介護離婚とは、義理の両親の介護を理由として、夫婦が離婚してしまうことをいいます。長年、夫婦生活を続けた方の離婚(熟年離婚)によくありがちな離婚理由です。少子高齢化が進むにつれて、介護離婚はますます増加しています。
愛する夫(または妻)の大切な親とはいえ、介護の負担があまりに大きいと、その嫌気やストレスから、
- 「これ以上介護を続けなければならないなら、離婚せざるをえない」
- 「なぜ配偶者(パートナー)の思いやりがない」
などと介護離婚を決断する方も少なくありません。自分の両親の介護ですらとても重い負担になるところ、義理の両親の介護ともなればさらに大きなストレスです。そのため、義理の両親の介護は、夫婦を破綻させるには十分すぎる理由です。
今回は、介護離婚できるケース、できないケースと、実際の介護離婚の進め方について、離婚問題にくわしい弁護士が解説します(なお、夫側からみた「介護離婚」問題に関する解説も参照ください)。
- 義理の両親の介護が、法定離婚原因にあたるとき、介護離婚となる
- 義理の両親の介護の負担が重く、配偶者が協力してくれないとき、離婚を決断する理由となる
- 義理の両親を介護する義務はないが、同居していたり養子縁組していたりすると介護義務を負う
なお、その他の離婚原因によって離婚しようとするとき、次のまとめ解説もあわせてご覧ください。
まとめ 法定離婚原因とは丨相手が離婚を拒否しても裁判で離婚できる理由5つ
介護を理由に離婚することができるか
介護離婚とは、夫(または妻)の両親(義両親)の介護の負担を理由として起こる離婚のことです。少子高齢化により親の介護を担う人手が少なくなってしまい、介護離婚が増加しています。
介護離婚は、不貞行為やDV・モラハラのように夫婦仲が悪いときだけでなく、親の介護さえなければ問題なく円満な夫婦にも突如降りかかります。そのため、介護離婚は、長年連れ添った夫婦の熟年離婚で、よく離婚原因として争われます。
離婚は通常、まずは夫婦間の話し合い(離婚協議)によって合意が成立すれば協議離婚、協議離婚が成立しないときは、「離婚協議→離婚調停→離婚訴訟」の順で進めていきます。
そこではじめに、介護を理由に離婚できるケースと、介護を理由としては離婚できないケースについて弁護士が解説します。
介護離婚できるケース
まず、前述のとおり、離婚協議、離婚調停の中で、夫婦双方が離婚することとその離婚条件について合意しているとき、介護離婚することができます。相手に理解してもらえるように、介護の負担がいかに大きいか主張することが、介護離婚しやすい話し合いにつながります。
夫婦間で離婚とその離婚条件について合意ができれば、どのようなケースでも離婚できますが、夫(または妻)が離婚を拒否していたり復縁を求めていたりするときには、離婚裁判まで争いがもつれることがあります。離婚裁判では、民法に定める法定離婚原因(民法770条1項)がなければ、離婚することができません。
民法770条1項
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
義理の両親の介護の負担は、上記のうち「その他婚姻を継続し難い重大な事由」にあたる可能性があります。この事由にあたるためには相応の重大性が必要となることから、介護の負担が大きいことや、これに対して夫(または妻)の感謝や協力がないことを主張するのが有効です。
義理の両親の介護の負担だけでなく、不貞行為やDVなどの離婚理由があるときには、あわせて主張することで離婚を認めてもらいやすくなります。
介護離婚できないケース
以上の裏返しとして、一方の配偶者が離婚を拒否しており、かつ、法定離婚原因(民法770条1項)が認められないときは、介護の負担を理由としても離婚することができません。
例えば、介護の負担がそれほど大きくなく、道義的に介護に協力すべき程度のものであるとか、夫婦関係が円満で、協力して乗り切るべきケースだと評価されると、義理の両親の介護負担だけを理由に離婚を認めてもらえないおそれがあります。
また、義理の両親の介護には相当な負担があるものの、妻(または夫)の側も不倫をしていたなど、破綻に責任がある「有責配偶者」であるとき、離婚裁判でも離婚を認めてもらうことができません。
介護離婚してしまう原因・理由
次に、介護離婚してしまう原因・理由について、よくあるケースに即して解説します。
義両親の介護は、心身にとても大きな負担となりますが、夫婦が円満であれば協力して乗り切ることのできた例も多いです。そのため、介護離婚してしまった夫婦には、介護だけにとどまらない多くの問題点があり、これらが介護離婚の原因・理由となっていると予想されます。
夫(または妻)が介護に非協力的
介護離婚となる原因・理由で最も多いのが、夫(または妻)が介護に非協力的な態度をとっていることです。介護を含めた家事の分担を夫婦間でうまくできればよいですが、夫が仕事優先で、自分の親の介護を妻に丸投げしてしまっているときには、介護離婚の危機が近づいています。
義理の両親だからといって妻が介護する義務はなく、夫への愛情や親切心から献身的に介護しているのでしょう。それにもかかわらず、夫がまったく理解せず感謝もしてくれないと、「もう夫婦としてやっていけない」と感じることでしょう。
感謝・配慮がない
義両親の介護について、配偶者(パートナー)が一言でも感謝のことばをかけてくれたり、せめて愚痴を聞いてくれたりすれば、介護を頑張ろうという気持ちもわくのでしょうが、感謝・配慮がないことが理由で、介護離婚を考える方が多いです。
「仕事で疲れたから」、「忙しいから」と介護を妻に丸投げし、突き放すような夫の態度は、介護を頑張る気力を奪い、介護離婚につながる大きな原因となります。「介護をするのが当たり前だ」という態度でいては、介護離婚はもはや寸前だといってよいでしょう。
親族の協力がない
夫(または妻)に兄弟姉妹がいるとき、また、さらにその配偶者がいるとき、親の介護の負担はみんなで少しずつ協力していくべきです。しかし、例えば「長男の嫁だから」といった理由で、介護の負担があなた一人に押し付けられてしまうとき、介護離婚したいという気持ちになることでしょう。
義兄弟姉妹との関係性があまりよくなかったり、「夫が長男だから」という古い考えで介護負担をあなたに押し付けてきたりするとき、介護離婚の原因として十分な理由となります。
仕事を辞めざるをえなくなる
介護の負担が大きいとき、あなたが一人で介護しなければならないとすると、日中も仕事に出ることはできなくなります。そのため、義両親の介護をするために仕事を辞めざるをえなくなってしまいます。
このように介護を理由に生活を一変させなければならないことは大きなストレスとなります。また、日中一人で介護だけしなければならないと、孤独感が増し、仕事に打ち込むことも趣味でストレス発散することもできなくなります。「誰も共感してくれない」という気持ちから、介護離婚に向かう理由となります。
そもそも義理の両親と仲がよくなかった
元気だったときから義理の両親とそれほど仲が良くなかったときや、嫁いびりがひどいなど嫁姑問題があったとき、介護が必要となると、ますます嫌気がさすのは当然です。元気なころから、義両親の「顔を見るのも嫌だ」という人もいます。
介護は心身ともに大きく疲弊させるため、自分の両親に対する愛情をもってしても乗り切るのは相当困難です。ましてや、恩義も情もなく、むしろ不仲であった人の介護を無償で続けることはとても大きなストレスとなり、介護離婚の原因となります。
そもそも夫(または妻)と破綻寸前
介護離婚の中には、最終的なきっかけは義両親の介護でありながら、実際には、もはやその前から夫婦仲が破綻寸前であったケースも多くあります。夫婦が円満であれば、介護の負担を協力して乗り切ることもできるでしょうが、夫婦仲が悪いとき、親の介護がさらにそれに拍車をかけます。
妻が義両親の介護を頑張っている最中なのに、夫の不倫・浮気が発覚したとか、感謝の言葉がないだけでなく暴言をあびせたりDV・モラハラが行われたりといった家庭では、介護の問題だけでなくさまざまな理由が重なって離婚に至ります。
義理の両親を介護する義務があるのか
義理の両親の介護を押し付けられ、介護離婚せざるをえない状況の方に知っておいてほしいのは、「法的には、妻が夫の両親の介護をしなければならない義務はないのが原則」という点です。このことは、「長男の嫁」のケースや、他に兄弟姉妹のいないケースでもあてはまります。
ただし、例外的に、介護が義務となるため注意が必要です。
以下では、義理の両親に対する介護義務があるケース、介護義務がないケースについて解説します。
原則:義理の両親の介護義務はない
まず、原則として、義理の両親を介護する義務はありません。つまり夫の親だからといって妻が面倒を見なければならないわけではありません。
民法は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」(民法877条1項)と定めています。そのため、夫の親の面倒は夫が見るべきであり、妻も扶養義務を負うとはされていません。そのため、妻からみて「直系血族」にはあたらない夫の両親については扶養義務がなく、介護をする義務は生じません。
介護をする義務がないわけですから、道義的にはともかく法的には介護を拒否してよく、「これ以上介護のストレスには耐えられない」ときちんと自分の意見を伝えることによって介護離婚を避けられることもあります。
例外的に介護する義務を負うケース
原則として、妻は夫の両親を介護する義務を負いませんが、例外的に、介護する義務を負うケースが3つあるため、注意が必要です。
以下のケースでは例外的に、義理の両親の介護すべき義務を負うことがあります。
そのため、介護義務を果たさないときにはその責任が生じるおそれがあり、「介護しないこと」を理由に離婚したとき、夫婦の破綻についての責任を負い、慰謝料を請求されてしまったり、介護をせずに放置して死なせてしまったなど義務違反の程度が著しいときは保護責任者遺棄(致死)罪(刑法219条、205条)にあたることがあります。
義理の両親と同居しているケース
民法は「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」(民法730条)と定めており、義理の両親と同居しているときには、法的にも介護をしなければなりません。
義理の両親と養子縁組したケース
妻が、夫の両親と養子縁組しているなどの事例では、養子縁組によって直系血族の関係になるため、義理の両親との間でも扶養義務を負います。
家庭裁判所が「特別な事情」を認めたケース
家庭裁判所は、特別の事情があるときは、3親等内の親族間に扶養義務を負わせることができます(民法877条2項)。ただし、この例外的な義務を負うケースでは、家庭裁判所の審判が必要であり、相当な経済的対価を得ていた事例や、高度の道義的恩恵を受けていた事例など、限られた例でしか認められていません。
介護離婚の事前準備と、介護離婚を進める方法
前章で解説したとおり、原則として妻に夫の親の介護をしなければならない義務はなく、介護のすべてを押し付けられて我慢の限界がきたときは介護離婚によって逃げてしまうことを検討しましょう。
ただし、その場合にも、介護離婚で損をしないために事前準備が欠かせません。事前準備にはある程度の期間がかかるものもあるため、我慢が限界に達する前に弁護士に相談するなどして、少しずつ準備を進めるのがおすすめです。
介護離婚の決断をしたとき、介護離婚前にしておきたい事前準備と、介護離婚の方法について、弁護士が解説します。
介護離婚を回避する努力をする
まず、あなたの介護の負担が相当大きいことを夫(または妻)に伝え、協力を求めるようにしてください。あわせて、介護負担を押し付けてくる義理の兄弟姉妹との協議もお願いしておきます。
これまでも十分伝えてきたつもりでしょうが、介護離婚の寸前であれば、最後にもう一度話し合いをしておきましょう。あわせて、義理の両親を介護施設に入れたり、デイサービスや出張ヘルパーなどの介護サービスを利用したりして負担を軽減できないか夫婦で検討してください。
あなたが限界であることを伝えることで、家族や親族が協力的になり、介護離婚が回避できることもあります。
介護離婚する前に、あなたが離婚回避の努力をしているにもかかわらず、誠意をもって話し合いをせず、非協力的、無関心な態度をつらぬくときには、その分だけ裁判所でも相手の責任を認められやすく、介護離婚を認めてもらいやすくなります。
別居する
介護がつらく離婚せざるをえないけれども「辛い状況をなんとか夫に理解してほしい」、「感謝の一言でもあれば続けられるのに」というとき、ひとまず別居し、夫からも義理の両親の介護からも距離を置く方法があります。
別居をすればひとまずあなたが介護をする状況はなくなるため心身の疲弊から解放されることができます。一方で、残された夫にとって、あなたの介護の大切さが身にしみて理解でき、改善を促すことができる場合があります。
証拠を収集する
以上の努力にもかかわらず、誰もあなたに配慮してくれず、介護離婚やむなしという状況になったら、介護離婚時にできるだけ夫(または妻)の破綻への責任を認めてもらいやすくするために、客観的な証拠を収集する努力をしておきます。
例えば、介護離婚せざるをえないほどに介護の負担が重いとき、どのような介護をしてきたかという点や、配偶者(パートナー)がいかに非協力的であり、心無い言葉をあびせてきたか(録音・録画など)といったことを示す証拠を集めておくとよいでしょう。
離婚後の生活設計を考える
介護離婚を決断したら、離婚後の金銭面についての計画を立てておくようにしてください。介護を押し付けられていた妻のケースでは、介護に専念するため仕事をやめて専業主婦となっていることが多く、離婚時にもらうべきお金をしっかり請求して置かなければ、離婚後の経済的自立が難しくなってしまいます。
夫婦であった期間が長い熟年離婚ほど、財産分与の対象となる財産(共有財産)が多く積み上がっており、財産分与として請求できる金額が高額化する傾向にあります。夫婦であった期間が長いほど、離婚にあたっては清算しなければならない問題が多く、離婚トラブルは深刻になりがちです。
また、介護について非協力的な態度をとってあなたを苦しめ続けたとき、その精神的苦痛については慰謝料を請求すべきです。介護を押し付けられる一方、家庭をかえりいず感謝の気持ちもない夫に対しては、モラハラなどを理由に慰謝料請求をしておくことを検討してください。
専業主婦である期間が長いときには、夫の厚生年金加入歴を分割してもらう年金分割も忘れず決めておいてください。
弁護士に相談する
介護のストレスに我慢の限界を迎える前に、早めに弁護士に法律相談しておくことがおすすめです。
我慢の限界を超えると、介護していた義理の両親を虐待してしまったり、あなた自身がうつ病などの精神疾患にかかってしまったりといった取り返しのつかない状況になってしまうおそれもあります。
介護の負担を理由に離婚せざるをえないときでも、夫(または妻)が離婚に同意せず、離婚を拒否してくるときは、離婚協議・離婚調停・離婚訴訟の流れで進め、最終的には裁判所で離婚を認めてもらわなければなりません。このような複雑な離婚問題には、弁護士による法的サポートが有効です。
まとめ
今回は、少子高齢化にともなって増加する熟年離婚で、よく離婚原因となる「介護離婚」について、その原因・理由、対策や、介護離婚のときに注意すべきポイントについて弁護士が解説しました(なお、夫側からみた「介護離婚」問題に関する解説も参照ください)。
介護離婚しそうでも、夫(または妻)や親族の協力、介護サービスの利用といった方法である程度は回避できます。しかし、夫(または妻)に思いやりがなかったり、介護をあなた一人に任せきりにしたりするとき、心身の負担は相当強く、介護離婚せざるをえなくなってしまうことが残念ながらあります。
長年連れ添った仲の良い夫婦でも、義両親の介護問題によって突然破綻してしまうことも少なくありません。配偶者の協力が得られず、介護離婚せざるをえないと決断するとき、離婚に関する法律知識を理解し、損しないようにしなければなりません。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題について多くのお悩みをお聞きしており、介護離婚にまつわる複雑なトラブルについても解決した経験があります。
特に、夫婦であった期間が長いほど、財産分与や慰謝料などの「離婚とお金」の問題は高額化することが予想されます。ぜひ一度当事務所にご相談ください。
離婚問題のよくある質問
- 介護離婚とはどのようなものですか?
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介護離婚は、夫(または妻)の両親、つまり、自分にとって義理の両親にあたる人の介護の負担が理由で、夫婦が離婚してしまうことです。少子高齢化が進むにつれ、介護の負担はますます大きくなっており、介護離婚の起こりやすい状況にあります。もっと詳しく知りたい方は「介護離婚してしまう原因・理由」をご覧ください。
- 介護離婚するときは、どんな手順で進めたらよいですか?
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介護離婚をするとき、まずは離婚以外に選択肢がないか、夫婦間で話し合ってみてください。配偶者が、介護に非協力的だったり、大変さを理解してもらえなかったりするとき、離婚しか考えられないときには、離婚調停を申し立てて争います。詳しくは「介護離婚の事前準備と、介護離婚を進める方法」をご覧ください。