義理の両親からの離婚強要は、よくある親族トラブルの一つです。
配偶者の親族との関係が良好でないと、舅(しゅうと)や姑(しゅうとめ)に圧力をかけられ、離婚を迫られることがあります。例えば、妻側が夫の両親から離婚を求められるケースや、逆に夫側も妻の両親から離婚を迫られるケースがあります。
離婚強要の理由によくあるのは、次の例です。
【相談例(妻側)】
- 「家事をしないダメな妻は息子と離婚してほしい」
- 「育児放棄で子供がかわいそうだから早く別れてほしい」
- 「礼儀やマナーがなっていないから家に入らないでほしい」
【相談例(夫側)】
- 「DV・モラハラ夫に娘を任せられない」
- 「不倫をする夫とは早く別れてほしい」
義理の両親が離婚を強要する理由は様々ですが、妻側では家事や育児の問題、夫側では不倫・浮気やDV・モラハラが原因として責められる例が多いです。夫婦の問題はあくまで当事者間で解決すべきです。夫婦喧嘩しても、話し合いや歩み寄りで解決できるのが理想ですが、義理の両親が介入すると、親族との不和が離婚の大きな引き金になってしまいます。
今回は、義理の両親とうまくいかないと感じる方に向けて、離婚強要を受けたときの対応方法について弁護士が解説します。
- 親は子供の味方なので、離婚理由がなくても義両親から強要されることがある
- 義理の両親から離婚を強要されたら、まずは別居して様子を見る
- 配偶者(夫または妻)が味方になって守ってくれないなら離婚も視野に入れる
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義理の両親からの離婚強要の問題点
義理の両親からの離婚強要には、例えば次のようなものがあります。
【妻側の場合】
妻側の立場では「嫁姑問題」や夫のマザコン傾向が問題となるケースがよく見られます。例えば、以下の状況が挙げられます。
- 夫の両親から「家事のできないダメ嫁」と批判され、離婚を迫られる
- 「あなたが息子を苦しめている。本人も離婚を希望している」と責められる
- 同居する義両親から、夫のいない間に嫌がらせを受けてうつ病になった
- 義理の両親が夫に対して、妻の悪口を繰り返し吹き込む
【夫側の場合】
夫側の立場では、DVやモラハラの冤罪を伴うケースもあります
- 妻の両親から「君には娘を任せられない」と告げられた
- モラハラ夫は離婚するようにと強く指摘される
- 妻が実家に帰り、迎えに行っても義両親が会わせてくれない
夫側であれ妻側であれ、義理の両親をはじめとした親族との関係を良好に保たなければ、夫婦関係に悪影響を及ぼします。親族からの干渉がエスカレートすると、最終的には離婚に至るリスクも高まってしまいます。
義理の両親からの離婚強要や親族との不和が、離婚の原因となるケースには、以下の3つの共通した問題点があります。
親は子供の味方をしがち
問題点の1つ目は、親がどのような状況でも子供の味方をする傾向にあることです。
夫婦の共同生活は、お互いに我慢や譲り合いが必要です。互いの言動についても、理解と我慢をしながら、受け入れる努力をするものです。しかし、義理の両親の中には、夫婦間の調整が目に入らず、自分の子供を中心に物事を考えてしまう人もいます。
「親は子供の味方」です。親の視点では、自分の子供がした悪いことを深く受け止めるのは難しく、自分の子供を不幸に追いやりそうな配偶者の言動には過剰に反応しがちです。その結果、夫の両親は妻を攻撃し、妻の両親は夫を責め立て、離婚強要につながってしまいます。
「法定離婚事由」の解説
コミュニケーションが十分でない
問題点の2つ目は、義理の両親をはじめ、親族とのコミュニケーションが十分でないことが多いという点です。
結婚前に両家の顔合わせなどを行ったとしても、結婚後の交流が希薄になることがあります。義両親と同居しておらず、義実家が遠方だと、年に何度も訪問できず、年末年始・お盆の挨拶程度の疎遠な関係になりがちです。日常的なコミュニケーションがない状況が行き違いを生み、離婚強要の原因となります。
義理の両親が、夫婦の生活を遠巻きにしか見られない場合、夫婦間では話し合って決着の付いた問題も、義両親にとっては大きな課題のように見えてしまいます。その結果、誤解が生じて、相手(夫または妻)の批判に繋がるのです。
配偶者が助けてくれない
問題点の3つ目は、自分の配偶者が、義理の両親とのトラブルを仲裁しなかったり、味方になってサポートしてくれなかったりすることです。
義両親が離婚を強要してくるとき、配偶者が盾になって守ってくれればよいですが、そうでない家庭もあります。配偶者が積極的に関与せず、むしろ親の意見に同調してしまうケースすらあります。配偶者に不倫や浮気、DV・モラハラなどのやましい点があると、その傾向は強まります。
例えば、妻側の家事や育児が問題視される場合や、夫側で不倫やDVが疑われる場合、自分の問題点は「棚上げ」しておきたいと思うのが当然の心理です。更に、親が自分の味方をしてくれる状況では、自身の欠点についてあえて親に言い出しづらいことは少なくありません。
義理の両親から離婚強要を受けたときの対処法
次に、義理の両親から離婚強要を受けたときの対処法について解説します。
義理の両親から離婚を強要されたり、暴言や嫌がらせを受けたりした場合、我慢し続けると精神的なダメージが蓄積されてしまいます。
義両親の言動に問題があるのに味方をしてくれない配偶者は、自身も家庭内でモラハラやDVといった行動を取る傾向にあります。このような環境に耐え続けると、うつ病や適応障害、パニック傷害などの精神疾患となり、ますます生活に支障が生じてしまいます。
義理の両親と別居している場合
義理の両親と別居している場合、離婚強要や嫌がらせの原因の多くはコミュニケーション不足にあります。今後も夫婦生活を続けるなら、義両親との関係は少しでも良好な方がよいでしょう。そのため、まずはしっかりと話し合いの機会を持つべきです。配偶者が問題を理解していて協力的なら、一緒に説明をするのも良い方法です。
ただし、夫婦関係も悪化しており、離婚を前提に進める場合には、義理の両親からの離婚強要や嫌がらせは無視しておくべきです。離婚するかどうかは当事者の気持ちの問題です。どのような条件で離婚をするか、離婚の原因がどちらにあるかといった点も、第三者である義両親の意見に従う必要は全くありません。
「離婚までの流れ」の解説
義理の両親と同居中のときは別居を検討する
同居中の義理の両親から離婚強要や嫌がらせを受けると、日常的なストレスが大きくなります。同居していると接触頻度が高くなるため、感情的な対立が生じやすく、トラブルも起きがちです。
義理の両親側からしても、同居していると「家事や育児をしない」「モラハラ・DV」といった夫婦間の問題が大げさに見えて、強く責めてしまうことがあります。中には、夫の親と同居していて、夫が仕事で家にいない日中に嫌がらせを繰り返されている妻もいます。
同居中の義両親とのトラブルが深刻化したら、別居を検討するのが適切です。一時的に距離を置くことで、状況を冷静に見直すことが可能だからです。これは離婚を決断した場合だけでなく、円満な復縁を目指す上でも有効な手段となります。
配偶者の助けが得られない場合
義理の両親からの離婚強要を受けたとき、配偶者の助けが得られないことは、妻側でも夫側でも深刻な問題です。次のような相談も多く寄せられています
- 夫側の相談例
妻が義理の実家からの影響を強く受けており、両親の言うなりになっている - 妻側の相談例
夫が義理の母親の言うことを常に聞いていて、マザコン傾向が強い
配偶者が味方になってくれれば、義理の両親を説得でき、離婚強要の問題は解決します。しかし、夫婦間にも不倫やDV、モラハラといった問題が存在していると、義両親が介入することで夫婦間のひずみは更に拡大します。
義理の両親から離婚を強要されたにもかかわらず、配偶者の協力が得られない場合、離婚も視野に入れた上で、夫婦間で協議する方法を検討してください。義両親が邪魔をしてきて夫婦間の話し合いができないときは、別居して、弁護士を窓口にして協議したり、離婚調停を申し立てたりする方法がおすすめです。
法的手続きでは、たとえ親といえども代理権はなく、手続きに参加したり口出ししたりすることはできません。
「離婚調停を弁護士に依頼するメリット」の解説
離婚を申し出る
義理の両親からの離婚強要がひどく、離婚を決意したときは、速やかに申し出るようにします。特に、相手(夫または妻)が義両親の攻撃から守ってくれないとき、幻滅して離婚に進む決断をせざるを得ないことがあります。
離婚を申し出るときは、義理の両親に伝えるのではなく、必ず自分の配偶者に伝えましょう。先に配偶者に離婚を伝えることには、次のメリットがあります。
- 離婚の覚悟を伝えることで考え直してもらえる
- 配偶者が自身の親から守ってくれるようになる
- 義理の両親から強要された不利な離婚条件を白紙に戻せる
離婚強要してくる義理の両親が突きつけてくる条件は、あなたにとって不利なものがほとんどで、従う必要はありません。特に、義両親が孫をかわいく思うことが多く、子供の親権や面会交流が大きな争点となります。例えば、妻側の立場で離婚強要をされ、まだ幼い子供でも「親権は当然に夫側」と主張してくる義両親が典型です。
離婚を決意したとき、義理の両親の妨害が激しいときは、離婚調停を申し立て、親を交えない当事者間での話し合いで進めてください。義両親からの強い押し付けによって正しい考えが分からなくなったときは、離婚問題に強い弁護士にご相談ください。
「離婚に強い弁護士とは」の解説
義理の両親からの強要を理由に離婚することができるか
義理の両親から離婚強要を受け、大きなストレスを感じたとき、相手(夫または妻)と離婚せざるを得ないと考えるのも無理ありません。しかし、相手が離婚に反対していたり、復縁を望んでいたりするとき、義両親の離婚強要を理由として離婚することができるのでしょうか。
離婚を求める流れは、協議・調停で解決しないときは離婚裁判(離婚訴訟)に進みます。
離婚協議、離婚調停はいずれも話し合いであり、相手の同意があれば離婚を成立させることができます。しかし、夫婦の合意ができず、離婚裁判となったときは、家庭裁判所に離婚を認めてもらうには、法定離婚事由が必要です。
民法770条(裁判上の離婚)
1. 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。2. 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
民法(e-Gov法令検索)
義理の両親からの離婚強要をはじめ、親族との不和は、その程度が強度なときは「その他婚姻を継続し難い重大な事由」にあたります。例えば、次のような強度の離婚強要、嫌がらせがあるとき、裁判離婚を認めてもらえる可能性が高いといえます。
- 義両親からの離婚強要、嫌がらせを受けているのに、配偶者が見て見ぬふりをして助けてくれない
- 義理の両親から暴力を振るわれた(DV)
- 義両親から長期間モラハラを受けている
- 配偶者があなたの話を聞かず、自分の両親の味方ばかりする
- 親族との付き合い方について配偶者と意見や価値観が大きく異なり、これ以上夫婦生活を続けられない
裁判所の審理では証拠が重視されます。義理の両親からの強要を理由に離婚を認めてもらおうとするときは、どのような強要があったか、証拠を集める必要があります。具体的には、義両親からの暴言・暴力や嫌がらせがあったことの録音・録画、義両親とのLINEやチャット、メールのやりとり、当時つけていた日記などが重要な証拠となります。
義理の両親からの離婚強要を受けているにもかかわらず、配偶者が味方になって助けてくれないようなときは、離婚すること自体は争いがないかもしれません。
しかし、強い離婚強要を受け続け、批難されているとき、流れにまかせて不利な離婚条件を押し付けられないよう注意が必要です。
「法定離婚事由」の解説
離婚強要してくる義理の両親の法的責任
義理の両親による離婚強要や嫌がらせは、度が過ぎれば、法的な責任が生じることもあります。法的責任には、民事責任と刑事責任の2種類があります。
義両親の中には、自分の子のかわいさあまって、配偶者に必要以上に辛く当たる人もいます。法律違反となる行為も、感情にまかせて行ってしまうこともあるでしょう。過剰な嫌がらせから身を守るには、どのような責任を追及できるか、理解しておいてください。
民事責任
夫婦間の一方が、他方の行為によって精神的苦痛を被ったとき、慰謝料を請求できます。不倫・浮気やDV・モラハラなどが典型例です。
義理の両親の行為であっても、離婚強要や嫌がらせによってうつ病、適応障害などの精神疾患になったとき、義両親に対する慰謝料請求も検討してください。離婚強要によって義理の実家から離れなければならず引越し代がかかるとき、その実費も損害として請求できます。
配偶者が自分の親を説得せず、守ってくれなかったときは、離婚を求めると同時に配偶者に対しても慰謝料請求することができます。
刑事責任
義理の両親からの離婚強要、嫌がらせがあまりに過剰なとき、義理の両親が刑事責任を負うケースもあります。例えば、次の犯罪行為に対する刑事罰が科されます。被害者側で、刑事罰を科してもらうには、捜査機関(警察・検察)に対して告訴する方法が有効です。
罪名 | 行為の例 | 刑事罰 |
---|---|---|
器物損壊罪 (刑法261条) | 同居する夫の両親が妻の私物を壊した、義両親が家に押し入って物を投げた | 3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料 |
脅迫罪 (刑法222条) | 夫の両親から「息子と離婚してくれないと怖い目にあう」と脅された | 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
名誉毀損罪 (刑法230条) | 妻の両親から「給料が安いぼんくら亭主」と近所に悪評をまかれた | 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金 |
侮辱罪 (刑法231条) | 夫の両親から「だめ嫁」といじられた | 1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 |
暴行罪 (刑法208条) | 義理の両親から頭を叩かれた | 2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 |
傷害罪 (刑法204条) | 義理の両親から暴力を振るわれてケガを負った | 15年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
まとめ
今回は、義理の両親から離婚を強要されたときの対応方法を解説しました。
義理の両親との不仲は、「嫁姑問題」として広く知られるトラブルですが、夫側でも妻の親族との不和が離婚の原因となることは珍しくありません。
配偶者(パートナー)との関係が良好なら、盾となって義理の両親から守ってくれることが期待できますが、夫婦関係が悪化している場合はそうもいきません。配偶者が味方をしてくれないどころか、親に都合の悪い事実を伝えていないと、一方的に非難されるリスクもあります。
離婚するかどうかや、離婚する場合の条件については、夫婦の話し合いで決めるべきです。たとえ義理の両親といえど、口出しや干渉をするのは不適切です。義理の両親からの離婚強要や嫌がらせに限界を感じたときは、弁護士を窓口に話し合いを進める方法が効果的です。
- 親は子供の味方なので、離婚理由がなくても義両親から強要を受けることがある
- 義理の両親から離婚を強要されたら、まずは別居して様子を見る
- 配偶者(夫または妻)が味方になって守ってくれないなら離婚も視野に入れる
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離婚問題を迅速に解決するには、離婚理由(離婚原因)についての知識が重要です。裁判では不貞やDV、悪意の遺棄などの一定の事情がなければ離婚が認められないところ、交渉や協議でもこれらの事情が重視されます。
「離婚理由」の詳しい解説を理解し、戦略的に進める参考にしてください。