離婚後のトラブルを防ぐのに重要な「離婚協議書」ですが、その内容や作成手続きに不備があると、無効になってしまう場合があります。
また、離婚後に状況が変わり、離婚協議書の内容を変更したい人もいるでしょうしっかり話し合ったつもりが将来の見込みが甘かったり、予想外の事情が生じたりして、協議書通りに進めるのが困難なケースもあります。一度合意した以上、その協議書は有効であり、「清算条項」を記載するなどして最終解決としたはずです。例外的に、協議書が無効になったり変更できたりするケースもありますが、慎重に対応する必要があります。
今回は、離婚協議書が無効となる場合と、無効を主張する方法、その後に内容を変更する際の注意点について、弁護士が解説します。
- 詐欺・強迫による離婚、離婚意思のない離婚は、協議書も無効となる
- 離婚協議書が無効である場合、協議で解決しない場合は調停・訴訟で争う
- 離婚協議書を変更する際には、公正証書にすることでトラブルを回避する
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離婚協議書が無効になる場合とは

内容や作成過程に問題があると、離婚協議書が無効になる場合があります。以下では、協議書が無効と判断される具体的なケースについて解説します。
詐欺や強迫によって離婚した場合
協議離婚は、詐欺や強迫を理由に取消しを請求することができます。詐欺又は強迫による婚姻を取り消すことができると定める民法747条が、民法767条で協議離婚に準用されるからです。
- 詐欺による取消し
事実と異なる情報に基づいてだまして離婚させられたとき、詐欺を理由に取り消すことができます。例えば、虚偽の情報を示して財産分与の合意を取り付けた場合、離婚協議において詐欺が行われたといえます。 - 強迫による取消し
心理的または身体的な圧力によって自由な意思を妨げられた離婚は、強迫を理由に取り消せます。例えば、「離婚に同意しないと暴力を振るう」などと脅された場合、離婚協議において強迫があったといえます。
詐欺や強迫によって離婚が取り消される場合は、離婚協議書も効力を失います。離婚協議書は、協議離婚の成立を前提に作られた文書なので、離婚そのものが無効なら、付随して取り決めた条件も無効になるからです。財産分与や養育費といった金銭はいずれも離婚するからこそ払われるもので、離婚が無効になる場合は得ることができません。
詐欺や強迫は、配偶者(夫や妻)からの場合だけでなく、第三者(例えば義両親など)から受けた場合にも、離婚を取り消す理由となります。
裁判例(東京地裁平成28年6月21日判決)は次のように判示し、不貞行為や不貞相手との子供の存在を隠して締結した離婚協議書について、錯誤により無効(※2020年4月新民法施行後は、錯誤の効果は「無効」ではなく「取消」)と判断しました。
被告Y2が被告Y1との継続した不貞関係や婚外子の妊娠の事実を隠して、清算条項を含む本件協議離婚書を原告X1に示し署名させたことは、被告Y2が、慰謝料の支払いを免れて被告Y1との再婚を果たすためであったものと認められ、その清算条項は、原告X1の要素の錯誤により無効であるから、原告X1は、被告らに対し、不貞行為による慰謝料の請求ができるものとするのが相当である。
東京地裁平成28年6月21日判決
「離婚協議書の書き方」の解説

離婚の意思がなくなった場合
離婚協議書が作成されても、その後、離婚届提出までに夫婦の一方が離婚の意思を撤回した場合は、協議離婚は成立しません。
離婚の意思は、離婚届の「提出時」に夫婦双方に存在する必要があります。届出の時点で夫婦の一方に離婚意思がなくなっていると協議離婚が無効となり、その結果、離婚協議書もまた無効となってしまいます。
「離婚までの流れ」の解説

離婚協議書の記載内容に問題がある場合
離婚協議書に記載された内容が法律に反するなど、問題のある条項は効力を有しません。
無効になる可能性のある条項は、以下の例があります。なお、離婚協議書の一部が無効になったとしても、その他の部分が適切な内容なら、全部が無効になるわけではありません。
養育費を請求しない合意
離婚協議書で養育費の請求を放棄する条項を定めても無効です。例えば「妻は夫に対して、将来一切の養育費を請求しない」などと定める例です。
養育費は、親が子供を養育する義務を果たすための金銭であり、子供の扶養請求権の一部なので、親同士で合意しても放棄はできません(民法881条)。したがって、協議書に養育費を放棄すると定めても、子供が将来請求することは妨げられません。
同様に「将来養育費を一切変更しない」という合意も無効となります。
面会交流権を放棄する条項
離婚協議書に面会交流権を放棄する条項を定めるのも無効です。例えば「離婚後に面会を求めない」「会おうとしない」などと定める例です。
面会交流は、親の権利であると共に子供の権利でもあるので、子供の利益を最優先に決めるべきだからです(民法766条)。このことは「養育費が滞ったら面会交流させない」といった条件付きでも同じことです。
親権者の変更をしない旨の合意
親権者の変更について、民法819条6項は「子の利益のため必要があると認めるとき」に家庭裁判所が判断できると定めます。したがって、子供の利益を守るために、離婚協議書で「親権者変更を申し立てない」という条項を設けても、法的な効力を有しません。
婚姻時の氏を使用しない旨の合意
離婚協議書で婚氏続称を制限する合意をしても無効です。
離婚すると旧姓に戻るのが原則ですが、離婚後3ヶ月以内に届け出ることで婚姻時の氏を継続して使用できます(婚氏続称)。婚氏続称は、結婚時に姓を変更した側(妻など)にとって、離婚の影響を最小限に抑える重要なものです。感情的になり「自分の姓を名乗ってほしくない」と要求する人もいますが、協議書では制限できません。
公序良俗に反する約束
公序良俗に反する法律行為は無効です(民法90条)。離婚協議書でも、法律に違反する行為を強制する条項や、著しく常識外れな内容は、無効となるおそれがあります。
なお、金利の上限を定める「利息制限法」は離婚協議書には適用されませんが、法定金利が年3%であることから、あまりに高金利だと公序良俗違反と評価されるおそれがあります。例えば、不貞慰謝料を分割払いにするケースなどは注意が必要です。
手続きや内容に不備がある場合
手続きや内容に不備がある場合、必ずしも無効とまではならなくても、離婚協議書を活用する際の支障となります。希望した解決は実現できず、離婚後にもトラブルを残してしまいます。
具体的な条件が曖昧な記載
離婚協議書の記載が曖昧だと、後から解釈をめぐる争いが生じます。
例えば「養育費は適宜払う」として額を書かなかったり、「毎月払う」として支払日を定めなかったりすると、具体性に欠ける条項をもとに請求することは難しいです。
協議書は、夫婦間の合意内容を第三者に証明するための文書です。相手が約束に従わなければ裁判所に証拠として提出しますが、内容が不明確だと、何をどのように履行すべきか、協議書上では判断できません。
署名押印がない
離婚協議書には、双方の署名と押印が必要です。これがないと、作成者が不明確となり、夫婦双方の合意を証明できません。署名押印のない協議書では、「自分の意思で作成したものではない」「文案を見ただけで合意はしていない」といった反論を許してしまいます。
離婚協議書を無効にする方法

離婚協議書の内容や手続きに問題があると、無効になる場合があると解説しました。ただ、一方的に破棄したからといって約束がなくなるわけではなく、離婚協議書を無効にする具体的な方法を理解しておく必要があります。
まずは話し合いを試みる
裁判手続きは多くの時間と費用がかかるので、まずは話し合いを試みるべきです。双方が合意に至れば、離婚協議書の効力を無くしたり、約束した離婚条件を変更したりすることが可能です。
話し合いを成功させるには、離婚協議書を精査し、無効となる可能性が高い点を相手に伝え、変更するよう求めましょう。相手に譲歩を求めるなら、自身も歩み寄る姿勢を示すのが効果的です。例えば「養育費の見直しをお願いしたいので、代わりに財産分与は再検討する」など、具体的に提案するのがよいでしょう。
離婚前なら離婚届不受理申出を行う
離婚協議書を作成していても、離婚届が提出されるまでは離婚は成立しません。協議書の内容が不満なら、離婚届不受理申出を行ってください。
不受理申出をすれば、相手が一方的に離婚届を提出しても受理されません。この手続きを活用することで、離婚の成立を一時的に止め、協議書の無効を主張したり、条件変更を交渉したりする時間を確保できます。
離婚無効確認を求めて調停・訴訟を行う
交渉で解決しない場合、裁判手続きで「離婚無効確認」を求めます。最初に調停を申し立て、不成立となる場合は訴訟を提起します。ただし、離婚成立後だと相手が非協力的で、交渉が難航するおそれもあります。
離婚無効確認の手続きでは、詐欺や強迫があった場合や離婚意思がなかった場合といった要件を満たすとき、協議離婚を無効にできる可能性があります。訴訟に備え、以下の証拠を集めておいてください。
- 強迫を示す録音やメール
- 詐欺を示す虚偽の情報が記載された書類
- 離婚意思がなかったことを証明するやり取りの記録
裁判で離婚無効が認められると、離婚協議書も無効になります。ただし、既に成立した離婚を無効とするには多くの労力が必要で、相手との対立も深まる可能性が高いことを覚悟して進めましょう。
改めて離婚条件を協議する
離婚協議書が無効となった場合、その後は改めて離婚条件について協議をしたり、離婚条件を変更したりすることができます。
「協議離婚の進め方」の解説

離婚後に離婚協議書を変更する際の注意点

次に、離婚協議書を変更する際の注意点について解説します。
協議書は双方の合意で作成されるので、一方的には変更できないのが原則です。しかし、時間の経過や環境の変化により、離婚当初の取り決めが現状に合わなくなることもあり、その場合には例外的に変更できるケースがあります。
例外的に変更できるケース
離婚協議書が、例外的に変更することができるケースは、次の通りです。
相手が変更に同意した場合
離婚協議書を作成後でも、相手が変更に同意するなら、記載された離婚条件を変更できます。将来の事情変更が起きやすい子供の問題については、離婚協議書の段階では具体的に決めず、「別途協議する」といった定めを置く例もあります。
したがって、離婚協議書の変更を希望するなら、話し合いを試みましょう。協議の結果、相手が変更に同意するときは、当初の書面が無効であることを確認すると共に、新たな合意を書面に残すようにしてください。
事情変更があった場合
例外的に、前提となる事情に大きな変更があったとき、離婚協議書を変更できるケースがあります。ただし、協議書の作成時には予測できなかった大きな変化でなければならず、些細な事情変更や、作成時から予想できていたものは、変更する理由にはなりません。
なお、離婚協議書の作成時に、将来的な事情変更の可能性が分かれば、どのような場合に離婚条件を変更するのか話し合い、協議書に書いておく例もあります。例えば「一方の収入が◯割以上増減額した場合、養育費を再協議する」といった条項です。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

離婚協議書を変更する方法
次に、よくある離婚条件ごとに、離婚協議書を変更する方法を解説します。
なお、離婚時に定めた条件を事後的に変更する場合、更なる争いを繰り返さないよう、公正証書化しておいてください。
親権・監護権の変更
未成年者の子がいる夫婦の離婚では、親権を必ず決める必要があります。民法819条6項は、「子の利益のため必要があると認めるとき」は、子の親族の請求によって家庭裁判所が親権を変更できることを定めており、例えば、離婚後に次の事情変更のあるときは、変更を検討しておきましょう。
- 親権者が病気で育児が困難になった
- 援助していた義両親が死亡した
- 親権者が失職した
- 再婚相手が子供に悪い影響を与えている
- 育児放棄や虐待が始まった
子供が幼いうちに離婚するほど、将来長期にわたって問題が続き、事情変更が起こる可能性も高まります。事情変更のあるときは、それを理由に親権者変更を家庭裁判所に申し立て、調停・審判で審理を受けることができます。
なお、親権者となった親に虐待などの問題があるなら、親権制限制度(親権喪失の審判・親権停止の審判)を活用して親権を失わせる方法も有効です。ただし、親権を失わせたとしても、他方の親が必ず親権を得られるとは限りません。
面会交流のルールを変更する
面会交流は、親権を有しない親が子供と交流する重要な権利です。
離婚時に面会交流を定めなかったときはもちろん、一旦離婚協議書で定めた後も、事後的な事情変更を理由に、より適切な方法、回数などを再度話し合うことができます。話し合いで解決しないときは、調停を申し立てることができ、それでも合意できないときは家庭裁判所の審判で決めてもらうことができます。
ただし、面会交流もまた、親権・監護権と同じく子供の利益を優先して決めるので、必ずしも親の希望に沿うとは限りません。
養育費の増減額請求
離婚協議書に定めた養育費も、事情の変更を理由に増減額を請求できます。この場合も、話し合いで解決しないときは調停を申し立て、調停での合意に達しないときは審判に移行し、家庭裁判所の判断を受けます。
家庭裁判所での判断は「養育費・婚姻費用算定表」を参考に決めるため、一度取り決めた養育費を変更できるかどうかは、この表を左右するほどの事情があるかを検討する必要があります。例えば、次のような事情について確認してください。
【増額請求をすべきケース】
- 進学や留学により新たな出費が必要となった
- 病気や事故で多額の医療費がかかった
- 親権者の収入が大幅に下がった
【減額請求をすべきケース】
- 親権者の再婚相手と養子縁組した
- 親権者の収入が大幅に増えた
- 非親権者が失職して収入が減少した
離婚後に財産分与を請求する場合
財産分与は、離婚時に取り決める家庭が多いですが、離婚後も2年以内なら財産分与を請求することができます(民法768条2項但書)。
そのため、離婚協議書で財産分与を決めなかったとき、離婚後に改めて調停を申し立て、財産分与を請求できます。一方で、財産分与を定めて離婚したときは、相手が離婚協議書に違反したとしても、財産分与をやり直すことはできません。
なお、前提となる財産の価値に錯誤がある場合や、意思表示に瑕疵のある場合に、離婚協議書が無効となり、財産分与をやり直すことを認めた裁判例があります(東京地裁平成18年10月16日判決・対象となった株式の価値に錯誤があるとして財産分与の合意を無効と判断した事例)。
「離婚後の財産分与請求」の解説

離婚後に慰謝料を請求する場合
不法行為の慰謝料の時効は「損害及び加害者を知った時から3年間」とされます(生命・身体の侵害の場合は5年)。そのため、離婚に伴う慰謝料も、時効が経過する前なら、離婚後に請求することもできます。
離婚時に慰謝料を受け取っていない場合はもちろん、離婚協議書に清算条項があっても、新たな不貞が発覚した際にはその分の慰謝料を追加で請求できます。
離婚協議書の無効・変更についてよくある質問
最後に、離婚協議書の無効や変更について、よくある質問に回答しておきます。
離婚協議書に違反したら無効になる?
離婚協議書に相手が違反しても、協議書そのものが無効になるわけではありません。例えば「養育費を払わないなら離婚は無効にしたい」といった言い分は通りません。ちなみに、未払いがあった場合は速やかに法的手段を講じる必要があります。このとき、公正証書にしていれば、裁判を経ることなく強制執行が可能です。
公正証書の内容を変更する方法は?
一度作成した公正証書を変更するには、新たな公正証書を作成する方法によります。したがって、当事者間で話し合い、どこをどのように変えるかを決めたら、変更内容をまとめて、公証役場で公正証書を再度作成します。
再度作成した公正証書についても、裁判を経ることなく強制執行できる強い効力が生じるため、本当に変更すべきかどうかは、弁護士に相談するなどして慎重に決めることをおすすめします。
「離婚協議書を公正証書にする方法」の解説

まとめ

今回は、離婚協議書を作成後、無効にしたり変更したりできるかどうかを解説しました。
一旦合意した内容は、変更できないのが原則です。ただし、変更に相手が同意している場合のほか、意思表示に瑕疵があったり離婚意思がなかったり、事情変更があったりした場合には、例外的に離婚協議書が無効になる場合があります。
無効を主張する際は、相手との話し合いを優先し、離婚前なら不受理申出、離婚後なら離婚無効確認調停・訴訟を活用することが重要です。また、内容を変更することができる場合にも、新たな合意については公正証書化することでトラブルを防ぐべきです。法律に基づいた正しい解決策を講じるためには、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
- 詐欺・強迫による離婚、離婚意思のない離婚は、協議書も無効となる
- 離婚協議書が無効である場合、協議で解決しない場合は調停・訴訟で争う
- 離婚協議書を変更する際には、公正証書にすることでトラブルを回避する
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協議離婚は、夫婦の話し合いで離婚条件に合意し、離婚届を提出することで成立します。この手続きは比較的簡単で迅速に進められる一方、難しい法律問題があっても自分達で乗り越えなければなりません。
合意内容が曖昧なままだと後にトラブルが生じるおそれがあるので、「協議離婚」の解説を参考にして進めてください。