「子どもを連れ去られてしまった」という問題は、とても緊急性が高く、即座の対応を要します。とはいえ「すぐに押しかけて連れ去りし返そう」といった対応は適切ではありません。
重要なのは、法的に認められた正しい手続きを利用することです。そのため、スピーディに、家庭裁判所を活用して子どもを取り戻す努力をするのが、正しい対応です。
子どもの連れ去り問題は、夫側からも妻側からもご相談いただくことのある深刻な問題です。当事務所では、「子どもを連れ去られてしまった」と主張する側のサポートはもちろん、別居時に「子の連れ去り」を疑われてしまった側の弁護活動にも豊富な解決事例を蓄積しています。
今回は、重大な子どもの連れ去り問題に関して、連れ去られた直後にすべきこと、連れさられた子を取り戻すための法的手段について、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。
- 子どもを連れ去られてしまったら、子の安否を確認し、すぐに交渉を開始する
- 子を取り戻す法的手続きのうち、監護者指定・子の引き渡しの審判と、保全処分がよく利用される
離婚前の別居のときに知っておきたい重要な法律知識は、次のまとめ解説をご覧ください。
違法な子どもの連れ去りとは
子どもの連れ去り行為は、夫婦のいずれにも起こりうる問題です。
連れ去られた側からすれば、子どもを誘拐されたに等しいと感じるでしょう。取り乱してご相談に来られる方も多くおられます。夫婦である間は共同親権ですから、親権者の同意なく、勝手に子どもを連れ去ることは、未成年者略取誘拐罪(刑法224条)にあたり「3月以上7年以下の懲役」にあたりうる悪質な行為です。
親権・監護権をとりたいと思って、監護実績を積み重ねようと子どもを連れ去る方もいますが、逆効果といわざるをえません。むしろ将来の親権・監護権の判断にとって、違法な連れ去りはマイナス評価となります。
そのなかでも、相手の合意のない状態で、平穏な生活を壊すような態様でする子どもの連れ去りは、違法性が高いといえます。違法と考えられる連れ去り行為は、例えば次のとおりです。
- 学校や保育園の通学・通園時に待ち伏せして子どもを連れ去る行為
- DV・虐待行為をともなって子どもを強引に連れ去る行為
- 一旦別居を開始し、生活が落ち着いた状態の子どもを連れ去る行為
- 面会交流中に子どもを返さない行為
逆に、子どもがDV・虐待を受けていて、緊急避難的に子どもを連れだす行為は、違法な連れ去りとは評価されません。そのため、子どもを連れて別居をするケースのすべてが違法となるわけではないため、注意が必要です。
子連れ別居の際の注意点については、次の解説も参考にしてみてください。
子どもを連れ去られた直後に、すぐすべき対応
子どもの連れ去り問題は、子どもの身の安全にかかわる重大な問題であるため、スピード重視で行動しなければなりません。
すぐに弁護士に相談して対応いただきたい問題です。ここでは、連れ去りが発覚した直後に即座に確認しておいてほしい点を3点に限定してまとめました。
子どもの安否
第1優先は、連れ去られた子どもの安否確認です。
連れ去った配偶者の知り得るかぎりの連絡先に連絡をして、確認をとるようにします。相手の携帯電話やLINEに連絡をし、「子どもの安全を確認したい」とつたえましょう。このとき、相手の責任を追及したり、否定したりするのではなく、あくまでも「子どもが心配だ」という姿勢を示すのが重要なポイントです。
また、相手が警戒しているときに強引に「居場所」を特定しようとすると、ますます警戒されてなにも教えてもらえないおそれがあります。まずは「子どもが心配だ」という姿勢を崩さず、所在の確認より、子どもの安否確認を優先してください。
相手に直接連絡をして子どもの安否を確認できないときは、警察への連絡もあわせておこなっておきます。警察が、出て行った配偶者や子どもの安全の確認に協力してくれます。
ただし、警察はあくまで安全の確認をするだけで、離婚問題や子の連れ去り問題について「どちらの責任か」、「今後子どもを戻すべきかどうか」といった点を決めてくれはしません。家庭内の問題についてどちらかの味方になってサポートしてくれるわけではないため、自分勝手な言い分の押し付けはやめましょう。
今後の交渉窓口
次に、今後の交渉窓口を確認します。連れ去りがあったということは、今後、離婚するときには、親権・監護権・面会交流といった、「離婚と子ども」に関する条件が、大いに争われると予想されます。
漫然と時間が過ぎてしまって、離婚協議について相手のペースにのってしまうのは避けなければなりません。しかし一方で、自分の主張を伝えようとしつこく連絡したり、怒鳴ったりといった行為は「同居時にひどいモラハラや虐待があったのでは」と推認されるおそれもあります。
相手の交渉窓口をきちんと特定し、誠意をもって交渉を進めることは、「子どもを連れ去った」という相手の問題点を浮き彫りにするという点でも効果的です。
別居する相手方の置手紙が残されており、そこに弁護士の連絡先が書いてあったり、別居後数日以内には弁護士から電話もしくは内容証明郵便で連絡がくることが多いため、しばらく待つほうがよいでしょう。
なお、弁護士には守秘義務があるため、たとえ弁護士が交渉窓口となるとしても、子どもを連れ去った配偶者や子どもの居場所を教えてくれることはありません。
この点で、弁護士と交渉をする際にも「子どもが大切だ」という姿勢を崩さず、相手の居場所を特定しようと詮索する態度はおすすめできません。
連絡を拒絶されたときの対応
ここまでのことは、子どもの連れ去りをした相手との連絡がとれる場合の対応方法でした。
しかし、夫婦関係が悪化して別居に至っているとき、相手はあなたの連絡には応じないかもしれません。特にDV・モラハラや虐待が疑われる事例では、相手は警戒して連絡を拒絶しているおそれがあります。
このような場合には、相手の実家や親族に連絡をし、確認をするようにします。なお、相手の職場に連絡をすることは公私混同となり、迷惑になってしまったりすることもあるため慎重にならなければなりません。子どもを連れ去られて精神不安定になる気持ちはわかりますが、緊急事態こそ冷静な対応が重要です。
連れ去られた子どもを取り戻す方法
「強引に取り戻す」方法はかえって不利になるおそれもあります。ここでは、法的に認められた合法な手段で、連れ去られた子どもを取り戻すための方法について解説します。
連れ去られた子どもを取り戻したいとき、時間との闘いとなります。なぜ、連れ去られた子どもを取り戻したいのでしょうか。それは、相手のもとでは満足な養育をすることが難しい、子どもにとって悪影響の及ぶ環境に置かれるおそれがある、という不安があるからでしょう。
そのような状態から、一刻も早く子どもを取り戻す必要があります。連れ去りから長期間が経過してしまえば、子どもが新しい環境に馴染み、法的手続きにおいても取り戻しを認めてもらえる可能性が下がってしまいます。
監護者指定・子の引渡しの審判・保全処分
子どもの連れ去りが起こったとき、話し合いで子どもを取り戻すのはもはや不可能な状況が多いといってよいでしょう。このとき、大至急、利用すべき法的な手続きが、監護者指定・子の引渡しの審判です。
すみやかに審理を開始し、子の安全を確保するためには、審判の申立てとともに、審判前の保全処分を申し立てておくのが有効です。保全処分は、一般に仮処分と呼ぶこともある制度です。
つまり、監護者指定、子の引渡しについて調停や審判で審理をして決定を下すまでには一定の時間がかかり、これを待っていると子どもへの不利益が計り知れないというケースで、保全の必要性があるものとして、仮に決めてもらうための手続きを利用することができるというわけです。
ただし、実務上は、監護者指定、子の引渡しの審判とともに仮処分の申立てを行った場合、仮処分の決定と同時に、監護者指定、子の引渡しの本案の審判も下されることが多いです。
人身保護請求
人身保護請求は、人身保護法という法律に定められた制度で、「法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている」という場合に「その救済を請求する」という制度です(人身保護法2条)。
人身保護請求は、家庭裁判所ではなく地方裁判所に対して、原則として弁護士が行うこととなっています。
ただし、人身保護請求によって子どもの連れ去り問題を解決するためには、連れ去りの明らかな違法性が必要であり、他に手段がないことといった要件を満たす必要があります。また、強制執行をすることはできません。そのため、監護者指定・子の引渡しの審判・保全処分を優先して行うことが多く、実務上はあまり利用されることはありません。
面会交流調停
上記2つの手続きを利用するほどの緊急性はないケースや、あなたにとっても相手方のもとで子どもを養育することについては争いがないケースでは、面会交流調停を申し立てるという方法を検討します。
面会交流調停は、離婚が成立するまでの間に、子どもを監護していない親(非監護親)が子どもに会う(面会交流する)ためのルール作りを目的とした家庭裁判所の手続きです。離婚に進む場合には、あわせて離婚調停や婚姻費用分担請求調停の申立てを行い一緒に審理してもらえます。
面会交流もまた、親の気持ちの押し付けによることなく、「子の福祉」の観点から家庭裁判所による判断がなされます。
監護者指定・子の引渡しの審判前の保全処分の流れ
以上で解説した、連れ去られた子どもを取り戻すための法的な方法のうち、もっともよく利用される監護者指定・子の引渡しの審判前の保全処分は、事例自体が少なく、非常に専門的なケースといえます。
そのため、これらの手続きについて豊富な経験のある弁護士が、その内容や注意点を、詳しく解説します。
審判・保全処分の申立てにあたり、申立書の作成、戸籍の取得が必要となります。
審判・保全処分の審理では、子の監護状況に関する詳細な事情、子の監護に関する経緯、夫婦間の話し合いの状況などが勝負を分けるため、申立所の作成の際には、弁護士が相談者から十分に事情を聴取します。
監護者指定・子の引渡しの審判、審判前の保全処分は、緊急性の高い裁判と位置付けられているため、裁判所内でも、他の事件と比べて速やかに期日指定がされます。
申立てを行ってから7~10日以内に申立人に裁判所から連絡が届き、裁判所から期日の候補が挙げられます。
通常、審理開始から審判まで、3~4か月程度です。審問日当日は、事実関係の確認、子の監護状況、過去の子の監護状況の確認が裁判官からなされるほか、次で説明する調査官による調査と調査報告書の開示が行われ、審判が下されます。
監護者指定・子の引渡しの審判で最も重要なのは、家庭裁判所の調査官による調査です。
家庭裁判所の調査官とは、心理学や家庭問題について教養を深めた裁判所職員であり、子の問題に関わる家事事件のプロフェッショナルです。
調査官の作成した調査報告書は、審理において重要な資料となります。
子の引渡しを命じる審判が確定した場合、まずは相手方から任意による引渡しが行われることが求めます。
任意の引渡しに応じない相手には、履行勧告の制度を利用して、家庭裁判所から履行を説得したり、勧告したりしてもらうことができます。
子を引き渡さない相手方に対しては、強制執行という裁判所の手続を利用しなければなりません。
強制執行には、直接強制と間接強制の2種類がありますが、いずれの場合も、子どもにとってストレスにならないよう、子の福祉の観点に配慮して進められます。
強制執行については、「子の引渡しの強制執行に関する民事執行法改正」の解説も参考にしてください。
子どもの連れ去り問題で弁護士に相談するときの注意点
子どもの連れ去り問題は、とても深刻な問題であり、当事者だけで対応するのは困難です。子どもを連れ去るほどの覚悟があるということは、相手もまた必死に戦ってきます。
子どもの連れ去りは、事例数が少ないため、弁護士に依頼すべき離婚・男女問題のなかでも、特に専門性の高い分野です。ここでは、弁護士に相談して少しでも早く動いてもらうために、法律相談時の注意点についてまとめておきます。
子どもの連れ去り事例の経験豊富な弁護士に相談する
子どもはかけがえない存在であり、お金で解決できるその他の離婚条件とは区別して考えなければなりません。そのため、子どもの連れ去り事例を相談するときには、このような特殊なケースについて、経験豊富な弁護士に相談する必要があります。
連れ去られた子どもを取り戻す方法のうち、子の引渡し・監護者指定の審判と保全処分、面会交流調停などの複数の選択肢のなかから事案に即して適切なものを選ぶ必要があります。また、審判と保全処分は、それほど多く起こる事例ではないため、離婚を取り扱ったことのある弁護士でも、経験したことのない弁護士も少なくありません。
下記では、当事務所の取り扱った子どもの連れ去り事例に関する解決事例についてご紹介します。
離婚を決意した妻がモラハラ夫から逃れるため子を連れて別居した事例で、夫から申し立てられた子の引渡し等審判にてその申立てを退けることに成功しました。
過去に子へのDVもあった夫が子を連れ去った事例で、妻から申立てた子の引渡し等審判にて子の引渡しに成功しました。
連れ去り前後の状況を具体的に伝える
子どもを取り戻せる確率をできるだけ上げるためには、依頼を受けたらすみやかに着手する必要があり、時間との勝負です。とはいえ、一方で、弁護士としても、詳しい事情をよく聞き取らなければ、正しい判断はできません。
このとき、弁護士につたえてほしいのは、連れ去り前の子どもの監護状況、わかる範囲で連れ去られたときの状況、連れ去り後に本解説前半で説明したように安否や所在の確認をした内容といった点です。
重要なのは、これらの経緯について、事実を的確に伝えることです。子どもを取り戻したいという気持ちから冷静になれないのは当然ですが、感情が先行してしまうと、重要な事実が弁護士に伝わらず、かえって時間を無駄に使ってしまうおそれがあります。
弁護士に伝えるために文章をまとめる場合にも、できるだけお気持ちを排除し、事実を時系列で簡潔にまとめることが重要なポイントです。
親権・監護権に不利な行為をしない
弁護士に依頼することとなったら、自分で無暗に行動するのはおすすめできません。特に、子どもに関わる問題となると「自分でもできることがあるのではないか」、「もう少しでなんとかなるなら自分でも動いてみたい」と相談される方も多くおられます。
しかし、法的に正しい手段で取り戻し行為をするのでなければ、離婚時の親権・監護権についての判断で、不利にはたらくおそれもあります。
家庭裁判所は、親権・監護権について「子の福祉」の観点から判断をしますが、あなたが「子どものためだから」と思って行ったことが、客観的には自分の気持ちの押しつけと評価されてしまう危険があります。
まとめ
子どもの連れ去りの問題は、子どもの将来にかかわる重要な問題であり、慎重な対応が必要となります。決して、感情的になって、切迫した行動を起こすことはしてはなりません。一方で、生活の安定を勝ち取るためにも、速やかに対応しなければなりません。
子どもを最優先に考えて検討した場合、行うべき法的手段は、監護者指定・子の引渡しの心配及び保全処分、面会交流調停といった中から、ケースに応じて適切なものを選ぶこととなります。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題はもちろん、なかでも、子どものからむ複雑かつ深刻な問題について、豊富な対応実績があります。
いずれも、離婚問題の中でも事例数自体が少なく、経験豊富な弁護士に相談すべきケースです。子の連れ去りや別居の問題でお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。
子の連れ去り問題でよくある質問
- 子どもの連れ去りに対応するには、どんな方法がありますか?
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子どもの連れ去りはとても深刻な問題ですが、対応する際には、適法な方法で行わなければなりません。裁判所を利用した手続きのなかでも、最もよく利用されるのが、監護者指定・子の引渡しの審判と、審判前の保全処分です。もっと詳しく知りたい方は「連れ去られた子どもを取り戻す方法」をご覧ください。
- 子どもを連れ戻すために、注意すべき点はありますか?
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子どもは何にも換え難く、特に、他の離婚条件とは違ってお金で解決できないため、冷静になれない方のなかには、違法な連れ戻し行為に走ってしまう方もいます。しかし、強硬手段に出たとき、離婚時の親権・監護権や面会交流の判断で不利に評価されるおそれもあります。詳しくは「子どもの連れ去り問題で弁護士に相談するときの注意点」をご覧ください。