今回は、離婚時に養育費を確実に取り決める方法と、支払われないときに養育費を回収する方法を解説します。
養育費が払われない事態は、母子家庭(ひとり親家庭)にとっては重大。
離婚時に養育費を取り決めても、きちんと払い続ける家庭は、統計上4人に1人だけ。
(※養育費を受け取っている人の割合)
養育費が支払われないと、母親であるあなたの生活設計が立ち行かなくなるのは当然。
それだけでなく、育児にも悪影響です。
大切な子どもに、十分な教育や医療を受けさせられなくなるおそれもあります。
養育費が払われないなら、子どものためにも、一刻も早く養育費を回収すべきです。
そのためには、離婚時の取り決めからはじまり、内容証明で請求する方法、合意した養育費を回収する強制執行(財産の差押え)までの一連の流れを理解しておく必要があります。
- 養育費をの取り決めは、公正証書で定めるのが確実
- 養育費が支払われないとき、まずは内容証明を送り、強く請求する
- それでも養育費が払われないなら、強制執行(財産の差押え)で強制的に払わせる
養育費とは
養育費とは、子どもの養育、監護のために、離婚後に他方からもらえるお金のこと。
婚姻費用が、離婚前にもらえる、あなたと子ども双方の生活費であるのに対して、養育費は、子どものために使うお金だけを意味しています。
離婚によって夫婦でなくなっても、子の親であることは変わりません。
そのため、離婚した後、子を監護していない親(非監護親)は、子を監護する親(監護親)に対して、子どものために必要になるお金を負担する必要があります。
それが、養育費なのです。
養育費は、家庭裁判所では「養育費・婚姻費用算定表」にもとづいて決めるのが通例。
そのため、子どもの年齢・人数と、互いの収入差によって、一定の相場観があります。
算定表は、近年改正されています。
新しい算定表による養育費は、次の解説でお調べください。
養育費を受け取るには、離婚時の取り決めが重要
まず、養育費を確実に受け取るスタート地点として、離婚時に養育費を確実に取り決めるのが大切。
取り決め方には、以下の3つがあります。
確かに、離婚時に決めておいた養育費も、すぐ払いが止まり継続的に払われない例は多いもの。
しかし、養育費が支払われない状態になったらすぐに、強制執行まできちんと進め、確実に回収するためには、離婚時の取り決めが適切に証拠化されているのが必須です。
離婚協議書に養育費を定める
離婚協議書は、離婚時に約束した離婚条件を定めた書面です。
養育費は、とても重要な離婚条件なので、かならず離婚協議書に書くようにしてください。
離婚協議書を公正証書化する
離婚協議書を公正証書にしておけば、養育費の請求について調停・訴訟などの法的手続きをあらためてしなくても、すぐに強制執行(財産の差押え)できます。
公正証書は、公証役場で作成する公文書。
まずは夫婦で離婚協議書を作った後で、公証人にチェックしてもらい、公正証書にします。
強制執行なら、元夫の不動産・預貯金のほか、給与の差押えができます。
そのため、元夫としても給与などを差押えられ、「養育費を払っていない」と人にバレてしまうリスクを感じれば、約束どおりに養育費を払い続けてくれる可能性が高まります。
離婚協議書を公正証書にしたいとき、次の注意点も確認してください。
調停・審判で養育費を決める
養育費やその他の離婚条件が、当事者間の協議では話し合いでは決まらないとき、調停・審判で家庭裁判所に決めてもらうことができます。
離婚時に養育費について調停で決めるなら、離婚調停を申立て、離婚調停でも合意がまとまらないときは離婚訴訟で養育費を決めてもらいます。
他方で、離婚後に養育費を決めたり、増減額を求めたりする方は、養育費請求調停などを申立て、調停でまとまらないときは審判に移行するようにします。
調停や審判における裁判所の決定は、調停調書、審判調書という形で証拠化されます。
これらの調書を取得しておけば、養育費が払われなくなったときに、家庭裁判所に履行勧告してもらえるほか、強制執行(財産の差押え)をすることもできます。
離婚調停の流れは、次の解説で詳しくまとめています。
養育費を受け取っている人の割合
さて、弁護士への法律相談のなかには、残念ながら養育費を受け取れていない人も多いです。
このことは、以下の厚生労働省の調査結果からも明らかです。
厚生労働省の実施する「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によれば、母子世帯の半数以上が、離婚時に養育費を決めていないという調査結果が出ています。
養育費が支払われないと悩む以前に、そもそも離婚時の約束が適切でないわけです。
ただ、取り決めをしていない世帯でも「養育費を請求できることを知らなかった」という人は少なく、多い理由は、「相手と関わりたくなかった」、「相手に支払う意思・能力がないと思っていた」というもの。
しかし、養育費をあきらめては、将来自分が苦しむこととなります。
同調査によれば、半数以上が養育費を受給できず、現在も継続的に払われる世帯は、たった25%弱しかいません。
しかし、養育費を払ってもらえないとき、「それが普通だ」とあきらめないでください。
上記の調査結果からもわかるとおり、養育費を受け取れていない世帯では、途中であきらめた人も多いです。
本解説のとおり、養育費が払われないときでも、救済策は多く用意されているのです。
民事執行法改正で養育費は取り立てやすくなった(2020年4月〜)
養育費を回収するとき、最終手段は強制執行(財産の差押え)。
しかし、強制執行は、差し押さえる財産がどこにあるか知らないと効果がありません。
従来から財産開示手続はあったものの、したがわなくても30万円の過料のみ。
養育費より安いために「払わないほうが得」と逃げられてしまっていました。
2020年4月より民事執行法が改正。
差し押さえる財産を知るための財産開示手続が強化されました。
この改正で、虚偽申告は「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑事罰が科されます。
同時に導入された第三者からの情報取得手続では、年金・税金などの情報をとることができます。
給料の支払い元の会社などを特定することで、財産隠しへの良い対策として期待されています。
2020年4月に施行された改正民事執行法の内容は、次の解説にまとめています。
養育費が支払われないときの対応
次に、離婚後になって、養育費が支払われないときの対応について弁護士が解説します。
養育費が払われないときは、まずは内容証明を送るなどの方法で督促します。
それでも払われないときは、養育費請求調停を申立て、調停、もしくは、その後に続く審判において、裁判所の決定を得て、養育費の支払いを命じてもらいます。
このステップに沿って、順に解説していきます。
※なお、離婚時、すでに公正証書、調停調書、審判調書などを取得できた方は、次章「決められた養育費が支払われないとき、強制的に回収する方法」参照
自分で連絡し、養育費を請求する
養育費が払われなかったとき、まずは相手(元夫)に連絡し、養育費を払ってもらうよう請求します。
連絡方法は、電話・メール・LINEなど普段の連絡方法でかまいません。
ただ、「請求したこと」が記録に残りやすい方法でするのがおすすめです。
自分で請求する方法であれば費用はかかりません。
養育費が支払われなくなったら、すぐに請求するのがポイントです。
期限がすぎているのに長期間放置すれば、相手も払う意欲が失せたり、軽視されたりします。
事故や病気、急な出費などで遅れただけなら、すぐに催促すれば、支払いを続けてくれる例もあります。
自分で養育費を請求するなら、きつく問い詰めて相手の態度を硬化させないよう、次の点に注意してください。
- 自分勝手で一方的な要求をしない
- 取り決めた以上の請求はしない
- 感情的な伝え方をしない
- 相手を否定しない
- 子どものために養育費が必要だと伝える
なお、すでに支払い拒絶の意思が明らかなケースや、DV・モラハラがあり直接連絡できないケースでは、次の段階に進んでください。
内容証明を送付して養育費を請求する
直接連絡しても、支払いを拒否されたり無視されたりするときは、次に、内容証明を送りましょう。
内容証明を送って養育費を送れば、心理的なプレッシャーを与えるとともに、時効を止められます。
内容証明は、郵送形式の一種で、配達日時・書面の内容などを郵便局が記録してくれます。
そのため、内容証明は、証拠を保存する方法として、よく活用されます。
内容証明は、特殊な郵送形式です。
そのため、相手に与えるプレッシャーが強く、養育費の支払いに応じてもらえる可能性が高まります。
特に、弁護士名義なら、「支払いをしなければ調停・審判などの法的手続きを利用する」という確固たる意思を示せるので、より強い圧力になります。
養育費請求調停・審判を申し立てる
相手が任意の養育費支払いに応じないときは、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てます(なお、離婚前であれば、離婚調停であわせて養育費を決めます)。
養育費請求調停では、調停委員が間に入って話し合って、養育費の金額や支払方法を決めてもらえます。
調停では「養育費・婚姻費用算定表」にもとづき、子どもの年齢・人数と互いの収入差によって決められるのが通例ですから、養育費がまったく払われないなら、調停委員が算定表にしたがって相手を説得してくれると期待できます。
調停で養育費の支払いについて合意できたら、調停調書が作成され、養育費を受け取れます。
調停で合意できないときは、調停不成立により終了し、審判に移行して家庭裁判所の判断が示されます。
決められた養育費が支払われないとき、強制的に回収する方法
離婚協議書や、養育費請求調停の調停調書などで養育費を決めても、約束どおりに支払いされなかったり、払いがストップして継続しなかったりするケースもあります。
このとき、もはや任意の協力によって払い続けてもらうのは困難なことも。
強制的に回収する方法へ進んでいく必要があります。
定められた養育費が払われないとき、強制的に回収する方法には次のものがあります。
※なお、まだ債務名義を取得していない方は、前章「養育費が支払われないときの対応」参照
履行勧告
履行勧告は、家庭裁判所から養育費を払わない相手に対して、養育費を払うよう勧告してもらう方法(家事事件手続法289条)で、調停調書・判決などを得ていれば利用できます。
裁判所から、電話や郵送などで連絡がいき、養育費を払うように督促してもらえます。
裁判所から連絡が来るのは普段の生活ではなかなかないこと。
そのため、裁判所から勧告が来ると強いプレッシャーを感じ、養育費を継続してもらいやすくなります。
履行勧告には、所定の書式はなく、家庭裁判所に電話でお願いすれば利用できます。
申立手数料もかからないため、手軽に使えます。
履行命令
履行命令は、家庭裁判所が養育費を支払わない元夫に、養育費の支払いを命じる制度(家事事件手続法290条)。
履行命令に正当な理由なく従わないと、10万円以下の過料に処されます。
履行命令も、履行勧告と同じく、家庭裁判所に電話で申し立てでき、申立手数料もかかりません。
強制執行
養育費がどうしても払われないときの最終手段が、強制執行(財産の差押え)です。
強制執行は、その名のとおり、金銭債権を強制的に回収する手段です。
強制執行の対象となる財産は、不動産(土地・建物など)、動産、債権(給与・預貯金など)があります。
なかでも、養育費の強制執行のシーンでよく利用されるのが、給与の差押えです。
給与の差し押さえがよく利用されるのは、次の2点のメリットがあるからです。
- 差押え上限額が緩和される
給与は、差押えられる側にとっても生活のために重要。
そのため、差押えの上限が、給与の4分の1までが通常です。
ただし、養育費・婚姻費用など扶養に関する債権なら、給与の2分の1まで(もしくは33万円以上の金額のすべて)を差し押さえられます。 - 将来の養育費も差押えられる
将来発生し続ける養育費についても、1回の強制執行で、将来の給与から回収し続けられます。
強制執行(財産の差押え)をするためには、執行力のある「債務名義」が必要です。
債務名義には、裁判所の判決、調停調書、審判書、強制執行認諾文言付き公正証書などがあります。
差押えの手順は、次のように進めます。
公正証書の作成、もしくは裁判所の手続きによる
公証役場もしくは裁判所で行います。
支払義務者の住所地を管轄する裁判所に申し立てます。
養育費を強制執行で回収する流れは、詳しくは次の解説をご覧ください。
養育費が支払われないときの注意点
最後に、養育費で損しないために、知っておきたい注意点を解説します。
養育費の請求には時効がある
養育費の請求は、法的な権利ですが、時効があります。
払われないのに長期間放置すると、過去の養育費をさかのぼって全額払ってもらえなくなります。
養育費の時効は、その取り決めのしかたによって、次のとおりです。
取り決め方 | 時効 |
---|---|
離婚協議書に養育費を定めた場合 | 5年 (民法166条1項1号) |
離婚協議書を公正証書にした場合 | 5年 (民法166条1項1号) |
調停・審判で養育費を決めた場合 | 10年 (民法169条) |
なお、2020年4月施行の解説民法により、時効の制度は大きく変わりました。
詳しくは、次の解説をご覧ください。
元配偶者の両親には支払い義務がない
養育費は、親が子を扶養する義務。
元夫(ないし元妻)が払うもので、その両親(子にとっての祖父母)に支払義務はありません。
いくら養育費が支払われなくても、元配偶者の親や家族へ、代わりに請求できません。
つまり、肩代わりは、法的義務ではないのです。
ただし、法的な権利義務関係はないものの、養育費を払ってもらいたいとお願いしてもよいでしょう。
孫がかわいいなら、養育費を代わりに払ってくれる可能性があります。
なお、民法877条1項では、直系血族の扶養義務が定められています。
祖父母にとっての孫は直系血族。
養育費がもらえなくて子どもの最低限の生活すら厳しいなら、祖父母には扶助する義務があります。
このときは、元配偶者の親(子にとっての祖父母)に、子どもの生活費を請求できます。
養育費は後からでも増額できる
養育費が払われないと「それなら当初の取り決めよりも多くほしい」と考える方もいるでしょう。
養育費は、後からでも増額できます。
養育費は、将来にわたって長期間払われるもの。
そのため、その間に事情が変わって、もっと多くの金額が必要となる可能性があります。
事情変更があったら、まず相手に、養育費を増額するよう伝えましょう。
相手が子どものためを思えば、増額に応じてくれることも。
増額に応じてもらえたら、すぐに合意書を作成します。
このとき、離婚当初の約束と同じく、公正証書化しておけば安心です。
話し合いで増額してもらえないときは、家庭裁判所に増額請求の調整を申し立てることができます。
調停が成立しなくても、審判に移行し、家庭裁判所に、適正な養育費を判断しなおしてもらえます。
まとめ
今回は、「養育費が払われない」という相談について解説しました。
母親(元妻)の立場からよく相談を受ける内容ですが、父親(元夫)に養育費を請求し、回収するまでの具体的な流れを知れば、あきらめず養育費をもらえます。
未払いとなった養育費を強制的に回収する方法には多くありますが、強制執行に向けて最短ルートで進んでいくのが、最もスピーディかつ効果的に回収できる方法です。
その準備は、離婚時から気にしておいてください。
離婚協議書を公正証書化するなど、必要な準備を怠らないことが大切です。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、家族関係の法律問題を得意としています。
未払いの養育費についても、回収した実績を豊富に有しています。
養育費を確実に回収するためにも、ぜひ一度当事務所へご相談ください。
養育費のよくある質問
- 養育費が払われないとき、どう対応するのがよいですか?
-
養育費が払われないとき、まずは自分で連絡して請求してみて、それでも払われなければ内容証明を送ります。公正証書を得ているときには強制執行ができますが、そうでなければ、調停によって未払い分を請求します。詳しくは「養育費が払われないときの対応」をご覧ください。
- 養育費を払ってくれない相手から強制的に回収することはできますか?
-
養育費を払ってくれないとき、公正証書を得ていればすぐに強制執行できます。公正証書がないとき、調停調書、審判書などを得られれば、これにもとづいて強制執行できます。もっと詳しく知りたい方は「決められた養育費が払われないとき、強制的に回収する方法」をご覧ください。