有責配偶者となると、「地獄」のような状況に追い込まれる例が少なくありません。
「離婚したいけど相手が応じない」「収入の大半が婚姻費用に消える」「子供にも会わせてもらえない」といったケースです。中でも深刻なのが、「婚姻費用地獄」と呼ばれる問題です。
離婚が成立しないまま、毎月高額な婚姻費用を支払い続けなければならず、自分の生活が破綻寸前になる人もいます。一時のあやまちで有責配偶者となったことが、法的な側面だけでなく、経済的にも精神的にも大きなハードルとなり、「人生終わった」と感じることもあるでしょう。
しかし、有責配偶者だとしても、この地獄から抜け出す道もあります。
今回は、「有責配偶者は地獄」と言われる理由を掘り下げると共に、実際に婚姻費用の支払いに追い詰められた場合の対処法を、弁護士が解説します。
- 有責配偶者が地獄なのは、自ら離婚できないのに婚姻費用の負担があるから
- 有責配偶者の地獄を抜け出すには、婚姻費用を適正な額にすることが大切
- 有責配偶者でも、一定の条件を満たせば、離婚することで地獄を抜け出せる
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有責配偶者は地獄?

有責配偶者の将来は、「地獄」に例えられることがあります。
有責配偶者とは、婚姻関係を破綻させる原因を作った配偶者のことです。典型例は不貞(不倫・浮気)ですが、暴力や悪意の遺棄なども含まれます。有責配偶者から離婚を求めても、基本的に認めないのが日本の裁判所の傾向であり、この「自分から離婚できない」というルールが、後述する「地獄」の原因となります。
離婚できず婚姻費用を払い続ける
日本の裁判所は、婚姻関係を壊した責任のある者が一方的に離婚を求めるのは不公平と考えます。そのため、有責配偶者からの離婚請求は、相手が拒否すれば認められない傾向にあります
そのため、相手に離婚の意思がないと、婚姻は維持され、離婚できないままの生活が続きます。そして、その間、婚姻費用の分担義務が生じます。婚姻費用は「養育費・婚姻費用算定表」によって、夫婦の収入や子の人数・年齢に基づいて決めますが、自分と同程度の暮らしを保証する必要があるので、相当な額になります。
婚姻費用は、子供が成人するまで(家庭によっては大学卒業まで)積み重なるので、総額は数百万円から数千万円にも及びます。自分の生活費を削りながら支払い続けなければならず、有責側の生活は、長期にわたり、経済的に圧迫されます。
「別居中の生活費の相場」の解説

不倫を責められて子供に会えない
不倫は、直ちに親権に影響しないものの、協議の結果、子の養育は相手に任せて別居する例は多いです。そして別居後、子供に「夫(妻)は不倫をした悪い人だ」などと吹き込まれ、関係を壊されるケースも少なくありません。
法的には「子供と親が交流する権利」が認められるものの、子が幼いほど相手の協力が必須であり、不貞行為があると、事実上会わせてもらえないおそれがあります。相手が「制裁」の意味で子供に会わせない、あるいは会う場所や頻度を極端に制限されるといった事例は数多くあり、これにより、子供との関係が希薄化していきます。
裁判所は面会交流を基本的に尊重しますが、相手の強い拒否や子供の年齢・心情次第では制限されることもあり、実現までに時間と労力がかかり、強い喪失感を味わうでしょう。
「親権争いは母親が有利?」の解説

精神的にも経済的にも追い詰められる
このように有責配偶者は、精神と経済の両面から追い詰められます。
相手が離婚に応じず、協議では解決できず、調停や訴訟でも前進がないと、「出口が見えない」感覚が強まり、ますます苦しくなるでしょう。
有責側で「相手の協力がなければ離婚できない」状態、かつ、「婚姻費用を払うだけの関係」が続くと、まさに「地獄」だと言えます。ようやく離婚できても、慰謝料や財産分与で、更に大きな支出を求められることもあります。親権が相手にある場合、養育費の支払いも必要で、「地獄を抜けたと思ったら新たな負担が待っていた」というケースもあります。
「離婚までの流れ」の解説

「婚姻費用地獄」の正体

次に、有責配偶者が陥る「婚姻費用地獄」(コンピ地獄)について解説します。
「婚姻費用地獄」とは、離婚が成立しないまま、婚姻費用の分担義務のみが積み重なり、生活の保持や家計が苦しくなっていく状況を指します。その一方で、有責であるがゆえに離婚請求は認められづらく、婚姻費用を払いながら、望まぬ婚姻関係を続けなければなりません。
その結果、「離婚はできないが、婚姻費用は払わなければならない」という板挟みが、長いと数年〜10年も続くこととなり、経済的、精神的に疲弊していきます。
婚姻費用とは
婚姻費用とは、夫婦と未成熟子が「結婚生活と同程度の生活水準」を維持するために必要とされる費用のことです。
婚姻費用の法的根拠は、民法760条に「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と規定される生活保持義務にあります。対象は、生活費のほか、住居費・食費・衣料費・教育費・医療費など、日常生活に必要な出費を含みます。別居中でも、婚姻関係が続く限り、所得に応じた分担をするのが基本です。
有責配偶者でも婚姻費用の支払い義務はある
婚姻費用の支払い義務は、有責であるかどうかとは関係なく発生します。
婚姻費用は、夫婦と子供の生活の保持を目的とするので、有責かどうかに左右されず、「婚姻が継続していること」を基準とします。不貞行為などで有責配偶者と評価されても、別居開始後から離婚成立までの期間は、原則として婚姻費用の分担義務が生じます。
裁判実務では、婚姻関係を破綻させた責任よりも、「双方の収入」「子供の利益」などが重視される傾向にあります。
「別居しても離婚話が進まない」の解説

離婚できず、婚姻費用の支払い義務が続くという板挟み状態
有責配偶者は、次のような板挟みに苦しみます。これが「婚姻費用地獄」です。
有責配偶者からの離婚請求は、相手や未成熟子に過度の不利益が及ぶ場合は認められない反面、婚姻費用は、夫婦関係が形式上でも続く限り支払わなければなりません。つまり、「離婚は認められず、婚姻費用の支払いは続く」という板挟みです。
有責配偶者だけど離婚したい人は多いですが、相手が拒めば、「離婚できないのに生活費は払い続ける」という極めて不利な立場に置かれます。これが「婚姻費用地獄」と呼ばれる理由です。
年収に差があり、子が複数いると、婚姻費用が月十数万円に達する事案も珍しくなく、別居が長期化すれば合計で数百万円〜数千万円の負担となることもあります。資産や収入に余裕がないと、自分の生活すら破綻しかねません。一方で、不倫相手からは「早く離婚して、自分と結婚してくれ」と求められて、うつ病などの精神疾患になってしまう人もいます。
「妻が別れてくれないとき」の解説

有責配偶者が地獄から抜け出す方法

次に、有責配偶者が、地獄のような状況から抜け出す方法を解説します。
あなたの側に婚姻関係を破綻させた責任があるなら、残念ながら不利な状況は間違いありません。それでもなお、あきらめてはいけません。
収入と支出の実態を整理する
客観的な数字をもとに相手と交渉するため、収入と支出の実態を整理しましょう。
収支バランスの把握
婚姻費用は算定表が基礎となりますが、個別事情についても反映されます。
この際、具体的な収支資料が欠かせません。例えば、給与明細、確定申告書、源泉徴収票をもとに、手取りベースの実収入を証明しましょう。次に、家計簿や通帳を整理し、支払い可能額を明確にすることが重要です。
過剰な請求には反論する
相手が実態以上に高額な生活費を請求してくる場合があります。
過大な請求が疑われるなら、証拠資料の開示を求め、金額の根拠を精査します。例えば、学校関係の請求書、医療費の領収書などは争いになりやすいです。合理的な金額に留めておけば、経済的負担を抑え、「婚姻費用地獄」を回避できます。
婚姻費用の減額を求める
一度決まった婚姻費用は、事情の変更があっても自動的には下がりません。
家庭裁判所に減額の調停を申し立て、収入の大幅な減少、病気や失業による支払い能力の低下などを証拠により示すことで、養育費の減額を認めてもらいましょう。調停は、調停委員が仲介する手続きであり、合意に至らない場合は、審判に移行して裁判所が婚姻費用を決定します。
調停や審判の結果、婚姻費用を適正な額にできれば、「婚姻費用地獄」を回避できます。
一括支払いで離婚できないか交渉する
次に、離婚してしまえば、もはや「婚姻費用地獄」は関係ありません。
離婚を拒む相手も、まとまった金銭を支払えば、応じてくれる可能性があります。財産分与や慰謝料を相場より増額したり、解決金を支払ったりして早期離婚に合意してもらう戦略です。「婚姻費用を受け取り続けるより、一括でもらう方が有利」と納得してもらうには、次のような相手のメリットを明確に示す必要があります。
- 離婚せず婚姻費用をもらい続けても、将来減額される可能性がある。
- まとまった金銭をすぐに受け取ることができる。
- 継続的に関わるストレスがなくなる。
離婚後の生活が不安で、仕方なく婚姻を続けている人もいます。相手も「早く再スタートしたい」というのが本音なら、譲歩すれば合意に至る可能性は大いにあります。合意したら、必ず離婚協議書を作成して証拠化しておきましょう。
「離婚協議書の書き方」の解説

有責配偶者でも離婚できるケースに当てはまらないか検討する
有責配偶者でも、夫婦関係が完全に破綻しているなら、離婚が認められる可能性があります。裁判例は、次の3つの要件を総合的に考慮して判断しています。
- 長期別居
長期間会話がない、生活が完全に分離している、親族関係も途絶しているなど、社会通念上、夫婦関係が修復不能であると判断できる事情が必要です。実務上、8年間〜10年間程度の別居期間があれば、「破綻」と評価されやすいです。 - 未成熟子がいない
子供が成人している、または存在しない場合、ハードルが下がります。 - 離婚後に配偶者が生活に困窮しない
相手方の生活基盤や健康状態などに鑑みて、離婚を認めても酷ではない。
特に、別居を理由に離婚を目指すとき、「有責配偶者はいつまで待てばいいのか」「何年かかるのか」がポイントです。有責配偶者の離婚裁判(離婚訴訟)では、長期別居の事実だけでなく、生活実態が分離しており、実質的に交流が消滅していることを、証拠と共に示すのがポイントです。
不貞行為が「不法行為」(民法709条)となるとき、その時効は、「損害及び加害者を知った時」から3年間(人の生命又は身体を害する不法行為は5年間、「不法行為の時」から20年間とされますが、これはあくまで不貞の責任追及の期限であって、離婚が認められる期間とは別の問題です。
「有責配偶者の離婚のポイント」の解説

相手にも有責性がないか調べる
自分側に責任があるとして、相手も有責でないかを調べておきましょう。
あなたが不貞したとして、相手も、生活費を渡さない、浪費を繰り返すといった問題がある例、DVやモラハラ、虐待がある例などは、双方に有責性が認められる可能性があります。双方に責任がある場合、「どちらがより重いか」を比較して離婚の可否を判断します。そのため、自分が有責配偶者だったとしても離婚請求が認められることもあります。
「お互いにモラハラを主張するときの対応」の解説

相手が再婚する可能性がないか調べる
相手が新しい交際を始めている場合、再婚に踏み切る可能性があります。
同棲や内縁、事実婚のパートナーがいる場合、再婚のために離婚に応じてくれたり、婚姻費用の減額や支払い終期の設定が認められたりする可能性もあります。相手に別のパートナーがいる場合、条件面で譲歩すれば、離婚への合意を得やすい状態であるともいえます。
「再婚したら養育費はどうなる?」の解説

離婚を拒否され続けたら一生払わなければならない?
有責配偶者は、相手が離婚に応じない限り、婚姻関係が続きます。そのため、相手が離婚を拒否し続けると、婚姻費用の支払いも、「一生涯」とは言わずとも相当長期化します。子が未成熟だったり、相手が無収入や病気だったりすると、更に離婚は認められづらく、「一生『婚姻費用地獄』が続くように感じる」という人も多いでしょう。
もっとも、婚姻費用は「未成熟子の養育」と「配偶者の生活維持」が主目的です。そのため、次の事情変更があれば、減額を求める余地があります。
- 子供が成人した場合
- 相手が就職して収入を得ている場合
- 再同居を開始した場合
- こちら側の収入に変化が生じた場合
- 相手が、新しいパートナーとの生活を始めた場合
また、有責配偶者からの離婚請求は認められないのが原則ですが、一定の条件を満たせば離婚できる可能性もあります(※ 「有責配偶者でも離婚できるケースに当てはまらないか検討する」参照)。したがって、「一生苦しまなければならないのか」と絶望する必要はありません。
少なくとも、不倫・浮気は、配偶者(夫や妻)を傷つける行為ではありますが、「犯罪」ではありません。そのため、「地獄だ」「人生終わりだ」とまで思うのは、時期尚早です。
「離婚成立に必要な別居期間」の解説

有責配偶者が弁護士に相談すべき理由

有責配偶者が、「地獄だ」と感じるなら専門家のサポートが必須です。
有責配偶者だと、離婚の可否、婚姻費用、慰謝料・財産分与などが複雑に絡み合います。誤った対応をすると、不利な条件を受け入れざるを得なくなるおそれもあります。離婚を多数扱う弁護士なら、「有責側の案件」の解決実績も豊富にあります。たとえ不倫などで有責になっても、裁判例の傾向や実務の運用を踏まえ、最適な戦略を立てることができます。
有責配偶者でも、婚姻費用の減額調停や離婚訴訟といった方法で戦うことは可能です。その際は、裁判所に提出する書面や証拠にも工夫が必要です。一人で作成するのは負担が大きく、特に有責のケースほど、弁護士のサポートは欠かせません。
弁護士に依頼すれば、書面作成や証拠の整理、裁判所や相手方との交渉を任せられ、心理的な負担を大幅に軽減できます。
有責であり、著しく不利な状況で、まさに「地獄だ」と感じるケースほど、弁護士に相談するメリットは大きいです。孤立無援となりがちな有責配偶者にとって、弁護士は心強い存在となるでしょう。
「離婚できないのに婚姻費用を払い続ける」状況は、まさに「婚姻費用地獄」。追い詰められると、冷静な判断ができなくなってしまいます。有責であるケースほど、離婚交渉で感情的になり、相手に有利な条件を飲んでしまう人も珍しくありません。
第三者である弁護士のアドバイスは、冷静さを取り戻す支えになります。初回の法律相談を無料もしくは安価で実施する法律事務所もあるので、気軽にアドバイスを求めてみてください。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

まとめ

今回は、有責配偶者が「地獄」と言われる理由と、その脱出方法を解説しました。
不倫などの離婚原因を作り、有責配偶者とされた場合、「離婚できないのに婚姻費用を払い続ける」という理不尽な状況、まさに「婚姻費用地獄」とも言える生活を強いられることがあります。精神的にも経済的にも追い詰められ、「地獄」と表現される理由は決して大げさではありません。
しかし、冷静に状況を見直し、対策を講じれば、この地獄から抜け出せる可能性は十分にあります。婚姻費用の減額や、誠意ある交渉、有責配偶者でも離婚が認められるケースへのあてはめなど、取るべき選択肢をよく理解しておいてください。
大切なことは、感情に流されず、戦略的に対応することです。そのためには、一人で悩まず、専門家である弁護士とともに出口を探ることが重要です。
- 有責配偶者が地獄なのは、自ら離婚できないのに婚姻費用の負担があるから
- 有責配偶者の地獄を抜け出すには、婚姻費用を適正な額にすることが大切
- 有責配偶者でも、一定の条件を満たせば、離婚することで地獄を抜け出せる
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不貞慰謝料は、配偶者の不貞(不倫や浮気)による精神的苦痛に対して請求すべき賠償金です。離婚する場合はもちろん、離婚を回避する場合も、配偶者や不倫相手に対して請求することができます。
請求方法や法的な注意点、相場などを適切に理解するため、「不貞慰謝料」に関する解説を参考にしてください。