結婚生活で起こるトラブルの一つに「夫が妻に家を追い出される」ケースが挙げられます。
妻に突然「もう帰ってこないで」と言われ、鍵を勝手に変えられ家に入れなくなる、話し合いを拒否されるなど深刻な事態に直面したとき、夫側はどう対応すべきでしょうか。離婚に進むなど、感情的に対立しているケースでも、法的には「家に入る権利」があることもあります。
早急に解決する必要がありますが、適切な対処法は、離婚に進むか、関係修復を望むかによっても異なります。突然の事態に動揺しがちですが、落ち着いて考えなければなりません。
今回は、「妻が家に入れてくれない」状況を想定し、法律上の問題点や対処法について弁護士が解説します。なお、妻が「夫に家から追い出された」場合にも当てはまる解説です。
- 家を追い出されたことの証拠が、後の交渉や法的手続きで重要となる
- 無理やり家を締め出されても、感情的な対応はDVを疑われる危険がある
- 追い出されたタイミングこそ、不利を避けるために弁護士の助言が有効
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家を追い出されたらどうする?最初にすべきこと

はじめに、家を追い出されたとき、最初にやるべき2つのステップを解説します。
突然、妻から家を締め出されると、追い出された側は困惑し、どう動くべきか判断がつかないこともあるでしょう。しかし、問題を解決するには、落ち着いて対処しなければなりません。まずは自分の状況を正確に把握して、当面の生活を安定させるための行動を取りましょう。
なお、家を追い出されたのが妻側でも対処法の基本は同じですが、シェルターの利用については男女で事情が異なる点に注意してください。
家を追い出された状況を整理する
「家を追い出されました」と一口に言っても、様々な状況が考えられます。夫婦喧嘩や離婚の直前などでよく起こる、家を追い出される状況の具体例は次の通りです。
- 仕事に行っている間に勝手に鍵を変えられた。
- 自分の私物が貸倉庫や実家など、別の場所に勝手に移された。
- 扉に「立ち入り禁止」と書かれた紙が貼られていた。
- 内側からチェーンをかけられた。
- 口論の際に「出ていけ」と言われた。
- LINEで「もう帰ってこないで」と告げられた。
家を追い出されたと感じたら、その背景や経緯を客観的に整理することが重要です。次の点は必ず確認しておいてください。
- 追い出しに至った理由
- 法的な権利が侵害されていないか
- 追い出された際の証拠
- 警察の介入の有無
追い出しの理由によっても、どうすればよいかは異なるので、夫婦喧嘩の延長か、それともDVやモラハラに当たる行為か、あるいは、離婚を前提としているのか、よく確認してください。追い出された際の音声や映像の記録、鍵を変えられている状況の写真、メールやLINEのメッセージなどは、後に重要な証拠になるので、可能な限り記録を残しておいてください。
警察の介入について、DV保護法による保護命令が発令されるケースは、特に慎重に動くべきです。自分が加害者とされるとき、DV・モラハラと受け取られる行為は慎まなければなりません。
また、追い出した側、追い出された側いずれでも、持ち主の同意なく相手の私物を処分する行為は、不法行為(民法709条)になり、損害賠償請求の対象となります。婚姻中に購入した持ち家など、共有財産を勝手に売却するのも許されません。財産分与の対象となる財産を、追い出されたことを機に処分されないよう、場合によっては弁護士に依頼し、仮処分などの法的措置を講じることも検討すべきです。
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当面の住む場所を確保する
妻に家を追い出された場合、すぐには戻れない可能性を考え、当面の住む場所を確保する必要があります。相手の暴力や離婚のプレッシャーに怯えることなく今後の身の振り方を考えるためにも、「生活の拠点」を整えなければなりません。
以下に、主な選択肢と、メリット・デメリットについて解説します。
実家や親戚の家に身を寄せる
家族に事情を説明し、一時的に居候させてもらう方法が最も一般的です。
親や兄弟姉妹なら、事情を知れば助けてくれるでしょう。相手が乗り込んできても家族が盾になれるメリットもあります。ただし、親族とはいえ過度な負担とならないよう、生活費や滞在期間、妻が押しかけてきた場合の対処法を事前に話し合う必要があります。
ホテルやウィークリーマンション
すぐに宿泊先が必要な場合、ホテルや短期賃貸マンションの利用が現実的です。
ホテルやウィークリーマンションなら空きがあればすぐ利用でき、急を要する際に適しています。勤務先の近くの場所なら、利便性を向上できるメリットもあります。宿泊費がかかるため、収入や貯蓄に不安がある人には利用が難しいのも事実であり、長期間滞在するなら新たにアパートやマンションを借りる方が費用を抑えられます。
友人や知人を頼る
友人に一時的に住まわせてもらうことも、実家を知られていたり、遠方で通勤困難であったりするケースでは一つの選択肢です。ただし、友人や知人を通じて情報が漏れるおそれがあるため、事情を伝えるのは信頼できる人に限りましょう。
また、友人の生活もある以上、長期滞在には向きません。相手の負担にならないよう、あくまで一時的な滞在先とするに留め、感謝や礼儀を忘れずに接してください。
シェルターを利用する
DV被害の懸念があるなら、シェルターの活用も検討すべきです。シェルターは、一時的な避難場所として、配偶者からの暴力を受けた被害者であれば無料で利用できます。
ただし、都道府県が設置する公的シェルターや民間シェルターの多くは女性専用であり、男性が利用可能なシェルターのない地域もあるので注意が必要です。「妻が夫から追い出された」場合は比較的利用しやすいので、配偶者暴力支援センターに相談してください。
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家を追い出された場合の法律的な問題

次に、家を追い出されたときに検討すべき法的問題について解説します。
妻に突然家を追い出されても、「家から出された自分に非がある」とあきらめる必要はありません。夫婦は法律上、同居義務や協力義務を負っているので、一方的に配偶者を締め出す行為は法的にも問題がある可能性もあります。
配偶者が勝手に鍵を変えた場合
まず、配偶者(夫や妻)が相手を追い出すために鍵を交換した場合です。
婚姻中に購入した自宅は、夫婦の共有財産であり、勝手に変更を加えてはいけません。自宅の鍵を相手の承諾なく変更することは、夫婦の同居義務にも違反しています(民法752条。なお、夫のDVで身の危険を感じたなど、正当な事情が存在する場合には適法なこともあります)。

同意なく自宅の鍵を変えることが、相手の居住権を侵害すると判断されるケースもあります。違法かどうかは、経緯や離婚の意思によっても異なるので、裁判例の判断も参考にしてください。
【東京地裁平成30年1月20日判決】
妻の不貞が発覚後、証拠の捏造や締め出しを恐れた夫が、自宅マンションの鍵を交換した事案。裁判所は、自宅が婚姻後に共同で購入したものであること、妻が自宅に戻れないことに不満を述べていることなどを指摘し、自宅に入れないことが離婚協議を続けるための必要最小限の行動とは言えないとして、違法と判断しました。
【東京地裁令和4年1月19日判決】
妻が夫に離婚届を書かせて自宅を立ち去った後、夫が自宅の鍵を交換した事案。
裁判所は「記入済みの離婚届がある、提出時期は自分で決める」と妻が夫に繰り返し発言していたことなどを理由に、自宅の占有を放棄したと判断して請求を棄却しました。
多くの裁判例は、同居義務を根拠とした居住権を認めていますが、追い出された経緯によっては認められないケースもあります。例えば、明らかに夫の行動が原因で婚姻生活が破綻したケースでは、居住権を認めなかった裁判例があります(東京地裁平成3年3月6日判決)。
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悪意の遺棄に該当する場合
正当な理由なく配偶者を追い出したり、生活費を一切負担しなかったりする行為は、「悪意の遺棄」に該当する可能性があります。悪意の遺棄と判断されると、民法770条1項2号に定める「法定離婚事由」として、訴訟において一方的に離婚が成立する理由となります。
家を追い出される前後で、次のような問題行為を証明できれば、悪意の遺棄があるとして離婚調停や離婚裁判(離婚訴訟)で有利に働きます。
- 働く能力があるのに全く働かない。
- 家事や育児に協力しない。
- 収入を得ているのに生活費を渡さない。
- 無断で長期の外出を繰り返す。
悪意の遺棄を証明するには、家を追い出されるまでの経緯や追い出された状況を証拠に残しておくことが重要です。鍵を変えられた証拠、締め出しを示すLINEのスクリーンショットやメール、やり取りの録音などを集めておいてください。
「法定離婚事由」の解説

DV防止法の保護命令がある場合
DV防止法では、暴力や脅迫によって生命・身体に重大な危害を受けるおそれがあるとき、接近禁止命令や退去命令が発せられます。妻がDVを主張し、DV防止法による保護命令が出された場合、家から追い出されたことについて妻を責めるのは難しいです。
同居中の場合、加害者に対して住居から一時退去を命じることがあるため、この命令に反して家に戻ろうとすると、「2年以下の懲役又は200万円以下の罰金」が科されるおそれがあります(DV防止法29条)。身に覚えがない場合、保護命令を争うための即時抗告が可能ですが、無理やり家に戻ろうとするのは危険なので控えるべきです。
「家から出て行けと言うのはモラハラ?」の解説

離婚調停や裁判の進行中の場合
妻から家を追い出されたとき、既に調停や裁判が進行中なら、別居を続けて構いません。
本来、夫婦には同居義務がありますが、婚姻関係が破綻している場合はその限りではありません。また、調停や裁判の中で、一時的に別居を前提とした取り決めがあるなら、それに従うべきです。離婚調停・裁判の進行中は、離婚を前提に動いているので、婚姻関係は既に破綻していると判断されることが多いと考えられます。
実際、離婚に向けた法的手続きは、別居状態のまま行う夫婦が多いです。ただし、別居したことが自分に不利にならないよう、以下の点に留意して行動しましょう。
- 自分の収入が相手より少ない場合、生活費を請求する。
- 自分の収入が相手より多い場合、適正な生活費を払う。
- 異性との交際は避ける。
- 別居前に財産を把握し、離婚原因の証拠を集めておく。
相手の連絡に直接対応したくない場合は、弁護士に窓口になってもらうのが有効です。


家に入れてもらえない場合の適切な対処法

次に、家に入れてもらえない場合の具体的な対処法を解説します。
妻に家に入れてもらえないからとしつこく連絡したり、相手を一方的に責めたりするのは逆効果です。更に態度を硬化させて、事態を悪化させる危険もあるからです。再同居と離婚のどちらを望むにしても、自分が不利にならないよう適切に対処することが重要です。
冷静に話し合いを試みる
まずは冷静に、再同居に向けた話し合いを試みましょう。
無理に押しかけたり怒鳴ったり、怒りや憎しみをぶつけたりするのは逆効果です。失言をして自分が不利になる、相手が態度を硬化させるなど、解決が遠のきかねません。妻側に「恐怖を感じた」と主張されれば、DV加害者とみなされるリスクもあります。
話し合う際は、相手に寄り添いつつも、冷静に自分の考えを伝えることが重要です。自分だけで話し合うのが難しい場合は、親族に立ち会ってもらいましょう。相手が直接の話し合いを拒否しているなら、弁護士に代わりに伝えてもらう手も有効です。
「相手の弁護士から連絡が来たときの対応」の解説

別居の正当性を主張する証拠を収集する
次に、別居の正当性を主張する証拠を収集することも重要です。
夫婦には同居義務があります。「自ら別居を選んだ」「勝手に家を出ていった」と誤解されないよう、「追い出されたのだ」という証拠が重要となります。経緯を示す証拠がなければ、追い出された夫側が、逆に同居義務違反に問われるおそれもあります。
経緯を示す証拠として、次の資料を準備しておいてください。
- 鍵が変えられている写真や動画
- 追い出された際の音声記録やメール、メッセージ
- 自宅の所有関係を明らかにできる書類(契約書など)
- 別居中の生活費を払っている証拠
「勝手に別居すると不利?」の解説

弁護士や警察に相談する
家に入れてもらえないことで相手に責任が生じる場合、弁護士に相談しましょう。
「妻から追い出された」と警察に通報する人もいますが、犯罪になる悪質なケースでない限り、警察は対応しません。例えば、家を追い出される際に暴力を振るわれたなら、警察に相談するのがよいでしょう(ケガの写真を取り、医師の診断書も忘れず入手してください)。
犯罪になるほどのケースでなくても、弁護士なら法律問題の解決策を講じることができます。目的に合わせ、離婚や復縁に向けて戦略的に進めるために、法的アドバイスが可能です。また、夫婦間の協議が紛糾するおそれのあるとき、弁護士に同席してもらったり、窓口になったりしてもらうのがよいでしょう。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

慰謝料の請求を検討する
締め出しが不法行為となる場合、慰謝料請求を検討する余地があります。
例えば、追い出された側に責任が全くないのに、妻が不倫や浮気の証拠隠滅を図るために夫を追い出した場合、慰謝料の請求が可能です。正当な理由なく家を追い出された場合、精神的苦痛を感じるのは当然で、不法行為(民法709条)に該当する可能性があります。
慰謝料請求をする場合、家を追い出されてしまった後では証拠集めが難しくなります。不貞慰謝料を請求したり、離婚時の財産分与を有利に進めたりするため、証拠集めは同居中に、早めに着手しておきましょう。
「相手の財産を調べる方法」の解説

家を追い出されて離婚を検討する場合の注意点

家を追い出されたことで、夫婦関係の修復が困難だと感じ、離婚を検討する人もいます。
離婚を視野に入れていても、早く成立させたいからと妥協したり、条件が曖昧なまま離婚に踏み切ったりするのは、後に深刻なトラブルに発展する危険があるのでお勧めできません。勢いで進めると後悔するケースもあるので、以下の点に注意して、慎重に対応しましょう。
- 感情だけで離婚を決めない
家を追い出された怒りや悲しみは大きいでしょうが、一時の感情で離婚を決断すると、後で取り返しがつかないこともあります。 - 追い出された事実を証拠として記録する
離婚やその条件を有利に進めるには、不当な扱いを受けた証拠を残しておくのが有益です。特に、妻からの一方的な締め出しが「悪意の遺棄」として法定離婚事由に該当する場合、その証拠が十分にあれば、離婚が成立しやすくなります。 - 財産分与・親権・養育費の見通しを立てる
子供がいる夫婦の場合は特に、親権や面会交流、養育費について検討する必要があります。この際、家を追い出されたことで子供に会えなくなった場合、離婚調停や面会交流調停など、法的手続きを視野に入れて進める必要があります。
当事者同士で直接話し合いをすると感情的になって不利になる可能性があるとき、早めに法律の専門家に相談して、離婚を有利に進める戦略を立てるべきです。また、家を追い出された事案の多くは、そもそも相手が話し合いを拒否することもあるので、冷静に対応するためにも弁護士を入れることを積極的に検討した方がよい場面です。
「離婚までの流れ」

家に入れてくれなくても関係を修復したい場合の注意点

妻が家に入れてくれなくても、「まだ愛情がある」「再び一緒に暮らしたい」と願う夫も少なくありません。関係修復を目指すなら、謝罪や誠意を示すことが重要です。これまでの言動を振り返り、妻に不快な思いをさせていないか検討し、正直な対応が求められます。
根本的な解決のためには、表面的な謝罪ではなく、相手の立場に立った改善策を伝えるべきです。家を追い出された機会だからこそ、次のことに注意してください。
- 無理やり戻ろうとしない
強引に家へ押しかける、ドアを叩く、勝手に中に入るといった行為は、妻から「恐怖に感じた」としてDV扱いされ、修復が困難となるおそれがあります。しつこい電話やLINEも、不快感を抱かせて逆効果となってしまいます。 - 距離を置いて冷静に状況を見極める
互いに感情が高ぶった状態では建設的な話し合いは難しいので、一定の距離を置いて冷静になることが大切です。 - 謝罪や思いを伝える場合は慎重に
連絡する場合はLINEやメールなどで落ち着いた言葉を使い、一方的な主張や責任転嫁を避けましょう。感情的な連絡は逆効果です。妻が自分のペースで読めるよう、手紙を使って誠意を伝えるのも効果的です。
一方的に「戻りたい」と迫るのではなく、妻の気持ちや考えを尊重することが信頼回復には欠かせません。家から追い出されるほどの事態に至った原因を特定するためにも、夫婦カウンセリングなど第三者の意見を聞くのも有効な手段です。
なお、相手の対応が頑ななときは、どこかで見切りをつけて離婚に向かって進める決断が重要となるケースもあります。
「復縁したい人の全知識」の解説

まとめ

今回は、配偶者から家を追い出された際の対処法について解説しました。
「夫が妻に家から追い出された場合」だけでなく、逆に「妻が夫に家から追い出された場合」もありますが、それまでの経緯や理由により、発生する法律的な問題や解決策が異なります。まずは住む場所を確保して生活を整えて、冷静に状況を整理することが大切です。
また、再同居や関係修復か、それとも離婚か、どちらを望むかによっても、やるべきことは異なります。離婚を望む場合には、家を追い出されたからといって相手に妥協したり、法的な問題を曖昧にしたりしてはいけません。後にトラブルの火種とならないよう、焦らず、離婚条件についてよく交渉し、離婚協議書に残すようにしてください。
個々の夫婦の考え方や家を追い出されるまでの経緯によっても最適な対応は異なるので、離婚に精通した弁護士に相談するのが有益です。
- 家を追い出されたことの証拠が、後の交渉や法的手続きで重要となる
- 無理やり家を締め出されても、感情的な対応はDVを疑われる危険がある
- 追い出されたタイミングこそ、不利を避けるために弁護士の助言が有効
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別居は、夫婦の関係に大きく影響するため、慎重に進めなければなりません。別居をする前に、法的な観点から将来の計画を立て、準備することが重要です。
別居を考えている方や、具体的な方法、手続きについて悩むときは、「別居」に関する解説を参考にしてください。