離婚届の提出の場面で、証人について疑問が生じることがあります。
相談者離婚届に証人が必要って本当?
相談者誰に頼めばいいのか分からない
初めての離婚だと戸惑うのも当然ですが、法律上、協議離婚を成立させるには、成人2名の「証人」による署名が必要です。親や友人、弁護士などに頼む人が多いですが、証人になれる者の条件は法律で決まっていて、全く誰でもいいわけではありません。
離婚を急ぐ場合、「証人が見つからないときはどうすればいい?」といった不安も尽きないでしょう。
今回は、離婚届における証人の役割や条件、証人がいない場合の対応方法について、弁護士がわかりやすく解説します。
- 協議離婚の成立には成人2名の署名が必要となる
- 離婚届の証人は、18歳以上の成人なら国籍や性別、関係性は問わない
- 離婚届の証人に法的責任は生じないが、必ず証人本人が自署すること
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離婚届における証人とは
離婚届の証人とは、協議離婚が当事者の真意に基づくものであることを第三者として確認し、署名する役割を担う存在です。
以下ではまず、離婚届における証人の基本について解説します。
離婚届に証人が必要な理由
協議離婚は、当事者である夫と妻の合意によって離婚する方法です。
協議離婚は、裁判離婚や調停離婚と違って裁判所を経ずに成立するので、本当に当事者の意思に基づくのか、客観的に確認する仕組みが必要です。離婚は、扶養義務や相続権などの権利義務にも大きく影響を及ぼすので、偽装や強要による離婚を防ぐため、慎重に進めるべきです。

この目的を果たすのが「証人制度」であり、証人は離婚届に署名をすることで、当事者双方の自発的意思によることを第三者として確認します。
民法では、離婚届に証人2名の署名が求められています(民法764条、739条2項)。証人の記載がないと離婚届は受理されず、協議離婚は成立しません。なお、証人は離婚に賛成している必要はなく、あくまで「離婚の意思に相違がない」ことを確認して署名すれば足ります。
「協議離婚の進め方」の解説

離婚届の証人は2人必要
協議離婚の離婚届には、必ず成人2名の証人が必要とされます。
証人が1人しかいない離婚届は受理されません。また「同じ人物が2カ所に署名する」「記入が一部でも欠けている」といった誤記や不備でも無効となります。
間違えた場合、二重線で訂正するか、新しい離婚届を用意しましょう。「誰が証人になったか」は戸籍に記載されることはありませんが、役所に受理してもらうために、署名・生年月日・住所・本籍などの情報を正確に記載してください。
離婚の種類と証人の有無
離婚には以下のような種類があり、手続きによって証人の要否が異なります。
- 協議離婚
当事者の話し合いにより合意して離婚届を提出する、最も利用される方法。証人2名の署名が必要となります。 - 調停離婚
家庭裁判所の調停によって離婚する方法。離婚届は提出するが、調停調書に基づいて成立するので証人は不要。 - 審判離婚
家庭裁判所の審判によって離婚する方法。調停と同じく、審判書に基づいて成立するので、証人は不要。 - 裁判離婚
家庭裁判所の裁判によって離婚する方法。判決に基づいて成立するので、証人は不要です。 - 和解離婚・認諾離婚
離婚裁判(離婚訴訟)における裁判上の和解や認諾によって離婚が成立するので、証人は不要。
したがって、証人が必要となるのは「協議離婚のみ」となります。
この違いは、協議離婚以外は裁判所を通じて行う離婚であるのに対し、協議離婚は夫婦の合意によって行う離婚であるためです。
「離婚までの流れ」の解説

離婚届に証人になるための法律上の条件

離婚届の証人になるためには、以下の法律上の条件を満たす必要があります。
年齢18歳以上の成人であること
離婚届の証人になる条件の一つ目は、成人(年齢18歳以上)であることです。
2022年4月1日施行の民法改正により、成人年齢は20歳から18歳に引き下げられました。したがって現在は、18歳以上なら証人になることが可能です。
年齢の要件を満たしていない場合、つまり、18歳未満の未成年者が証人欄に署名した場合、その離婚届は形式不備であり、受け付けてもらうことができません。
国籍・性別・住所に制限はない
証人として署名する人の国籍や性別、住所には、法的な制限はありません。
日本国籍を持たない外国人も証人になることができます(住民票が国内になくても可)。したがって、海外在住の知人に依頼し、署名済みの離婚届を郵送でやり取りすることも可能です。
男女の別なく、どちらでも証人になることができ、男女2名である必要もありません(証人が男性のみ、女性のみでも可)。離婚する当事者と同居している必要もなく、住所が異なる他人でも証人になることができます。
当事者との関係性に制限はない
離婚をする当事者との関係性にも制限はありません。
親族・友人・職場関係者や知人はもちろん、全く知らない人でも大丈夫で、夫婦の子供であっても成人していれば証人になることが可能です。
例えば、以下のような例があります。
- 両親・兄弟姉妹などの親族
- 親しい友人
- 勤務先の同僚や上司
- 現在の恋人・交際相手
- 隣人や元同級生など
当事者の一方が、自分と関係の深い2名に依頼するのも問題ありません。
ただし、証人が夫の親族のみ、妻の交際相手(不貞相手)といった「一方当事者と非常に親密な人物」である場合、法的に問題なくても、相手方に不満を抱かせ、話し合いがうまく進まなくなるリスクがないか、注意してください。
「子供の離婚で親の対応は?」の解説

証人にリスクやデメリットはある?

次に、離婚届の証人を依頼された側の立場で、証人となるリスクやデメリットを解説します。結論としては、離婚届の証人欄に自分の名前を記載しても、大きなリスクはないと考えます。
借金の保証人と違い法的な責任はない
「証人」というと、借金の「保証人」と混同する人もいます。
離婚届に署名を求められ、「責任が発生するのでは」「離婚後の金銭トラブル(財産分与や慰謝料など)に巻き込まれるのでは」と不安を感じる人も少なくありません。しかし、離婚届の証人は、金銭債務の連帯保証ではなく、法的な責任は負いません。
証人の役割はあくまで、当事者双方の真意に基づいて離婚に合意していることを形式的に確認し、署名することに過ぎず、離婚における法律問題には関与しません。仮に、夫婦間で離婚後に紛争が起きても、証人が責任追及されることはありません。
ただし、例外的に、離婚意思の確認を怠った場合に、証人に一定の注意義務違反を認めた裁判例があります(東京地裁平成21年1月14日判決)。この裁判例では、一方の言い分だけで署名した証人に、6万円の損害賠償の支払いを命じました。
特殊なケースではありますが、証人になる人は、当事者双方の意思を簡単にでも確認しておくのが望ましいと考えられます。
役所から証人に連絡が来ることもない
離婚届に署名をしても、通常、役所から証人に連絡が入ることはありません。
役所が確認するのはあくまで形式要件(署名・住所・生年月日・本籍)であり、本人に照会することはなく離婚届が受理されるのが一般的です。本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)の提出も不要です。
ただし、明らかな虚偽記載が疑われる場合など、例外的に確認が入る可能性はあります。また、離婚トラブルで対立が激しい場合、不満を持った相手が、証人はどのような人物かと探偵や調査会社に素行調査を依頼するケースがあります。
このような特殊なケースを除けば、証人として署名しても特に影響はありません。
離婚届の証人になることを頼まれた場合の注意点
では、離婚届の証人になることを頼まれたら、どのようなことに注意すべきでしょう。
まず、夫または妻のいずれか一方から証人欄への署名を依頼されたら、夫婦双方に離婚の意思があるかどうかを慎重に確認しましょう。当事者の離婚意思を証明する役割があるので、何も事情を説明されず「とにかく早く書いて」などと急かされた場合、署名は控えるのが賢明です。
また、氏名や住所・本籍などの事項に誤字脱字がないよう丁寧に記載してください。本籍地は特に記載ミスが多いので、住民票や戸籍謄本を確認するのがお勧めです。
なお、親しい間柄でも、証人はあくまで署名をするだけで、離婚に関わるわけではありません。揉めている離婚問題に深入りしてトラブルにならないよう注意してください。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

離婚届の証人を頼める人がいない場合、誰に頼めばいい?

次に、離婚届の証人を頼める人がいないとき、どうすればよいかを解説します。
頼める人がすぐには思いつかないケースもあります。家族や友人に事情を話しづらい、疎遠になっている、周囲に頼れる人がいないなど事情は様々でしょうが、以下の順序で検討してください。
家族や親戚に頼む
離婚届の証人として最もよく選ばれるのが、親族です。
例えば、実家の両親や兄弟姉妹などに頼む人が多いです。親族は信頼関係もあり、説明もしやすいので、友人や職場に言い出しづらい場合でも署名を依頼しやすいです。
ただし、親族が離婚に反対している場合、それだけで署名が無効とはならないものの、事後にトラブルが生じることが懸念されます。親との関係性が悪化している人は、無理に依頼せず、他の候補を探した方が良い場合もあります。
「離婚の話し合いに第三者を同席させる場合」の解説

身近な友人や知人に頼む
親しい友人や職場の同僚・知人なども、証人としてよく選ばれます。
家族が離婚に反対していて署名を頼みづらかったり、疎遠だったりする場合、お互いの親しい友人や職場の同僚に依頼する人も多くいます。
関係性にもよりますが、証人に離婚の理由や経緯について詳しく話す必要はなく、単に「離婚する意思があるので離婚届に署名してほしい」と伝えるので足ります。
弁護士などの専門家に依頼する
依頼できる人が見つからないとき、弁護士などの専門家に依頼する手もあります。
離婚協議を弁護士に依頼した場合、証人を任せられないか願い出ることが可能です。ただし、弁護士は「一方当事者の代理人」なので、代理人と証人を兼ねることに慎重になる人もいます。
弁護士に依頼できれば、証人としての署名だけでなく、離婚届の記載内容をチェックしてもらえるメリットもあり、不備やミスを防ぎたい人にとっては安心できる選択肢です。
「弁護士に相談する前の準備」の解説

離婚届証人代行サービスを利用する
どうしても証人を頼める人が見つからない場合、証人代行サービスを利用する手もあります。
離婚届の証人代行サービスは、第三者が有料で、証人欄に記入してくれるサービスです。対面のほか、郵送で対応可能なサービスもあります。費用は、1名あたり5,000円~10,000円程度が相場となっており、依頼時の必要書類として本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)を求められることがあります。
証人代行サービスは、弁護士とは違って職務上の守秘義務や倫理規定はありません。
個人情報の悪用などが全くないとはいえないので、格安を強調する業者には注意しましょう。トラブル防止のため、サービス提供者の身元がはっきりしている業者や、行政書士が運営するサービスなどを利用するのが無難です。
証人に署名してもらう方法

次に、実際に証人に署名してもらう方法を確認しましょう。
不備や記載ミスがあると不受理となり、再提出が必要となります。離婚をスムーズに進めるために、証人欄を正確に記載してもらうことが重要です。
記載が必要な情報
離婚届の証人欄に必要な情報は、氏名、生年月日、住所、本籍の4つです。
特に、本籍は間違えやすく、「番地が違う」「枝番を書き忘れた」などの誤記が多い項目です。訂正は証人本人しか行えないため、誤りのないよう慎重に記入してもらう必要があります。
印鑑は押印してもよいが、現在は任意
従来は押印が必要でしたが、戸籍法改正により、2021年9月1日から押印は任意となりました。これにより、離婚届の証人欄に押印がなくても、有効な届出として受理されます。
ただし、任意で押印する場合は、次の点に注意してください。
- 使用する印鑑は、実印でなく認印でも可
- 印鑑登録証明書も不要
- シャチハタ印(スタンプ印)やゴム印は不適切
- 一度で鮮明に押印すること
- 姓が同じ場合でも同じ印鑑は使い回さないこと
例えば、自分の両親に証人を頼んだ場合、証人2名の苗字が同じになりますが、別々の印鑑を使用してもらうようにしてください。
署名してもらうタイミングと手順
証人の署名は、離婚届全体の作成後、役所に提出する前に依頼します。
例えば、次の流れで証人への依頼を進めましょう。
- 市区町村役場で離婚届を取得する。
- 夫婦が離婚届に署名する。
- 証人欄だけ空欄にして証人に渡し、必要事項を案内する。
- 自署でサインしてもらう。
- 記入後、内容に誤りがないか当事者が確認する。
- 役所に提出する。
離れて暮らす証人に依頼するときは、郵送でも可能です(記載済みの離婚届の原本を郵送し、証人に署名して返送してもらいます)。
離婚届の証人欄を本人が書くのは絶対NG
証人欄は、証人本人が自署することが原則です。代筆は原則として認められず、他人によるものだと私文書偽造罪に問われる可能性があります。法律違反であったり受理されなかったりするだけでなく、偽造しようとしたことが発覚すれば、夫婦間のトラブルにも発展します。
なお、戸籍法施行規則62条1項は、「署名することができないと市町村長が認めるとき」に限り、代筆を認める旨を定めています(例:手が不自由で文字が書けない、ケガや病気でペンが持てない、高齢や障害で署名が困難であるなど)。
「離婚裁判は弁護士なしでもできる?」の解説

離婚届の証人に関するよくある質問
最後に、離婚届の証人に関して、よくある質問に回答しておきます。
離婚届の証人は誰でもいい?
法律上は、18歳以上の成人であれば、誰でも証人になることが可能です。
国籍、性別、当事者との関係性も問われません。例えば、親族(親・兄弟姉妹)・友人・知人・職場の同僚・大家・恩師・外国籍の人など、関係性に制限はありません。
ただし、次のような人に依頼するのは、避けるのが無難です。
- 明らかに夫婦のトラブルに巻き込まれそうな人
- 信頼関係のない人
- 感情的な対立がある当事者の家族
特に、自分の親が配偶者に敵意を持っている場合、証人を頼むかどうかは慎重に判断してください。証人には法的責任はありませんが、心理的な負担を少しでも減らせるよう、事情を説明して依頼するのがよいでしょう。
「別居しても離婚話が進まない」の解説

自分の子供でも証人になれる?
自分の子供でも18歳以上の成人であれば証人になることができます。
もっとも、親権争いが激しい、子供が一方の親を嫌っている、離婚による精神的負担が大きい、といったケースでは、証人を依頼することで心理的な負担をかけるのは避けるべきです。
離婚時に親権争いがあった場合も、子供を証人とすると、相手の感情的な反発を招くおそれがあります。
「子供がいる夫婦の離婚」の解説

証人欄に署名なしだと協議離婚できない?
証人2名の署名がない離婚届は、受理してもらうことができません。
したがって、証人が1名しかいない場合や、署名そのものがない場合、協議離婚が成立しません。生年月日・住所・本籍が空欄であったり、誤字脱字があったり、証人本人の自署ではない疑いがあったりする場合も、不受理となるおそれがあります。
「妻が別れてくれないとき」の解説

離婚届に勝手に名前を書くとどうなる?代筆は可能?
証人の署名欄は、証人本人以外が記入してはならず、代筆は認められません。
本人以外が署名すると、私文書偽造罪となるおそれもあります。証人本人が了承していても、代筆や代理署名は認められません。なお、例外的に、「署名することができないと市町村長が認めるとき」には、代筆が可能です(「離婚届の証人欄を本人が書くのは絶対NG」参照)。
証人が離婚に反対したら?
証人の役割は、離婚に賛成・反対することではなく、離婚意思の確認です。
したがって、仮に証人が離婚に反対の場合でも、署名は可能です。
ただし、反対の意思が強い人に無理に頼むのはトラブルの元です。無理に書いてもらうのではなく、他の証人候補を探してください(他に思い当たらないときは、弁護士や証人代行サービスを利用する手もあります)。
「離婚問題に相手の親が介入してきたら?」の解説

証人は離婚理由を確認する必要はある?
証人は離婚理由を確認する必要はなく、夫婦から証人に説明する義務もありません。
証人はあくまで、当事者の真意に基づく離婚かを確認する立場であり、離婚理由に踏み込む必要はありません。財産分与や不貞行為の有無なども、知る必要はありません。
もっとも、トラブル防止のため、「どういう経緯で離婚するのか」「双方が納得しているのか」などは簡単に説明しておくのがよいでしょう。


まとめ

今回は、離婚届における証人について解説しました。
証人は、単なる形式的な意味だけでなく、協議離婚が当事者の真意によることを確認するための重要な存在です。法律上の条件はあるものの、国籍や当事者との関係に制限はなく、親族や友人などに依頼すれば問題ありません。
また、証人に法的な責任は生じず、保証人のようなリスクもないので、依頼された側でも過度な心配は不要です。ただし、夫婦本人による代筆や虚偽記載は避けるべきです。
証人が見つからない場合、弁護士や証人代行サービスを利用するのも選択肢の一つです。離婚手続きを円滑に進めるには、正しい知識に基づいて準備してください。
- 協議離婚の成立には成人2名の署名が必要となる
- 離婚届の証人は、18歳以上の成人なら国籍や性別、関係性は問わない
- 離婚届の証人に法的責任は生じないが、必ず証人本人が自署すること
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協議離婚は、夫婦の話し合いで離婚条件に合意し、離婚届を提出することで成立します。この手続きは比較的簡単で迅速に進められる一方、難しい法律問題があっても自分達で乗り越えなければなりません。
合意内容が曖昧なままだと後にトラブルが生じるおそれがあるので、「協議離婚」の解説を参考にして進めてください。

