「別居後の自宅への立ち入り」と「別居後の荷物の引きとり」が問題となるケースがあります。
別居前の準備が十分ならよいですが、DV・モラハラから逃げて来たようなケースでは、大切な荷物を残したまま別居する方も少なくありません。別居後の荷物の不安について、当事務所にも相談が多く寄せられます。
強い覚悟で離婚前の別居をしても「自宅に少しだけ戻りたい」、「荷物をとりに帰りたい」という思いは誰しもあります。しかし、あなたが家を出る形で別居したとき、家にはまだ配偶者(パートナー)が住み続けています。「少しだけ」という気持ちでも、自宅に戻れば相手と鉢合わせる危険があります。
なお、まだ別居前で、これから別居するというタイミングの方は「別居する時の荷物の持ち出しについて」をご覧いただき、十分な準備をこころがけてください。
- 別居後の無断立ち入りは、離婚をスムーズに進まなくするおそれあり
- 別居後に自宅に立ち入らず荷物をとるには、弁護士を通じておこなうのがおすすめ
- 自宅に立ち入りたいとき、まずは離婚優先であることに注意する
なお、離婚前の別居にまつわる法律問題をくわしく知りたい方は、次のまとめ解説をご覧ください。
別居後に自宅へ無断で立ち入ることができるか
はじめに、別居後の自宅へ無断で立ち入ることについて、どのような法律上の問題点があるかを解説します。
「離婚に向けて別居をはじめる」というのですから、当然ながら夫婦関係はうまくいっていないことでしょう。そのため、別居のために話し合ったり、十分な準備時間を確保したりすることは難しいことが多いものです。
DVやモラハラの問題や、子どもへの虐待があるとき、急いで別居する必要があります。本来なら別居時にきちんと対策すべき荷物の問題について、検討が十分でないまま別居をはじめてしまった方もいます。夫婦関係が破綻の危機で、ましてや離婚協議や離婚調停をはじめてしまえば、自宅への立ち入りについて配偶者(パートナー)の許可をとることは困難です。
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別居した側は、別居後に無断で立ち入ってよい?
まず、別居した側の方に向けて、「別居後の自宅に無断で立ち入ってもよいのか」という問題を解説します。
家から出て行った側としては、取り急ぎ貴重品や着替えだけを持って出てしまっており、後から「生活必需品や身分証、思い出の品などの荷物を引きとるために、自宅に入りたい」と希望されることが多いです。「もともと自分の家だったのだから、自由に立ち入ってもよいはずではないか」という要求は理解できなくもありません。
しかし、別居後の無断立ち入りは、刑法に定められた犯罪(住居侵入罪、器物損壊罪、窃盗罪)にあたるおそれがあります。
- 住居侵入罪(刑法130条)
別居後、配偶者(パートナー)が単独で管理する自宅に無断で立ち入る行為は、住居侵入罪となるおそれあり - 器物損壊罪(刑法261条)
鍵をこわしたり窓を割ったりして立ち入る行為は、器物損壊罪にあたるおそれあり - 窃盗罪(刑法235条)
自分のものか相手のものか争いのある荷物を持ち出す行為は、窃盗罪にあたるおそれあり
夫婦間の窃盗については「親族相盗例」というルールがあり、刑事処罰は受けないこととなっています。
しかし、無断で立ち入り、許可を得ずに勝手に荷物を持ち出したことがあきらかに慣れば、感情的対立を悪化させ、離婚協議を長期化させてしまったり、配偶者(パートナー)から損害賠償請求を受けたりする原因となります。
別居された側は、別居後の無断立入りを拒否できる?
次に、別居された側の立場で、「別居後の自宅に勝手に立ち入られないよう、無断立ち入りを拒否してよいのかどうか」という問題を解説します。
さきほどとは逆に、別居されて自宅に残された側からすれば、「もう別居をはじめたのだから戻ってきてほしくない」、「勝手に出ていったのに虫のいい話だ」というお気持ちはよく理解できます。しかし、実際には共同生活の拠点となっていた自宅には、相手の荷物も多く置かれているはずです。そのため、一律に立ち入りを拒否することも問題のある対応です。
少なくとも、相手方である夫ないし妻のものであることが明らかな荷物の引きとりには協力しておいたほうがよいでしょう。
「追い出して別居をした」という事例で、追い出された配偶者(パートナー)に行き場がないようなときなど、別居を開始した経緯によっては、自宅への立ち入りを一律に拒否することが「悪意の遺棄」という法定離婚原因にあたり、責任追及をされるなど離婚協議に悪影響を及ぼすおそれもあります。
別居した理由が、出ていった相手のDV・モラハラや子どもへの虐待にあるとき、無断立ち入りを拒否することに正当な理由があります。自分の身を守るためにも、立ち入りを拒否すべきだからです。
ただし、このような例外的なケースでは、たとえ加害者側が家を出いったとしても、相手に知られている自宅にとどまり続けるのは危険です。加害者が別居したらすぐ自分も他の居場所を探して逃げることをおすすめします。
別居後、自宅に戻らず荷物を引きとる方法
別居後の無断立ち入りには問題が多いことを理解していただいたとして、それでもなお、別居後に自宅に残してきた荷物の引きとりが必要なケースがあります。
そこで、別居後の自宅に立ち入ることなく、荷物を引きとるのにどのような方法が適切か、5つに分けて解説します。
解決策は複数ありますが、ケースに応じた最適な方法を選ぶ必要があります。お困りのときは、自宅に無断で立ち入るという強硬策をとる前に、弁護士にご相談ください。
別居後、自宅へ立ち入るため交渉する
別居開始後に、無断で自宅に立ち入ることは適切な対応とはいえないと解説しました。そのため、まずは相手に対して、自宅へ立ち入ってよいかどうか交渉し、許可を求めるという対応がおすすめです。
このとき、別居をした側において重要なポイントは、別居された側の気持ちを理解し、「荷物の引きとり」という重要性の高い目的に限定して協力を求めることです。紛争の火種となりそうな事項については、自宅に立ち入る前にあらかじめ話し合いで決めておくことがおすすめです。
例えば、事前に話し合っておきたいのは次の点です。後からトラブルになるのを避けるため、対立が大きいときには、合意した内容を書面化してから立ち入りを進めるのがおすすめです。
- 自宅への立ち入りの日時・時間帯
感情的な反発をまねかないよう、余裕をもって設定する。
相手の同席を希望するときは夜間や土日など、仕事へ配慮し、逆に、鉢合わせを避けるときには平日の日中などに設定する - 立ち入りから搬出までの時間
必要性の高い荷物を引きとることに限定し、できるだけ短時間とする
特に、鉢合わせを避けるときには、相手が家を空けなければならない時間を短縮するよう心がける - 相手の同席の有無
持ち出す荷物について争いがあるとき、同席しておこなうことでトラブルを避けられる
DV・モラハラや虐待のあるケースでは、鉢合わせを避けるよう事前交渉が必要 - 持ち出して良い荷物
持ち出す必要性の高いものに限る
相手のものを持ち出すと、後からトラブルのもととなる
合意内容に違反して、持ち出すべきではない荷物を持ち出してしまったり、日時を勝手に変更してしまったりすることは、最低限の信頼関係すら喪失することとなり、今後の離婚に向けた話し合いの障害となるおそれがあります。
残してきた荷物を郵送で送ってもらう
どうしても顔をあわせたくないときや、自宅へ立ち入ってしまうと荷物の引きとり以外の不都合があるといったケースでは、残してきた荷物を郵送で送ってもらうという解決策をとることがあります。
例えば、DV・モラハラ、虐待が争点となるようなケースでは、(お互いの主張に争いがあるとしても)できる限り顔を合わせないほうが、無用なトラブルを回避できるメリットがあります。
なお、郵送代、宅配便の送料などをいずれが負担するかはケースバイケースです。経験上、自宅への立ち入りを強く拒むときには、拒んだ側がせめても送料の負担を申し出ることが多いです。ただ、いずれにせよ少額であり、離婚とお金の問題の他の争点からすれば些末な問題なので、あまり対立を激化させないことがおすすめです。
弁護士を通じて荷物を受けとる
離婚問題について弁護士を依頼しているときは、弁護士を通じて荷物の引きとりをおこなう方法が最適です。離婚原因に争いのあるケースなど、夫婦間では感情的になって円滑に進まないケースも、弁護士間であれば、すくなくとも荷物の引きとりについてはそれほどトラブルなく進められることが多いからです。
実務上、次の2つの方法が用いられます。
- 弁護士が、自宅への立ち入り、荷物の引きとりに立ち会う方法
- 弁護士の事務所へ荷物を送付してもらう方法
別居をされた側も、弁護士が責任をもつと確約することで、「勝手に自分の荷物も荒らされてしまうのではないか」、「荷物を引きとるついでに自宅に嫌がらせをされるのでは」といった不安をなくすことができます。
残してきた荷物を処分してもらう
別居した側にとって、残してきた荷物が不要なものばかりのときは、残してきた荷物を処分してもらうという解決策が適切です。
別居後に離婚協議を開始し、早期離婚を目指すケースでは、荷物トラブルを長引かせるよりも、離婚条件など重要な争点に注力するほうが有意義だからです。逆に、交渉材料として荷物トラブルが引き合いに出されるとしたら、その交渉を有利に進めることに固執するよりも、荷物は処分してもらい、離婚協議に注力するほうが良い解決といえます。
なお、荷物を処分するのに費用がかかるとき、いずれが負担するかの決まったルールはなく話し合いが必要です。ごく少額な処分費用であればどちらが負担してもよいでしょうが、粗大ごみなど処分費用が高額となるケースや、売却したら値がつく高価品の場合、次章で解説するように財産分与のなかで調整するのが実務的です。
金銭の授受によって解決する
夫婦が共同生活をしていた期間中に購入した動産は、財産分与の対象となる共有財産です。
そのため、交渉が決裂してどうしても自宅への立ち入り、荷物の引き取りが難しいときには、離婚条件の1つである財産分与のなかで、金銭的な調整をおこなうことで解決するケースもあります。
ただし、家具、家電などの購入額の大きいものも、中古で売却するとあまり値がつかないことも多いです。そのため、分与額への影響は小さいことも少なくありません。なお、別居時に持ち出した財産についても財産分与にて調整するのが実務です。
別居後に自宅に立ち入りたいときの注意点
最後に、別居後に自宅に立ち入りたいと考えたとき、検討しておいてほしい注意点について解説します。
あくまでも離婚が優先
別居後の無断立ち入りの目的は、荷物の引きとりにあることが多いですが、「重要なのは離婚ないし離婚条件であり、優先順位を誤らないようにしなければならない」というアドバイスをすることがよくあります。
たしかに、別居後でもこっそり自宅に立ち入れたり、いつでも荷物を引きとることができたりすれば、別居後の生活はとても快適になるのは理解できます。これに対して、従来の生活拠点に気軽に戻れないと、とても不便な思いをすることでしょう。
しかし、別居は、離婚という最終目的のための手段にすぎません。離婚したいという強い決意で別居をはじめ、有利な離婚条件を勝ちとりたいと考えるなら、離婚の話し合いに悪影響が出てしまうような無断立ち入りはひかえなければなりません。
最終的に、離婚条件のなかで決められる財産分与の決着がつけば、残してきた荷物の引きとりは些細な問題にすぎなかったというケースも多いものです。離婚の成立までには思いのほか長期間かかることもあるため、優先順位をあやまらず、離婚に向けて最短距離で進めていく必要があります。
別居後に引き取るべき荷物とは
別居後に自宅への立ち入りが許可されたときでも、引きとってよい荷物は、原則として自分の特有財産に限られます。
特有財産とは、夫婦になる前からあなたが所有していた財産と、夫婦になったあと自己名義で得た財産(贈与・相続など)のことです。その他、衣類や化粧品など、明らかにあなたしか利用できない物についても、引きとっても争いは起こりません。
これに対して、夫婦の共有財産まで引きとってしまうと、後に離婚条件として争われる財産分与の争いで、あなたにとって不利な主張をされるおそれがあります。夫婦の共同生活が長いとき、特有財産と共有財産が混ざり合い、どちらの所有なのかが争いとなるケースでは、「何を引きとってもよいのか」を事前に話し合い、決めておくのがおすすめです。当事者間では、議論が紛糾して解決が難しいとき、弁護士を代理人として相手と調整をしてもらうことができます。
なお、「別居時に持ち出してもよい荷物、持ち出してはいけない荷物」に関しては、下記の解説も参考にしてください。
残してきた荷物を捨てられたり、壊されたりしたときの対応
別居したことで監視の目を解かれ、相手方への恨みつらみから、残していった荷物を捨ててしまったり、壊してしまったりする人がいます。勝手に処分されたり破壊されたりしてしまったとき、荷物を残してきてしまったことが大きな争いの火種となります。残しておいた荷物が、特に大きな争いの火種となります。暴力をふるったりモラハラをしたりといった暴力的な人であるほど、残しておいた荷物は安全とはいえません。
しかし、残念ながら、どの荷物を捨てられたか、どの荷物を壊されたかを、事後的に証明することは相当難しいです。責任追及をしても「勝手に出て行ったほうが悪い」、「残していった荷物はいらないという意味だと思った」などと理不尽な反論をされてしまうこともあります。
このような問題を避けるためにも、別居のしばらく前からこっそりと準備を進め、万全の体制で別居をはじめるようにしてください。どうしても持ち出せず残していく荷物はすべて撮影しておき、もし捨てられたり壊されたりしたときには損害賠償を請求する準備をしておきましょう。
まとめ
今回は、別居後の夫婦からよく相談のある、別居後の自宅への立ち入りについて解説しました。この問題は、別居して家を出たがわはもちろん、別居をされて出ていかれた側の立場でも、生活の安定に関わる重要な法律問題です。そのため、感情的な対立をまねきやすく、解決がとても難しい問題です。
「別居は、離婚に向けた手段の1つに過ぎない」という優先順位をよく理解していただき、交渉を紛糾させて感情的対立を深めることは避けなければなりません。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題を数多く取扱い、別居前後の夫婦間の調整のタイミングから、幅広いサポートを提供しています。
別居後の自宅立ち入りや荷物の問題は、誰しもに起こりうる身近なものである反面、財産分与に直結する重要な問題でもあります。そのため、うまく解決するためには弁護士による専門的な判断が必要となります。お悩みの方はぜひ一度ご相談ください。
離婚前の別居によくある質問
- 別居後に、自宅へ無断で立ち入ることができますか?
-
別居後に自宅へ無断で立ち入ると、犯罪行為となってしまうケースもあるほか、そうでなくても離婚の話し合いがスムーズに進まなくなることがあるためおすすめできません。もっと詳しく知りたい方は「別居後に無断で自宅へ立ち入ることができるか」をご覧ください。
- 別居後に自宅へ立ち入りたいとき、検討すべきポイントはありますか?
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あくまで離婚を目的にするなら、別居はその手段です。自宅へ無断で立ち入ると離婚協議に悪影響が及ぶおそれもあることを理解し、荷物の引きとりなどは弁護士を通じて行う手がおすすめです。詳しく知りたい方は「別居後に自宅へ立ち入りたいとき注意すべきポイント」をご覧ください。