配偶者の不倫が疑わしいとき、クレジットカード明細が有力な証拠となることがあります。
カードの利用明細に、ラブホテルや高級レストラン、旅行や宿泊先の予約など、特定の相手との関係を疑わせる記録があれば、不貞行為を裏付ける証拠として活用できる可能性があります。
しかし、個人情報の塊であるクレジットカードの明細を見るのは、容易ではありません。不倫や浮気をした配偶者ほど、カードの明細は隠すでしょう。このとき、「配偶者のカード明細を勝手に見るのは違法なのか」「弁護士なら、開示できるのか」といった点がポイントとなります。
今回は、弁護士によるクレジットカード明細の開示請求(弁護士会照会制度)と、証拠としての有効性について、詳しく解説します。
- 本人の同意なく明細は取得できないが、弁護士会照会の活用が可能
- 強制力を持たせるには、裁判手続きが必要となる
- クレジットカード明細が取得できなくても、他の証拠で証明を試みる
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クレジットカード明細は誰が取得できる?

はじめに、クレジットカードの利用明細を取得できる「人」と「方法」を解説します。
クレジットカードの利用明細は、商品やサービスの購入履歴が記録された、まさに個人情報の塊なので、誰でも自由に入手できるものではなく、本人による取得が原則です。
本人が自分の明細を取得する方法
カード名義人本人なら、明細の取得は可能です。
- Web明細・オンライン会員サービスの利用
多くのカード会社ではWeb明細サービスにログインして、過去の利用履歴を閲覧できます。利用日・利用店舗・利用金額・支払回数・請求予定日などが記載されます。 - スマートフォンアプリの利用
公式アプリで、外出先でも手軽に明細を確認可能なカードも多いです。 - 郵送や電話による明細発行の依頼
カスタマーサポートに電話したり、Webフォームから申請したりして、明細の郵送を求める方法です(1週間程度の期間と、数百円程度の手数料がかかることがあります)。
※ カード会社ごとに対応が異なるので、個別に問い合わせて確認しましょう。
明細に記載される期間は過去1〜2年分程度が多く、より古い履歴を確認したいときは、過去明細の再発行を申請する方法によります。解約したクレジットカードも、情報の保管期限内なら明細発行に応じてもらえる可能性があります。
配偶者の明細を本人以外が取得可能?
たとえ夫婦でも、本人の同意なく配偶者のクレジットカード明細を取得するのは違法です。
例えば、ログイン情報を推測してWeb明細にアクセスすれば、不正アクセス禁止法違反に該当するおそれがあります。偽って本人になり済ませば、住民基本台帳法違反などの可能性もあります。ポストに届いた明細を盗み見るのは、プライバシー侵害であり許されません。
家族カードを利用している家族や配偶者は「名義人本人」ではないため、明細の取得には本人の同意を要するのが基本です。
婚姻関係にあったとしても、別々の個人であり、プライバシー保護の観点から、同意なしに取得することは正当化されませんし、離婚後なら尚更です。
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弁護士によるクレジットカード明細の開示請求(弁護士会照会)

次に、弁護士を依頼して、クレジットカード明細を取得する方法を解説します。
前章の通り、カード明細は本人以外では取得できないのが原則ですが、弁護士会照会制度を利用するなど、弁護士を通じて開示を請求すれば入手可能なケースがあります。
弁護士会照会とは
弁護士会照会とは、弁護士が事件処理に必要と認める場合に、官公庁や企業に対して情報の提供を求めることができる制度です。弁護士法23条の2に定められていることから「23条照会」と呼ぶこともあり、民事・家事・刑事を問わず幅広く活用されています。
目的は、裁判の準備や交渉に必要な資料を収集することです。対象は、銀行口座の取引履歴、通話記録、賃貸契約内容などで、クレジットカードの利用明細も含まれます。証拠保全や文書提出命令などの他の手段と異なり、裁判所を介さず、弁護士が単独で利用できる点が特徴です。
ただし、弁護士会照会は強制力に乏しく、照会先が応じない可能性があります。特にクレジットカード会社のような個人情報を扱う企業は、プライバシー保護を理由に拒むケースもあります。
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弁護士会照会による利用明細の開示
では、実際に弁護士会照会を用いてクレジットカード明細の取得をする方法を解説します。
浮気や不貞行為の調査、慰謝料請求の準備の一環として、弁護士がカード会社に、配偶者の明細照会を行う事例は多くあります。狙いは、「ラブホテルの利用があったか」「高額なプレゼントなど、不倫を示す履歴がないか」といった点を明らかにすることです。ただし、弁護士会において照会理由の妥当性が審査される上に、カード会社がプライバシーを理由に拒否してくるケースもあるので、過度な期待は禁物です。
カード明細が開示されやすくするには、次のポイントに注意しましょう。
- 具体的な照会理由を示す。
例えば、「配偶者の不貞行為に関する具体的な疑いがある」「慰謝料請求や離婚訴訟を準備している」「利用明細が事実確認に不可欠の資料である」など。 - カード会社が応じやすい工夫をする。
照会理由を具体的に記載する、照会が必要となる対象を限定するなど。
弁護士会照会には、数千円〜1万円程度の費用(手数料)がかかります。紹介してから、早ければ2週間程度で回答がありますが、照会先の対応によっては1ヶ月以上かかることもあります。利用する場合は弁護士に依頼し、弁護士から弁護士会に照会書を送付して申請します。
情報提供が受けられた場合は、利用店舗や利用日、金額などが把握できます。なお、クレジットカード明細が開示されても、「誰と利用したか」までは分かりません。
開示請求が認められないケース
弁護士会照会によっても、以下のケースでは開示がなされない可能性があります。
- プライバシー侵害と判断される場合
照会内容が過剰だったり必要性が乏しかったり、利用目的が不明確であったり第三者の個人情報が含まれる可能性があったりする場合、カード会社が慎重になり、照会を拒否されることがあります。 - 「正当な理由がない」とみなされる場合
裁判の準備や証拠収集という明確な理由が示されなければ、開示は認められません。例えば「配偶者の浮気が怪しいから確認したい」といった程度では、理由が不十分と判断される可能性があります。 - 弁護士会が照会自体を却下する場合
弁護士会照会では、まず弁護士会の審査を受けます。この時点で「不適切である」と判断されれば、照会そのものが認められません。例えば「違法な手段による情報取得の補助に該当するおそれがある」場合などが考えられます。
したがって、弁護士会照会といえど万能ではなく、開示されないこともあります。
この場合、弁護士は次の手段として、裁判所を通じた手続き(文書提出命令・証拠保全)への移行を検討します。これらの裁判所を利用した手段は、強制力があり、正当な理由なく提出を拒否した場合には制裁もある強力なものです。
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クレジットカード明細は不倫の証拠になる?

次に、「不貞行為」の法的な定義と、クレジットカードの利用明細が証拠となるケースについて解説します。カード明細そのものが「決定的な証拠」となる場面は少ないですが、残された履歴によっては、他の証拠を補強する重要な資料となります。
離婚問題における「不貞」の意味
民法770条1項1号は、「配偶者に不貞な行為があったとき」を離婚請求できる原因の一つと定めます。この「不貞な行為」とは、配偶者以外の異性と性的関係を持つことを指します。単なるLINEのやり取りやキスやハグでは足りず、肉体関係があったと推認できることが必要とされます。
不貞行為が認められると、不貞を理由とした離婚が可能となるほか、慰謝料請求が認められます。また、自分が離婚したくない場合、有責配偶者からの離婚を困難にしたり、子の親権や財産分与などの交渉に影響したりする効果もあります。
裁判における不貞行為の立証では、直接的な証拠(性行為中の写真や動画など)があることは少なく、ラブホテルの出入りの写真、LINEのメッセージなど、状況証拠を積み重ねて判断します。この際、クレジットカード明細も一つの重要な資料となります。
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利用明細が証拠として有効なケース
クレジットカードの明細が不倫の証拠として有効なのは、例えば次のケースです。
- ラブホテルの利用履歴が残っている場合
「◯月◯日・ラブホテル△△・¥8,800」といった記載があれば、不貞行為があったことを客観的に裏付ける重要な手がかりになります。 - 高級レストランや旅行先などの出費がある場合
非日常的な場所での出費は、恋愛関係をうかがわせます。特に頻繁に同じ店舗の利用が確認されると、継続的な交際関係の根拠となります。 - 特定の日時と相手の動向が一致する場合
例えば、相手とのメッセージのやり取り、SNS投稿や写真、位置情報などが、カードの利用日時と一致する場合、その疑わしき相手とその場所にいた可能性が高まります。 - 他の証拠との組み合わせで補強できる場合
明細だけでは証拠にならない場合も、LINEのトーク履歴やレシート、写真、ホテルのポイント履歴、位置情報、探偵の報告書など、その他の証拠と組み合わせることで説得力を高める「補強証拠」としての効果があります。
カードの利用履歴は単なる「支払情報」にとどまらず、相手との関係性や行動パターンを裏づける材料として評価されます。弁護士は、クレジットカード明細を含めた証拠を精査し、「この情報は不貞の立証に使えるか?」と検討しながら、調停や訴訟に向けた証拠の整理を行います。
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利用明細が証拠にならないケースもある
一方で、クレジットカードの利用明細が必ず証拠になるわけではありません。以下のケースでは、証拠としての価値が認められにくいです。
- 利用者を特定できない場合
クレジットカードは、名義人以外が使用している可能性があります。また、実際に夫(妻)が使っていても、誰と利用したかは不明確です。 - 店舗名だけでは不貞行為が推認できない場合
例えば、カフェや百貨店、ショッピングモールなど、日常的な出費や誰とでも行ける場所では、不貞との関係性が不明瞭で、証拠としての価値は低いです。 - 日常的な買い物と区別がつかない場合
スーパーやコンビニ、ドラッグストアなどの利用履歴は、たとえ高額でも不貞の目的があったとは判断できません。 - 家族カードなどで名義人と使用者が異なる場合
妻が夫名義の家族カードを使っていたとしても、明細だけでは誰が利用したか断定できず、証拠としては不十分になる可能性があります。
このように、カード明細は状況によって証拠としての価値が大きく変わるため、入手できたとしてもそのまま使えるとは限りません。不貞の証拠として活用するには、工夫が必要です。
クレジットカード明細が開示されない場合の対処法は?
以上の手段を講じても、クレジットカード明細が開示されない場合でも、決してあきらめてはいけません。配偶者の不倫や使途不明な支出が疑わしいなら、次の手段も検討してください。
相手方本人に任意の開示を要求する
事前の準備でクレジットカード明細を入手できなくても、離婚協議や調停の中で、相手に任意の開示を要求することは可能です。
弁護士名義で内容証明によって要求すれば、プレッシャーを強めることができます。調停であれば、「不貞の有無を明らかにするため、資料を開示すべき」と判断されれば、調停委員が強く促してくれる可能性もあります。
このような要求に強制力はなく、相手が拒否する可能性は十分にあります。ただ、離婚調停などの段階に至れば、「やましくなければ開示すればよいこと」「あえて明細の開示を拒否するのは、後ろめたいことがあるのでは」という心証を抱かせることにも繋がります。
「調停委員を味方につけるには?」の解説

文書提出命令を申し立てる
訴訟を提起していれば、民事訴訟法220条以下に基づき、文書の提出を裁判所が命じる制度(文書提出命令)を活用できます。そのためには、離婚調停や離婚裁判(離婚訴訟)を起こし、その手続内で裁判所に申立てを行う必要があります。
文書提出命令は、法的な拘束力があり、正当な理由なく拒否をしたことが不利益に扱われるなどのペナルティがあります。一方で、訴訟中でなければ利用できず、裁判所に必要性を認めてもらう必要があるなどのハードルがあります。
証拠保全を申し立てる(訴訟前でも可能)
証拠が将来的に消失したり改ざんされたりするおそれがあるなら、民事訴訟法234条以下の定める証拠保全の制度を利用する方法もあります。この手続きは、訴訟前でも利用できます。訴訟前でも使えて、裁判所を通じたプレッシャーをかけられるメリットがある反面、裁判所の許可が必要であり、利用のためには裁判官の判断が必要となるというデメリットがあります。
「離婚裁判で証拠がないときの対処法」の解説

その他の証拠を集めて補強する
最後に、どうしても疑わしいクレジットカード明細が入手できなくても、他の証拠によって不貞や不適切な支出を証明することは可能です。むしろ、クレジットカード明細はあくまで補助であり、「開示されればラッキー」くらいに思って、証拠収集を油断なく進めなければなりません。
ただし、証拠集めにも、法的な知識と経験が必要となるので、早い段階で弁護士に相談しておくことが、最も確実な対処法となります。
証拠の有無や今後の対応について判断に迷う場合は、弁護士に早めに相談してください。弁護士は、証拠の判断だけでなく、離婚や不貞慰謝料に関する状況に応じたサポートが可能です。
「不倫の証拠写真」の解説

クレジットカード利用明細に関するよくある質問
最後に、クレジットカード明細の開示に関するよくある質問に回答します。
配偶者のクレジットカード明細は開示請求できる?
配偶者のクレジットカード明細は、本人の同意なしには取得できないのが原則です。たとえ夫婦でも、個人情報として扱われ、プライバシーの保護が優先されます。
弁護士は、弁護士会照会(弁護士法第23条の2)により、カード会社に情報提供を求めることができます。ただし、カード会社が照会を拒否する場合、万能ではありません。
訴訟中なら、裁判所を通じた文書提出命令、証拠保全を利用することで、裁判所の命令によって強制的に開示させることも可能です。とはいえ、協議のみの段階では、これらの強制力ある手段は使えず、裁判前の交渉段階では、他の証拠と組み合わせて主張を補強することも検討する必要があります。
相手の過去の給与明細は開示できる?
離婚時の財産分与や養育費の算定において、配偶者の収入情報(給与明細や源泉徴収票)が重要な資料となります。財産分与の妥当性を検討したり、養育費の金額を算定したりするのに、相手の経済状況を正確に把握する必要があるからです。
より確実な方法としては、クレジットカード明細と同じく、文書提出命令や証拠保全の方法を活用することとなります。これらの法的手段を講じるには、「どの資料が必要か」「なぜ開示が必要なのか」といった点を明確に主張する必要があります。目的の正当性を十分に説明できなければ、開示は認められません。
「相手の財産を調べる方法」の解説

別居時のクレジットカード明細開示は可能?
既に共同生活を解消している場合、同居中にも増して、プライバシーは強く保護されます。勝手にIDやパスワードを使ってカード明細を取得する行為は、不正アクセス禁止法違反やプライバシー侵害となるリスクが高いです。
別居中こそ、相手のプライバシーに配慮し、正攻法で開示を請求しなければならず、弁護士会照会や文書提出命令、証拠保全などの方法を活用することとなります。既に別居期間が長く、離婚を見据えている場合、弁護士に相談して準備を進めるのがお勧めです。
「離婚までの流れ」の解説

違法に収集した証拠は使えない?
民事裁判では、違法に取得した証拠でも、必ずしも排除されるとは限りません(刑事裁判では、違法収集証拠排除法則が強く働きます)。ただし、違法性が重大であると判断されると、残念ながら、折角収集した証拠も採用されないリスクがあります。
例えば、他人のID・パスワードを無断で使用すれば不正アクセス禁止法違反となり、犯罪に該当する可能性もあるので、民事裁判であっても証拠として利用できない可能性があります。また、仮に証拠として採用されても、刑事責任を問われるおそれもあります。
違法な手段を使わずとも、クレジットカード明細を入手するために、弁護士に相談して、状況に応じたサポートを受けるのがよいでしょう。弁護士に証拠収集を依頼すれば、無用なリスクを避け、証拠としての価値も確保できます。
まとめ

今回は、弁護士によるクレジットカード明細の開示請求について解説しました。
クレジットカードの利用明細は、離婚調停や訴訟で、不貞行為や不適切な支出の証拠となります。利用履歴に記載された店舗名や支払金額、日付などから、配偶者の行動を推認できるケースも少なくありません。ただ、カード明細だけでは証拠が不十分なこともあり、他の証拠と組み合わせることが重要です。たとえ夫婦でも、同意なく明細を取得したり、盗み見たりする行為は、不正アクセス禁止法違反やプライバシー侵害となるおそれもあります。
弁護士なら、弁護士会照会などの適法な手段で、クレジットカード会社に明細の開示を請求できます。不倫が疑われる離婚トラブルでは、裁判を見据えた証拠集めが欠かせません。どのように証拠収集すればよいか判断に迷うとき、ぜひ弁護士に相談してください。
- 本人の同意なく明細は取得できないが、弁護士会照会の活用が可能
- 強制力を持たせるには、裁判手続きが必要となる
- クレジットカード明細が取得できなくても、他の証拠で証明を試みる
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不貞慰謝料は、配偶者の不貞(不倫や浮気)による精神的苦痛に対して請求すべき賠償金です。離婚する場合はもちろん、離婚を回避する場合も、配偶者や不倫相手に対して請求することができます。
請求方法や法的な注意点、相場などを適切に理解するため、「不貞慰謝料」に関する解説を参考にしてください。