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養育費が支払われないときの対応は?払ってくれない相手に支払わせる方法

養育費が払われない事態は、母子家庭(ひとり親家庭)にとって非常に重大です。残念ながら、「離婚時に取り決めた養育費を最後まで払い続けた家庭は4人に1人だけ」という統計もあります(※養育費を受け取っている人の割合

養育費が支払われないと、生活設計が狂うのは当然、それだけでなく、育児にも悪影響です。大切な子供に十分な教育や医療を受けさせられなくなるおそれもあります。したがって、養育費が払われないなら、子供のためにも一刻も早く回収すべきです。そのためには、離婚時の取り決めから始まり、内容証明で請求する方法、合意した養育費を回収する強制執行(財産の差押え)までの一連の流れを理解しておく必要があります。

今回は、離婚時に養育費を確実に取り決める方法と、支払われないときに養育費を回収する方法について、弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 離婚時の養育費の取り決めは、公正証書にしておくのが確実
  • 養育費が支払われないとき、まずは内容証明を送って強く請求する
  • それでも養育費が払われないときは強制執行の手続きで財産を差し押さえる

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

豊富な知識・経験に基づき、戦略的なリーガルサービスを提供するため、専門分野の異なる弁護士がチームを組んで対応できるのが当事務所の強みです。

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養育費とは

養育費とは、子供の養育や監護のために、離婚後に他方からもらえる金銭のことです。

婚姻費用が、離婚前に受け取れるあなたと子供双方の生活費であるのに対し、養育費は、子供の生活のみをカバーしています。離婚して夫婦でなくなっても、「子供の親」であることに変わりはません。そのため、離婚した後、子を監護していない親(非監護親)は、子を監護する親(監護親)に対し、子供の養育のために必要となる費用を負担する必要があります。

養育費は、家庭裁判所では「養育費・婚姻費用算定表」に基づいて決めるのが実務です。算定表に従い、夫婦の収入、子供の年齢と人数により一定の相場観が形成されています。例えば、義務者の年収が800万円、権利者の年収が300万円で、子が7歳の場合、6万円〜8万円が目安となります。

養育費の新算定表」の解説

養育費を受け取るには離婚時の取り決めが重要

養育費を確実に受け取るためのスタート地点として、離婚時に養育費を確実に取り決めるのが大切です。離婚時に取り決めても支払いが止まる例は少なくありません。しかし、養育費が支払われない状態になったら、すぐに強制執行まで進め、確実に回収するには、離婚時の取り決めが適切に証拠化されていることが必須です。

養育費をはじめとした離婚条件の決め方には、以下の3つの方法があります。

離婚協議書に養育費を定める

離婚協議書は、離婚時に約束した条件を定めた書面です。養育費は、離婚条件の中でも特に重要なものなので、子供のいる夫婦は、必ず協議書に記載してください。

口約束しかないと、いざ養育費が払われなくなっても、「支払うことを約束していた」という証拠すら残らなくなってしまいます。

離婚協議書の書き方」の解説

離婚協議書を公正証書化する

離婚協議書を公正証書にしておけば、養育費の請求について調停・訴訟などの法的手続きを改めて行わなくても、すぐに強制執行(財産の差押え)ができます。公正証書は、公証役場で作成する公文書であり、裁判を経ずに強制執行できる効力があるからです。

公正証書のメリット

先に、夫婦間で離婚協議書を作成した上で、それを原案として公証人にチェックしてもらい、公正証書にしてもらいます。

強制執行の手続きを行えば、養育費を支払わない元配偶者の不動産や預貯金のほか、給与を差し押さえることができます。養育費は法的にも手厚く保護されており、給与の手取り額の2分の1まで差押え対象とすることができます(通常は4分の1まで)。養育費を任意に払わない人も、給与を差し押さえられると、会社に「養育費を払っていない」とバレてしまうので、約束通りに養育費を払い続けるプレッシャーとなることが期待できます。

離婚協議書を公正証書にする方法」の解説

調停・審判・訴訟で養育費を決める

養育費の金額や支払い時期、期間などについて、当事者間の話し合いでは決められないときは、家庭裁判所に決めてもらう手続きによります。裁判所の判断を仰ぐ方法は、養育費を決めるタイミングによって異なります。

離婚時に養育費を決める場合

離婚時に養育費を決める場合、離婚調停を申し立て、調停でも合意がまとまらないときは離婚裁判(離婚訴訟)を提起して、離婚と同時に養育費を決めてもらいます。

離婚後に養育費を決める場合

離婚時に養育費を決めておらず、離婚後に養育費を決める場合や、離婚後に増減額を求める場合には、協議でまとまらないときは養育費請求調停を申し立て、調停が不成立となったときは審判に移行し、家庭裁判所に決めてもらいます。

調停であれば「調停調書」、審判では「審判書」、訴訟であれば「判決書」という形で、裁判所の判断は証拠となります。これらの調書を取得しておけば、養育費が払われなくなったときに、家庭裁判所に履行勧告してもらえるほか、強制執行(財産の差押え)をすることもできます。

離婚調停の流れと進め方」の解説

養育費を受け取っている人の割合

弁護士に法律相談する人の中には、残念ながら養育費を受け取れていない人も多いです。このことは、以下の厚生労働省の調査結果からも明らかです。

厚生労働省の実施する「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によれば、母子世帯の半数以上が、離婚時に養育費を決めていないという調査結果が出ています。養育費が支払われないと悩む以前に、そもそも離婚時の約束が適切でないわけです。

ただ、取り決めをしていない世帯でも「養育費を請求できることを知らなかった」という人は少なく、多い理由は、「相手と関わりたくなかった」「相手に支払う意思・能力がないと思っていた」というものです。

しかし、養育費をあきらめては、将来自分が苦しむこととなります。

同調査によれば、半数以上が養育費を受給できず、現在も継続的に払われる世帯は、たった25%弱しかいません。したがって、4人に1人は、養育費が最後まで支払われていないことになります。

上記の調査結果の通り、養育費を受け取れていない世帯の中には、途中であきらめてしまった人も多いです。養育費を払ってもらえないとき、「それが普通だ」とあきらめないでください。本解説の通り、養育費が払われないときでも、救済策は多く用意されています。

子供がいる夫婦の離婚」の解説

民事執行法改正で養育費は取り立てやすくなった(2020年4月〜)

養育費を回収するとき、最終手段は強制執行(財産の差押え)です。一方で、強制執行は、差し押さえる財産がどこにあるかを知らなければ、効果を発揮えきません。

従来から、財産開示手続があったものの、従わなくても30万円の過料しか制裁がなく、養育費よりやすいため「払わない方が得だ」と逃げられてしまっていました。

2020年4月より民事執行法が改正され、差し押さえる財産を知るための財産開示手続は強化されました。この改正では、虚偽申告に対して「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑事罰が科されることとなりました。同時に導入された「第三者からの情報取得手続」では、年金・税金などの情報を取得することができるようになりました。

以上の改正後の手続きは、給料の支払い元の会社を特定することができ、不当な財産隠し、養育費逃れへの対策となることが期待されています。

財産開示手続と第三者からの情報取得手続」の解説

養育費が支払われないときの対応

次に、離婚後になって、養育費が支払われないときの対応について弁護士が解説します。

養育費が払われないときは、まずは内容証明を送るなどの方法で督促します。それでも払われないときは、養育費請求調停を申立て、調停、もしくは、その後に続く審判において、裁判所の決定を得て、養育費の支払いを命じてもらいます。

このステップに沿って、順に解説します(※ なお、離婚時に公正証書、調停調書、審判書などを取得している方は「決められた養育費が支払われないとき、強制的に回収する方法」参照)。

自分で連絡して養育費を請求する

養育費が払われなかったとき、まずは相手(元夫や元妻)に連絡して、養育費を払うよう請求します。連絡方法は、電話・メール・LINEなど普段の連絡方法で構いませんが、「請求したこと」が記録に残りやすい方法がお勧めです。自分で請求する方法であれば費用はかかりません。

養育費が支払われなくなったら、すぐに請求するのがポイントです。期限がすぎているのに長期間放置すれば、相手も払う意欲が失せたり、軽視されたりします。1日でも遅れたら、すぐに取り立ての連絡をしましょう。事故や病気、急な出費などで遅れただけなら、すぐに催促すれば、支払いを続けてくれる例もあります。

自分で養育費を請求するなら、きつく問い詰めて相手の態度を硬化させないよう、次の点に注意してください。

  • 自分勝手で一方的な要求をしない
  • 取り決めた以上の請求はしない
  • 感情的な伝え方をしない
  • 相手を否定しない
  • 子供のために養育費が必要だと伝える

なお、既に支払い拒絶の意思が明らかなケースや、DV・モラハラがあって直接連絡できないケースは、次の段階に進んでください。

内容証明を送付して養育費を請求する

直接連絡しても、支払いを拒否されたり無視されたりするなら、次に、内容証明を送ります。内容証明で養育費を請求すれば、心理的なプレッシャーになると共に、時効を止めることができます。

内容証明のメリット

内容証明は、郵送形式の一種で、配達日時・書面の内容などを郵便局が記録してくれます。そのため、内容証明は、証拠を保存する方法として、よく活用されます。弁護士名義なら、「支払いをしなければ調停・審判などの法的手続きを利用する」という確固たる意思を示して強い圧力をかけられるので、支払いに応じてもらえる可能性が高まります。

養育費請求調停・審判を申し立てる

相手が任意の養育費支払いに応じないときは、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てます(なお、離婚前であれば、離婚調停であわせて養育費を決めます)。

養育費請求調停では、調停委員が間に入って話し合って、養育費の金額や支払方法を決めてもらうことができます。調停では「養育費・婚姻費用算定表」に基づき、互いの収入差と子供の人数、年齢によって決めるのが通例です。養育費が全く払われないなら、調停委員が算定表に従った妥当な金額を支払うよう、相手を説得してくれることが期待できます。

調停で養育費の支払いに合意したら、調停調書が作成され、養育費を受け取ることができます。調停で合意できないときは不成立によって終了し、審判に移行して家庭裁判所の判断が示されます。裁判所の手続きで作成される調停調書、審判書は、強制執行の際の必要書類となります。

調停委員を味方につけるには?」の解説

決められた養育費が支払われないとき、強制的に回収する方法

喧嘩する男女

離婚協議書や調停などで養育費を決めても、約束通りに支払いがされなかったり、支払いがストップしてしまったりするケースもあります。もはや任意の協力によって払い続けてもらうのは困難なことも多いでしょうから、強制的に回収する方法へ進んでいく必要があります。

定められた養育費が払われないとき、強制的に回収する方法には次のものがあります(※ なお、まだ債務名義を取得していない方は「養育費が支払われないときの対応」参照)。

履行勧告

履行勧告は、家庭裁判所から養育費を払わない相手に対して、養育費を払うよう勧告してもらう方法で、調停調書・判決などを得ていれば利用することができます家事事件手続法289条)。具体的には、裁判所から、電話や郵送で連絡がいき、養育費を払うように督促します。

裁判所から連絡が来るのは普段の生活ではなかなかないことですから、強いプレッシャーを感じて、養育費の支払いを継続してもらいやすくなります。履行勧告は所定の書式がなく、家庭裁判所に電話で依頼して利用することができます。申立手数料もかからないので、手軽に使える方法です。

ただし、履行勧告は、あくまでも任意の督促なので、相手が払わなくても罰則も強制力もなく、過信は禁物です。

履行命令

履行命令は、家庭裁判所が養育費を支払わない相手に対して、養育費の支払いを命じる制度です家事事件手続法290条)。履行命令に正当な理由なく従わないと、10万円以下の過料に処されます。履行命令も、履行勧告と同じく、家庭裁判所に電話で申し立てでき、申立手数料もかかりません。

制裁がある点で、履行勧告よりは履行命令の方が強制力のある制度ですが、10万円の過料でしかないので、未払い額が大きいと結局は応じてもらえないでしょう。

強制執行

養育費がどうしても払われないときの最終手段が、強制執行(財産の差押え)です。強制執行は、その名のとおり、金銭債権を強制的に回収する手段です。

強制執行の対象となる財産は、不動産(土地・建物など)、動産、債権(給与・預貯金など)があります。特に、養育費の強制執行のシーンでよく利用されるのが、給与の差押えです。給与の差押えがよく利用されるのは、次の2点のメリットがあるからです。

  • 差押え上限額が緩和される
    給与は、債務者側にとっても生活のために重要な金銭なので、差押えの上限が、給与の4分の1までとされています。ただし、養育費・婚姻費用などの扶養に関する債権の場合、例外的に、給与の2分の1まで(もしくは33万円以上の金額の全て)を差し押さえることができます。
  • 将来の養育費も差押えられる
    将来の養育費を、1回の強制執行で、将来の給与から回収し続けることができます。

強制執行(財産の差押え)をするためには、執行力のある「債務名義」が必要です。債務名義には、裁判所の判決、調停調書、審判書、強制執行認諾文言付き公正証書などがあります。

差押えの手順は、次のように進めます。

STEP

債務名義の入手

公正証書の作成、もしくは裁判所の手続きによって債務名義を取得します。

STEP

執行文、送達証明書を入手

債務名義が公正証書の場合には公証役場、調停調書、審判書、判決書などの場合には裁判所で手続きをします。

STEP

強制執行の申立て

支払義務者の住所地を管轄する裁判所に申し立てます。

養育費を強制執行で回収する流れは、詳しくは次の解説をご覧ください。

養育費の強制執行」の解説

養育費が支払われないときの注意点

最後に、養育費で損しないために、知っておきたい注意点を解説します。

養育費の請求には時効がある

養育費の請求は、法的な権利ではありますが、時効が存在します。そのため、払われない状態で長期間放置してしまうと、過去の養育費を遡って支払ってもらうことはできなくなります。

養育費の時効は、その取り決めの仕方によって異なり、離婚協議書に基づく請求の場合は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、権利を行使することができる時から10年間(民法166条)、調停・審判に基づく請求の場合には10年間(民法169条)です。

元配偶者の両親には支払い義務がない

養育費は、親が子を扶養する義務です。そのため、元夫や元妻)が払うもので、その両親(子にとっての祖父母)に支払い義務はありません。いくら養育費が支払われなくても、元配偶者の親や家族へ、代わりに請求することはできません。

ただし、法的な権利義務関係はないものの、養育費を払ってもらいたいとお願いするのは良い方法です。孫かわいさに、養育費を肩代わりして払ってくれる可能性もあります。

なお、民法877条は、直系血族に扶養義務があることを定めています。祖父母にとって孫は直系血族に該当するので、養育費がもらえないことで、子供の最低限の生活すら厳しい状態なら、祖父母には扶助する義務が生じます。

養育費は後からでも増額できる

養育費が払われないと「それなら当初の取り決めよりも多くほしい」と考える方もいるでしょう。

養育費は、将来にわたって長期間払われるものです。そのため、その間に事情が変わって、もっと多くの金額が必要となる可能性があります。事情変更があったら、まず相手に、養育費を増額するよう伝えましょう。

相手が子供のためを思ってくれるなら、増額に応じることもあります。その際は、速やかに合意書を作成し、離婚当初の約束と同じく公正証書にしておきましょう。

話し合いで増額に応じてもらえないときは、家庭裁判所に養育費の増額する調停を申し立てることもできます。調停が成立しなくても、審判に移行し、家庭裁判所に、適正な養育費を判断し直してもらうことができます。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、養育費が払われない場合の対処法について解説しました。

母親(元妻)の立場からよく相談を受ける内容ですが、父親(元夫)に養育費を請求し、回収するまでの具体的な流れを知れば、あきらめず養育費を支払ってもらうことができます(なお、逆に、元夫から元妻に請求するケースもあります)。

未払いとなった養育費を強制的に回収する方法には多くありますが、強制執行に向けて最短ルートで進んでいくのが、最もスピーディかつ効果的です。将来になって養育費が払われない可能性があるなら、その準備は離婚時から行う必要があります。離婚協議書を公正証書化するなど、必要な準備を怠らないことが大切です。

この解説のポイント
  • 離婚時の養育費の取り決めは、公正証書にしておくのが確実
  • 養育費が支払われないとき、まずは内容証明を送って強く請求する
  • それでも養育費が払われないときは強制執行の手続きで財産を差し押さえる

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参考解説

養育費や婚姻費用は、家族の生活を支えるための重要な金銭です。請求の手続きや適正額の計算方法を理解することが解決のポイントとなります。

別居中の生活費や子供の養育費について、どのように請求すべきかお悩みの場合、「養育費・婚姻費用」に関する解説を参考にしてください。

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