親権停止とは、親権者である父または母による親権の行使が困難または不適当であり、子の利益を害する状況にある場合に、家庭裁判所の審判によって一定期間の親権行使を停止させる手続きです。期間は最長2年間と定められており、親権を永久に剥奪する「親権喪失」とは異なります。
親権停止は、虐待やネグレクトなど、親権者による育児が不適切なケースで利用され、期間が経過すれば回復が見込まれる軽度の事例にも柔軟に対処できるメリットがあります。親権停止の審判は、子供やその親族、検察官、児童相談所長などが申し立てることができます。家庭裁判所は、「子の福祉(利益)」を考慮して審判を行い、親権を一時的に制限するかどうかを判断します。
今回は、親権停止が認められる要件や、申立てから審判までの流れを弁護士が解説します。
- 親権停止の審判は、親権行使に問題ある場合に、親権を一定期間停止する制度
- 家庭裁判所に審判を申し立てて「子の福祉(利益)」の観点から審理される
- 親権停止の審判を受けても、取消しや面会交流を求めて争うことができる
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親権停止とは
親権停止とは、親権者である父または母が適切に親権を行使できず、子の利益を害する場合に、家庭裁判所が一時的に親権の行使を停止させる制度です。親権停止は、家庭裁判所の審判手続きで判断され、その期間は「2年を超えない範囲内で」定める一時的な措置とされます。
親権停止の審判について定める民法の条文は、次の通りです。
民法834条の2(親権停止の審判)
1. 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。
2. 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。
民法(e-Gov法令検索)
親権は、子の利益のために行使されなければなりません(民法820条)。
親権停止の目的は、親権者による不適切な育児から子供を守り、健全な成長と子の福祉を実現することにあります。親子関係を完全に断ち切ってしまうのではなく、一時的に親権行使を制限することで子供を守るための手続きです。
親権停止の要件
親権停止の審判が認められる要件は、「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」です(民法834条の2)。これは、親権者による育児が子供の安全や福祉を損なうおそれがある場合があてはまります。
親権停止をすべきケースは、例えば、子供に対する暴力や体罰が繰り返される「身体的虐待」のケース、子供を性的な関心の対象とする「性的虐待」、子供の生活や健康を維持しようとしない「育児放棄(ネグレクト)」、子供を脅したり無視したり、過度なストレスを与える「心理的虐待」のケースなどが該当します。

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親権停止を活用すべき事例
親権停止の審判が下された具体的な事例について、裁判例を交えて紹介します。
虐待による親権停止の事例
親が子供に日常的に暴力を振るい、子供がケガを負っている事例では、家庭裁判所が親権停止の審判を下す可能性が高いです。親の更生や環境の改善が認められるまで、子供の安全を守るために親権行使を制限する必要性が高いケースです。
親権停止申立の却下審判に対する抗告事件。親権者である養父と実母から暴力や食事を与えないなどの虐待行為を繰り返し受けていた事案。
一時保護の措置が取られた子供について、親権の行使が不適当であり、子の利益を害することは明らかであるとして、裁判所は、親権者らの子に対する親権をいずれも2年間停止しました。本事案では、子供も親権の停止を希望していました。
親権者の育児放棄の事例
親権者が、子供を学校に通わせず、不衛生な環境で生活させていた事例は、育児放棄(ネグレクト)を理由として親権停止の審判が下される可能性があります
医療ネグレクトの事例
親が、病気にかかった子供に適切な医療を受けさせないケースは、親権停止の審判が下される可能性があります。親権者は、子供の命を守るために、医者に連れていき適切な治療を施す義務があるからです。
重篤な心臓疾患を抱える生後4ヶ月の女児に関する保全処分の事案。
直ちに治療や手術を受ける必要がある状況なのに、親権者らの見舞いの回数が少なく、おむつや洋服の補充を求めても直ちに対応しない、約束していた医師との面談をキャンセルするといった対応からして、緊急事態に迅速かつ適切に対応できるかどうか疑問であるとし、親権者の職務執行の停止を認めました。
未成年者について手術の必要性は理解しながら、宗教上の理由で輸血に同意しない親権者についての保全処分の事案。
宗教上の理由で手術に必要な輸血に同意しないことは、生命に危険を生じさせる危険が高く、子の利益を害することが明らかであるとして、裁判所は親権を停止し、かつ、停止期間中の職務代行者の選任を行いました。
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親権停止と親権喪失の違い
親権停止と親権喪失は、いずれも親権を制限する制度ですが、以下の違いがあります。
- 親権喪失
- 永久に親権を剥奪する制度
- 要件は親権停止より厳しい(「虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」)
- 2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは適用されない
- 親権喪失の審判がなされると親権者の地位を回復するのは困難
- 親権停止
- 一時的な措置であり、最長2年間の期限付きで親権を停止する制度
- 要件は親権喪失より緩やか(「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」)
- 停止期間中の親権行使は制限されるが、親権者の地位を完全に失うわけではなく、更生したり状況が改善されたりすれば再び親権行使が可能となる
親権停止と親権喪失の違いを理解して、適切な制度を活用することが重要です。

親権停止は、親権を完全に失くしてしまう親権喪失に比べ、親権を一時停止するに留まります。その分、要件が緩やかであり、児童虐待を防止したい人にも活用しやすい制度です。一方で、親権喪失は、「子の福祉(利益)」が著しく損なわれ続けており、より強力な措置を講じなければならない場合に利用すべき制度です。
なお、「親権停止」は、より重度の「親権喪失」の中に含まれるので、家庭裁判所は、親権喪失の申立てに対して、親権停止の審判を下すことも可能です。
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親権停止を申し立てる手続き

次に、親権停止を申し立てる手続きについて解説します。
親権停止は、家庭裁判所に審判の申立てを行う方法によります。子供を守る重要な手続きなので、速やかに進めるには弁護士のサポートを受けるのがお勧めです。
親権停止の審判の申立権者
親権停止の申立てをすることができるのは、以下の人です。
- 子供自身
- 親族
- 未成年後見人
- 未成年後見監督人
- 検察官
- 児童相談所長
子供自身も申し立てることができますが、親権停止の審判の多くは、他方の親(親権者ではない親)が申し立てるケースが多いです。その他に、祖父母など子供に深く関与する親族や、児童福祉法33条の7によって児童相談所長も、申立てを行うことができます。
親権停止の申立ての必要書類
親権停止の審判の申立てには、以下の書類が必要となります。
- 申立書
- 子供と親権者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 子供との関係を疎明する資料
- 親族の場合、戸籍謄本(全部事項証明書)
- 児童相談所長の場合、在職証明書
- 未成年後見人、未成年後見監督人の場合、登記事項証明書
- 申立ての理由を疎明する資料
子供への虐待やネグレクトを立証するための証拠として、子供のケガの写真や診断書、虐待の記録や日記、学校や医療機関からの報告書など。
親権停止の申立ての費用
親権停止の申立てにかかる費用には以下のものがあります。
- 申立手数料(収入印紙代)
申立時に、家庭裁判所に対し、子供1人につき800円の申立手数料を納付します。 - 郵便切手代
家庭裁判所との連絡に要する郵便切手を予納します。約1,000円〜2,000円のことが多いですが、裁判所によって異なることがあるので事前に確認しましょう。 - 弁護士費用
親権停止の申立て手続きや審判の進行を弁護士に依頼するときは、弁護士費用がかかります。弁護士費用の目安は、事案の複雑さや業務量によって異なりますが、親権停止の審判の場合、80万円〜100万円程度が相場の目安です。
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親権停止の申し立てから審判までの流れ

次に、親権停止について、申立てから審判までの具体的な手続きの流れを解説します。
親権停止の審判の申立て
前述の通り、審判の申立ては、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官、児童相談所長が行うことができます。申立ては、子供の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
親権停止はあくまで一時的なもので、親権喪失に比べて要件も緩和されたため、比較的軽度の事案でも利用しやすくなっています。問題を放置して悪化させ、子供の身に危険が及んでは取り返しがつきません。親権者を反省させる意味でも、虐待やネグレクトの兆候を察知したら速やかに申し立てるのがお勧めです。
保全処分の申立て
緊急性の高いケースでは保全処分が活用されます。保全処分は、「子の利益のため必要があると認めるとき」に、審判前に暫定的に親権者の職務執行を停止し、またはその職務代行者を選任する手続きです(家事事件手続法174条)。
審判を申し立てただけでは親権がすぐ停止されるわけではなく、審理には一定の時間を要します。そのため、審判を待っていては子供の利益を守れない緊急性の高いケースでは、審判と共に保全処分も申立てを行います。
家庭裁判所の審理
審判の申立てを受理した家庭裁判所は、親権停止の要件を満たすかどうかと、どの程度の期間停止すべきかを審理します。この審理では、親権者と、子供(15歳以上の場合)の陳述を聴取します。
親権停止の期間を定める際は、次の事情が考慮されます(民法834条の2第2項)。
- その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間
- 子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情
子供の事情聴取は、調査官が行いますが、子供が15歳以上の場合には陳述を聞くことが必須とされています(家事事件手続法169条)。
審判
調査や審理の結果、親権停止の要件を満たす場合には、審判が下されます。
不服申立て(即時抗告)
審判に異議があるときは、審判を受領してから2週間以内に高等裁判所に即時抗告をすることで不服を申し立てることができます。
審判確定後の扱い
期間内に即時抗告をしなければ審判が確定し、親権停止の効力が生じます。確定したその後について、以下のようになります。
停止期間中は親権の行使ができなくなります。つまり、子供と一緒に生活をして面倒を見たり、財産を管理したり法律行為の代理をしたりはできません。ただし、親子であることは変わりなく、扶養義務はなくならないので養育費などは負担すべきです。親子間の相続権も失われません。
親権停止期間中は、婚姻中であるなど夫婦の共同親権であるときは停止されていない他方が単独で親権を行使します。
離婚後であるなど単独親権者の親権が停止されて親権を行使する人がいなくなる場合は、未成年後見が開始されます(民法838条1項)。この場合、親権停止の審判を受けた父または母は、遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求する必要があります(民法841条)。
「親権制限制度」の解説

親権停止された後にすべき対応

次に、親権停止された後にすべき適切な対応について解説します。
原因を取り除く努力をする
親権停止の審判が下された場合、児童虐待やネグレクトが認定されたことを意味します。
親権停止は一時的なもので、将来は親子が一緒に暮らすことが予定されます。そのため、停止期間内に原因を取り除き、子供を再び受け入れる準備をすべきです。問題の原因によっても異なりますが、これまでの養育を振り返り、以下の対策を検討してください。
- 適切な育児に関するセミナーを受ける
- 家庭内暴力(DV)防止プロジェクトに参加する
- 他にも原因があるときは改善する
- アルコール依存症を改善するために断酒する
- 薬物中毒の治療を受ける
- 夫婦の不仲や育児ノイローゼを解消するためのカウンセリングを受ける
- ワークライフバランスを保ち仕事のストレスを軽減する
親権停止の期間中に原因が取り除かれないと、再度の親権停止の申立てや親権喪失、親権者変更といった次の手段を講じるしかないケースもあります。一方の配偶者や子への危険が大きいとき、最悪は逮捕されて刑事事件化したり、離婚に進んだりするおそれもあります。
申し立てられた側では、親権を停止されたからといって感情的になるのではなく、早く子供との生活を回復するために理由を分析し、反省と改善をすることが重要です。


面会交流を実施する
親権停止の審判は一時的なもので、再度親子として生活することが予定されます。そのため、精神的な繋がりを絶やさぬよう、停止期間中に面会交流を行うことは珍しくありません。「しばらく子に会うことができない」という親権停止のデメリットを解消し、親子関係を再構築しやすくするためにも、面会交流を求めるのが有効です。
面会交流を求める際は、親権停止の審判によって一方の親の単独親権となっている場合はその親に、父母双方の親権が停止されたときは未成年後見人に連絡します。ただし、親権停止の審判を受けたことを踏まえ、暴行や虐待の危険が生じないよう、慎重に進める必要があります。
なお、話し合いで面会交流が実現できないときは、面会交流調停を申し立て、「子の福祉(利益)」の観点から家庭裁判所の判断を仰ぐことができます。
再度の申立てを行う
親権停止の期限は「2年を超えない範囲内」とされますが、延長や更新の制度はありません。そのため、停止期間が終了してもなお、親権を停止すべき原因が改善されないおそれがある場合、停止期間中に再度の申立てをする必要があります。
例えば、親権停止期間中に子供に接触したり、虐待のおそれが強まったりする場合、期間が満了する前に次の申立てを行うべきです。また、再度の申立ての結論が出る前に、前の期間が経過しそうなときは、合わせて保全処分を申し立てるのが有効です。親権停止中に、虐待やネグレクトのおそれが更に悪化する場合、期間中に親権喪失の審判を申し立てることもできます。
「調停成立後の再申し立ては可能?」の解説

審判の取消しを求める
親権停止の審判が下った後でも、その原因が消滅したときには、家庭裁判所は、本人または親族の請求によって審判を取り消すことができます(民法836条)。審判の原因となった事情をなくす努力をすれば、親権停止の期間満了を待つことなく親権を回復できるチャンスがあります。
親権停止に関するよくある質問
最後に、親権停止に関するよくある質問に回答しておきます。
共同親権で親権停止されたらどうなる?
共同親権の場合、一方の親が親権停止された場合でも、もう一方の親が親権を行使することが可能です。
例えば、婚姻中に一方の育児に問題があって親権停止の審判が下されるケースが典型例です。この場合、子供の日常的な養育や決定について、親権を停止されていない親が引き続き行います。
単独親権で親権停止されたらどうなる?
単独親権の場合、親権が停止された親が一時的に親権を行使できなくなることで、子供に不利益が生じるおそれがあります。そのため、民法838条1項の定める「未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき」に該当し、未成年者後見が開始されます。
18歳以上の子供でも親権停止される?
親権停止は18歳未満の未成年を対象とする制度です。
18歳以上の子供は「成年」として扱われ、親権に服することはありません(民法818条)。そのため、親権停止の対象ともなりません(なお、成年年齢は2022年4月1日施行の改正民法により、20歳から18歳に引き下げられました)。
親権停止の期間の相場は?
親権停止の期間は家庭裁判所が判断するものであり、法律上「2年を超えない範囲内」とされています。
裁判所の統計では、親権停止の期間は、1年未満が19.5%、1年以上2年未満が18.4%、2年が62.1%という割合になっており、上限である「2年」と決定される件数が多い傾向が見られます(裁判所HP「親権制限事件及び児童福祉法に規定する事件の概況」)
祖父母は親権停止の申立てができる?
祖父母は、親権停止の審判の申立権者である「親族」に含まれるため、孫の親権停止を申し立てることができます。
親権停止の審判が下ると、父や母の親権は一時的に停止され、子供の身の回りの世話や財産の管理ができなくなります。事実上、祖父母に預けられる子もいますが、それだけで祖父母の元に孫を取り戻せるとは限りません。子供を守るには、祖父母が孫の親権者となるために養子縁組をしたり、親族として未成年後見人の選任を申立てたりする方法が考えられます。
まとめ

今回は、親権停止の審判について解説しました。
親権停止は、子供の利益を損なう場合に、家庭裁判所が一時的に親権の行使を制限する制度であり、申し立てる親族側にとっても、申し立てられる親権者側にとっても非常に重い手続きです。児童虐待やネグレクトは子供に一生の傷を負わせるおそれがあります。子供を守るためにタイミングを見誤ってはなりません。
親権停止は、最長2年間の期限付きで、一時的に親権を制限するので、親が更生すれば、親権の再開も可能です。虐待の兆候を感じたら速やかに申し立てる必要がありますし、一方で、残念ながら申し立てられてしまった場合も、問題点を真摯に受け止め改善する努力が、親権停止期間が満了した後の子供との新たな生活の第一歩となります。
親権停止について適切に対処するには、家庭や子供の問題について精通した、経験豊富な弁護士のサポートが欠かせません。
- 親権停止の審判は、親権行使に問題ある場合に、親権を一定期間停止する制度
- 家庭裁判所に審判を申し立てて「子の福祉(利益)」の観点から審理される
- 親権停止の審判を受けても、取消しや面会交流を求めて争うことができる
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虐待は、子供の心身に悪影響なので、迅速な対応が求められます。虐待の種類を理解し、早めに兆候を察知して法的な対策を講じるのが解決への第一歩です。
子供を虐待から守るためにどのように行動すべきかお悩みの場合は、「虐待」に関する解説を参考にしてください。