ご相談予約をお待ちしております。

親権喪失の審判とは?子の親権を全面的に失わせる審判手続きと注意点

親権喪失の審判は、児童虐待から子どもを守るために用意された親権制限制度のうちでも、子どもの親権を全面的に失わせる制度です。

親権者が、子どもに対して身体的虐待を加えたり、ネグレクトをして面倒を見なかったりといった兆候がみられるとき、親権喪失の審判の申立てを検討します。一方で、親権喪失は、「親権を完全に失くしてしまう」という強い効果を持つため、子どもの意向に十分配慮して、慎重に進める必要があります。

今回は、親権喪失の審判について、申立てを検討する親族の方はもちろん、申し立てられてしまったという親権者側でも注意しておいてほしいポイントを、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 親権喪失の審判は、問題のある親権者から、親権のすべてを奪う制度
  • 虐待などの問題が見られるときには、親権喪失の審判を申し立てることで、子どもを守る必要あり
  • 審判の申立を受けてしまった親権者側では、子どもの利益の観点から反論するのがポイント

なお、親権制限制度のすべてについて、深く知りたい方は、次のまとめ解説をご覧ください。

まとめ 児童虐待から子どもを守る「親権制限制度」とは?メリットと注意点

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

\相談ご予約受付中です/

親権喪失の審判とは

裁判

はじめに、まず初めに、親権喪失の審判の基礎知識について解説します。

親権喪失の審判は、民法に定められた、親権者の親権を全面的に奪う制度です。冒頭で解説したとおり、親権者が児童を虐待するなど、その親権を適切に行使しないとき、関係者(子どもの親族、未成年後見人、検事、児童相談所長など)が申し立てるものです。

親権喪失の審判について、民法では次のように定められています。

民法834条(親権喪失の審判)

父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。

民法(e-Gov法令検索)

たとえ親であっても、児童虐待のように親権の濫用があるときには、親権喪失の審判によって父または母、あるいは双方の親権を全面的に失わせるもとができます。

そもそも「親権」の内容とは

未成年の子どもは、父母の親権に服し(民法818条1項)、父母は親権者として子どもの利益のために子どもを監護し教育する権利を有し義務を負う(民法820条)ものとされています。このように、親権とは、親権者が有する子どもを監護・教育する権利と義務の総称のことです。

親権の具体的な内容は、身上監護権(住む場所を指定して一緒に住み、監護・教育を行う)、財産管理権(子どもの財産を管理し、財産に関する契約を代わりに行う)の2つからなります。

親権とは
親権とは

親権者は、夫婦の場合には父母が共同親権者として親権を有するのが通常ですが、

  • 離婚後に一方の親が単独親権者となるケース
  • 父母の死亡後に親族が未成年後見人として親権を有するケース
  • 未婚のまま生まれた子どもの母親が親権者となるケース(認知した場合には父も親権者となる)

といった例外的な場合があります。

親権停止との違い

親権の不適切な行使への対策として、親権喪失とよく似た手続きに、親権停止の審判があります。

親権停止の審判は、平成23年の民法改正により導入された制度です。親権をなくしてしまうという強い効果を持つ「親権喪失」までいかなくても解決できそうな事例で、2年未満の期限を区切って親権を停止させる審判手続きです。

親権喪失は、親権をなくしてしまうという強い効果を生むため、申立権者も家庭裁判所もその利用に消極的なことがありました。しかし、児童虐待のような緊急性の高いケースで、手続きを躊躇しているうちに手遅れとなってしまうおそれがあります。

この状況を打破するために、より使いやすい制度として用意されたのが親権停止の制度であり、現在は、親権制限制度のうち、親権停止が最もよく利用されています。

親権をどんなとき喪失させられるのか

はてな

親権喪失の審判において、親権喪失が認められるのは、「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」(民法834条)であり、かつ、2年以内にその原因が消滅する見込みがないときです。

親権者による児童虐待やネグレクトが典型例です。このようなとき親権を喪失させるべきかどうかについて、家庭裁判所は、「子どもの利益を害するかどうか」という観点を重視して判断をしています。

なお、親権喪失の原因が認められるときでも、その原因が一時的なものであって2年以内には消滅する可能性があるときには、親権停止の審判を申し立てるべきであり、親権喪失の審判は認められません。

虐待・悪意の遺棄の事例

虐待とは、親権者が子どもを身体的ないし精神的に過酷な取扱いをすることです。殴る、蹴るといった身体的虐待だけでなく、精神的虐待、性的虐待もまた、親権喪失の理由となり得ます。

悪意の遺棄とは、正当な理由がないのに、親権者の義務とされている子どもの監護・教育を怠ることをいいます。いわゆる「ネグレクト」がこれにあたります。

虐待の4つの分類
虐待の4つの分類

親権喪失が認められるのは、例えば次のようなケースです。

  • 親権者が子どもに暴力(殴る・蹴る・物を投げる・熱湯をかけるなど)をふるっている
  • 親権者が子どもに食事を与えない、家事をせず不衛生な家で生活をしている
  • 親権者が子どもを学校にいかせない(登校禁止)

親権行使が著しく困難又は不適当な事例

親権行使が著しく困難な場合とは、精神的な交渉や身体的な故障により、適切な親権の行使が不可能に近い状況のことをいいます。

親権行使が著しく不適当な場合とは、子どもを虐待したり、または、通常未成年の子どもの養育に必要な措置をほとんどとっていないなど、親権の行使の方法が適切さを欠くような場合であったり、父または母に親権を行使させることが子の健全な成長発達のために著しく不適当な場合をいいます。

  • 親権者が重度の精神病にかかってしまい育児を継続できない
  • 親権者が重度の薬物中毒・アルコール中毒である

親権喪失の審判までの手続きの流れ

ステップ

親権喪失の審判は、申立権者が管轄裁判所に、申立書を提出することによって開始されます。

申立権者

親権喪失の審判の申立権者は、次の者です。

  • 子ども
  • 子どもの親族
  • 未成年後見人
  • 未成年後見監督人
  • 検察官
  • 児童相談所長

子ども自身が親権喪失の申立てをするためには、意思能力が必要とされています。家庭裁判所の実務では、おおむね15歳以上の場合には意思能力があるものと認められて子ども自身が申立てをすることが認められ、15歳未満であっても、その事案ごとにその子どもが親権喪失の必要性について判断ができるかを個別に検討します。

管轄裁判所

親権喪失の審判の申立ては、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。これは、親権喪失の手続きが、子どもの利益を確保するためのものだからです。

申立ての相手方

申立ての相手方は、虐待やネグレクトなどを行っている親権者となります。ただし、精神疾患のように、かならずしも親権者に非のない理由だとしても、子どもの利益を害すると考えるときは親権喪失の審判の申立てができます。

離婚前など、父母が共同親権のときには、父母のいずれか一方のみに親権を喪失させるべき原因があるときには、いずれか一方だけを相手方として申立てをすることができます。

保全処分の申立て

親権喪失は、児童虐待やネグレクトなど緊急性の高い事案に対応するための制度であるため、子どもの利益のために必要があると認めるときには、緊急に権利関係を保全するための手続きが用意されています。

親権喪失手続きで認められている保全処分とは、親権喪失の申立者による申立てにより、家庭裁判所が、審判までの間、親権者の職務の執行を停止し、またはその職務代行者を選任するという手続きです。

審問期日(子どもと親権者の意思の把握)

申立てが行われると、家庭裁判所では、親権喪失の審判をする前に、子どもと親権者の陳述を聴取するものとされています。具体的には、まずは、審問期日を開いて、子どもの親権者の陳述を聴取します。

親権者の立場からは、これまでの養育環境や、親権行使の態様に問題がなかったことなどの事実を伝えるようにします。

なお、子どもの意思の把握が必要なのは15歳以上の場合に限るものとされていますが、15歳未満であったとしても、家庭裁判所調査官による調査を行うなどの方法で、子どもの意思を把握し、結果に反映することが通常です。

審判の告知

親権喪失の手続きでは、親権を喪失させる審判、もしくは、申立てを却下する審判が下ります。

親権喪失に関する審判が下ると、家庭裁判所は、申立人、利害関係人、親権者と子どもに対して、裁判所が相当と認める方法で審判内容を告知します。

ただし、子どもについては、子どもの年齢や発達の程度などの事情を考慮して、告知することが子どもの利益を害すると考えるときは、審判内容を子どもには告知しないことがあります。

審判の確定

親権喪失の審判が下った後、審判の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告ができます。

即時抗告されることなく期間が満了すると審判が確定します。

親権を喪失した後はどうなるのか

ポイント

次に、審判の結果、親権を喪失することとなったとき、どのような効果があるのか、また、その後の子どもの養育についてどのようになるのかについて解説します。

また、親権喪失の審判が確定したとしても、かならずしも永遠に親権が奪われてしまうわけではなく、その原因が消滅するときには親権を取り戻す方法もあります。

親権喪失の効果

親権喪失の審判が確定すると、将来に向かって、親権者が子どもに対して有していた親権がすべて消滅します。

親権喪失の審判を受けてしまうと、子どもを完全に奪われてしまったという強い不安を覚えることでしょう。しかし、実際には、親子関係自体がなくなるわけではなく、あくまでも「親権」がなくなるだけです。

そのため、親子であることによって生じる次のような法律関係はなくなりません。

  • 親子間の相続権
  • 親族として相互に扶養する義務
  • 未成年者の婚姻・養子縁組に対する親の同意権

親権の内容である身上監護権・財産管理権を奪われるため、今後子どもと一緒に住んだり、子どもの財産を管理したりすることはできませんが、子どもを扶養したり将来扶養されたり、事案によっては面会したりすることが可能なケースもあります。

親権喪失後の子どもの生活

親権が消滅した後、共同親権者の一方が親権喪失の審判を受けたときには、他方の親が単独親権を行使することとなります。

親権者である父母双方の親権が消滅したときは、未成年後見の手続きが開始されます。未成年後見人の制度では、家庭裁判所が祖父母などの後見人候補や弁護士、司法書士などの専門家の中から、未成年の生活状況、財産状況などを考慮して未成年後見人を選任します。このとき、親権を喪失した親は、未成年後見人になることも、未成年後見人を指定することもできません。

親権喪失の審判がされた場合には、そのことが子どもの戸籍に記載されます。

喪失した親権を取り戻す方法

親権喪失の審判が確定した後でも、親権喪失の原因が消滅したときには、家庭裁判所は、本人またはその親族の請求によって、親権喪失の審判を取り消すことができるとされています。

民法836条(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判の取消し)

第834条本文、第834条の2第1項又は前条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、それぞれ親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判を取り消すことができる。

民法(e-Gov法令検索)

したがって、親権喪失の審判を受けてしまった後で、親権を取り戻したいと考えるならば、審判を受けてしまった理由をきちんと分析し、その理由を取り除く努力をするのが大切です。

親権喪失の審判を進めるときの注意点

注意

最後に、親権喪失の審判を進める上で知っておきたい注意点について、審判を申し立てる側の親族の立場、申し立てられてしまった親権者の立場のそれぞれから解説します。

申し立てる側の注意点

親権喪失の審判を申し立てる側の親族の立場では、なにより手遅れにならないことが大切です。

児童虐待は、子どもの一生に影響を及ぼす深刻な問題です。身体的虐待により一生消えない傷を負ってしまう場合はもちろん、心理的虐待や性的虐待でも、その心に傷を残すこととなります。将来の人間関係がうまく築けなかったり、人格形成に問題が生じてしまったり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)にかかってしまうこともあります。

児童虐待は、家庭内という密室で行われるため発覚が遅れがちですが、親権喪失の審判の申立てを検討するほどの状況であれば、速やかに検討すべきです。

申し立てられた側の注意点

親権喪失の審判を申し立てられてしまった側の親権者の立場では、「親権行使に問題はない」旨の反論をして、審判手続きで戦っていかなければなりません。

大切なポイントは、客観的な証拠を示して、親の独りよがりにならないように反論をすることです。家庭裁判所で行われる親権喪失の手続きは、「子どもの利益」の観点から判断がなされるため、「子どものためを思ってやった」、「しつけ目的だ」、「うちの家庭では当然」といった親の気持ちの押し付けでは、十分な反論として考慮してもらうことはできません。

しつけと虐待の違い
しつけと虐待の違い

親権を完全になくしてしまう手続きはとても強度のものであるため、証拠上明らかな自分の非についてはきちんと認め、反省をし、将来の改善可能性を見せることにより、親権喪失の審判を回避するよう努力すべきです。

まとめ

児童虐待は、子どもの心身に深い影響を残し、将来、長期間の心のケアが必要となります。また、子どもの健全な発達を阻害し、更に暴力や虐待が次の世代へ受け継がれていくことも少なくありません。

深刻な児童虐待を防ぐため、親権行使に問題のあるケースにおいて利用される親権喪失の手続きの知識を知っておくことが重要です。なお、今回解説した親権喪失の基礎知識は、逆に、虐待やDVを疑われてしまった親権者側で、審判手続きを戦っていく際にも知っておくべきことです。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題に注力しており、子どもの虐待に関わるセンシティブな問題についても、高度の専門性を有しています。

離婚を含め、夫婦や子どもの問題についてお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

親権制限のよくある質問

親権喪失の審判とは、どんな制度ですか?

親権喪失の審判は、親権行使に問題のある親権者に対して、親族などが申し立てをすることによって、親権のすべてをなくさせる制度です。児童虐待から子どもを守るための親権制限のなかでも、最も強い効果を持つものです。詳しくは「親権喪失の審判とは」をご覧ください。

親権喪失の審判を利用するときの注意点はありますか?

親権喪失の審判を申し立てる親族の側では、手遅れにならないよう注意が必要です。親権喪失させてしまうほどの強い効果がためらわれるときは、親権停止の審判を利用する手もあります。もっと詳しく知りたい方は「親権喪失の審判を進めるときの注意点」をご覧ください。

目次(クリックで移動)
閉じる