
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
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親権喪失とは、家庭裁判所の審判によって親権を失わせる制度です。
父または母による虐待や悪意の遺棄、親権行使が著しく困難または不適当であることによって子の利益が著しく侵害されることが要件とされます。この制度は、子供の安全と福祉を守ることを目的として設けられ、親権喪失の審判がなされると、対象となった親は身上監護権、財産管理権、代理権といった親権に属する一切の権限を失います。
一方で、親権喪失となっても、親としての扶養義務や相続権などは維持されます。また、親権喪失の原因が消滅した場合、審判の取消しを求めることもできます。2011年の民法改正では、親権を無期限に失わせる「親権喪失」とは別に、2年以内の期間に限って親権を制限する「親権停止」の制度が創設され、事案の重さに応じた柔軟な対応が可能となりました。
今回は、親権喪失制度の概要や要件、家庭裁判所における手続きの流れについて、弁護士が分かりやすく解説します。

親権喪失とは、親の子供に対する親権を失わせる家庭裁判所の審判手続きです。
親による虐待や育児放棄(ネグレクト)、親権の濫用などによって子供の利益が著しく害されている場合、家庭裁判所の審判によって親権を失わせることができます。親権喪失の制度については民法834条に、次のように規定されています。
民法834条(親権喪失の審判)
父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。
民法(e-Gov法令検索)
親権は、未成年の子供を監護・教育し、その財産を管理し、法律行為を代理するための権利・義務です。具体的には、監護教育権(民法820条)、居所指定権(同822条)、職業許可権(同823条)などの「身上監護権」と、子供の財産を管理し法律行為を代理する「財産管理権」が含まれます。これらはいずれも、親のためではなく、子供の利益のために行使しなければなりません。
したがって、子供の利益を守るために親権を行使できない状態となったときは、その権限を剥奪することとなります。親権喪失の目的は、親に対する「制裁」ではなく、あくまで子供の安全や福祉を確保することにあります。そのため、家庭裁判所では、「子の福祉(利益)」を最優先に、親権喪失が必要かどうかが慎重に審理されます。
なお、親権喪失が認められても親子関係そのものがなくなるわけではなく、養育費の支払い義務や相続関係は続きます。
親権喪失が認められる要件は、前述の民法834条に定められています。
具体的には、「虐待又は悪意の遺棄があるとき」と、「親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」です。また、「2年以内にその原因が消滅する見込みがあるとき」は、親権喪失は認められません。
これらの要件が認められる場合、家庭裁判所は親権喪失の審判を命じることができます。以下では、それぞれの要件について解説します。
虐待は、子供を身体的または精神的に過酷に扱うことです。児童虐待防止法は、殴る・蹴るといった身体的虐待だけでなく、性的虐待、育児放棄(ネグレクト)、心理的虐待もまた「虐待」であると定義しており、いずれも親権喪失の理由となり得ます。

悪意の遺棄とは、正当な理由がないのに、親権者の義務とされる子供の監護・養育を怠ることであり、育児放棄(ネグレクト)はその典型例です。
「親権行使が著しく困難」とは、精神的または身体的な故障などにより、適切な親権の行使が不可能であるか、またはこれに近い状態になることを指します。親権者の重病や障害、アルコール依存症や薬物中毒などが典型例です。なお、精神疾患など、親権者に非がなくても該当します。
「親権行使が著しく不適当」とは、虐待したり、養育に必要な措置をほとんど行わなかったりして、親権の行使方法が適切さを欠く場合や、父または母に親権を行使させることが子供の健全な成長のために著しく不適当である場合を指します。
重要なポイントは、「著しく」という要件がある点です。これに対し、親権停止の要件は「親権の行使が困難又は不適当であること」と定められていることから、親権喪失はこれよりも程度が著しいことが必要とされます。
虐待や悪意の遺棄、親権の行使が著しく困難又は不適当であるとき、子供の利益が害されることは明らかですが、これに加え、実際に子供の成長に与える影響や子供本人の意思などを総合的に考慮して判断されます。
2年以内に原因が消滅する見込みがある場合は、親権喪失の審判は認められません。この場合、完全に親権を剥奪する「親権喪失」は行き過ぎであり、2年以内の期限付きで親権を制限する「親権停止」を活用すべきだと考えられます。
次に、親権喪失が問題となる具体的なケースについて解説します。
親権喪失は、親権者の行為によって子供の利益が著しく害される場合に検討されます。特に、虐待や育児放棄(ネグレクト)など、子供の心身に重大な影響を及ぼすケースは深刻です。
親が日常的に子供へ暴力を振るうケースは、親権喪失の審判が下される典型例です。
身体的虐待はもちろん、心理的虐待、性的虐待などでも、親権喪失が認められます。暴力によって子供にケガを負わせる、暴言や脅迫を繰り返して精神的苦痛を与える、性的に虐待するといった行為は、子供の健全な成長を著しく害することは明らかです。裁判所で認められるには、虐待によるケガやあざの写真、虐待時の動画、診断書、目撃証言などの証拠の準備が欠かせません。
親権喪失の審判が下されたケースには、次の例があります。
親が子供の養育を放棄し、必要な世話をしない「ネグレクト」も、継続すれば子供の生命や健康に重大な危険を及ぼし、親権喪失の理由となり得ます。
親権喪失の審判が下されたケースには、次の例があります。
親権者には子供の財産を管理する権限があるものの、その権限は子供の利益のために行使しなければなりません。そのため、子供名義の預貯金を私的に流用したり、相続財産を使い込んだりといったように、子供の財産を不当に侵害する行為は、親権喪失の理由となることがあります。
なお、身上監護に問題がない場合、管理権のみを制限する「管理権喪失」の審判が下されるケースもあります(詳しくは「親権喪失と管理権喪失との違い」で解説します)。
親権者には、子供が必要な医療や教育を受けられるよう配慮する責任があります。
そのため、必要な医療を受けさせずに子供の生命や健康を危険に晒したり、義務教育を受けさせないなど子供の成長や発達を妨げたりする場合、親権喪失の理由となることがあります。もっとも、医療や教育について親同士の価値観や考えが異なることがありますが、対立が生じたというだけで直ちに親権喪失が認められるわけではなく、子供の利益が著しく害されたことが必要です。
「連れ去り別居」の解説

親権喪失の審判を請求することができるのは、次の者です。
子本人が親権喪失の申立をするには「意思能力」が必要とされます。家庭裁判所の実務では、15歳以上の子には意思能力が認められ、15歳未満であっても、その事案ごとに子供が親権喪失の必要性を判断できるかを個別に検討します。

次に、親権喪失の手続きについて、具体的に解説します。
親権喪失は、家庭裁判所に審判手続きを申し立てることによって行います。親権喪失が必要となるような重大かつ緊急のケースほど、速やかに進めるために弁護士のサポートが必要です。
なお、申立てから家庭裁判所の審理を経て審判が下されるまでは、通常3ヶ月〜6ヶ月程度の期間がかかり、複雑な事案では半年〜1年かかるケースも少なくありません。
親権喪失の審判は、申立権者が申立書を提出することで開始されます。親権喪失の審判の申立ては、子の住所地の家庭裁判所が管轄します。
申立ての相手方は、虐待や育児放棄(ネグレクト)を行う親権者です。離婚前で父母が共同で親権を行使するとき、親権喪失の原因がある一方または双方を相手方とします。2026年4月施行の民法改正によって離婚後の共同親権制度が導入されたため、離婚後も、親権者となる父母の一方または双方の親権喪失を申し立てることができます。
なお、緊急性が高い場合、親権喪失の審判とともに保全処分を申し立てることで、審判前に親権者の職務執行を停止し、職務代行者の選任を申し立てることができます。
親権喪失の審判を申し立てる際、必要書類と費用は次の通りです。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

申立てを受けた家庭裁判所は、親権を喪失させるべきかの審理を行います。
審問期日が開かれ、裁判官が、申立人や親権者に対して事情を聴取して、申立ての理由や養育環境、親権行使の態様などを把握します。多くのケースでは、家庭裁判所調査官により、子供の状況の調査が行われます。
なお、子供が15歳以上の場合には、子供の意見を必ず聴取しなければなりません(家事事件手続法169条)。
親権喪失の手続きでは、親権を喪失させる審判、または、申立てを却下する審判が下ります。親権喪失の審判がされた場合、子供の戸籍に記載されます。
親権喪失の審判は、申立人、利害関係人、親権者と子供に対し、裁判所が相当と認める方法で告知されます。子供の年齢や発達の程度を考慮し、告知することが子供の利益を害するときは、子供には審判内容を告知しないことがあります。
親権喪失の審判に不服がある場合、告知を受けてから2週間以内に高等裁判所に即時抗告をすることができます。即時抗告なく2週間が経過すると、審判が確定します。
親権喪失の審判の結果、共同親権であった場合には他方の親の単独親権となり、単独親権であった場合には未成年後見が開始されます。
「親権制限制度」の解説


次に、親権喪失の審判が確定したらどうなるか、その後の子供の養育について解説します。親権は、必ずしも永遠に奪われるとは限らず、原因が消滅すれば、親権を取り戻す方法もあります。
親権喪失の審判が確定すると、親権者の親権は剥奪されます。
身上監護権と財産管理権が失われれば、一緒に住んだり、子供の財産を管理したりすることはできなくなります。親権者として、契約や法的手続きを代理する権限も失います。ただし、あくまで親権を失うだけで親子関係はなくならないため、相続権や親族の相互扶助義務は残ります。扶養義務もなくならないため、養育費を支払う義務は残ります。
共同親権であった場合、親権喪失の審判を受けたら、他方の親の単独親権となります。
離婚前の共同親権の状態の場合のほか、前述の通り、2026年4月施行の民法改正以降は、離婚後であっても共同親権であるケースもあります。
これに対して、共同親権者であった父母双方の親権が喪失したときや、単独親権であった場合には、親権者が不在となるため、未成年後見の手続きが開始されます(民法838条1項)。実務では、未成年後見人は、家庭裁判所が祖父母や弁護士、司法書士などから、未成年の生活や財産状況を考慮して選任します。親権を喪失した親は、未成年後見人になることも、指定することもできません。
なお、児童相談所に一時保護されたときは、親権喪失によって親権者が不在となったとき、未成年後見人の選任までの間は、児童相談所長が親権を行使します(児童福祉法33条の2)。
親権喪失の審判が確定した後でも、その原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人またはその親族の請求によって、審判を取り消すことができます(民法836条)。
民法836条(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判の取消し)
第834条本文、第834条の2第1項又は前条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、それぞれ親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判を取り消すことができる。
民法(e-Gov法令検索)
したがって、親権喪失の審判を受けた後でも、親権を取り戻したいと考えるなら、審判が認められた理由を分析し、原因を取り除く努力をすべきです。例えば、虐待を行っていた親が指導を受けて改善し、家庭復帰が可能となった場合や、医療行為を拒否していた親の治療協力が得られるようになった場合などがあります。審判が取り消されると、親権が回復します。
大切なポイントは、親の独りよがりにならないよう、「子の福祉(利益)」を最優先に考えることです。「子供のためを思ってやった」「しつけ目的だ」といった親の気持ちの押し付けは、反論として有効ではありません。
親権喪失の審判を申し立てられた側では、親権を取り戻すためには、自分の非を認めて反省し、将来の改善策を講じることが大切です。
「子供がいる夫婦の離婚」の解説

親権の不適切な行使への対策には、親権喪失と親権停止、管理権喪失があります。
親権停止は、平成23年(2011年)の民法改正で導入された制度で、親権を完全に失わせる「親権喪失」に至らずに解決すべく、2年以内の期限を区切って親権を停止させる手続きです。その分、親権喪失よりも要件が緩和され、認められやすくなっています。

親権喪失が強力である分、家庭裁判所も利用に消極的となり、親子関係が再構築できる可能性があるケースでは使いづらいという批判がありました。一方で、虐待のように緊急性の高いケースで、手続きを躊躇したり放置したりすれば、手遅れになるおそれもあります。
このような問題を解消するため、より使いやすい制度として新設されたのが親権停止であり、現在は、親権喪失よりも多くの件数が申し立てられています(裁判所の「親権制限事件及び児童福祉法に規定する事件の概況」によれば、令和6年の親受件数は、親権停止192年、親権喪失86件となっています)。
「親権停止」の解説

親権喪失が身上監護権と財産管理権の全てを失わせるのに対し、管理権喪失は身上監護権には影響しません。そのため、親による子供の監護や養育には問題がないものの、親が子供の財産を浪費してしまうおそれがあるなど、財産管理をさせることだけが不適当な場合に利用されます。
管理権喪失の審判を受けた場合でも、引き続き子供と一緒に暮らして世話をすることは可能です。具体例としては、「子供の財産を不当に処分した場合」をご参照ください。
最後に、親権喪失に関するよくある質問に回答しておきます。
親権喪失後も、養育費の支払い義務は残ります。
親権喪失の審判は、あくまで親権の行使ができなくなるという効果であり、親子関係がなくなるわけではなく、扶養義務も残るからです。したがって、親権を失った親でも、子供の生活費などを負担する責任があります。
「養育費が支払われないときの対応」の解説

親権を喪失しても、直ちに子供に会えなくなるわけではありません。
親子関係は維持されるため、親権者でなくなった後も親子交流(面会交流)を求めることができます。ただし、子供の利益を最優先に判断されるため、親権喪失の原因となった虐待や育児放棄(ネグレクト)が子供の安全を害するおそれのあるときは、交流が制限されたり認められなかったりすることも少なくありません。
親権喪失の審判が確定すると、その旨が子供の戸籍に記載されます。親権喪失に関する戸籍の記載は、裁判所書記官が、子供の本籍地の市区町村長に嘱託することで行うので、親権者や子供による届出などは不要です。
親権喪失には、期間の制限がありません。
親権停止が、2年以内の期限を定めた一時的なものであるのに対し、親権喪失は永続的な措置です。したがって、一度喪失した後は自動的に回復することはありません。ただし、親権を失った原因が解消される場合、本人または親族が家庭裁判所に請求することで審判を取り消し、親権を取り戻すことができます(民法836条)。
親権は、法律上の権利であるとともに義務を含むため、放棄はできません。
親権を行使できない「やむを得ない事由」があるときは、親権者を辞任できますが、これには家庭裁判所の許可を要します(民法837条)。やむを得ない事由は、例えば、犯罪行為による服役、長期の入院といったものがあてはまり、「育てる自信がない」「子育てが面倒だ」といった理由では認められません。
なお、単独親権者が辞任した場合、未成年者後見人の選任が必要です。

今回は、親権喪失の制度について詳しく解説しました。
親権喪失は、子の利益を著しく害する親から親権を剥奪する重大な制度で、深刻な虐待や育児放棄、親権の乱用があって2年以内の改善が見込めない事案に適用されます。実務上は、子やその親族のほか、児童相談所長を含む請求権者からの請求により、家庭裁判所の審判で決定されます。
一方、2年以内の期間のみ親権を制限する「親権停止」と使い分けることで、事案に応じた適切な解決策を図ることができます。
親権喪失の申立てでは、法的要件を満たしていることを示す証拠が重要であり、子供の利益を最優先にした審理が行われます。そのため、親権喪失を申し立てる側はもちろん、申立てを受けた側であっても、専門知識を有する弁護士のサポートを受けることが肝心です。