離婚を決意して別居をスタートしても、なかなか話し合いが前進しないと、「何年別居すれば離婚できるのだろう」、「できるだけ早く離婚したい」と不安に思う方も多いことでしょう。
自分が不倫・浮気をしてしまった、いわゆる「有責配偶者」の場合は、相手が離婚に同意してくれないかぎり一方的に離婚を認めてもらうのが相当難しく、裁判の実務上かなりの長期間別居しなければ離婚できません。離婚原因やその責任の程度などにもよっても必要となる期間は変わってきます。
今回は、離婚が認められるために別居をつづけている方に向けて、必要な別居期間の目安について、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。
- 有責でない場合には、離婚が認められるために必要な別居期間は3年〜5年
- 有責配偶者の場合には、離婚が認められるために必要な別居期間は8年〜10年
- できるだけ離婚を早めたいのであれば、早急に別居するのが大切
なお、離婚前の別居について、深く知りたい方は、次のまとめ解説をご覧ください。
離婚が認められるために必要な別居期間の目安
はじめに、離婚が認められるために必要な別居期間の目安について解説します。
なお、本解説は、別居期間によって離婚を認めた裁判例をもとに検討した目安です。
離婚が認められるために必要な別居期間は「3年〜5年」が目安
離婚に必要となる別居期間は明確に決まっているわけではありません。むしろ、相手が同意してくれればすぐに離婚することができますし、同居をしたまま離婚協議がまとまる夫婦もおり、別居しなければ離婚できないわけでもありません。
離婚が認められるために必要な別居期間は、3年~5年程度が目安です。
これは、相手が離婚に同意してくれず争いが長期化するケースで、離婚が認められるために必要な別居期間です。
ただし、これはあくまでも目安であり、個別の事情によって異なります。お互いに一歩も譲れずに当事者間の話し合いが長期化してしまい、別居期間が長期化してしまった場合には、弁護士に依頼して、離婚を強く求めていくのが効果的です。
有責配偶者の離婚成立に必要な別居期間は「8年〜10年」が目安
「有責配偶者」とは、自ら離婚の原因を作ってしまった側の配偶者のことです。つまり、離婚について責任のある配偶者という意味です。例えば、不倫・浮気、DVなどをしてしまったとき、有責配偶者にあたります。
有責配偶者による離婚請求は、家庭裁判所の実務ではとても認められづらくなっています。自分で離婚の原因を作っておきながら離婚できてしまうと、相手がとても不利になってしまうからです。幼い子どもがいる場合や、一方が専業主婦で無収入の場合など、すぐに離婚されては生活が立ち行かなくなってしまうようなとき、有責配偶者からの離婚請求は認められません。
そのため、有責配偶者からの離婚請求を認めた家庭裁判所の裁判例では、次のことが要件としてあげられています(最高裁昭和62年9月2日判決)。
- 夫婦の別居が当事者の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及ぶこと
- 夫婦の間に未成熟子がいないこと
- 相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく正義に反するといえるような特段の事情がないこと
そして、この3要件の中で「相当の長期間の別居」があげられています。この事案の別居期間は36年と長く、離婚請求は認容されましたが、その他の裁判例などを総合すると、有責配偶者の離婚では、目安としては8年~10年程度の別居は少なくとも必要だと考えられます。
なお、先ほど解説した判例(最高裁昭和62年9月2日判決)でも、単に長期間の別居が必要という結論ではなく、その別居期間は当事者の年齢や同居期間と比較して決めるべきであると判断されています。
つまり、20歳から60歳まで夫婦を続けたあとの高齢離婚の場合の別居期間10年と、結婚して2年で別居した後の別居期間10年とでは、同じに評価されるわけではありません。
相手に離婚原因が存在する場合はもっと短い
相手に明白な離婚原因があるときは、離婚までに必要となる別居期間は短くて済むケースもあります。明白な離婚原因とは、次の民法770条1項に定められた法定離婚原因です。
民法770条1項
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
民法(e-Gov法令検索)
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
法定離婚原因があれば、裁判で離婚を強制的に認めてもらうことができます。そのため、不貞やDVといった明白な離婚原因が存在し、その証拠が手元にあるとき、これらの責任を追及することで離婚を早められます。たとえ相手が不貞やDVなどの事実について否定していても、録音・録画などの客観的な証拠があれば言い逃れはできません。
この場合には、相手がどれだけ離婚に反対しようとも、離婚協議、離婚調停、離婚訴訟と段階を進んでいくにつれ、第三者的な立場である家庭裁判所から判決により強制的に離婚が認められてしまう状況となります。そのため、粘り強く交渉していけば、強硬な姿勢であった相手方も、折れて離婚に応じてくれることが多いです。
よく離婚理由としてご相談のある「性格の不一致」は、上記の法定離婚原因(民法770条)にあてはまらず、性格の不一致の原因として相手のモラハラなどが強度な場合にのみ「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたるに過ぎません。
そのため、「性格の不一致」だけを理由に離婚したいと考えるとき、相手が離婚に反対していると相当長期間かかることを覚悟しなければなりません。その他の離婚原因もあわせて主張することが有効です。
必要な別居期間を短縮し、短期間で離婚する方法
次に、少しでも早く離婚を成立させたいという方に向けて、必要な別居期間を短縮し、短期間で離婚するための方法について解説します。
離婚前でも速やかに別居する
できるだけ早く離婚を実現するためには、離婚前でもすみやかに別居するのが重要なポイントです。
離婚を進めるとき、まずは話し合いである離婚協議から進め、決裂したときは離婚協議、離婚訴訟と進める流れですが、いずれの時点でも、別居期間は「離婚が成立するかどうか」に大きく影響し、別居期間が長いほど離婚に有利だからです。一定の別居期間が必要だとして、早く別居するほど離婚までに長い別居期間が確保できるのは当然です。
なお、自分から先に別居してしまっても離婚には全く不利ではありません(参考解説:「先に自分から別居すると、離婚で不利になる?」)。
別居期間が長いほうが離婚に有利な理由は、次の2点です。
理由1:離婚協議で、相手に離婚を納得してもらいやすくなる
相手が離婚に同意をすれば、長期間の別居期間を経なくても、離婚協議による方法で即座に離婚することができるわけですが、すぐに決断がつく人ばかりではありません。
離婚自体には同意していても離婚条件にこだわりが強いときには話し合いが長引きます。相手の気持ちを後押しし「もはや離婚しかないのだ」と理解してもらう意味でも、早期の別居は役立ちます。
理由2:離婚訴訟で、家庭裁判所に離婚原因を認めてもらいやすくなる
相手が離婚に反対している場合には、離婚訴訟で家庭裁判所に離婚を認めてもらう必要があります。
このとき、特に有責配偶者だと長期間の別居期間を必要としますから、早く別居していればいるほど、早く離婚できることとなります。
離婚条件にこだわらない
「離婚をすることについては夫婦間の合意ができている」とご相談に来られる方がいます。しかし「どのような条件でもいいから早く離婚したい」という人はいません。離婚条件について合意に至っていない以上、離婚に関する話し合いは相当長期化するおそれが十分にあります。
そのため、少しでも短い別居期間で離婚を成立させたいと考えるときは、些細な離婚条件については、相手の要求をのみ、譲歩することが有効です。
特に、離婚条件についての提案を何度も行っていない場合には、相手の要求が正確にはわかっていない可能性があります。些細な離婚条件については譲歩の余地があることを伝え、粘り強く交渉することが、早期の離婚成立につながります。
金銭的な解決を目指す
離婚条件の中でも、特に重要なのが「離婚とお金」の問題です。
離婚に向けて別居しても、離婚までには相当な期間がかかり、特に有責配偶者は強制的に離婚することはなかなか難しいという状況があります。この間、夫婦であり続けるかぎりは婚姻費用をもらい、同一の生活を保障してもらうことができます。
そのため、離婚をせずに争いを長期化させておけば婚姻費用としてかなりの金銭をもらうことが期待できる以上、「婚姻費用をあきらめてすぐに離婚するなら、一定の金銭的補償がほしい」という気持ちがわき、早期の離婚の支障となるわけです。
以上のことから、将来もらえるであろう婚姻費用分程度のお金の先払いを提案することで、金銭的解決が可能であり、離婚が早期に成立する可能性を上げることができます。
別居期間が「悪意の遺棄」だと主張する
家庭裁判所の実務において、離婚は夫婦関係が「破綻」している場合には認められるものとされており、前章で解説した法定離婚原因がない場合には、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として「長期の別居」を主張するしかありません。
つまり、この場合、「長期の別居」には、不貞やDVなどのようなその他の離婚原因に匹敵するような「重大」なものでなければならず、そのためには相当長期の期間が必要となるわけです。
これに対して、別居期間中の相手の態度や援助、協力がなされてしないことといった点を理由に、別居が「悪意の遺棄」にあたると主張することで、それほど長期間の別居がなくても離婚を成立させた事例があります。
浦和地裁昭和60年11月29日判決では、夫側が「婚姻を継続し難い重大な事由」により離婚を請求したのに対して、妻側が不貞行為、悪意の遺棄、婚姻を継続し難い重大な理由を理由に反訴請求をした事案で、妻側の請求が認められました。
この事例では、別居が「悪意の遺棄」にあたると認められる要素として、次の事情を挙げています。
- 夫が家を飛び出して、一方的に別居を開始した
- 妻が障害者で、半身不随であった
- 長期の別居期間中、生活費を全く送金しなかった
つまり、これらの事情を主張することで、目安より短い別居期間しかなくても、離婚を成立させられる可能性があります。
別居期間がその他の離婚条件に影響する
最後に、別居期間は「離婚ができるかどうか」という点だけでなく、離婚に関するその他の諸条件にも影響を及ぼします。
「不利な離婚条件にはしたくない」と考えるのが当然のことですから、別居期間の離婚条件への影響を理解していただくことは、離婚の交渉上有利に進めるために有効です。
ご家庭の状況にもよってきますが、別居期間が離婚条件に与える影響は、次のように整理することができます。
婚姻費用
婚姻費用とは、別居期間中であっても夫婦の扶養義務の内容としてもらえる生活費のことです。収入が多い配偶者が、収入の少ない配偶者に対して、自分と同一の生活が保持できる程度の生活費を分担する必要があるとされており、養育費・婚姻費用算定表により、子の人数と年齢、夫婦の収入差によって金額が定められています。
婚姻費用は、別居をしてから離婚までの間もらえますから、別居期間が長くなるほど、もらえる総額は高くなります。
離婚が成立した後にも、子どもがいる場合には養育費がもらえますが、養育費は子どもの養育にかかる費用であり配偶者の生活費は入っていないため、一般的に婚姻費用よりも低額です。
婚姻費用がたくさんもらえることは、支払う側にとって「速やかに離婚したい」と考える理由になるため、離婚に同意してもらえるプレッシャーとしてはたらくほか、その他の離婚条件について、有利な譲歩を得やすくなります。
財産分与
財産分与とは、夫婦であった期間中に築いた共有財産を公平に分配するための制度です。別居開始時にある共有財産を分配するのが財産分与の基本的なルールです。
そのため、別居時を前倒しすればするほど、相手が財産分与について準備する期間が短くなり、結果的に財産分与で得られる財産が増える事例が多いといえます。
ただし、別居後に相手の財産が増額した場合には、別居時を後ろ倒しして主張してほうが得られる財産は多くなるため、事案によっては必ずしも別居期間が長いと財産分与にとって有利であるとは限りません。
まとめ
別居期間を理由として離婚を成立させるためには、目安として3年~5年、有責配偶者の場合には8年~10年という、相当長期の期間が必要となります。
しかし、別居期間が足りないからといって離婚をあきらめるべきではありません。また、期間が経過するまでの間はなにもせずに過ごさなければならないわけでもありません。
離婚条件について当事者間できちんと合意ができれば、話し合いで離婚できるケースもあります。離婚に向かう決意を強く示せば示すほど、相手も納得して離婚に応じてくれることも少なくありません。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題に精通し、有責配偶者の離婚請求についても多くの取り扱い実績があります。
別居期間を十分に確保するまで待てず、すぐにでも離婚をしたいと考えている方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。
離婚前の別居のよくある質問
- 離婚を認めてもらうためには、どの程度の別居期間が必要ですか?
-
相手が離婚を拒否しているとき、裁判で離婚を認めてもらうためには、通常は3年〜5年、有責配偶者の場合には8年〜10年の別居期間が必要となります。もっと詳しく知りたい方は「離婚が認められるために必要な別居期間の目安」をご覧ください。
- できるだけ短期間で離婚する方法はありますか?
-
離婚をするために、一定の別居期間が必要な場合があるため、早期に離婚したいのであれば、できるだけ早く別居して、別居期間を積み上げておくのが大切なポイントです。詳しくは「必要な別居期間を短縮し、短期間で離婚する方法」をご覧ください。