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親との同居や介護を拒む相手と離婚することはできますか?

少子高齢化の進行に伴い、介護離婚が増加しています。介護による心身の疲弊は大きく、「離婚してこの状況から逃がれたい」と感じる人も少なくありません。

一方で、高齢の親の介護は、誰かが負担せざるを得ないのが現実です。夫が仕事中心の生活を送っていると、介護との両立は難しく、妻に協力を求めざるを得ない状況に陥りがちです。その結果、義理の両親との同居を妻にお願いするケースも少なくありません。しかし、妻にとっては大きな負担となることが多く、「義両親との同居は嫌だ」と拒否されることもあります。そして、これを機に夫婦間の関係が悪化する例も珍しくありません。

今回は、妻が同居や介護に協力しない場合に、「親の介護に非協力的であること」を理由に離婚が認められるか、その責任がどちらにあるのかについて、弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 夫婦だからといって相手の親を介護する義務はない
  • 夫婦には同居義務や相互扶助義務があるため、正当な理由なく別居はできない
  • 義両親の介護や同居の拒否は、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し得る

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

豊富な知識・経験に基づき、戦略的なリーガルサービスを提供するため、専門分野の異なる弁護士がチームを組んで対応できるのが当事務所の強みです。

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義理の親との同居や介護を強制することはできない

はじめに、たとえ夫婦といえど、義理の両親との同居や介護を強制することはできないという原則について解説します。

親との同居や介護の義務はない

たとえ夫の親が介護を必要としている状況でも、その介護を妻に対して強制することはできません。これは、扶養義務は直系血族と兄弟姉妹に限られており、妻には及ばないからです(民法877条1項)。同様に、義理の両親との同居を妻に強要することも認められません。

仮に義理の両親と同居すれば、夫が仕事、妻が家事を担当する家庭では、妻が義両親の介護を担わざるを得なくなり、日常生活の世話をすることとなる可能性が高いです。しかし、介護を丸任せにされては、妻も逃げ場がなく、自分の時間が完全に失われてしまいます。その結果、夫婦関係が破綻してしまうことも容易に想像できます。

更に、妻側にも高齢の両親がいて介護を要する場合や、妻もまた仕事をしている場合など、妻にとっても夫の両親の介護に専念できない理由があるケースもあります。

介護離婚の方法と慰謝料請求」の解説

夫婦の話し合いで解決すべき

妻には、夫の親との同居や介護の義務はなく、強制はできません。したがって、親の介護を誰が行うか、義理の両親と同居するかどうかといった問題は、夫婦間の話し合いで決めるべきです。介護を強制するのではなく、妻の協力を取り付けられるようお願いし、話し合うことが大切です。

親の介護の問題について、話し合いを円滑に進めるには、夫側の協力や努力、感謝の姿勢も必要となります(「妻に親との同居や介護を受け入れてもらうための対策」参照)。

夫婦には相互扶助の義務があるので、「親の介護」という家庭の問題も、夫婦で協力して解決する努力が必要です。親の介護を妻に一方的に押し付けるのではなく、互いに協力して乗り越える姿勢を見せることで、介護離婚を回避するよう努めましょう。

離婚までの流れ」の解説

義理の親との同居や介護を拒否する妻と離婚できるか

喧嘩する男女

少子高齢化が進み、介護を担う人手が不足するにつれて、両親との同居や介護をきっかけに夫婦が離婚する、いわゆる「介護離婚」が増えています。しかし、相手が離婚に同意しない場合、離婚を成立させるのは容易ではありません。

原則:同居や介護の拒否を理由に離婚することはできない

義理の親との同居や介護を拒否したことを理由に離婚することはできないのが原則です。

法律上、同居や介護が妻の義務とはいえない以上、これを行わなくても裁判所が離婚を認めてくれる理由(法定離婚事由)には該当しないと考えられるからです。

例外:同居や介護の拒否を理由に離婚できるケース

一方で、介護が必要な親を放ってはおけません。そのため、介護の負担と夫婦生活を両立するのがどうしても難しいときは、夫婦関係を維持することができず、離婚を検討せざるを得ません。

離婚は、夫婦の話し合い(協議)で合意に達すれば、理由を問わず成立します。しかし、協議で解決できないとき、離婚調停、離婚裁判(離婚訴訟)に進みます。裁判による離婚は、配偶者の同意がなくても、民法770条の定める法定離婚事由に該当すれば離婚が認められる可能性があります。介護離婚の場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」(同条5号)を主張することになります。

民法770条(裁判上の離婚)

1. 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2. 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

民法(e-Gov法令検索)

しかし、「婚姻を継続し難い重大な事由」と認められるには、相当に重大な問題である必要があります。義理の両親との同居や介護が配偶者の義務ではない以上、裁判所に離婚を認めてもらうには、同居や介護を拒否したことについて妻側に問題があることを証明する必要があります。同居や介護をしない妻の責任を明らかにして離婚するには、夫が可能な限り協力し、妻の負担を減らすなどの配慮をしていることが重要です。

法定離婚事由」の解説

夫婦の同居義務について

義理の親との同居や介護についてのトラブルが原因で、妻が実家に戻り、その後も帰宅しないケースがしばしば見られます。この場合、夫婦間で「同居義務違反」の問題が生じます。

民法752条は、夫婦には同居する義務があり、相互に扶助し合う義務があると定めています。また、この同居義務や相互扶助義務に違反する行為が著しいときは、悪意の遺棄という離婚原因に該当します(民法770条1項2号)。妻には夫の親と同居する義務まではありませんが、それでも夫婦である以上、同じ住居での共同生活や互いの助け合いが基本とされるからです。

そのため、妻が実家へ帰り、その後も戻ってこないとすれば、妻側に同居義務違反があるとみなされる可能性があります(ただし、夫が困窮していたり、健康上の理由で生活が成り立たなかったりといった場合でない限り、直ちに「悪意の遺棄」にはなりません)。

一方で、妻が同居しないことに正当な理由があるときは、同居義務違反には該当しません。例えば、次のケースです。

  • 夫が妻に、親の介護を一方的に押し付けた場合
  • 義理の親との同居を相談なく進めた場合

このような状況だと、嫌気がさして家を出ていった妻の行為を責めることはできません。執拗に責めたり暴言を吐いたりすると、DV・モラハラ気質な夫であると評価されるリスクもあります。

親との同居や介護の問題がきっかけで妻が家を出ていった場合こそ、感情的にならず、冷静に対応することが必要です。夫婦関係を修復したいなら、妻の気持ちや事情を理解しようと努め、互いの意見を尊重しながら協力していく姿勢が欠かせません。

妻に戻ってきてもらう方法」の解説

妻に親との同居や介護を受け入れてもらうための対策

積み木

最後に、妻に義理の親との同居や介護を受け入れてもらうために、夫として行うべき対策について解説します。どうしても親との同居や介護をせざるを得ないとき、妻の理解と協力を得やすくするには、夫としてできるかぎりの努力を重ねることが重要です。

義理の親と同居を試みた夫婦が、全て離婚しているわけではありません。夫婦が協力して円満に乗り越える方法もあるので、じっくりと話し合うようにしてください。

夫自身も介護に積極的に協力する

夫が介護に協力し、妻に「自分だけが負担している」と感じさせないことが重要です。

夫が仕事を言い訳にして自分の親の介護から逃げていると、妻の不満が蓄積し、離婚の原因になってしまいます。これは、たとえ専業主婦だとしても同じことです。平日の日中は仕事で難しい場合でも、夜間や週末には介護に参加するなど、夫側もできる範囲で協力する姿勢を示しましょう。

家事や育児を分担して妻の負担を軽減する

介護に加えて、日常生活の家事や育児も全て妻が行うのでは、過重な負担となります。

共同生活をする際、家庭で必要なことは、介護以外にも多くあります。夫が家事や育児を積極的に分担すれば、妻が介護に専念しやすい環境を整えることができます。例えば、掃除や食事の準備、子供の送り迎えなど、夫のできることは積極的に手伝った方がよいでしょう。

感謝の気持ちを伝える

妻の協力を「当然のこと」とは思わず、常に感謝の気持ちを忘れないようにしてください。そして、感謝の気持ちは、日々の言葉でしっかりと伝える配慮が大切です。

介護を引き受けてくれる妻に対して「ありがとう」と感謝を表すだけでも、妻の気持ちには大きな違いがあります。夫婦関係が良好であれば、介護が多少大変でも「協力して乗り越えていこう」という気持ちを保つことができます。

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親族にも協力を求める

「長男の嫁だから介護するのが当たり前」といった固定観念を持つ親族がいると、その発言が妻を傷つけ、更に負担を重くしてしまいます。介護の心労に加え、夫の親族からの心無い発言にプレッシャーを受け続けると、「介護から解放されたい」という気持ちから離婚を決断する人もいます。

兄弟姉妹や親族にも、親の介護について協力を求めると共に、妻に心無い言葉をかける親族がいるときは、夫が盾になって妻を守る姿勢を示すことが不可欠です。

介護施設や介護サービスの利用を検討する

親の介護負担を軽減するために、介護施設への入所や訪問介護、デイサービスといった外部のサービスを利用することも検討してください。一定の費用負担が発生しますが、妻に過度な負担を強いて、無償も奉仕を求めると、夫婦関係を悪化させてしまいます。

バリアフリー化や二世帯住宅とすることも、妻の負担を軽減し、義理の両親との同居や介護を承諾してもらいやすくなる方法の一つです。

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まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、夫の立場から「妻が親の介護に協力してくれないことを理由に離婚できるか」という問題について解説しました。

法律上、妻には夫の親を介護する義務はありません。同居や介護を拒否したからといって、それだけを理由に離婚することは、相手が同意しない限りなかなか難しいです。ただし、妻の同居や介護拒否に重大な問題がある場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当するとして、裁判で離婚が認められる可能性があります。

介護をめぐる離婚問題は、年齢を重ね、親の介護が必要となる年代になってはじめて起こる問題なので、特に「熟年離婚」で顕在化します。長年連れ添った夫婦でも、親の介護をきっかけに関係が悪化し、不仲に陥るケースも珍しくありません。

この解説のポイント
  • 夫婦だからといって相手の親を介護する義務はない
  • 夫婦には同居義務や相互扶助義務があるため、正当な理由なく別居はできない
  • 義両親の介護や同居の拒否は、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し得る

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参考解説

離婚問題を迅速に解決するには、離婚理由(離婚原因)についての知識が重要です。裁判では不貞やDV、悪意の遺棄などの一定の事情がなければ離婚が認められないところ、交渉や協議でもこれらの事情が重視されます。

「離婚理由」の詳しい解説を理解し、戦略的に進める参考にしてください。

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