共同養育とは、離婚後も父母が協力して子の養育に関わることです。
子供の心身の健全な発育と、親子関係の維持のために、共同養育はとても効果的です。しかし一方、元配偶者との関係が修復不能なほどに悪化していたり、一方が再婚していたりする場合、共同養育を続けるのは非常に困難になることもあります。
たとえ夫婦が離婚しても、子供にとって両親はかけがえのない存在です。そしてそれは、親にとっても同じことです。「離れて暮らす子のために、一緒に育児ができないか」と考える親は近年増えており、「共同養育」の考え方が注目されています。
今回は、共同養育の基本的な方法、メリットとデメリット、再婚時に気をつけるべき法律上の注意点などについて、弁護士が解説します。
共同養育とは

共同養育とは、離婚後も元夫婦がともに子育てに関わることを指します。はじめに、共同養育についての基本的な知識を解説します。
共同養育の主な方法
共同養育には、法律上決まった方法があるわけではありません。そのため、日程や面会の実施方法など、具体的な内容は、父母で話し合い、子供の意見を取り入れながら決めます。
定期的に直接対面し、一緒に過ごすのが最善ですが、遠方の場合にはオンライン面会交流の活用も検討してください。何らかの事情で、両親の接触が難しい場合、第三者機関をよる連絡の調整や付き添いなどのサポートを受ける家庭もあります。
また、離婚後も共同して養育する以上、学校・医療・生活状況など、情報は常に共有すべきで、チャットアプリ・共有カレンダーなどツールの活用も、共同養育をうまく進めるコツです。
父親・母親の間で養育や教育の方針が異なると、子供が混乱し、心身に悪影響が及びかねません。あらかじめ両親の間で方針をすり合わせ、後に争いにならないよう、共同養育計画書などの書面を作成しておくことがお勧めです。
共同親権との違い
共同養育と混同されがちな言葉に「共同親権」があります。
親権とは、成年に達しない子の身上の世話と教育を行い、その財産を管理するために、父母に認められる権利及び義務のことで、具体的には以下の内容を含みます。
- 身上監護権
子の監護(子に衣食住を与え、養育すること)及び教育に関する親の権利義務。居所指定権(子が住む居所を指定する権限)、職業許可権(職業を営むことへの許可を与えたり取り消したりする権限)も含む。 - 財産管理権
子の財産を管理し、子の財産に関する法律行為について子を代表(代理)する権利。
一方、共同養育とは、父母が離婚後も引き続き共同して子どもを育てていくことを意味する一般用語であり、権利・義務の一種である親権とは異なります。
民法は、離婚後は父・母の一方が親権を持つ「単独親権」が採用していますが、2024年5月17日、離婚後の共同親権を導入する民法の改正案が可決・成立し、2026年5月までに施行される見通しです。
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共同養育のメリット

次に、共同養育のメリットについて解説します。
共同養育は、離婚後も変わらず、元夫婦だった父親と母親が協力しながら子育てするので、子供の精神の安定、経済的負担の軽減、責任分担といった面でメリットがあります。
子供の精神的安定・成長
共同養育のメリットの1つ目が、子供の精神的安定や成長が見込めることです。
離婚は、子供にとって大きなストレスになる経験です。両親の離婚に加え、転校や引越しによる友人との別れ、一方の親との交流途絶などが重なり、ストレスで体調を崩したり、攻撃的になったりする子もいます。「離婚の原因は自分にあるのでは」と自責の念に駆られる子供もいます。
しかし、共同養育なら、離婚後も父親・母親の双方と、これまで通りの交流を持ち続けられます。両親からの愛情、積極的な関与を感じられる環境を作れるので、子供の精神を安定させ、成長においてプラスの影響があります。暮らす場所は別でも、一緒に遊びに行くなどの経験を重ねることで「父親(母親)が自分を見てくれている」という安心感を持てるようになります。
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片方の親の負担軽減
共同養育のメリットの2つ目が、育児や教育の負担を両親が分担できることです。
シングルマザー(ファザー)として子供を単独で養育する場合、子育てに関する全てを自分一人で決め、費用も全て自己負担しなければなりません。悩みやストレスも、元配偶者を頼るのには限界があり、孤立し、精神的に追い詰められる危険もあります。
共同養育なら、子育てに関する事項や費用の分担を両親で話し合って決めることができるので、一人にかかる精神的・経済的な負担を軽減できます。例えば、子供が長期的な治療を必要とする病気にかかるなど、危機的な事態が生じた場合でも、両親で助け合って対応を決めることができるので安心です。片方の親が面会交流し、子供の面倒を見ている間、他方の親は自分の時間を持ち、息抜きをすることもできます。
養育費の支払いが継続されやすい
共同養育のメリットの3つ目が、養育費の支払いが継続されやすくなることです。
たとえ子供と同居していなくても、定期的に会って成長を間近で見守ることで、親としての自覚や責任が生まれやすくなるためです。
なお、法的には、面会交流と養育費の支払いは別問題なので、面会交流がなくても養育費を支払う義務があります。ただ、子供と会わず、愛情を失うと、養育費を支払わなくなるケースも散見されます。未払いになるリスクを軽減するには、共同養育の形を取っておくことに一定の意義があるといえるでしょう(※ 離婚協議書を公正証書にしておけば、強制執行も可能です)。
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親同士の責任分担が可能
共同養育のメリットの4つ目が、親同士の責任を分担することができる点です。
共同養育とすることで、学校行事への参加や進路の相談、習い事の選択など、育児や教育に関する様々な意思決定を両親で分担できます。どちらか一方に負担が偏ることなく、双方が親としての役割を果たすことができます。また、育児や教育に関する長期的な方針を両親が共有しておくことは、子供の健全な成長にとっても重要です。両親が協力して一貫した方針のもとで子育てをすることで、子供に安心感を与え、安定した成長を期待できるでしょう。
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共同養育のデメリットと課題

一方で、共同養育にはデメリットもあるので注意が必要です。
例えば、子供が両親の間のトラブルに巻き込まれたり、生活環境の変化によって不安定さを感じたりなど、共同養育にしたことがかえって子供に悪影響となるおそれもあります。また、離婚の理由によっては、そもそも共同養育が現実的でない場合もあります。
子供にとって混乱を招くおそれ
共同養育にしたことが原因で、子供を混乱させるおそれがあります。
子供にとって、父親と母親の家を行き来する形だと、生活の拠点が複数になり、体力的、精神的に負担となる可能性があります。特に、父親と母親の間で生活のルールに大きな違いがあると、どちらに合わせるか迷ってしまうでしょう。
親同士の関係があまり良好でなく、父親が子供の前で母親の悪口を言うといったことがあると、子供が板挟みになるおそれもあります。
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両親の意見の食い違いやトラブル
教育方針や習い事の方針、面会交流の回数や方法を巡って父母の意見に食い違う場合、これをきっかけにトラブルに発展するおそれもあります。また、一度決めたルールを一方的に変更されたり、ルールに違反する行動をとられたりすると、精神的に大きな負担となります。
DVやモラハラがあると困難
離婚の理由がDVやモラハラであった場合、共同養育は現実的ではありません。
共同養育では、離婚後も相手が子育てに関与するので、接触は避けられません。再び暴力行為やモラハラなどが行われるリスクがあるケースでは非常に危険です。子供に対する虐待に発展している場合、共同養育にしてしまうと悪影響なのは当然です。
このような状況では、自分と子供の安全確保が最優先となります。相手方から共同養育を求められたとしても、応じてはいけません。納得のいかない相手方は、家庭裁判所に面会交流調停を申し立てて争う可能性もありますが、DVや強度のモラハラがあったことを主張すべきです。
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一方の親が協力的でないと困難
一方の親が子育てに非協力的な場合にも、共同養育を続けることは困難です。
面会交流が拒否されている、連絡が取れない、子供に関する情報が共有されないなど、父母の円滑なコミュニケーションが取れない状況では、子供を一緒に育てることは困難です。また、養育費の未払いなど、相手方が無責任な行動を取り続けている場合も同じく、共同養育には向きません。
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共同養育を実現するためのポイント

共同養育を実現するには、両親が協力して養育計画を立てることが重要です。
養育計画には、面会交流の回数や方法、子供の教育方針や費用負担の割合など、具体的な取り決めを盛り込みましょう。養育計画を書面にしておくことは、トラブル防止に役立ちます。
当事者間の協議がうまく進まないときは、弁護士に相談したり、家庭裁判所への調停を申し立てたりすることが有効です。第三者を介することで感情的な対立を避けつつ、冷静に話し合いを進めることができるからです。当事者のみでの面会交流を実施できない場合には、第三者機関を利用することも検討してください。
共同養育を続けていくために、離婚したとしても、親同士のコミュニケーションが欠かせません。連絡手段や頻度、緊急時の対応方法など、あらかじめルールを決めておきましょう。共同養育は、互いに協力し合う姿勢が基本ですが、無理をするとかえって関係が悪化するおそれもあります。それぞれの生活を尊重しながら、できる範囲で協力し合う体制を整えることが重要です。
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共同養育と再婚時の注意点

次に、共同養育中の一方の再婚について解説します。
離婚後、共同養育をしていたとしても、再婚すること自体は可能です。しかし、共同養育の場合ほど、再婚が子供に与える影響は大きいので、十分な配慮が必要です。
再婚が共同養育に与える影響
再婚が共同養育に与える影響は、非常に大きいと考えるべきです。
一緒に暮らしている親(例えば「母」)が再婚する場合、子供に「新しい父親」が現れることとなります。実の父親と面会交流を続ける一方、新しい父親と生活を始めると、子供を混乱させたり、拒絶感を感じさせたりすることは珍しくありません。
同居していない親(例えば「父」)が再婚する場合、子供の生活に変化は生じませんが、再婚後に交流が途絶えると、共同養育であったからこそ「見捨てられた」という感情が強くなります。
また、再婚によって生活スタイルや価値観が変わることで、面会交流の取り決めや教育方針の調整がこれまで以上に難しくなることもあります。新しい配偶者の意見が加わってくると、元夫婦間の合意形成に時間がかかるケースも少なくありません。
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子供への配慮と再婚の進め方
再婚を希望する場合でも、共同養育である以上、まずは子供の気持ちを最優先に考えて行動することが大切です。子供が再婚にネガティブな反応を示した場合、何に不安を感じているのかを丁寧に聞き取り、その気持ちに寄り添うことが大切です。
また、新しい父親・母親との良好な関係を築くには、時間をかけて信頼関係を構築していく必要があります。焦って再婚に踏み切るのではなく、一緒に出掛けるなどして交流を深め、子供と再婚相手の相性を見極めることも大切です。
そして、再婚にあたっては、元配偶者との間で共同養育をしていること、その際の役割分担などについて再婚相手にも伝え、理解を求めましょう。再婚が原因で、父親・母親の一方と交流が途絶してしまうのは、子供にとって大きなストレスです。トラブルを避けるためにも、再婚については事後報告ではなく、事前に報告することが大切です。
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共同養育について弁護士に相談すべきケース

最後に、共同養育について弁護士にすべきケースを解説します。
共同養育そのものは、両親が合意していれば、特別な法律上の手続きがなくても取り入れることができます。ただ、当事者間で今後の子育てについて意見が対立したり、話し合いがまとまらなかったり、実際に共同養育を始めた後でトラブルになったりするケースは少なくありません。
特に、次のトラブルが起きそうな場合、早めに弁護士に相談すべきです。
- 面会交流を相手が拒絶した。
- 養育費の支払いが止まっている。
- 元配偶者が連絡を無視している。
- DVやモラハラの懸念がある。
また、再婚による親権・監護権の変更を検討している場合や、養育計画書の作成に困難を感じている場合も、早めに弁護士に相談しましょう。
共同養育は、離婚後も長い間、相手との関係が続くことを意味します。最初はうまくいっていても、開始時に取り決めたことは、状況の変化によって変えざるを得ないこともあります。自分も相手も、価値観も周囲を取り巻く環境も、変わる可能性は大いにあります。
弁護士に依頼すれば、相手との交渉から、合意文書の細かい文言の調整まで、トラブルを未然に防ぐためのサポートを受けることができます。
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まとめ

今回は、共同養育の考え方や注意点について解説しました。
共同養育は、離婚後であっても両親が協力して育児をすることで、子供の健やかな成長と安定した環境を実現する方法として有効です。ただ、多くのメリットがある一方で、実際は、親同士の関係性が悪化しているにもかかわらず一方の親が共同養育を強く求めたり、再婚して関係が複雑化することがかえって子供の負担になったりといったデメリットもあります。
大切なのは、親の都合ではなく、子供の利益を第一に考える姿勢です。
双方で歩み寄り、無理のない形で責任を分担することで、より良い共同養育のかたちを築くことができます。話し合いが難しいなど、不安を感じる場合は、離婚前に、早めに弁護士に相談するのがお勧めです。法律知識に基づくアドバイスによって、子供にとっても両親にとっても、安心して向き合う助けになることができます。
親権や監護権は、子供の生活に大きく関わる重要な権利です。親権者や監護者の選定に関する知識を深めることが、子供にとって最適な環境を整える助けとなります。
子供の親権や監護権について、有利な判断を望む場合、「親権・監護権」に関する解説を参考にしてください。