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離婚協議書で決めた条件を、離婚後に変更することができますか?

離婚の話し合いで、一度は合意し、離婚協議書を作った後であっても、決めた条件を変更したいと考えることがあります。

十分に時間をかけて考えたつもりでも、将来のさまざまなケースを想定しきれていなかったり、予想外の事情が発生してしまったりして、離婚協議書どおりに進めていくのが困難なこともあります。

一度離婚の合意をしてしまったとき、合意した内容を変更するのは原則として不可能です。あとでいくらでもやり直せるのでは、離婚問題を一回的に解決できず、離婚協議書の意味がなくなってしまうからです。離婚協議書では、後戻りできないことを示すために「清算条項」を記載しておくのが通常です。

ただし、例外的に、次の場合には離婚協議書を変更できるケースがあります。

今回の解説では、離婚協議書を事後的に変更するときの方法について、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。

まとめ 離婚協議書の書き方と、必ず記載すべき重要項目、作成方法【書式付】

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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原則として、離婚協議書は変更できない

喧嘩する男女

原則として、一旦合意した離婚協議書は、後から変更できません。いつでも変更ができてしまうとすれば、離婚協議による話し合いで離婚問題を終局的に解決することができなくなってしまいます。

話し合いの末、離婚届を提出すると、その時点から夫婦の関係は失われます。そのため、離婚時に決めておくべき次のような主要な問題については、離婚と同時に決めておき、離婚協議書に合意しておくことが通常です。

対立の深い離婚事件では、離婚時にしっかり話し合っておかなければ、離婚後は協議にすらまったく応じてもらえないおそれもあります。

離婚協議書を最終解決として、ここで定めた以外のことについては将来も請求しないことを示すために、離婚協議書に「一切の債権債務がない」ことを示す「清算条項」を記載するのが通常です。

ただし、親権・監護権については離婚時に必ず定めておかなければならないのに対して、それ以外の離婚条件は、必ずしも離婚時に決めなければならないわけではありません。

そのため、離婚時に決めなかった離婚条件については、離婚協議書を作成後(ないし離婚後)にあらためて請求できます。例えば、離婚後に慰謝料や財産分与を請求するケース、離婚後に面会交流を求めるケースといった例です。

例外的に離婚協議書を変更できるケース

OKを出す女性

以上の通り、原則として一旦合意した離婚協議書を変更することはできませんが、例外的に、離婚協議書を変更できるケースとして、次の3つがあります。

変更に相手が同意する場合

例外的に、離婚協議書を作成した後でも、それを変更することについて相手が同意しているときには、離婚協議書に記載された離婚条件について変更することができます。

将来の事情変更が問題となりやすいのが子どもの問題ですが、相手も子どもに対する愛情はあって、変更に同意してくれる可能性があります。そのため、特に子どもの問題について離婚協議書を変更したいと考えているときには、まずは「相手が変更に同意をしてくれないかどうか」を試すため、話し合ってみるのがおすすめです。

話し合いの結果、離婚協議書の変更に相手が同意するときは、当初の書面が無効であることを確認するとともに、あらたな合意を内容とする書面を作成しておくようにしてください。

意思表示に瑕疵があった場合

例外的に、離婚協議書における合意の意思表示に錯誤があったときには、その合意を取り消すことができます(民法95条)。また、合意を強制されてしまった場合には強迫(民法96条)、だまされて合意をしてしまった場合には詐欺(民法96条)を理由に、同様に合意を取り消すことができます。

意思表示に瑕疵があった場合
意思表示に瑕疵があった場合

裁判例(東京地裁平成28年6月21日判決)では、次のように判示して、不貞行為や不貞相手との子どもの存在などを隠して締結した清算条項つきの離婚協議書について、錯誤により無効(※2020年4月新民法施行により、現在は錯誤については「無効」ではなく「取消」となりました)と判断しました。

被告Y2が被告Y1との継続した不貞関係や婚外子の妊娠の事実を隠して、清算条項を含む本件協議離婚書を原告X1に示し署名させたことは、被告Y2が、慰謝料の支払いを免れて被告Y1との再婚を果たすためであったものと認められ、その清算条項は、原告X1の要素の錯誤により無効であるから、原告X1は、被告らに対し、不貞行為による慰謝料の請求ができるものとするのが相当である。

東京地裁平成28年6月21日判決

事情変更があった場合

例外的に、前提となる事情に大きな変更があったときは、離婚協議書に記載された離婚条件について変更することができます。ただし、些細な事情の変化ではなく、重要な事情について、離婚協議書の内容を変更する必要があるほどに大きな変化がなければなりません。

また、離婚協議の当初より話題になっていたような事情の変更は、離婚協議書に予定されていたと考えることができます。そのため、離婚協議書を変更するほどの事情変更とは、当初予測することができなかったようなものに限られます。

事情変更があった場合とは
事情変更があった場合とは

なお、もしも離婚協議書を作成するとき既に、将来的な事情変更が予想されているときには、そのような事情変更があったとき離婚条件をどのように変更するのか(もしくは変更しないのか)をあらかじめ話し合い、協議書に定めておくことがおすすめです。

離婚協議書を変更するときの方法【離婚条件別】

考える女性

次に、離婚後に変更がよく問題となる離婚条件ごとに、離婚協議書で定めたことを変更するときの方法について解説していきます。

特に、前章で解説した3パターンのうち、締結後に事情変更があったことを理由として離婚協議書を変更するときのポイントを中心に解説します。

子どもの親権・監護権の変更

未成年の子どもの親権・監護権については離婚時にかならず決めなければなりません。しかし、離婚協議書などで一度決めた子どもの親権・監護権についても、次のような事情変更があると変更を検討すべきです。

  • 親権者が病気や薬物中毒になり、育児が困難となってしまった
  • 親権者を援助してくれる予定だった親が亡くなってしまった
  • 親権者の仕事がなくなり、育児が困難となってしまった
  • 親権者が再婚したが、再婚者が子どもに悪影響を与える
  • 親権者が育児放棄・虐待をするようになった

子どもの問題は、子どもが幼ければ幼いほど、将来長期間にわたって続きますから、当初は予定していなかった事情変更が多く発生する可能性があります。

このとき、事情変更を理由として、親権者・監護権者の変更を申し立てることができます。この親権者・監護権者の変更の申立は、離婚時には離婚協議書で定めていたときにも、家庭裁判所に申し立て、調停で審理をしてもらう必要があり、元夫婦間の合意があっても勝手に親権者を変更することはできません。

家庭裁判所の心理では、子どもの福祉の観点から、親権者を変更すべきかが審理され、元夫婦の合意が困難なときには、審判に移行し、家庭裁判所の判断を得ることができます。

なお、親権者となった親に虐待などの問題があるときには、親権制限制度(親権喪失の審判・親権停止の審判)を活用して親権を失わせる方法も有効です。

ただし、親権者となった親が親権を失ったとしても、他方の親が自動的に親権を得られるわけではありません。

面会交流

面会交流は、親権を有しない親が子どもと交流する重要な権利です。

離婚時に面会交流について定めていないときはもちろん、一旦離婚協議書などで定めた後でも、事後的な事情の変更を理由に、より適切な方法、回数などを再度話し合いすることができます。話し合いで解決しないときは、調停を申し立てることができ、それでも合意できないときは家庭裁判所の審判によって決定してもらうことができます。

ただし、面会交流もまた、子どもの親権・監護権と同様、子どもの福祉の観点から決められるため、必ずしも親の希望が認められるとは限りません。

養育費の増減額請求

離婚協議書で一旦定めた養育費について、事後的な事情を理由として増減額を請求することができます。

養育費については、将来長期間にわたる問題のため、事情変更による増減額請求はよく行われています。そして、その方法は、養育費についての定めがないときと同様、まずは当事者間で話し合い、解決できないときは調停申し立てを行います。

調停で合意に達しないときには、審判に移行し、家庭裁判所の判断を受けることができます。このとき「養育費・婚姻費用算定表」を参考にしながら、一度取り決めた養育費があるときは、これを増減額するほどの事情の変更があるかどうかについて審理されます。

例えば、一度決めた養育費の増減額が問題となるのは次のケースです。

養育費の増額請求をするケース

  • 子どもの進学、留学などにより新たな出費が必要となった
  • 子どもが特別な病気にかかり、多額の医療費が必要となった

養育費の減額請求をするケース

  • 親権者が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組した
  • 親権者側の収入が大きく増額された
  • 非親権者側が仕事を退職することとなり収入が大きく減少した

離婚後の財産分与の請求

財産分与は、離婚時に取り決めておく例が多いですが、離婚後に決めることもできます。この場合、離婚後2年以内であれば財産分与を請求できる(民法768条2項但書)となっています。そのため、離婚協議書で財産分与を決めていなかったときは、離婚後2年以内に、財産分与調停を申し立てることで財産分与を請求できます。

これに対して、一旦財産分与についての取り決めをしていたときは、相手が離婚協議書に違反しても、財産分与をやり直すことはできません。相手が離婚協議書に従って支払いをしないとき、離婚協議書を公正証書化しているときには、強制執行(財産の差押え)することができます。

また、財産分与の合意について、前提となる財産の価値に錯誤がある場合や、意思表示に瑕疵のある場合には、その離婚協議書が無効となり、財産分与をやりなおすことを認めた裁判例があります。裁判例(東京地裁平成18年10月16日判決)では、財産分与の対象となる株式の価値に錯誤があるとして、財産分与に関する合意を無効と判断しました。

離婚後の慰謝料請求

不法行為の慰謝料請求の時効は「損害及び加害者を知った時から3年間」(民法724条1項)とされています。そのため、離婚にともなう慰謝料は、離婚時から3年以内であれば、離婚後であっても請求することができます。

離婚協議書で慰謝料を請求していない場合(清算条項も記載していない場合)には、離婚から3年以内であれば、その離婚原因となった不貞行為やDVなどについて慰謝料請求ができます。

不貞慰謝料の時効
不貞慰謝料の時効

また、離婚協議書で一定の慰謝料を受け取っていたり、「これ以上の請求をしない」という「清算条項」を記載していたときであっても、新たな不貞行為が発覚したり、新たに精神的苦痛を負ったりしたときには、その分の慰謝料請求を追加で行うことができます。

まとめ

今回は、離婚協議書によって一旦は合意した離婚条件について、事後的に変更できるかどうかを解説しました。

一旦合意した内容について事後的に変更はできないのが原則ですが、①変更に相手も同意する場合、②意思表示に瑕疵があった場合、③事情変更があった場合では、例外的に離婚協議書を変更することが認められる場合があります。

ただし、いずれの場合も相手にとって不利な離婚条件への変更となるとき、相手に反対されてしまえば再び調停手続きなどで争わなければなりません。離婚協議書の変更が認められるほどの大きな事情変更があったといえるかどうかについて、見通しを検討してから進めるのが有益です。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題について豊富な経験を有し、得意分野としております。

一旦は離婚に至った後でも、ご納得のいかない点がある方は、ぜひ一度ご相談ください。

離婚問題のよくある質問

離婚協議書で一度は決めた内容を、変更できる場合がありますか?

離婚協議書は、離婚問題の最終解決であり、後から変更できないのが原則ですが、相手が同意する場合、意思表示に瑕疵があった場合、事情変更があった場合には、例外的に変更できるケースがあります。もっと詳しく知りたい方は「例外的に離婚協議書を変更できるケース」をご覧ください。

子どもに関する事情が変わったので、離婚協議書を変更できますか?

子どもに関する離婚条件は、子どもが幼いほど将来の予測が困難で、変更の必要が出てくることがよくあります。そのため、親権・監護権や養育費など、子どもに関する問題については事情変更が認められやすくなっています。相手が話し合いに応じないとき、調停を申し立てることもできます。詳しくは離婚協議書を変更するときの方法【離婚条件別】」をご覧ください。

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