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離婚前に別居するとき「住民票を移すべき」である理由と注意点

離婚に向けて別居したい方からの法律相談で「住民票を移動させてもよいのか」という質問がよくあります。今回はこちらの質問について解説します。

結論からいうと、「離婚に向けた別居であれば、住民票は移しておくべき」と考えます。ただし、離婚の決意の強さ、DV・モラハラの危険度なども考慮して、最終的にはケースに応じた判断が必要です。「離婚に向けた別居」という特殊な状況では、かならずしも住民票を移さなければならないわけではなく、複数の判断基準で、総合的に検討するべきだからです。

以下の解説では、「別居時に住民票を移すかどうか」を判断するポイントや、住民票を移すときの注意点について、弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 離婚を目指しているなら、別居とともに住民票を移すのが基本
  • 離婚に向けた決意の硬さ、DV・モラハラの危険度によっては住民票を移さないケースもある
  • 住民票を移すとき、相手の許可は不要

なお、離婚前の別居について、深く知りたい方は、次のまとめ解説をご覧ください。

まとめ 離婚前の別居について知っておきたい全知識

目次(クリックで移動)
解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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離婚に向けた別居なら、住民票は移すべき

ポイント

結論としては、離婚に向けた別居であれば、住民票は別居したらう速やかに移しておくべきと考えるのが実務です。離婚までには、思いのほか長期間かかることもあるため、できるだけ速やかに別居し、住民票を移すことがおすすめです。

ただし、「あくまでも別居は離婚に向けた手段であり、過程である」ということをよく理解しなければなりません。「住民票を移すかどうか」についても、離婚の支障とはならないことが大前提です。モラハラ・DVを離婚原因として主張するケースでは、住民票を移すことがむしろ危険だったり、相手の怒りをまねき話し合いがうまく進まなくなったりすることもあります。

なお、住民票は、「居住していること」をあらわす行政手続きであり、住民票の移動を14日以内に行わないと「5万円以下の過料」に処することとされています(住民基本台帳法22条、同法53条)。

住民票を移すべきかの5つの判断基準

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

「離婚に向けた別居では住民票を移すべき」、ただしケースに応じた判断が必要だと解説しました。この「ケースに応じた判断」という難しい決定をするためには、いくつかの基準を知り、総合的に考える必要があります。

そこで、「住民票を移動すべきかどうか」を判断するとき、検討しておきたい基準について5つに分けて解説します。

離婚の決意が固いかどうか

1つ目の基準は「離婚の決意が固いかどうか」です。

離婚が決まれば住民票を移すのは当然ですから、離婚の決意が固いほど「別居時にすみやかに住民票を移すべき」ということになります。いずれは離婚するわけですから、将来住民票を移しなおす手間は生じません。

特に、相手が離婚に強硬に反対しているケースで、かつ、相手に不貞や暴力のような決定的な離婚原因までは存在しないケースでは、「長期の別居」を理由に離婚を進めなければならないことがあります。裁判所が「別居」の事実を認定するのに用いる証拠は、必ずしも住民票だけではありませんがが、裁判所に「長期の別居」があると認めてもらいやすくするためには、住民票を早期の段階で移しておいたほうがより有利に進められます。

子どもの環境に支障が生じるか

2つ目の基準は「子どもの環境に支障が生じるかどうか」です。

ただでさえ、離婚に向けた別居によって環境がかわるとき、子どもの精神には大きな影響を与えますが、住民票を移動させないことで子どもの養育環境にさらなる支障が生じるおそれがあります。

例えば、子どもが、別居先の近くの幼稚園や学校に転校するとき、認可保育園のように、住民票が別居先にないと編入を認めてもらえないケースが少なくありません。また、児童手当の受取人が父親(夫)になっている場合の問題もあります。このとき、別居後に児童手当をもらい続けるには、受給事由消滅届を出してもらう必要がありますが、相手の協力が得られない場合も多いです。

相手がこれらの子どものためになる手続きにすら協力をしないようであれば、住民票を移しておくことはもちろんのこと、早急に離婚調停の申立てに進むべきです。

なお、子どもを連れて別居するときの注意点は、次の解説も参考にしてみてください。

重要な郵便物がくる予定があるか

3つ目の基準は「重要な郵便物がくる予定があるかどうか」です。

「離婚に向けた別居をしてしまうと、郵便物が届かなくなってしまう」という問題は、一般に、郵便局や宅配業者の「転送手続き」で解消できます。しかし、保険証やマイナンバーカードなどの公的な証明書は住民票上の住所に送られてくるため、住民票を移しておかなければ受け取ることができません。

したがって、重要な郵便物が届くことが予定している場合、この基準の観点からも、別居時速やかに住民票を移しておいたほうがよいこととなります。

離婚協議が円滑に進んでいるか

4つ目の基準が「相手との離婚協議が円滑に進んでいるかどうか」です。

離婚協議が、当事者間で争いなく円滑に進んでいるようなケースでは、たとえ住民票を移さなかったことによる支障が現実化したとしても、相手の協力によって解決できます。しかし、離婚自体に争いがあったり、離婚原因やその責任について主張に食い違いがあったりするケースでは、相手の協力によって問題解決することはありません。

このような事例では、次章を参考に「住民票を移すことによる生命や身体への危険がないかどうか」慎重に判断のうえで、支障が生じないよう住民票を早く移動すべきです。争いが顕在化していれば、1つ目の基準からしても「離婚の決意が固い場合」にあたるのはいうまでもありません。

居所を知られて危険はないか

5つ目の基準が「居所を知られて危険はないかどうか」す。

同居中に暴力・暴言がひどかったケースでは、別居後に居所を知られてしまうと押しかけてきて騒ぐ可能性があるなど、危険性がある場合があります。「住民票を勝手に移した」と非難されるかもしれません。

しかし、夫婦関係が円満でない場合に、相手をおそれて住民票をうつさないことは、離婚に向けた決断が弱まってしまうおそれもあります。不当な圧力に屈するべきではありません。

DV・モラハラが存在するようなときの別居では、住民票の問題に限らず、別居にはさまざまな危険がともないます。これらの危険について、別居前のしっかりとした準備で適切に対策すべきです。DV・モラハラ事例で住民票を移すときの対策については次章を参考にしてください。

DV・モラハラ事例で、住民票を移すときの対策

悩む女性

「離婚に向けた別居では住民票を移すべき」という考え方は、DV・モラハラの悪質な事例でも基本的に変わりはありません。ただし、DV・モラハラ事例の特殊性を加味した対策が必要です。

  • 「DV・モラハラがひどいので、住民票を移すと追ってきて連れ戻されてしまうのではないか」
  • 「別居先に来て騒がれたり、暴力を振るわれたりするのではないか」

という不安を抱く方も多いです。しかし、これらの不安は、別居前に対策しておくことで回避できます。

DVの被害者支援は、弁護士、警察、シェルター等の支援機関が連携しながら行うこととなり、その中心となるのが弁護士です。

DVの被害者支援
DVの被害者支援

以下では、DVのあるケースで、住民票を移すときの対策について解説します。

住民票を移したことは知られる

住民票を移したことは、原則として配偶者には知られてしまうとお考えください。というのも、配偶者であれば、戸籍の附票、住民票の除票を取得することができ、これらの書類には、住民票の移動先が書かれてしまっているからです。

なお、弁護士などの士業が行うことのできる「職務上請求」によっても、相手の同意なく住民票や戸籍など公的資料の入手が可能です。この職務上請求は、次に解説する住民票の閲覧制限(DV等支援措置)がなされている場合にも、厳格な審査の上で認められることがあります。

したがって、住民票を移動させたことを調べる方法はあるという前提で、DVなどが存在する事例において次に解説する対策をしておかなければなりません。

住民票の閲覧制限(DV等支援措置)

強度のDVが存在するなど、住民票を移動させることにより別居先がばれてしまうと生命、身体に危険がともなうことが予想される場合は、住民票の閲覧制限をする措置をとっておくことが重要なポイントです。

住民票の閲覧制限は、DV、ストーカー行為、児童虐待の加害者が、住民票を悪用して居所を特定し、被害を拡大させてしまうことのないように、市区町村の住民基本台帳事務の運用上定められた制度で、「DV等支援措置」ともいいます。

「DVが存在し、生命又は身体に危害を受けるおそれがある」などの要件にあてはまる場合には、1年間、加害者からの住民票などの写しの請求を拒否してもらうことができます。子どもや親など、同一の住所に居住する者についても同様の措置を実施することができます。

実家、シェルターの協力を得る

DV・モラハラが強度かつ悪質なとき、別居先の選定にも注意が必要となります。新たなマンションを借りて別居すると、別居先が相手にばれづらい反面、家族、親族の助けを借りることが難しい場合があります。一方で、実家を既に知られてしまっている場合、実家を別居先とすると、実家におしかけてきてしまう危険があります。

どのような別居先を選択するとしても、家族の協力を得ることができるのであれば、「離婚に向けて別居をすること」とともに「DV・モラハラの被害にあっている」ことを伝え、協力を求めるようにしてください。

このことは、離婚前の別居で住民票を移すとき、いざ別居先が知られてしまったとしても、相手の更なる暴力などに対して抑止力となります。DV・モラハラが悪質な場合には、シェルターへの避難も検討すべきです。

最適な別居先については、ご家族の状況によって変わるため、詳しくは下記の解説を参考にしてください。

住民票を移すときの手続き

ここまでの解説をもとに「住民票を移すべきだ」と判断できた方に向け、住民票を移すときの手続きについても解説しておきます。

住民票の移動は、各市区町村役場で行います。同一の市区町村内で移動をするときには、その市区町村役場に転居届を提出するだけで手続きは終了します。

これに対して、異なる市区町村間の移動の場合には、別居前の市区町村役場に対して転出届を提出し、別居後の市区町村役場に対して転入届を提出することとなります。

その他に、印鑑登録証明書、国民健康保険、国民年金、マイナンバーカードといった他の行政手続きについても、ついでに市区町村役場で行っておくことがおすすめです。

離婚前の別居で住民票を移すとき、当事務所によせられる法律相談

弁護士浅野英之

最後に、離婚に向けた別居で住民票を移すかどうかお悩みの方から、法律相談においてよく受ける質問について回答します。

Q1 世帯主は誰になりますか?

世帯主とは、1つの居所に居住する人の代表者のことをいいます。

離婚後の別居先が実家の場合で、離婚を前提として親と同じ住民票に入る場合には、親が世帯主ということになります。これに対して、別居後、一人暮らしをする場合には、自分が世帯主となります。

また、実家に同居する場合でも、独立の生計を立てているようなときには、親とは別の住民票とすることもでき、この場合には、自分が世帯主となり、実家の住所に2つの世帯が同居する形となります。

Q2 相手の許可を得ずに住民票を移してもよいですか?

住民票を移すことに、配偶者の許可は不要です。このことは、先ほど解説した住民票を移す方法において、相手の許可を取得する手続きが存在しないことからも理解していただけるでしょう。

なお、相手の許可が得られることが期待でき、かつ、円満に離婚が進みそうだというような場合でもない限り、事前に別居日や別居タイミングについて配偶者に伝えることは、良い結果にならない可能性が高いため注意が必要です。

Q3 住民票を移すと離婚に不利になることがありますか?

住民票を移すこと自体が離婚に不利にはたらくことは極めて稀です。

離婚に不利にはたらく可能性のあるケースとして、正当な理由なく一方的に別居を開始することが同居義務違反として「悪意の遺棄」(民法770条)という法定離婚原因にあたることがあります。

しかし、すでに離婚に向けて歩を進めているのであれば、このような心配はなく、離婚に向けた別居であれば、やはり住民票は移しておくべきです。むしろ、住民票を別居後すみやかに移しておくことは、より長期間の別居があったことを示す証拠となり、離婚協議で有利な事情としてはたらきます。

なお、離婚前の別居が、離婚にとって不利にはならないことについては、次の解説も参考にしてください。

まとめ

離婚に向けて別居を開始することは大きな覚悟が必要なことです。したがって、そのような決断をしたのであれば、住民票は速やかに移しておくことがおすすめです。

実際に、離婚協議を有利に進めていくためにも、早めに住民票を移しておくべきです。

ただし、子どもの環境に支障が出る事例や、DV・モラハラがひどい事例では、住民票を移す前に、適切な別居先の選定や、同居予定の家族の協力、DV等支援措置の利用を準備しておかなければなりません。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所
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弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題について多数の解決実績があり、研鑽を積んでおります。

離婚前の別居時には、考えなければならない問題が数多くあります。離婚に向けた別居に不安を感じている方は、ぜひ一度当事務所へ法律相談ください。

離婚前の別居のよくある質問

離婚前に別居するとき、住民票を移したほうがよいですか?

離婚に向けた別居であれば、住民票はすみやかに移しておいたほうがメリットが大きいです。ただし、DV・モラハラがあるケースなど、住民票の移動に慎重にならなければならない場合もあります。詳しく知りたい方は「住民票を移すべきかの5つの判断基準」をご覧ください。

DV・モラハラで別居するとき、住民票を移す際の注意点は?

DV・モラハラで別居するときも、早期離婚を目指すなら住民票を移すべきですが、別居先が知られてしまわないよう住民票の閲覧制限(DV等支援措置)を利用してください。もっと詳しく知りたい方は「DV・モラハラ事例で、住民票を移すときの対策」をご覧ください。

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