離婚・男女問題

離婚前に別居するとき「住民票を移すべき」である理由と注意点

2021年6月10日

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

離婚前の別居と住民票

離婚に向けて別居をする方からよくある法律相談に「住民票を移動させてもよいのか」という質問があります。今回はこちらの質問に回答していきます。

結論からいうと「離婚に向けた別居であれば、住民票は移しておくべきである」と考えます。ただし、離婚の決意の強さや、DV・モラハラの危険性なども考慮にいれて、最終的にはケースに応じた判断が必要です。

「離婚に向けた別居」という特殊な状況では、必ずしも住民票を移動しなければならないわけではなく、複数の判断基準で、総合的に検討しなければなりません。

そこで今回は、

  • 「別居時に住民票を移すかどうか」を判断するときに注意すべきポイント
  • 住民票を移した方が良いケース、移さないほうがよいケース
  • 離婚に向けた別居で住民票を移すときの注意点

といった、離婚・別居と住民票の関係について、離婚問題を多く取り扱う弁護士が解説します。

まとめ解説
離婚前の別居について知っておきたい全知識【弁護士解説】

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離婚に向けた別居であれば、住民票は移しておくべき!

離婚前の別居と住民票

結論としては、離婚に向けた別居であれば、住民票は別居をしたら速やかに移しておくべきと考えるのが実務的です。

ただし、「あくまでも別居は離婚に向けた手段であり、過程である」ということをよく理解しなければなりませんから、「住民票を移すかどうか」についても、離婚の支障にならないことを大前提に検討すべきです。モラハラ・DVを離婚原因として主張する場合のように、住民票を安易に移すことが危険であったり、相手の怒りを招いて話し合いがうまく進まなくなったりすることもあります。

離婚には、思いのほか長期間かかることがありますから、できるだけ速やかに別居し、住民票を移すことがおすすめです。

なお、住民票は居住していることを表す行政手続きであり、住民票の移動を14日以内に行わないと「5万円以下の過料」に処することとされています(住民基本台帳法22条、同法53条)。

参考解説

「住民票を移すべきかどうか」を判断する5つの基準

離婚前の別居と住民票

「離婚に向けた別居では住民票を移すべき」、ただしケースに応じた判断が必要だと解説しました。この「ケースに応じた判断」という難しい判断をするためには、いくつかの基準を理解し、総合考慮によって検討する必要があります。

そこで、「住民票を移動すべきかどうか」を判断するとき、検討しておきたい基準について5つに分けて解説します。

離婚の決意が固いかどうか

1つ目の基準は「離婚の決意が固いかどうか」です。

離婚が決まれば住民票を移すのは当然ですから、離婚の決意が固ければ固いほど「別居時速やかに住民票を移すべき」ということになります。いずれは離婚するわけですから、将来住民票を移し直す手間は生じません。

特に、相手が離婚に強硬に反対しているケースで、かつ、相手に不貞や暴力のような決定的な離婚原因までは存在しない場合には、「長期の別居」を理由として離婚を進めなければならないことがあります。

裁判所が「別居」の事実を認定するのに用いる証拠は、必ずしも住民票だけではないですが、このようなケースで裁判所に「長期の別居」を認めてもらいやすくするためには、住民票を早期の段階で移しておいたほうが、より有利に進めることができます。

子どもの環境に支障が生じるかどうか

2つ目の基準は「子どもの環境に支障が生じるかどうか」です。

ただでさえ、離婚に向けた別居によって環境がかわるとき、子どもの精神には大きな影響を与えますが、住民票を移動させないことにより、子どもの養育環境にとってさらに支障が生じることがあります。

例えば、子どもが、別居先の近くの幼稚園や学校に転校するとき、認可保育園のように、住民票が別居先にないと編入を認めてもらえないケースが少なくありません。

また、住民票と直接の関係はありませんが、児童手当の受取人が父親(夫)になっている場合の問題もあります。このとき、別居後に児童手当をもらい続けるためには、受給事由消滅届を出してもらう必要がありますが、相手の協力が得られない場合も多いです。

相手がこれらの子どものためになる手続きにすら協力をしないようであれば、住民票を移しておくことはもちろんのこと、早急に離婚調停の申立てに進むべきです。

参考解説

重要な郵便物が送付される予定があるかどうか

3つ目の基準は「重要な郵便物が送付される予定があるかどうか」です。

「離婚に向けた別居をしてしまうと、郵便物が届かなくなってしまう」という問題は、一般的には、郵便局や宅配業者の「転送手続き」によって解消することができます。しかし、保険証やマイナンバーカードなどの公的な証明書は住民票上の住所に送られてくるため、住民票を移しておかなければ受け取ることができません。

したがって、重要な郵便物が届くことが予定している場合、この基準の観点からも、別居時速やかに住民票を移しておいたほうがよいこととなります。

相手との離婚協議が円滑に進んでいるかどうか

4つ目の基準が「相手との離婚協議が円滑に進んでいるかどうか」です。

離婚協議が、当事者間で争いなく円滑に進んでいるようなケースでは、たとえ住民票を移さなかったことによる支障が現実化したとしても、相手の協力によって解決できます。

しかし、離婚すること自体に争いがあったり、離婚原因やその責任について主張に食い違いがあったりといったケースでは、相手の協力により問題が解決することはありません。

このような事例では、次章の「住民票を移すことによる生命や身体への危険がないかどうか」を慎重に判断した上で、支障が生じないよう住民票を早期に移動すべきです。争いが顕在化していれば、1つ目の基準からしても「離婚の決意が固い場合」に当たるのはいうまでもありません。

居所を知られて危険はないかどうか

5つ目の基準が「居所を知られることに危険はないかどうか」です。

同居中に暴力・暴言がひどかったようなケースでは、別居後に居所を知られてしまうと押しかけてきて騒ぐ可能性があるなど、危険性がある場合があります。「住民票を勝手に移した」と非難されるかもしれません。

しかし、夫婦関係が円満でない場合に、相手をおそれて住民票をうつさないことは、離婚に向けた決断が弱まってしまうおそれもあります。不当な圧力に屈するべきではありません。

DV・モラハラが存在するようなときの別居では、住民票の問題に限らず、別居にはさまざまな危険がともないます。これらの危険について、別居前のしっかりとした準備で適切に対策すべきです。DV・モラハラ事例で住民票を移すときの対策については次章を参考にしてください。

DV・モラハラ事例で、住民票を移すときの対策

離婚前の別居と住民票

「離婚に向けた別居では住民票を移すべき」という考え方は、DV・モラハラの悪質な事例でも基本的に変わりはありません。ただし、DV・モラハラ事例の特殊性を加味した対策が必要です。

「DV・モラハラがひどいので、住民票を移すと追ってきて連れ戻されてしまうのではないか」、「別居先に来て騒がれたり、暴力を振るわれたりするのではないか」という不安を抱く方も多いです。

しかし、これらの不安は、別居の前に対策をしておくことで回避することができます。

住民票を移したことは知られる?

住民票を移したことは、原則として配偶者には知られてしまうとお考えください。というのも、配偶者は、戸籍の附表、住民票の除票を取得することができ、これらの書類には、住民票の移動先が記載されているからです。

なお、弁護士などの士業が行うことのできる職務上請求によっても、相手の同意なく住民票や戸籍など公的資料の入手が可能です。この職務上請求は、次に解説する住民票の閲覧制限(DV等支援措置)がなされている場合にも、厳格な審査の上で認められることがあります。

したがって、住民票を移動させたことを調べる方法はあるという前提で、DVなどが存在する事例において次章以降で解説する対策をしておくことがおすすめです。

住民票の閲覧制限(DV等支援措置)

強度のDVが存在するなど、住民票を移動させることにより別居先がばれてしまうと生命、身体に危険がともなうことが予想される場合には、住民票の閲覧制限をする措置をとっておくことも重要です。

住民票の閲覧制限は、DV、ストーカー行為、児童虐待の加害者が、住民票を悪用して居所を特定し、被害を拡大させてしまうことのないように、市区町村の住民基本台帳事務の運用上定められた制度で、「DV等支援措置」ともいいます。

「DVが存在し、生命又は身体に危害を受けるおそれがある」などの要件にあてはまる場合には、1年間、加害者からの住民票などの写しの請求を拒否してもらうことができます。子どもや親など、同一の住所に居住する者についても同様の措置を実施することができます。

実家、シェルターの協力を得る

DV・モラハラが強度かつ悪質なとき、別居先の選定にも注意が必要となります。新たなマンションを借りて別居すると、別居先が相手にばれづらい反面、家族、親族の助けを借りることが難しい場合があります。一方で、実家を既に知られてしまっている場合、実家を別居先とすると、実家におしかけてきてしまう危険があります。

どのような別居先を選択するとしても、家族の協力を得ることができるのであれば、「離婚に向けて別居をすること」とともに、「DV・モラハラの被害にあっていること」を伝え、協力を求めるようにしておいてください。

このことは、離婚前の別居で住民票を移すとき、いざ別居先が知られてしまったとしても、相手の更なる暴力などに対して抑止力となります。DV・モラハラが悪質な場合には、シェルターへの避難も検討すべきです。

最適な別居先については、ご家族の状況によって変わるため、詳しくは下記の解説を参考にしてください。

参考解説

離婚前の別居で、住民票を移すときの手続き

離婚前の別居と住民票

ここまでの解説をもとに「住民票を移すべきだ」という判断をした方に向けて、住民票を移す際の手続きについても簡単に解説します。

住民票の移動は、各市区町村役場で行います。

同一の市区町村内で移動をするときには、その市区町村役場に転居届を提出するだけで手続きは終了します。

これに対して、異なる市区町村間の移動の場合には、別居前の市区町村役場に対して転出届を提出し、別居後の市区町村役場に対して転入届を提出することとなります。

その他に、印鑑登録証明書、国民健康保険、国民年金、マイナンバーカードといった他の行政手続きについても、ついでに市区町村役場で行っておくことがおすすめです。

離婚前の別居で住民票を移すとき、当事務所によせられる法律相談

離婚前の別居と住民票

最後に、離婚に向けた別居で住民票を移すかどうかお悩みの方から、法律相談においてよく受ける質問について回答します。

Q1 世帯主は誰になりますか?

世帯主とは、1つの居所に居住する人の代表者のことをいいます。

離婚後の別居先が実家の場合で、離婚を前提として親と同じ住民票に入る場合には、親が世帯主ということになります。これに対して、別居後、一人暮らしをする場合には、自分が世帯主となります。

また、実家に同居する場合でも、独立の生計を立てているような場合には、親と別の住民票とすることもでき、この場合には、自分が世帯主となり、実家の住所に2つの世帯が同居する形となります。

Q2 相手の許可を得ずに住民票を移してもよいですか?

住民票を移すことに、配偶者の許可は不要です。このことは、先ほど解説した住民票を移す方法において、相手の許可を取得する手続きが存在しないことからも理解していただけるでしょう。

なお、相手の許可が得られることが期待でき、かつ、円満に離婚が進みそうだというような場合でもない限り、事前に別居日や別居タイミングについて配偶者に伝えることは、良い結果にならない可能性が高いため注意が必要です。

Q3 住民票を移すと離婚に不利になることがありますか?

住民票を移すこと自体が離婚に不利にはたらくことは極めて稀です。

離婚に不利にはたらく可能性のあるケースとして、正当な理由なく一方的に別居を開始することが同居義務違反として「悪意の遺棄」(民法770条)という離婚原因にあたることがあります。

しかし、既に離婚に向けて歩を進めているのであれば、このような心配はなく、離婚に向けた別居であれば、やはり住民票は移しておくべきです。むしろ、住民票を別居後速やかに移しておくことは、より長期間の別居があったことを示す証拠となり、離婚協議において有利な事情としてはたらきます。

なお、離婚前の別居が、離婚にとって不利にはならないことについては、次の解説も参考にしてください。

参考解説

離婚と別居に関する問題は浅野総合法律事務所にお任せください!

離婚前の別居と住民票

離婚に向けて別居を開始することは大きな覚悟が必要なことです。したがって、そのような決断をしたのであれば、住民票は速やかに移しておくことがおすすめです。

実際に、離婚協議を有利に進めていくためにも、早めに住民票を移しておくべきです。

ただし、子どもの環境に支障が出る事例や、DV・モラハラがひどい事例では、住民票を移す前に、適切な別居先の選定や、同居の家族の協力、DV等支援措置の利用などの準備をしておかなければなりません。

離婚に向けた別居に不安を感じている方は、ぜひ一度当事務所へ法律相談ください。

まとめ解説
離婚前の別居について知っておきたい全知識【弁護士解説】

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院終了。

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