別居をした後で、自宅への立入りや荷物の引取りが問題となるケースがあります。
別居前の準備が十分なら良いですが、「DVやモラハラから逃げる必要がある」といった緊急性の高いケースでは、大切な荷物を残して別居せざるを得ない人もいます。
強い覚悟で別居しても、「少しだけ戻りたい」「荷物を取りに帰りたい」という思いは誰しもあります。しかし、あなたが家を出た後も配偶者が自宅に住み続けるとき、「少しならバレないだろう」という安易な気持ちで戻ると、離婚を進める際にも不利に考慮されるおそれがあります。
今回は、別居中に自宅に立入り、荷物を取る方法や注意点について弁護士が解説します。
- 別居後の無断立ち入りは、離婚協議の支障となるおそれがある
- 相手に会いたくないが荷物は取りたいなら、弁護士を通じて請求すべき
- 別居中に荷物を取りに行く、勝手に家に入る行為にはデメリットもある
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別居中に勝手に家に入ることはできる?

まず、別居中に荷物を取りに行くには、自宅に立ち入る必要があります。そのため、「別居中に勝手に家に入ることが許されるのか」という問題が生じます。
離婚に向けて別居を始めたなら、夫婦仲は良くないことでしょう。DVやモラハラがあって早急な別居を優先した場合、十分な準備ができなかったかもしれませんが、このようなケースほど別居中の立入りは困難なことが多いです。
別居した側、された側のいずれでも問題になるので、立場に合わせて解説します。
別居後に無断で立ち入ってよい?
まず、別居した側の人に向けて解説します。
取り急ぎ、身の回りの物だけ持って家を出て、「大切な荷物は後で持ち出そう」と考えている人もいます。「夫婦の家なので自由に入ってよいはずだ」という思いは理解できますが、別居後の無断立入りは犯罪行為に該当するおそれがあり、不用意に進めるとリスクを伴います。
- 住居侵入罪
別居後の自宅は配偶者が単独で管理します。勝手に入る行為は住居侵入罪として「3年以下の懲役又は10万円以下の罰金」の刑罰に処せられます(刑法130条)。 - 器物損壊罪
鍵を壊したり窓を割ったりして入ると、器物損壊罪にあたり「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」に処せられます(刑法261条)。実際は物を壊してはいなくても、無断で立ち入っていると、相手から「家にあった物が破損していた」と言いがかりを付けられる原因ともなります。 - 窃盗罪
自分の物か相手の物かが争いのある荷物を持ち出す行為は、窃盗罪(刑法235条)にあたるおそれがあります。ただし、夫婦間の窃盗は「親族相盗例」によって刑事処罰が免除されることとなっています(刑法257条)。
刑罰が科されるほど悪質でなくても、無断で立入り、許可を得ずに勝手に荷物を持ち出したことが発覚すれば、離婚は遠のいてしまいます。相手の感情を害して、離婚協議を長期化させたり、配偶者からの損害賠償請求という新たなトラブルを引き起こしたりする原因となるからです。
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別居後の無断立入りを拒否できる?
次に、別居された側の立場で解説します。
自宅に残された側からすれば、「戻ってきてほしくない」「勝手に出ていったのに自分勝手だ」と感じるでしょう。ただ、共同生活の拠点であった自宅に双方の荷物が多く残されているとき、立入りを一律に拒否することもまた問題ある対応と言わざるを得ません。少なくとも、相手の物であることが明らかな荷物の引取りには協力しておく方がよいでしょう。
特に、「追い出して別居させた」という事例で、締め出された側に行き場がなく困窮してしまうケースなど、別居を開始した経緯によっては立入りを拒否することが「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)にあたるおそれがあります。悪意の遺棄は、法定離婚事由となって離婚を加速させたり、慰謝料請求の対象となったりするリスクがあります。
別居した理由が、出ていった側のDVやモラハラ、虐待にあるとき、無断立入りの拒否には正当な理由があります。自分の身を守るためにも、鉢合わせを防ぐべきだからです。
ただし、このようなケースでは、たとえ加害者が家を出て行ったとしても、いつ戻ってくるかもしれず、相手に知られている自宅に留まるのは危険です。加害者が別居したらすぐ、自分も他の場所に逃げることをお勧めします。
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自宅に戻らずに荷物を引き取る方法

次に、別居後の自宅に立ち入ることなく荷物を引き取る方法を解説します。
別居後の無断立入りにはリスクを伴うと解説しました。また、別居した側としても、荷物は大切だとしても、できれば相手には会いたくないことでしょう。解決策は複数ありますが、ケースごとに適した方法を選ぶ必要があるので、まずは弁護士に相談するのが賢明です。
相手と交渉してから自宅に立ち入る
まず検討すべきは、相手と交渉してから自宅に立ち入る方法です。
「勝手に」「無断で」自宅に入って荷物を取ってくるのではなく、相手と交渉して、許可を求めるという対応です。夫婦仲がそれほど悪化していなかったり、離婚することには双方が同意していたりするケースでは、話し合いをすれば相手も応じてくれることもあります。後からトラブルになるのを避けるため、合意した内容を書面化してから立入りを進めるのがお勧めです。
事前に決めておくべき事項は、例えば次の通りです。
- 自宅に入る日時・時間帯
相手に会いたくないとき、鉢合わせを避けるために相手の仕事中の時間を設定したり、事前に決めた時間は留守にしてもらったりといった工夫をします。 - 立会い、同席の有無
「物を壊されるのではないか」「自分の物も持っていかれるのではないか」などと相手が心配して、立会いや同席を求めるケースもあります。DVやモラハラがあるときは、弁護士が立ち会って荷物の受け渡しをすることもあります。 - 荷物の搬出にかかる時間
必要性の高い物を引き取るに留め、できるだけ短時間にする方が受け入れてもらいやすいためお勧めです。 - 持ち出して良い荷物
相手の物を持ち出すと後からトラブルとなるので、持ち出す必要性の高い物に限定するべきです。
話し合いでは、相手に協力してもらうため、別居された側の気持ちも理解して、「荷物の引取り」という重要性の高い目標を最優先とすることです。「多くの荷物を持ち出したい」「一緒に使っていたものも欲しい」などと欲張るほど、トラブルは拡大してしまいます。
合意内容に違反して持ち出すべきでない荷物を取ったり、日時を勝手に変更したり時間を過ぎてしまったりすると、最低限の信頼すら喪失し、離婚に向けた話し合いの支障となります。
「別居の合意書」の解説

残した荷物を郵送で送ってもらう
どうしても顔をあわせたくないときや、自宅へ立ち入ると荷物の引取り以外の不都合があるケースでは、残した荷物を郵送で送ってもらうという解決策があります。例えば、DVやモラハラ、虐待があるケースは、できるだけ対面でのやり取りを避けるべきです。
なお、郵送代、宅配便の送料などをいずれが負担するかはケースバイケースです。実務では、自宅への立入りを強く拒まれているときは、拒否した側が送料の負担を申し出ることが多いです。いずれにせよ少額なので、固執して対立を激化させるべきではなく、「送料がかかる」ことを荷物を渡さない口実にしてくる相手には、着払いで送るよう依頼するのがよいでしょう。
「離婚に伴うお金の問題」の解説

弁護士を通じて荷物を受けとる
離婚問題を弁護士に依頼しているときは、弁護士を通じて荷物を引き取る方法が最適です。離婚原因に争いがあるなど、夫婦間では感情的になって円滑に進まないケースも、弁護士間なら、少なくとも「荷物の引取り」に限れば、それほどトラブルなく進められることもあります。
弁護士に依頼する場合、次の方法が考えられます。
- 日時を決めて弁護士に同席してもらう方法
- 弁護士の事務所宛に荷物を送付してもらう方法
別居をされた側も、弁護士が責任を持つと確約することで、「勝手に自分の荷物を荒らされるのではないか」「自宅に立ち入って嫌がらせをされるのではないか」という不安を払拭できます。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

残した荷物を処分してもらう
残した荷物が不要なら、処分してもらう方法が適切です。
別居後に、早期離婚を目指すなら、荷物に関するトラブルを長期化させるのではなく、離婚条件など、重要な争点に注力する方が有意義です。モラハラ気質な相手が、「残した荷物」を交渉材料として引き合いに出してくるなら、その交渉事に固執するより「荷物は処分してもらって構わない」と伝え、離婚協議に注力した方が良い解決に繋がります。
なお、荷物の「処分代」についても前章の「送料」と同じく、いずれが負担するかは話し合いで決めます。少額なら負担してもよいでしょうが、粗大ごみの処分費用が高額になるケースなどは、次章の通り財産分与の中で調整を求めてください。
金銭の授受によって解決する
夫婦が共同生活中に購入した財産は、財産分与の対象となります。
そのため、交渉が決裂し、どうしても自宅への立入り、荷物の引取りが難しいなら、離婚時の財産分与において金銭的に調整することで解決すべきです(ただし、中古の家具や家電などは高値にならないことがあります)。
「離婚時の財産分与」の解説

別居後に自宅に立ち入りたいときの注意点

最後に、別居後に自宅に立ち入りたいと考えている方に、知っておいてほしい注意点を解説します。
離婚を最優先に考える
別居後に無断で自宅に立ち入る目的として、荷物の引き取りが挙げられることが多いです。しかし、最優先とすべきは離婚やその条件調整であり、優先順位を見誤らないことが重要です。
確かに、別居後も自由に自宅に立ち入れて、荷物を気軽に引き取れる状況なら生活が快適になるのは理解できます。一方で、元の住まいに戻れないと不便さを感じるでしょう。しかし、別居はあくまで「離婚のための手段」に過ぎません。有利に離婚を成立させようと目指すなら、無断で立ち入る行為は相手との交渉をこじらせる原因となるおそれがあります。
実際、離婚条件の中で財産分与の決着が付けば、残された荷物の引き取りが「金額的には些細な問題」に過ぎないと気付くケースも多いものです。離婚成立には時間がかかることもあるため、最短ルートで離婚に向けた手続きを進めることを心がけてください。
「離婚成立に必要な別居期間」の解説

別居後に引き取るべき荷物とは
別居後、自宅への立ち入りが許可された場合も、引き取ってよい荷物は自分の「特有財産」に限るのが原則です。特有財産は、結婚前から所有していた財産と、結婚後に自己名義で得た財産(贈与・相続など)です。
夫婦の共有財産まで持ち出してしまうと、離婚条件の調整時に財産分与を巡る争いが生じ、不利な立場に立たされるリスクがあります。

夫婦生活が長いと、特有財産と共有財産が混在していることもあります。このとき、どの荷物を引き取ってよいかは事前に話し合って合意しておくのがお勧めです。当事者間で解決が難しい場合は、弁護士を代理人として相手と調整をするのがスムーズです。
「別居時の荷物の持ち出し」の解説

残した荷物を捨てられたり壊されたりしたときの対応
残した荷物を捨てられたり、壊されたりするケースがあります。暴力的な性格やモラハラ的な行動をとる相手ほど、荷物の安全は保障されないと考えた方がよいでしょう。「勝手に出て行ったのが悪い」「不用品だから置いて出たのだと思った」などと理不尽な主張をされることもあります。
捨てられたり壊されたりした荷物を後から証明するのは、準備なしには困難です。このようなトラブルを防ぐため、別居前に以下の対策を行っておいてください。
- 事前に荷物の持ち出しを計画する
別居前に必要な荷物を準備してリスト化し、漏れなく持ち出すべきです。 - 残した荷物を記録する
持ち出せない荷物の中に大切なものがあるときは、写真や動画で詳細に記録してください。捨てられたり壊されたりしたとき、自分の財産が残置されていた証拠となります。 - 損害賠償を請求する
もし荷物を捨てられたり壊されたりしたことを証拠で証明できるなら、損害賠償を請求することができます。
これらの対策を講じることで、別居後のトラブルを最小限に抑えることができます。弁護士に相談しながら進めれば、なお安心です。
「モラハラやDVから逃げるための別居」の解説

まとめ

今回は、「別居後の自宅への立入り」について解説しました。
この問題は、別居して家を出た側はもちろん、残された側にとっても生活の安定に関わる重要な法律問題です。そのため、感情的な対立を招きやすく、解決が難しいケースも少なくありません。
重要なのは、「別居は離婚に向けた手段の一つに過ぎない」という優先順位を理解し、交渉を泥沼化し、感情的な対立を深める事態は避けることです。当事者間では紛糾しそうなときは、弁護士のサポートを求めるのも有効です。
別居後の自宅への立入りや荷物の扱いの問題は、誰にでも起こり得る身近な問題である一方、財産分与にも関わる重要な課題です。このような問題を円満に解決するためには、弁護士による専門的なアドバイスが不可欠です。お困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
- 別居後の無断立ち入りは、離婚協議の支障となるおそれがある
- 相手に会いたくないが荷物は取りたいなら、弁護士を通じて請求すべき
- 別居中に荷物を取りに行く、勝手に家に入る行為にはデメリットもある
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別居は、夫婦の関係に大きく影響するため、慎重に進めなければなりません。別居をする前に、法的な観点から将来の計画を立て、準備することが重要です。
別居を考えている方や、具体的な方法、手続きについて悩むときは、「別居」に関する解説を参考にしてください。