お互いにモラハラ被害を主張しているケースの対応方法、注意点を解説します。
夫婦の一方が、離婚時にモラハラ被害を主張したとき、相手からも「むしろあなたのほうがモラハラだ」と反論されてしまうことがあります。夫婦が互いに憎しみあい、お互いにモラハラ被害を主張するようなケースです。
モラハラはDVと違って、どちらが加害者で、どちらが被害者かわかりづらいことがあります。几帳面、神経質、自分の定めたルールに厳しい性格など、程度によっては単なる性格の問題で済むことも、度をすぎればモラハラにあたります。このとき、加害者にはモラハラの自覚はありません。
モラハラされたストレスから言い返していたら、相手に弁護士がついたとき逆にモラハラ扱いされてしまった例もあるため、注意が必要です。
- お互いモラハラを主張するケースがよくあるのは、モラハラの定義が広いことが原因
- 相手のモラハラ気質がひどいほど、モラハラの責任を議論することの意味は小さい
- お互いモラハラを主張するケースでは、目的(離婚もしくは復縁)を優先して考える
お互いにモラハラ被害を主張して争いになる理由
離婚時に、お互いに相手からのモラハラ被害を主張して争いとなるケースがよくあります。
このような事例がよく起こるには理由があります。その理由について「モラハラの性質」と「モラハラ被害者の性質」の両面から説明します。
モラハラの性質
モラハラは、よく離婚の理由としてあげられますが、不倫・浮気やDVなどとは違って、どちらが悪いとは必ずしも言い切れない性質があります。
このようなモラハラの性質からして、「モラハラ」と一言でいっても、相当強度なものでないかぎり、それだけでは裁判で離婚を認めてもらう理由(法定離婚原因)とはならず、慰謝料請求も認められないことが多いです。
モラハラの定義が曖昧で、幅広いことから、モラハラの被害にあったと主張する側からしても嫌なこと、不快なこと、思い通りにならないことは全部「モラハラ」だと理解しがちです。そのため、実は加害者でもあるのに、自分に不都合なことが起こると「モラハラ被害を受けているのは自分のほうでは」という勘違いが起こりがちです。
このとき、正しい理解のためには「モラハラ」という定義の広い「評価」をあらわすことばにこだわるのではなく、実際にどのような行為や被害があったかという「事実」に着目することが重要です。
モラハラ被害者の特徴
モラハラをしがちな、いわゆる「モラハラ気質」の夫(または妻)がいる一方で、よくモラハラを受けてしまう人にもまた、共通の特徴があります。例えば、モラハラ被害者には自分を責めてしまったり、我慢してしまったりという方が多くいます。
モラハラ加害者は自分がモラハラしているという意識がなく、被害者のせいだと強く責めがちです。
しかし、加害者に都合のよい考えにのせられてしまうと、モラハラ気質を更に加速させ、互いにモラハラ被害を主張し合う自体を招くことにつながります。
お互いにモラハラ被害を主張するとき、被害者側の対応方法
次に、モラハラ被害者の立場で、互いにモラハラ被害を主張するときどのように対応したらよいか、その方針ごとに分けて解説します。
- モラハラを理由に離婚したいとき
- モラハラを理由に慰謝料請求したいとき
- モラハラ問題はあるが、離婚を拒否して復縁したいとき
モラハラ被害を訴えると、相手から逆にモラハラを主張されることはよくあります。自分が正しいと信じてモラハラする加害者は、「相手が悪い」と本気で信じていますから、自分の主張への反論はすべて「逆方向のモラハラだ」と受けとられてしまいます。
お互いにモラハラを主張するとき、その責任を必ずしも明らかにする必要のないことが多いです。これは、以下で解説するとおり、離婚や慰謝料請求などの場面で、モラハラの責任の所在を明らかにしたところで、あまり結論に影響がないことが多いからです。
モラハラを理由に離婚したいとき
お互いにモラハラ被害を主張していて、モラハラを理由に離婚したいと考えているときには、モラハラの責任を明らかにすることなく早く離婚することを最優先にするのが正しい対応です。
それは、「相手のモラハラを理由に離婚したい」と考えているときに、最終的にモラハラの責任がどちらにあるのか明らかにすることにあまり大きな意味がないからです。
あなたがモラハラに耐えかねて離婚を求めているけど、相手もあなたのことをモラハラだといって、互いに被害を主張し合うケースでは、すでに夫婦関係は破綻したと評価できる可能性が高く、離婚自体については互いに合意が成立すると考えられるからです。
モラハラの責任より離婚を優先すべきケースでは、互いにモラハラの責任がどちらにあるかにこだわる意味はありません。
なお、次章で解説する慰謝料以外のお金に関する離婚条件(財産分与・婚姻費用・年金分割・養育費など)は、「モラハラがあるかどうか」によっては大きな影響を受けないのが基本です。そのため「金銭的な離婚条件をよくしたいからモラハラを主張しよう」というのも、軽度のモラハラではあまり意味がありません。
この点でも、モラハラの責任がどちらにあるかを明らかにする意義は薄いです。
モラハラを理由に慰謝料請求したいとき
これに対し、モラハラを理由に慰謝料請求したいときは、モラハラの責任を明らかにしなければなりません(離婚時の慰謝料請求はもちろん、離婚せずに慰謝料請求する場合も同じく)。
しかし、夫婦がお互いにモラハラ被害を主張しあうとき、慰謝料を認めてもらうためには相手が一方的に悪いことを証明する必要があります。どちらが悪いとは言い切れない程度のモラハラしかないときは、そもそも慰謝料が認められるほどの違法性がない可能性がありますから、早期の離婚を優先し、慰謝料請求はあきらめたほうがよいケースもあります。
なお、一方的な暴力のあるDVのケースでは、どちらが悪いか(暴力を奮った加害者が悪い)明らかであり、互いにモラハラ被害を主張するケースに比較して慰謝料請求を認めてもらうことが容易です。
離婚を拒否し、復縁したいとき
以上のケースとは逆に、モラハラがあると主張するものの復縁を希望するときでも、やはり、お互いにモラハラ被害を主張する場合に「どちらに責任があるか」をはっきりさせることにこだわるべきではありません。
別れようという決断に至らないのであれば、モラハラはよほど重度にならないかぎり夫婦間の問題であり、話し合いで解決すべきです。将来も夫婦として続けたいという気持ちがあるなら、モラハラの責任の所在を明らかにすることに意味はありません。
とはいえ、互いにモラハラ被害を主張するケースでは、相手は加害者なのに「自分は被害者だ」と自己を正当化してくるわけですから、復縁を選択すれば、更にモラハラがひどくなることが予想されます。
- 「モラハラを主張したが、やり直したいということは私が正しいと認めたということだ」
- 「自分の間違いを正し、謝罪し、今後の行動を改めるように」
といった、復縁を前提としたさらに理不尽な要求を突きつけられるおそれもあります。そのため、復縁を目指す道は、相当なストレスがあり、困難な道であるという覚悟が必要です。身の危険を感じてまで耐えることはおすすめできません。
お互いにモラハラを主張する時の注意点
最後に、お互いに相手のモラハラを主張するケースで、対応の際に注意しておいてほしい点について解説しておきます。
モラハラの責任問題について議論しない
まず、モラハラの責任問題について加害者と議論をしないことが大切です。お互いにモラハラ被害を主張するようなとき、加害者側では、その責任を明らかにするために議論をふっかけてくることがありますが、応じるのは得策とはいえません。
モラハラ加害者の目的は「問題解決」ではなく「議論」それ自体にあることが多いからです。あなたに嫌な思いをさせ精神的ストレスを与えるのが真の目的だという場合もあります。相手をしても精神的苦痛が増すばかりで、離婚などに向けた前進にはつながりません。
責任の所在について議論をすれば、あなたを逆にモラハラ扱いしてくる相手にとってみれば「反省がない」、「誠意がない」と屁理屈をこねるもととなり、更にモラハラがエスカレートするおそれもあります。
前章で解説したとおり、お互いにモラハラ被害を訴えているとき、その責任がどちらにあるかを明らかにしても大きな意味はないため、議論をすることはストップすべきです。
モラハラと夫婦喧嘩は違うと理解する
モラハラと似た状況(不平不満をぶつけ合い、相手の不満を指摘するなど)は、夫婦喧嘩でも起こりますが、モラハラを夫婦喧嘩と同じに扱うのは危険です。むしろ、モラハラを夫婦喧嘩と同じにとらえ「お互い様ではないか」と責任を押し付けるのは、モラハラ加害者がよくする話のすり替えです。
夫婦喧嘩は、円満な夫婦でも起こりうるもので、意見の相違を解決するためある程度必要なこともありますが、モラハラは、相手の非のないことでも非難し、揚げ足をとり、無用に人格否定をしたり、話をすり替えたりするもので、夫婦生活に不必要な行為です。非のないことを詰められたとき、もはや夫婦喧嘩ではなくモラハラです。
また、加害者側にモラハラの自覚がなく、謝罪や反省の態度がない点も夫婦喧嘩との大きな違いです。夫婦喧嘩であれば、言いたい放題言った後で自分側の非について反省し謝罪し、円満に戻ることも多いですが、モラハラ加害者は自分が正しいと信じきってモラハラするため、反省することはありません。
まとめ
今回は、モラハラを理由とした離婚問題でよく起こる、夫婦がお互いに相手のモラハラを主張しているケースについて、その理由と対応方法を解説しました。
互いにモラハラ被害を主張するケースがよく起こるのは、モラハラという単語は多義的だというモラハラ自体の性質と、モラハラ被害者によくありがちな特徴に原因があります。
いずれにせよ、暴力などはないモラハラにとどまる限り、モラハラの責任がどちらにあるかを明らかにすることに大きな意味はありません。そのため、相手から「むしろあなたがモラハラだ」といわれても、モラハラの責任の所在にはこだわらず、早期の離婚を目指すのがおすすめです。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題を数多く取扱い、モラハラ問題を解決に導いた実績が多数あります。
相手にモラハラがあるケースでは、当事者間の話し合いは困難であるか、ストレスの大きいものであるためおすすめできません。モラハラをはじめ、離婚問題にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。
モラハラについてよくある質問
- お互いモラハラを主張するケースで離婚するために、どうしたらよいですか?
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お互いモラハラ被害を主張するケースでは、夫婦関係はすでに破綻し、離婚には争いがないと考えられます。離婚を優先して考えるなら、モラハラの責任の所在について議論はやめるべきです。もっと詳しく知りたい方は「お互いにモラハラ被害を主張するとき、被害者側の対応方法」をご覧ください。
- お互いにモラハラを主張するケースで注意する点はありますか?
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モラハラ気質の相手ほど、モラハラ被害を主張して議論をしたがります。ストレスを与えて嫌な思いをさせることが理由な場合もあるため、付き合ってはなりません。もっと詳しく知りたい方は「お互いにモラハラを主張する時の注意点」をご覧ください。