調停成立は、夫婦双方の合意による解決を意味するはずです。しかし、調停の成立後にも、不満が残ってしまうケースもあります。
調停の内容にどうしても納得できない
調停成立時から状況が大きく変わった
不貞やDVなどの離婚原因を作った「有責配偶者」だったり、時間や費用の面から訴訟移行は困難だったりといった事情で、やむを得ず調停に同意する人もいます。たとえ不満があっても、成立した調停離婚には法的拘束力が生じ、やり直しや再申し立てはできないのが原則です。
一方で、例外的に、再申し立てが可能なこともあります。成立した調停の内容に誤りや錯誤があったり、成立後に大きな事情変更があったりするケースが典型例です。また、調停が不成立となった場合は、回数や期間の制限なく、何度でも離婚調停を申し立てることができます。
今回は、調停成立後に再申し立てをすることができる条件と、その方法や注意点について、弁護士が解説します。
- 調停成立後の再申し立てはできないのが原則だが、例外あり
- 再申し立てが可能な場合にも、濫用的な申し立ては許されない
- 再申し立てする理由を、客観的な証拠とともに裁判所に説明する
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ /
調停離婚には法的拘束力がある
調停成立すると、家庭裁判所が作成する調停調書に、合意内容が記載されます。このようにして成立する調停離婚には法的拘束力があり、たとえ一方が不満でも、原則として調停のやり直しや再申し立てはできません。調停調書には、裁判の判決と同じ効力があり、記載された義務を怠れば、強制執行で財産を差し押さえることもできます。
離婚調停はあくまで話し合いの場なので、同意を強制されることはなく、夫婦の意思が合致してはじめて成立します。調停内で不満を伝えることができますし、調停を欠席したり、意思が固いことを伝えたりして「調停成立」を阻むこともできます。そのため、一度受け入れて調停を成立させたからには、もはや変更や無効を求めて不服申し立てすることは許されません。
これは、調停手続きの安定を保ち、確実な解決とするためにも当然のことです。むしろ、長らく争っても、成立後の変更が許されるのでは、調停手続きの意義が失われてしまいます。
「離婚調停の流れと進め方」の解説
調停成立後の再申し立てが認められる場合
調停のやり直しはできないのが原則ですが、例外的に、調停成立後の再申し立てが認められる場合があります。
離婚を取り消すことができる場合
「離婚する」という意思に瑕疵があるときは、離婚を取り消すことができます。
具体的には、詐欺や強迫によって協議離婚してしまったケースが該当します。民法747条は、詐欺または強迫によって婚姻をした場合に、取り消しを家庭裁判所に請求できることを定めます(ただし、3ヶ月を経過したり、意思を追認したりした後では、取り消すことができません)。この条項は、民法764条によって協議離婚に準用されます。
民法747条(詐欺又は強迫による婚姻の取消し)
1. 詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2. 前項の規定による取消権は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後三箇月を経過し、又は追認をしたときは、消滅する。
民法(e-Gov法令検索)
詐欺とは、一方の当事者が虚偽の情報を提示してだますこと、強迫とは脅して抵抗できない状況に追い込むことをいいます。ただ、協議離婚に比べると、調停離婚は裁判所で行われるため、意思表示に瑕疵が生じる可能性は低く、上記の条項も適用されていません。
「離婚に強い弁護士とは」の解説
調停内容に誤りや錯誤がある場合
次に、調停の内容に誤りや錯誤がある場合に、再申し立てが可能なことがあります。
調停の前提となった重要な事情に嘘があったり、認識に間違いがあったりすれば、調停成立後に不満が生じるのも当然です。ただ、調停の成立後、すぐに再申し立てをするケースでは、裁判所から「権利濫用」であると評価されるおそれがあります。調停委員会は「事件が性質上調停を行うのに適当でないと認めるとき」「不当な目的でみだりに調停の申し立てをしたと認めるとき」は、調停をしないものとして家事調停事件を終了させることができます(家事事件手続法271条)。
したがって、軽微な誤りや、あなたの主観的な不満では、再申し立てをしても受理されず、調停期日も開かれないおそれがあります。なお、調停調書に誤記がある場合は、調書の更正決定によって訂正を申し出るのが適切です。
清算条項の範囲外の場合
調停が成立しても、手続き内で議論されなかったことについては、更に協議や調停を続けることができます。調停調書に「清算条項」が付され、夫婦の間に債権債務関係がないことを約束していても、調停での合意の対象でなかった争点は対象外です。
例えば、次のケースでは、調停成立後の再申し立てを検討することができます。
- 離婚調停の争点ではない事情に基づいて慰謝料を請求する場合
- 早期の離婚を優先し、財産分与の合意に至らなかった場合
- 養育費については後で定めることとした場合
- 面会交流については離婚後の協議によることとした場合
同一の原因による請求かどうかは、実質的に判断されます。例えば、成立した調停に「慰謝料」の記載がなくても、財産分与を増額して慰謝料の代わりにした事情があるなら、重複して慰謝料を二重に請求することはできません。
また、一括解決を目指して、調停条項に「当事者間に一切の債権債務関係がないことを確認する」といった清算条項を含めた場合、この条項によって調停の争点でない様々なトラブルも解決する趣旨であると解釈される可能性もあります。この場合にも、後から慰謝料などを請求して再申し立てをすることは難しいです。
以上のように、調停後にどのような請求ができるかは、調停による合意の内容、文言とその解釈によって決まるので、合意する前に慎重にチェックしてください。
調停成立後に事情変更がある場合
調停の成立後であっても、大きな事情変更があった場合、例外的に、再調停によって内容を変更することが認められるケースがあります。よくあるのが「一方の収入や家族構成が変化したことに伴い、養育費を増額・減額請求するケース」です。このとき、離婚の合意については変化ないものの、養育費について決め直すために、養育費請求調停を起こすことができます。
また、面会交流について調停で定めた場合も、将来に事情が変わったことで、当初の約束通りに面会交流ができなくなれば、再度、面会交流調停を申し立てることができます。
調停成立後に再申し立てを検討すべき事情の変更は、例えば次のものがあります。
- 不成立から相当な期間が経過したとき
長期間が経てば、気持ちや周囲の環境も変化します。間隔を空けての再申し立てなら、濫用的な申し立てともなりづらいです。ただし、時間が経過しただけで状況が全く変わらなければ、同じ結論が予想されます。 - 当事者の家族構成が変わったとき
離婚時に親権を獲得した人に新たなパートナーができて、養子縁組をするなら、養育費の減額を申し出るタイミングとなります。また、自身が再婚して扶養家族が増えた場合にも、養育費の減額を検討してもよいでしょう。 - 子供の環境に変化があったとき
子供を取り巻く環境が変化したら、その扱いについても再度話し合う必要があります。相手の再婚によって養育が難しくなったり、再婚相手に虐待を受けていたりすると、親権者として適切ではなくなってしまうこともあります。 - 収入に大きな変化が生じたとき
互いの収入が大きく増減したとき、養育費を決め直すタイミングとなります。
これらの事情変更は、生活や人生に大きな影響があると考えられるため、時期やタイミングを見計らって争いを起こせば、有利に進めることができます。
「離婚調停の成立後にすべき手続き」の解説
調停成立後に再申し立てをする方法
次に、調停成立後に再申し立てをする方法と、具体的な手続きを解説します。
事案の性質や状況によっても適切な方法が変わるので、ケースに応じた対応が必要です。そもそも調停のやり直しはできないのが原則なので、再申し立てを検討する場合は、ここまでの流れを自分のみで進められた場合でも、早めに弁護士に相談するのがお勧めです。
調停の再申し立て
第一に考えられる手段は、調停の再申し立てをする方法です。
法的には、調停の申し立てに回数制限はないので、相手が応じる限り、何度でも調停は可能です。例えば、婚姻費用の調停が成立したものの、内容に錯誤があったり成立後の事情変更があったりする場合、改めて婚姻費用分担請求調停を申し立て直すことができます。
「離婚調停を弁護士に依頼するメリット」の解説
調書の更正決定
次に、調停調書の誤記など、軽微なミスなら、調書の更正決定で対応できる場合があります。
例えば、裁判官が読み上げた内容と、調書の記載が一致しないとき、家庭裁判所にその場で申し立てて訂正してもらうのが適切です。特に、離婚調停の調書には、調停離婚させるという強い効力があるので、調書の交付を受けたらしっかりと確認するようにしてください。
期日指定の申立て
家庭裁判所に、調停の内容に錯誤があることを理由に、調停期日の指定を求める方法もあります。裁判所が認めれば続行期日が指定され、再び調停の機会が得られます。ただし、裁判所が誤りを認めないとき、調停は有効なものと判断され「手続終了の審判」が下されます(この審判に対して、高等裁判所に即時抗告することができます)。
無効確認訴訟の提起
成立した調停に錯誤があるとして、無効確認訴訟を提起する方法もあります。
人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(家事事件手続法244条)については、無効確認訴訟を提起することが可能です。例えば、離婚調停に錯誤があったときに、離婚無効確認訴訟を提起する例があります。一方で、別表第二に該当する調停(婚姻費用や養育費、財産分与、面会交流などに関する調停)は、無効確認を請求することが難しいと考えられています。
裁判例にも、遺産分割調停についての無効確認訴訟を認めなかったケースがあります(東京高裁平成29年5月31日判決)。
再申し立てを検討する際の注意点
次に、再申し立てする際に注意すべきポイントを解説します。
調停成立後の再申し立てが認められるケースでも、あくまで例外的な方法であることを理解して、慎重に進めなければなりません。
調停成立を覆すハードルは高い
調停調書は、判決と同じ効力があるので、その内容を覆すのは非常に難しいです。「調停成立後の再申し立てが認められる場合」であっても、詐欺や強迫と認められるケースは限定され、事情変更についても、成立後の大きな変化が必要です。調停成立時の問題点や事情変更については、証拠に基づいて、裁判所に説得的に示さなければなりません。
やり直しにはコストがかかる
やり直しには、費用・時間の両面で、コストがかかります。
「再度調停すればよい」といった軽い気持ちで調停を成立させてはいけません。たとえやり直せたとしても、訴訟費用や弁護士費用が追加でかかりますし、そこまでの争いに費やした時間も無駄になってしまいます。
離婚調停には、3ヶ月〜6ヶ月、場合によっては1年以上かかるケースもあるので、できる限り一回で解決できるよう、成立前に調停内容をよく読み直し、再確認してください。
「離婚裁判の費用はいくら?」の解説
再申し立て以外の解決策を検討する
再申し立てが難しい場合でも、調停に不満があるなら、他の代替手段を検討することで、解決の幅を広げることができます。
例えば、成立した調停に不満があるとき、その調停はもはや覆せないとしても、相手方と直接交渉をして調整することで、新たな合意に至るケースもあります。「離婚するかどうか」や「親権の有無」といった重要な問題について成立後の話し合いで覆すことはできませんが、養育費の支払時期や面会交流など、微調整が可能な争点であれば、再交渉に応じてもらえることもあります。
再申し立てした調停を成功させるポイント
最後に、再申し立てした調停を成功させるポイントを解説します。
調停成立後に再申し立てが認められるのは、例外的なケースに限られるので、いざ成功して調停をやり直すことができた場合、今度は失敗しないように進める必要があります。
調停成立前なら何度でも申し立てられることを理解する
調停の成立前なら、事情に応じて何度でも調停を申し立てることができます。離婚調停が不成立になっても、一定の期間をおいて再調停すれば、応じてもらえる可能性もあります。申し立ててはみたものの「時期が悪い」「準備具足だった」などと感じるなら、一度調停を取下げ、再度申し立て直すこともできます(調停の取り下げは、訴訟と異なり、相手の同意は不要です)。
この段階では、調停調書が作成されておらず、調停離婚も成立していないので、法的な拘束力も生じません。特に、不貞やDVなどの離婚原因が自身にある「有責配偶者」や、相手が強硬に離婚に反対するケースでは、調停申立てのタイミングは慎重に検討しなければなりません。
なお、成立前の段階で、離婚調停を何度しても解決しないとき、離婚訴訟への移行も視野に入れて考える方が、結果的に近道となることがあります。
「離婚までの流れ」「調停不成立とその後の流れ」の解説
適切な時期を見極める
再調停を成功させるには、効果的なタイミングで申し立てることが重要です。相手の状況や環境の変化を把握し、話し合いに有利にはたらく時期を選びましょう。例えば、相手に新たなパートナーができたとき、子供の事情に変化があったとき、双方の収入面に変化があったときなどは、調停内容の見直しが必要となる場合があります。
時期を見誤ると、調停を有利に進めるチャンスを失う可能性があります。調停成立後であっても、養育費や面会交流などが続く場合は、相手の状況を正確に把握しておくことが重要です。
一度目の調停を振り返る
再調停を成功させるには、一度目の調停がなぜうまくいかなかったのかを振り返ることが大切です。失敗や課題が明確なら、再度の調停に活かすことができます。例えば、次のような順序で検討して、法的に整理しておきましょう。
- 一度目の調停に不満のある点を整理する
- 自身と相手の求める条件の差を確認する
- 不足していた法律知識を補う
- 証拠が不十分でなかったか検討する
- 新たな証拠がある場合には必ず収集しておく
なお、再調停では、実現すべき目標を限定し、明確に定めておくことが大切です。一旦成立した調停を覆そうとするのに、不満をぶつけて感情的に対応するのではうまくいきません。
濫用的な申立てはしない
調停成立後すぐに再度の申立てをすると、家庭裁判所に「濫用的な申立て」と判断され、家事事件手続法271条に基づいて調停が開始されずに、手続きが終了する可能性もあります。再調停が開始しても、婚費について合意がまとまらなければ審判に移行しますが、特段の事情変更がない限り同じ結論となる可能性が高いです。
たとえ調停成立前でも、間隔を空けずに何度も調停を申し立てることは不適切です。目安としては「前回とは夫婦の状況に変化があったか」という基準で判断してください。
「調停委員を味方につけるには?」の解説
まとめ
今回は、調停成立後に再申し立てし、やり直すことができるか、解説しました。
調停が成立すると、原則としてその内容に法的拘束力が生じ、やり直しや再申し立ては認められません。しかし、重大な錯誤がある場合や、重要な事情変更があった場合には、例外的に再度の調停が可能となるケースもあります。
再申し立ての場合、初回の申し立てにもましてしっかりと準備をしなければ、申立てそのものが受け入れられないおそれもあります。再度申し立てる合理的な理由を示し、証拠をきちんと準備しなければなりません。一度成立した調停内容を覆すハードルは相当高いので、弁護士の助けを借りて慎重に進めることが大切です。
- 調停成立後の再申し立てはできないのが原則だが、例外あり
- 再申し立てが可能な場合にも、濫用的な申し立ては許されない
- 再申し立てする理由を、客観的な証拠とともに裁判所に説明する
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ /
離婚調停を有利に進めるには、財産分与や親権、養育費、不貞行為の慰謝料請求など、状況に応じた法律知識が必要です。お悩みの状況にあわせて、下記の解説もぜひ参考にしてください。
複数の解説を読むことで、幅広い視点から問題を整理し、適切な解決策を見つける一助となります。