至らない場合は、審判に移行して裁判所が最終的な判断を下します。

婚費調停は、離婚調停と同時に申し立てることが可能です。この場合、同じ調停委員が担当し、同じ期日に審理が進められるため、手続きの負担が軽減できます。更に、婚費調停以外にも、面会交流調停や円満調停などの他の調停も、離婚調停とあわせて申し立てることができます。

別居中の生活費の相場」の解説

婚姻費用分担請求調停と離婚調停を同時に申し立てるメリット

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婚姻費用分担請求調停は、離婚までの生活費を請求する手続きですが、離婚調停とあわせて申し立てるケースが多いです。その理由は、同時に行うことにメリットがあるからです。

離婚調停と婚費調停は、同時申立をすると同じ調停委員の審理を受けることができ、2つの手続きが密接に関わり合います。そのため、調停期日における進め方を工夫すれば、そのメリットを存分に受けることができます。

生活の不安を解消できる

離婚を思い立ったときでも、専業主婦(または専業主夫)として家事や育児に専念していた場合、生活費や経済的不安が離婚を進めるハードルとなってしまいます。離婚後は児童扶養手当や各種の公的支援が受けられますが、離婚成立するまではそれらの保護もありません。

離婚調停の審理期間は、統計上約4〜6ヶ月となっており、離婚訴訟に進むと紛争は更に長期化し、1年以上争うケースも少なくありません。このような状況下で生活に困窮する事態を避けるために、離婚調停と共に婚姻費用分担請求調停を同時に申し立てることで、別居中の生活を支える費用を確保できることは大きなメリットの一つです。

調停不成立とその後の流れ」の解説

受け取れる婚姻費用の金額が増える

婚姻費用の金額について夫婦間で合意が成立した場合、「調停申立時まで遡って未払い分を清算する」のが家庭裁判所の実務です。そのため、調停中に生活費を払われなくても、調停成立時に未払い分の婚姻費用をまとめて受け取ることができます。

しかし、たとえ生活が困窮していても、調停申立時より前(例えば別居時や離婚協議の開始時)まで遡って支払いを命じることは通常ありません。そのため、生活が不安なら、婚姻費用分担請求調停を早く申し立てるべきです。したがって、離婚調停と同時に申し立てるのが、もらえる婚姻費用の月数や総額を増やすことに繋がります。

法的に正しい主張を十分にするには、弁護士のサポートを受けるのがお勧めです。

離婚に強い弁護士とは」の解説

離婚に応じてもらいやすくなる

相手が離婚を拒否して復縁を望んでいる場合、争いが激化し、長期化する傾向があります。離婚調停しか申し立てないと、相手にとって紛争を長期化させてもデメリットが生じず、離婚を強く拒み続けるケースも少なくありません。

一方で、離婚調停と婚姻費用分担請求調停を同時に申し立てると、家庭裁判所は「別居中の生活を保護する必要がある」と判断して、婚費の審理を先に進める場合が多いです。そうすると、毎月の婚姻費用を支払いながら離婚調停を続けることとなり、離婚を拒む相手にとって、紛争を長引かせることが金銭的な負担に繋がります。その結果、離婚を拒否する態度を崩させ、離婚に応じざるを得ない状況を作ることができます。

離婚調停の流れと進め方」の解説

婚姻費用分担請求調停と離婚調停を同時に申し立てるデメリット

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婚姻費用分担請求調停を離婚調停と同時に申し立てることには多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。デメリットをよく理解し、メリットがそれを上回る場合に、同時に申立てる方針で進めることが重要です。

デメリットが大きく同時申立てに向かない事案では、婚費調停のみを先に申し立てたり、逆に、離婚調停だけを申し立てたりするケースもあります。

婚姻費用がもらえないことがある

婚姻費用は、離婚成立までの生活費を指し、離婚後には受け取ることができません(なお、子の監護親は、離婚後に養育費を受け取ることができます)。離婚調停とあわせて婚姻費用分担請求調停を申し立てても、争いなく速やかに離婚が成立すると、婚姻費用を受け取る機会はなくなります。したがって、すぐに離婚できそうなら、婚費調停を同時に申し立てるメリットがありません。

離婚について争いの少ないケースでは、婚姻費用分担請求調停をあわせて申し立てると、収入に関する資料の提出を要するなど、かえって手間が増えてしまいます。

もっとも、夫婦の話し合いで解決せず調停に至るケースは、離婚条件に争いがあるのが通常で、あなたが「すぐに終わる」と思っても、相手の態度によっては争いが激化することもあります。

紛争が長期化する

婚姻費用分担請求調停を同時に申し立てたとき、通常、離婚調停よりも先に審理されます。これは、別居中の生活費を確保することが急務であると家庭裁判所が考えるからです。場合によっては、調停委員から婚姻費用の一部を仮払いするよう提案されることもあります。

しかし、婚姻費用の審理に時間がかかると、調停全体の進行が遅れ、かえって離婚が遅れるリスクがあります。婚費調停が1回の期日で終わるとは限らず、証拠の準備に手間がかかると2回〜3回の期日を要するケースも珍しくありません。紛争の長期化を防ぐには、収入を証明する書類(給与所得の場合は源泉徴収票、給与明細など、事業所得の場合は確定申告書、課税証明書など)をあらかじめ用意しておくことが重要です。

離婚までの流れと離婚の種類」の解説

感情的な対立が激化する

婚姻費用分担請求調停を申し立てることで、相手に金銭的な負担が生じ、感情的な対立が激化するおそれがあります。特に、夫が「自分ばかり負担を強いわれている」と感じることで、同時に審理される離婚調停においても反発し、話し合いが難航してしまうことがあります。

また、金銭的な要求が増えることで、離婚そのものとは別の争点が生じ、調停が複雑化するおそれもあります。相手にDVやモラハラの傾向がある場合、請求の内容について慎重に計画しなければ、相手の気持ちを逆なでしてしまいます。弁護士に相談して、感情的な衝突を最小限に抑える方法を検討するのがおすすめです。

離婚調停を弁護士に依頼するメリット」の解説

婚費と離婚をあわせて調停で話し合うときの注意点

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次に、婚姻費用分担請求調停と離婚調停をあわせて申し立て、婚費と離婚を同時に調停の席上で話し合いをするとき、注意すべきポイントについて解説します。

先に婚姻費用から決める

婚姻費用分担請求調停と離婚調停を同時に申し立てる場合、まず婚姻費用の審理を優先して進めてもらうよう、調停委員に伝えるのが重要です。

調停の進め方や審理の順序は、調停委員の裁量に任されるのが基本なので、希望があるときは積極的に意見を伝えるべきです。同時に申し立てた調停は同じ期日で審理しますが、並行して進められるとは限らないので、どの手続に重点を置きたいか、明確にすることが大切です。

特に、生活費を一切もらっていない場合や、子育てがあって就労が難しい場合には、婚姻費用を早急に決定してもらって生活の安定を図らなければなりません。生活の不安を解消しないまま離婚について焦って進め、納得のいかない離婚条件で譲ってしまうのは避けるべきです。

調停委員を味方につけるには?」の解説

婚姻費用を離婚の交渉材料とする

生活に困窮していなくても、婚姻費用の請求は、有利な離婚を実現するための交渉材料になる場合があります。例えば、相手が離婚を急ぐケース(実は交際相手がいるなど)は、婚姻費用を受け取り続けることで、離婚条件について大幅な譲歩を引き出せることが期待できます。

特に、相手が有責配偶者(離婚原因を作った配偶者)の場合、家庭裁判所の実務では少なくとも8年〜10年の別居期間が必要とされるので、その期間分の婚姻費用を解決金や財産分与、慰謝料といった名目で一括して支払うよう請求することができます。

交渉を有利に進めるには、自分の希望する離婚条件を明確にし、それを達成するための戦略として婚姻費用請求を行うことがポイントです。

離婚成立に必要な別居期間」の解説

婚姻費用分担請求調停が不成立となったときの対応

離婚調停と婚姻費用分担請求調停を同時に申し立て、調停での解決が難しいときは、離婚調停は不成立となり、離婚訴訟へ進むかどうかの選択となります。一方で、婚費調停については自動的に審判に移行し、家庭裁判所の判断を仰ぐことができます。つまり、離婚については、離婚を求める側が改めて訴訟を起こす必要がありますが、婚姻費用については裁判所の判断で審判に移行します。

審判に移行すべきタイミングの例として、以下のケースが挙げられます。

  • 相手が、婚姻費用の支払いを完全に拒否している場合
  • 相手が自分の収入を明らかにしない場合
  • 算定表の基準より著しく低い金額しか提示されない場合
  • 調停委員の勧める仮払いの提案に応じない場合

一方で、あなたが算定表を大きく超える婚姻費用を求めたことが原因で膠着しているケースでは、正当な理由を示し、証拠を提出するなどしないと、調停委員に味方になってもらえません。審判に移行しても裁判所から有利な判断を得られないおそれがあるため、注意が必要です。

なお、審判に不服がある場合は、即時抗告をして高等裁判所で争うこともできます。

離婚調停と婚姻費用調停の同時申立てのよくある質問

最後に、離婚調停と婚姻費用調停の同時申立てについてよくある質問に回答します。

同時申立てすべきケースとは?

離婚調停と婚姻費用分担請求調停を同時に申し立てるべきケースには、以下の場合があります。

  • 生活費が直ちに必要な場合
    婚姻費用を受け取らないと生活が成り立たない状況では、婚費調停を離婚調停と同時に申し立て、婚姻費用の審理を先行させるべきです。
  • 相手が離婚に応じない場合
    相手が離婚に応じず、調停が長期化する場合、婚姻費用の支払いがプレッシャーとなって相手が離婚を考えてくれる可能性があります。
  • 離婚条件が激しく争われる場合
    離婚調停が長期化しそうな場合にも、婚費調停を同時に申し立てて、別居中の生活費を確保しつつ離婚調停を進めるべきです。

離婚調停と婚姻費用調停を別々に申し立てるべきケースとは?

生活費の確保が急務でなかったり、早期の離婚を重視していたりと、個別の事情によっては別々に申し立てる方がよいケースもあります。離婚調停と婚費調停を別々に申し立てるべきケースには、以下の場合があります。

  • 早期の離婚を実現したい場合
    離婚調停が早期に成立する見込みなら、婚費調停の意義は少なく、同時申立てすると煩雑なので、離婚調停のみに絞る方がスムーズです。
  • 一定の生活費が既に支払われている場合
    任意に生活費が払われる場合、金額に多少争いがあっても、まずは離婚調停に集中すべきケースもあります。
  • 離婚を求めていない場合
    自分が離婚を求めておらず離婚調停は申し立てなくても、生活費に悩むなら婚費調停のみ進めることも可能です。

離婚調停と婚姻費用調停を同時に申し立てるときの弁護士費用は?

離婚調停を申し立てるときの弁護士費用は、次の相場が目安となります。

着手金44万円
報酬金44万円+経済的利益の11%

離婚調停と婚費調停を別々に申し立てる場合、それぞれに着手金・報酬金を設定することがあります。このとき、婚費調停の弁護士費用は、上記の離婚調停より少し安い程度となることが多いです。これに対して、両手続きを同時に行う際は、弁護士の手間や労力も少なく済むため、婚費調停は離婚調停の「追加オプション」として、比較的低額に依頼できるのが通例です。

特に、同時申立てすべきケースは、依頼者が生活に困窮している場面が多く、弁護士費用についても配慮すべき場合が少なくありません。

離婚・男女問題の弁護士費用」「離婚の弁護士費用の相場」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、離婚調停するときに「婚姻費用分担請求調停も同時に申し立てる」という戦略のメリット・デメリットと注意点を解説しました。

婚費調停と離婚調停の同時申立ては、別居後の生活費を確保しながら離婚について話し合える有効な方法です。生活を安定させて交渉を有利に進められるメリットがある一方、紛争を長期させたり対立を深めたりするリスクがあります。速やかに離婚すべきか、婚姻費用をもらって離婚を長引かせるべきか、どのような方針が有利かは、ケースに応じて戦略的に検討しなければなりません。

離婚や婚費の調停を成功させるには、自身の状況を正しく把握し、目標に応じて準備することが欠かせません。弁護士に早めに相談して、計画的に進めるのが、成功への近道です。

この解説のポイント
  • 婚姻費用分担請求とは、夫婦の相互扶助義務に従って生活費を分担させること
  • 離婚調停と婚姻費用分担請求調停を同時に行うことで生活不安が解消できる
  • 先に婚姻費用を決めておけば、離婚について早期解決を働きかけられる

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参考解説

離婚調停を有利に進めるには、財産分与や親権、養育費、不貞行為の慰謝料請求など、状況に応じた法律知識が必要です。お悩みの状況にあわせて、下記の解説もぜひ参考にしてください。

複数の解説を読むことで、幅広い視点から問題を整理し、適切な解決策を見つける一助となります。

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