
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。
夫の介護が負担になって離婚を考える人は少なくありません。
長年連れ添った夫でも、介護による心身の負担が限界に達すれば、離婚を検討するのも無理はありません。少子高齢化によって介護の負担が増す中、当事務所にも次のような相談があります。
夫の介護をしたくないという気持ちだけでは離婚は認められません。離婚の可否は協議・調停・訴訟のいずれの段階かにより異なり、介護をめぐる経緯、婚姻関係の破綻の有無といった事情が考慮されます。また、介護放棄の法的責任や、離婚後の生活設計についても理解が必要です。
今回は、夫の介護を理由に離婚できるかについて法的な考え方を解説するとともに、離婚を進める方法や注意点について、弁護士が解説します。
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/

まず、夫の介護が離婚の理由になるかについて解説します。
結論として、夫の介護をしたくないというだけでは、法的に離婚は認められません。法的に離婚可能なのは、民法770条1項の定める「法定離婚事由」(不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、婚姻を継続し難い重大な事由)に該当する事情がある場合です。
民法752条は、夫婦は同居し、互いに協力し扶助する義務を定めています(協力扶助義務)。夫婦の共同生活は、精神的・肉体的・物質的に互いの協力のもとになされるべきで、配偶者の一方が老齢や疾病、精神疾患などで自立した生活を送れない場合、同義務の一環として他方が介護などを行う「身上監護の義務」を負うと考えられています。
一方、夫の介護が妻にとって大きな負担なのも事実です。自由な時間を奪われ、慢性的な疲労や睡眠不足に悩まされる人も少なくありません。限界に達すれば、離婚を求めるのも自然なことです。無理をすれば、介護うつや体調不良で「共倒れ」にもなりかねません。
介護が原因で、夫婦関係が修復困難な状態に陥った場合など、離婚可能なケースについては次章「介護をしたくないことが離婚理由になるケース」で解説します。
では、どのようなケースで、夫の介護を理由に離婚が認められるのでしょうか。
前述の通り、介護をしたくないという主観的な理由での離婚は認められないものの、以下のような場合、介護をきっかけとした離婚が可能なケースもあります。
協議や調停の段階で夫が同意した場合には、離婚することができます。
協議離婚は、裁判所を介さず、夫婦で話し合って離婚届を提出することで成立します。また、調停離婚も、対話の形式による調停の結果として、相手の同意のもとに成立します。したがって、妻の気持ちが夫に伝わり、同意してもらうことができれば離婚は可能です。
ただし、介護が離婚の原因となる場面では、認知症などで意思疎通が困難な方もいます。離婚協議書を公正証書化することで、公証人や医師に夫の意思能力を確認してもらったり、成年後見制度の利用を検討したりといった対策が必要となります。
「離婚協議書が無効になる場合」の解説

婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項4号)がある場合、法的に離婚が認められます。
これは、夫婦関係が破綻し、回復の見込みがない状態を指します。「介護をしたくない」という気持ちだけでは認められないものの、背景にある具体的な事情によっては認められる可能性があります。不貞などの他の原因と同程度に重大であり、関係修復が困難でなければならず、かつ、裁判所で認めてもらうにはそのような事情を基礎づける証拠が必要となります。
離婚が認められるケースには、例えば次のようなものがあります。
長年の介護で心身の限界に達した場合、離婚が認められる可能性があります。うつ病などの精神疾患を発症したケースが典型例で、医師の診断書が有力な証拠となります。
夫から感謝の言葉がないばかりか、暴言や暴力といった精神的・肉体的な虐待が繰り返される場合、夫婦の信頼関係は破壊されており、離婚が認められます。過去にDVやモラハラ、精神的支配があった場合、夫の介護を拒否するのも自然であると考えられます。
「モラハラやDVから逃げるための別居」の解説

夫の親族が協力できる状況にあるにもかかわらず、妻一人に介護を押し付け、孤立させたといった事情も、離婚を認める方向にはたらく事情の一つです。
介護を受ける側が、介護に非協力的なこともあります。必要なケアを受け入れない、暴言を吐くといった非協力的な対応がある場合、離婚が成立しやすくなります。家事や育児への協力を長年怠っていたなど、過去の積み重ねによる信頼関係の破壊も重要な要素です。
「モラハラの証拠」の解説

既に長期間別居している、夫婦としての実態がない状態が続いているといった場合、実質的に夫婦関係は破綻していると評価され、離婚が認められやすくなります。一般に、別居による離婚の目安は3年〜5年程度とされます(なお、有責配偶者からの離婚請求の場合、8年〜10年の別居を要するのが裁判実務です)。
「離婚成立に必要な別居期間」の解説


次に、夫の介護をしたくないときの離婚の進め方について解説します。
感情的になって行動すると不利になる危険があります。円滑に離婚を成立させるには、婚姻関係が客観的に見て破綻していることを証明することが重要です。
介護の大変さを第三者に説得的に示すには、つらさを訴えるだけでは不十分で、客観的な証拠を集めておく必要があります。次のような資料が役立ちます。
介護が苛酷であることを裏付ける証拠は、弁護士に相談する場合の参考資料となり、調停や訴訟でも調停委員や裁判官に説明する助けとなります。
「証拠がないときの対処法」の解説

介護を理由とした離婚では、財産分与の際に介護費用が争点となります。
財産分与は、婚姻中に夫婦で築いた共有財産を公平に分配する手続きであり、介護に要した費用についても考慮してもらうには、事前に整理しておく必要があります。特有財産(結婚前から有していた財産、親からの贈与・相続など)から夫の介護費用を捻出した場合、立替え分の清算を求めるために領収書などを保存しておきましょう。
なお、義両親から夫の介護のお礼としてもらった金品は、妻への贈与と考えられ、財産分与の対象にはなりません。
「離婚時の財産分与」の解説

夫婦の合意で成立する協議離婚は、最もシンプルで負担も少ない方法です。
ただし、介護を理由とする場合、感情的に対立し、難航するおそれがあります。夫の合意を得やすくするには、次の点を意識してください。
一方的な主張では同意を得にくいため、介護施設やサービスの利用を提案したり、夫の親族への協力を依頼したりといった代替案を示すことが重要です。「夫婦関係を解消しても、見捨てるわけではない」という姿勢を示せば、夫の不安を和らげ、話し合いを進めやすくなります。
「協議離婚の進め方」の解説

協議が決裂したら家庭裁判所に調停を申し立て、合意に至らなければ離婚裁判(離婚訴訟)に進みます。調停や訴訟では、婚姻関係の破綻を調停委員や裁判官に理解してもらうための証拠が極めて重要です。例えば、次のようなものが役立ちます。
これらの資料は、介護が原因で婚姻関係が破綻したことを客観的に裏付けます。また、一般的な離婚と同様、別居期間の長さや信頼関係の欠如を示す証拠も重要です。
「離婚調停で勝つには」の解説

離婚後の夫の介護体制も、計画しておきましょう。
見捨てたり逃げたりせず、誠実な姿勢を示すことは、調停委員や裁判官にも評価され、離婚を認めてもらいやすくする助けにもなります。法律上、離婚が成立すれば介護の義務はないものの、夫が困らないように準備を進めておくべきです。
なお、配偶者には協力扶助義務がある一方で、直系血族と兄弟姉妹にも扶養義務があります(民法877条)。
有責配偶者とは、自ら婚姻破綻の原因を作った側のことを指します。
有責配偶者からの離婚請求は制限され、長期の別居を要するなどの厳しい要件が課されるのが裁判実務です。前述の通り、夫婦には協力扶助義務があるため、正当な理由なく同義務に違反し、要介護者を放置したり、置き去りにして別居したりすれば、有責と判断されます。介護を要する夫への扶助や支援を拒否することは、「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)に該当するおそれがあります。
また、離婚原因が妻の介護放棄にあると判断される場合、これによって夫が負った精神的苦痛について、慰謝料を請求されるおそれもあります。
したがって、感情に任せて進めるのは危険であり、対応を誤れば、離婚の支障となってしまうおそれがあります。重要なのは、介護を放棄するのではなく、「できる限りの努力を尽くしたが、離婚しか選択肢がなかった」と説明できるようにすることです。
「結婚することで生じる義務」の解説

最後に、夫の介護をしたくないという理由での離婚を検討する方から、よくある質問について回答しておきます。
婚姻関係が続く間は協力扶助義務があります。別居しても免れるわけではなく、離婚前の介護放棄は「悪意の遺棄」に該当するおそれがあります。現実的に一人では難しいときは、ケアマネジャーに相談して訪問介護やデイサービスなどの介護保険サービスを利用したり、夫の親族や子供による支援を求めたりすることを検討してください。
夫の介護を理由として離婚する場合も、養育費や慰謝料は請求可能です。
養育費は、子供の養育のためのもので、介護を要する夫に対しても、年金や障害年金などの収入、預貯金や不動産などの資産があれば請求が可能です。
慰謝料は、不法行為による精神的苦痛の賠償です。「介護がつらい」というだけでは認められないものの、夫からのDVやモラハラなど、介護中に精神的苦痛を受けた証拠があれば、請求できる可能性があります。
「養育費が支払われないときの対応」の解説

離婚後は、元妻が元夫を介護する法的義務はありません。
協力扶助義務や扶養義務は、あくまで婚姻関係に基づくため、夫婦関係が解消されれば消滅し、その後は法的に介護を強制される理由はありません。元夫や親族から「手伝ってほしい」と頼まれても、道義的な依頼に過ぎず、拒否することができます。
「離婚後の同居」の解説

夫の介護費用は、本人(夫)の預貯金や年金から払うのが基本となります。本人が支払えない場合、扶養義務を負う親族(主に配偶者や子)が負担します。したがって、夫に資産や収入があれば、妻が介護費用を負担する必要はありません。なお、義両親に介護費用を負担してもらえないかを相談しましょう。
「離婚に伴うお金の問題」の解説

介護による離婚を避けたい方が検討すべき方法についても解説します。
思い詰めて離婚する前に、他の解決策がないかを検討するのもよいでしょう。状況を整理し、可能な選択肢を知るためにも、専門家に相談するのがおすすめです。

今回は、夫の介護をしたくないという理由で離婚できるかについて解説しました。
夫の介護は、妻にとって心身の大きな負担となります。一人では抱えきれず、離婚したいと感じるのも無理はありません。一方で、法的には、介護をしたくないという理由だけで離婚が認められるわけではなく、夫婦関係の破綻や婚姻継続の困難といった事情が重視されます。
配偶者には、法律上の協力扶助義務があるため、「したくない」という主観的な理由で一方的に離婚するのは困難です。介護拒否や一方的な別居は「悪意の遺棄」となり、有責配偶者となって慰謝料請求をされたり、離婚が認められにくくなったりするリスクもあります
介護に限界を感じる場合、まずは協議や調停を通じて、生活環境の変化や価値観の相違を含めた話し合いを行うことが必要です。一人で抱え込まず、弁護士に相談してください。
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/