妻からモラハラと言われたとき、夫側の立場ではどのように対処すべきでしょうか。突然に「モラハラ夫(モラ夫)」というレッテルを貼られ、心外なことでしょう。
しかし、冷静な対応を心がけてください。感情的に反論すれば、「自覚がない」「反論もモラハラ気質だ」などと言いがかりを付けられ、再反論を受けるおそれがあります。モラハラ夫呼ばわりに腹を立て、怒鳴って言い返せば、まさに「自分がモラ夫だ」と認めたかのようなものです。離婚をめぐる争いで妻が「モラハラ夫だ」と争ってくるのは、離婚の責任が夫にあると示し、交渉や調停、訴訟で有利に立とうとしているからです。
今回は、妻からモラハラと言われたときの夫側の適切な対応方法を、弁護士が解説します。暴力やDVの証拠はなく、責任が曖昧になりがちなモラハラ離婚こそ、慎重な行動が求められます。
- 「モラハラ」という用語の定義は抽象的であり、とても広い概念
- 妻から「モラハラ夫(モラ夫)」と決めつけられても、焦る必要はない
- 具体的な事実を検討し、嘘や誇張に対しては証拠に基づいて反論する
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モラハラをめぐる夫婦間の主張と反論について
突然に、妻やその弁護士から「モラハラ夫だ」と主張されることがあります。
一般に、「モラハラ」というと、暴言を吐いたり、妻に対して怒鳴り散らしたりするケースをイメージするでしょう。最悪は、殴ったり蹴ったりといったDV(家庭内暴力)に発展します。このような強度かつ悪質な事例を想定すると、「自分はモラハラではない」と思うかもしれません。しかし、「モラハラ」という用語の意味は非常に広く、夫と妻との考えにも差があります。
これまで夫婦仲は円満であると感じていた人にとって、離婚の話になったからといって突然にモラハラと主張されるのは納得いかないことでしょう。はじめに、モラハラをめぐる夫婦間の主張と反論について、基本的な考え方を解説します。
夫側の反論
妻から「モラハラ夫だ」と言われるケースの中には、離婚の話になるまでは一切モラハラを指摘されたこともない人もいます。弁護士が付いた途端に「長年のモラハラに苦しんできた」「精神的苦痛に相当する慰謝料を請求する」と言われ、理不尽に感じる気持ちは理解できます。
夫側としては、以下のように感じることでしょう。
- 妻の弁護士が入れ知恵しているのではないか
- 戦略的に「モラハラである」と言いがかりを付けているのではないか
- 調停や訴訟を有利に進めるために嘘を付いている
このような邪推から、どうしても妻の言い分を受け入れることができず、離婚に向けた交渉が頓挫してしまうケースも少なくありません。
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妻側の再反論
しかし、夫側の言い分に対しては、妻側から次のように反論されます。
- 妻がモラハラを指摘しなかったのは我慢していたから
- 夫の仕返しが怖くて責任を追及できかかった
- 妻が「モラハラ」と言い出せないほど威圧していたのではないか
「モラハラを我慢していたかどうか」という議論になると、もはや妻の内心の問題であり、夫としても否定しづらく、反論の証拠も準備できません。仮に、妻に付いた弁護士が、戦略的にそのような主張をしているのだとしても、強く言い返すほど上記のような再反論を強めてしまいます。
ただ、「モラハラ夫」と言われたとしても、離婚条件について妻の言うことを聞かなければならないわけではありません。また、仮にモラハラがあったとしても、直ちに高額の慰謝料請求が認められるわけでもありません。事実と反する「モラハラ夫」認定に対しては、証拠に基づいてしっかりと否定し、戦うのが正しい対応です。
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モラハラの定義はとても広く抽象的である
モラハラと言われた夫側が想像するイメージは、「モラハラ」の中でも特にひどい一部の類型であることが少なくありません。実際は、「モラハラ」という用語は、もっと広い意味で使われます。「モラハラ夫だ」と主張する妻側の弁護士も、そのような広い意味で「モラハラ」を使用している可能性があり、その場合、そもそも想定しているケースに大きな差があります。
モラハラという単語の過激さに惑わされず、「実際に、どのような行為をしたと主張されているのか」に目を向け、冷静に議論することが夫側としての適切な対応です。
モラハラという言葉は、「暴力(DV)を除いて、言葉や態度などで、夫婦の一方に対して、精神的苦痛を与える行為」というような広い意味で考えるべきです。例えば、次の行為のうち軽度なものも、「モラハラ」に含まれることがあります。
- 妻を傷つけるきつい暴言
- 相手を意図的に無視する態度
- 身体的な危害を予想させる暴言
- 家事・育児の不手際について過剰に攻め立てるモラハラ
- 妻の容姿や肉体的な特徴についての悪口
- 金銭感覚の違いについて過剰に指摘するモラハラ
- 妻の交友関係を悪く評価するモラハラ
- 妻の家族・親族、相手の育ちを否定するモラハラ
- 一時の感情でカッとなって怒鳴りつけるモラハラ
- 過度の性交渉を求める(もしくは、逆に性交渉を拒否する)
- 近隣住民、共通の友人、知人に妻の悪口を広めるモラハラ
このように分類して列挙していくと、少なくともいくつかは、「一時的な感情でつい言ってしまったかもしれない」「該当する発言があったかもしれない」と感じる人は多いでしょう。つまり、「モラハラ」といわれる行為でも軽度なものなら、夫婦関係を長く続けていれば、一度や二度は誰しもが経験あるかもしれない言動が含まれるほど、広い概念なのです。
一方で、広い概念だからこそ、「モラハラ」に該当する行為のうち、軽度の発言や行為を行ったとして、それだけで離婚を受け入れたり、妻側の離婚条件を全て飲んだり、高額の慰謝料を支払ったりする義務が直ちに生じるわけでもありません。
「モラハラ夫(モラ夫)」認定された夫側の適切な対応
次に、妻からモラハラと言われたときの適切な対応について解説します。
「モラハラ」は広い定義であり、長く夫婦生活を続ければ誰しもが心当たりのあるほど軽度な言動も含みます。「モラハラ夫(モラ夫)」との指摘は心外で、釈然としない気持ちは理解できますが、だからといって夫が完全に不利な立場に立たされたかというと、決してそうではありません。
安易に「モラハラ」という言葉を使う妻がいる一方で、暴力を伴う重度のケースもあるため、事実と証拠に照らして、適切に反論をしなければなりません。
弁護士に法律相談する
妻からモラハラと言われたら、まずは離婚問題の経験豊富な弁護士に相談してください。
妻が「モラハラ夫だ」と強く主張しているとしても、その定義や基本的な考え方を理解せず、「とりあえずモラハラを主張すれば有利に離婚できる」と誤解している可能性もあります。
妻が弁護士を依頼した途端に、これまで主張されなかった「長年我慢し続けたモラハラ」を争点にされたなら弁護士が戦略的に考えて「モラハラ夫(モラ夫)」のレッテルを貼ろうとしているおそれがあります。いずれの場合も、夫側では、「モラハラ」の正しい理解の元に反論の戦略を練るため、弁護士のアドバイスをお聞きください。
法律相談の後、弁護士への依頼は必須ではなく、持ち帰って検討することも可能です。妻の考えに誤りがあるなら、法律相談だけで解決できることもあります。話し合いでは解決せず、離婚調停や離婚裁判(離婚訴訟)に発展するおそれのあるときは、妻が主張する「モラハラ」がどの程度不利に影響するか、早めに理解しておきましょう。
「弁護士に相談する前の準備」の解説
「離婚したいかどうか」の方針を決める
過去にモラハラしてしまったとしても、その回数や程度によっては、直ちに離婚において不利な影響があるわけではありません。むしろ重要なのは「モラハラの有無」ではなく、それをきっかけとして夫婦関係が破綻しているかどうかや、あなたが将来離婚したいかどうか、といった方針です。
「モラハラ夫(モラ夫)」という汚名を返上したいのは当然ですが、妻も、離婚に向けた戦略として「モラハラ」という主張を利用しているとき、夫側も「離婚したいかどうか」の方針を決定し、その目標に合った対処をすべきです。弁護士にそそのかされ、戦略的に「モラハラ」と指摘しているとしても、離婚条件に悪い影響を及ぼさず、目指す離婚をスムーズに実現できるなら、その方が早いこともあります。
「モラハラ」と主張された事実をどのように戦うかは、「離婚するかどうか」について決定した方針に従い、有利になるよう戦略的に検討すべきです。
「協議離婚の進め方」の解説
モラハラと指摘された事実を検討する
妻からの「モラハラ」の責任追及について、「モラハラに当たるかどうか」という観点で反論しても、議論が噛み合わないことがあります。
第一に、妻から「モラハラ」と指摘された「具体的な事実」が存在するか、それとも事実自体がないのかを検討してください。その上で次に、事実そのものは存在する場合、その態様や程度によって「モラハラ」と評価できるかどうかを検討します。この際も、「モラハラ」が非常に広い概念であることからすると、「確かに広い意味ではモラハラに該当するかもしれない」という結論になるおそれもあります。
具体的な「事実」と、その「評価」は分けるべきです。妻が指摘する行為がそもそも存在しない場合は、「モラハラかどうか」という議論に踏み込むまでもなく、「そのような言動はしていない」と反論すべきです。これに対し、行為そのものは存在する場合、「モラハラではなく些細な夫婦喧嘩である」「感情的にお互い言い争いをしていたので、一方的なハラスメントではない」などと「評価」を争う形で反論します。
なお、妻の主張を認めざるを得ないにしても、それだけでは法定離婚原因とはならず、慰謝料請求の対象ともならないケースも多いものです。
嘘や誇張があるなら証拠に基づき反論する
妻からモラハラと言われても、「事実」と「評価」は区別して反論すべきと前章で解説しました。しかし、指摘された行為は存在するにせよ、「一部ないし全部が嘘である」「誇張しすぎだ」と感じるケースもあります。
この場合にも、「虚偽だ」「誇張だ」と反論するだけでは、反論が抽象的で、有効とはいえません。そうではなく、「モラハラに当たらない」と反論するためには、その具体的な行為自体が嘘や誇張であることを、客観的な証拠を示して反論することが重要です。
離婚調停や離婚裁判(離婚訴訟)といった裁判所で行われる手続きは特に、証拠が重要です。相手の主張を必死に否定しても、むしろ「独自の価値観に固執している」といったモラハラ夫(モラ夫)の典型例であるかのようなイメージを作出しかねません。証拠に基づいて的確に反論することが、離婚を有利に進める近道となります。
「モラハラの証拠」の解説
「モラハラ」を行った理由を説明する
暴力を振るうのに「やむを得ない」理由はありません。殴る、蹴るなどの暴力は、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)に該当する犯罪行為であり、いかなる理由でも許されません。
一方、モラハラは、程度にもよりますが、よほど悪質でない限り犯罪にはなりません。モラハラ行為を実際にしてしまったとしても、その前後の事情や状況、理由によっては、「モラハラ行為はあるが、夫としても仕方ない理由があった」と情状を主張し、反論できるケースもあります。
モラハラに当たる行為をしたからといって、直ちに不利になるとは限りません。やむを得ない事情があるなら、その理由を説明して、理解を求める必要があります。特に、夫婦喧嘩中の「売り言葉に買い言葉」ということもあり、妻側にも暴言や暴力があるときには、夫だけが一方的に「モラハラ夫(モラ夫)」呼ばわりされる筋合いはなく、争うべきです。
「離婚までの流れ」の解説
まとめ
今回は、モラハラといわれたときの対処法について解説しました。
「モラハラ」は、良い条件で離婚をしようとする妻側からよく主張されます。夫側では、「モラハラ夫(モラ夫)」呼ばわりされたことに憤慨し、感情的に対応するのは適切ではありません。「モラハラ」はとても広い概念なので、その行為自体は、誰しも一度はしてしまっているかもしれません。
離婚の争いでは、モラハラの主張はよく行われますが、その定義の広さを知れば、「モラハラ」に該当するからといってすぐに離婚が認められたり、高額な慰謝料を払わされたりすることはないと理解できるでしょう。むしろ、モラハラと妻が主張した具体的な事実に着目し、冷静に反論することが、離婚の交渉を有利に進める役に立ちます。
妻が弁護士を立て、「モラハラ夫」のレッテルを貼って有利に離婚しようとしているとき、夫側でも弁護士のサポートが不可欠です。
- 「モラハラ」という用語の定義は抽象的であり、とても広い概念
- 妻から「モラハラ夫(モラ夫)」と決めつけられても、焦る必要はない
- 具体的な事実を検討し、嘘や誇張に対しては証拠に基づいて反論する
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モラハラやDVは、被害者に身体的、精神的な苦痛を与える重大な問題です。正しい知識を持ち、適切に対処しなければ、被害を防ぐことはできません。
自身や身近な人が、モラハラやDVで悩んでいるとき、「モラハラ・DV」に関する解説を参考に、状況改善のために役立ててください。