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会社名義の事業用の財産は、財産分与の対象となりますか?

会社経営者や個人事業主の離婚で、「会社名義の事業用の財産が、財産分与の対象になるのだろうか」というご相談を受けることがあります。

オーナー経営者だと、会社の財産と個人の財産が、明確には区別されていないことも多いはずです。このとき、経営者側からすれば「会社の財産をとられてしまうと困る」という気持ちが強いことでしょう。一方で、経営者と離婚する配偶者からすれば「会社にお金を逃がしているのではないか」と不満がつのり、争いとなってしまいます。

財産分与は、夫婦間の公平のための分配ですから、「その財産が誰の名義なのか」だけで決めるのではなく、財産の実質を見て判断しなければなりません。つまり、たとえ会社財産・事業用財産だったとしても、実質は夫婦の共有財産であれば、財産分与の対象となります。

今回は、会社名義の財産が財産分与の対象となるケースと、事業用財産の分与をするときの注意点について、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 会社名義の事業用財産は、財産分与の対象とならないのが原則だが、例外あり
  • 実質が夫婦の共有財産であるときには、その名義によらず、財産分与の対象となる
  • 株式は、財産的価値があるため、離婚時の財産分与の対象となる

なお、離婚時の財産分与を有利に進めるために、次のまとめ解説もあわせてご覧ください。

まとめ 財産分与について離婚時に知っておきたい全知識【弁護士解説】

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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会社名義の事業用財産と、財産分与の問題とは

お金

財産分与とは、夫婦が協力して形成・維持した財産について、原則として別居時を基準にして、貢献度に応じて折半する手続きです。財産分与は、例えば「夫が働きつづけ、妻が専業主婦となった」などのケースで、離婚後の公平性を保つことを目的としています。

この財産分与を考えるときには、サラリーマンなどの給与所得者は、家庭と仕事をはっきり分けることができますが、会社経営者や個人事業主の場合、次のような点で公私をきちんと分けるのが難しいケースがあります。

  • 税金対策で報酬をあまりもらわず、会社に内部留保している。
  • 会社経営がうまくいかないとき、個人の財産を会社に貸し付けている。
  • 会社の経費で生活費をまかなっている。
  • 個人所有の不動産を、会社の事務所として使っている。
  • 会社名義の債務の連帯保証人となっている。

このようなケースでは、会社経営者や個人事業主の場合、その事業用の財産と個人の財産との区別が不明確であり、離婚時の財産分与でどの財産を対象とするかについて争いとなります。

会社名義の事業用財産の分与
会社名義の事業用財産の分与

配偶者側(例えば妻側)としては、会社経営者(例えば夫側)の財産の一部が会社のなかに隠されてしまい、「会社名義の財産も分与されるべきなのではないか」と不満を感じることでしょう。しかし逆に、会社経営者側でも、事業用財産を離婚時にとられてしまい「会社が立ち行かなくなってしまうのではないか」という不安もあるのです。

財産分与は公平の観点から行われるものですから、このような分与する側の会社経営者、分与される側の相手のいずれにとっても、公平感のある分け方でなければなりません。

【原則】会社名義の事業用財産は財産分与の対象にならない

本

この問題についての原則は、「会社名義の事業用財産は、財産分与の対象にならない」ということです。

「法人」とは、法律上、人と同視されるものです。そのため、法律上、個人と法人は「別人格」とされています。財産の帰属も別個に考えられるのが原則です。したがって、経営者個人の財産と法人名義の財産は区別して取り扱われます。

会社には、そこで働く社員、株主、取引先など、利害関係者が多く存在します。経営者が離婚しただけで、会社の財産をすべてとられてしまう可能性があるのでは、これらの利害関係者が安心してビジネスを継続できません。そのため、原則としては会社名義の事業用財産は、財産分与の対象とはなりません。

個人事業主も同様に、明確な事業用財産については財産分与の対象外とするのが原則です。

なお、自分の得意な才能・能力で稼ぎを得た場合には、「自己の名において取得した財産」であり「特有財産」として財産分与の対象外であると判断されます。

特有財産とは
特有財産とは

【例外】会社名義の事業用財産が財産分与の対象となるケース

家族

しかし、以上の原則には例外があります。つまり、公平の観点から考えて、会社名義の事業用財産が、財産分与の対象となるケースがあります。

財産分与の対象財産は、名義ではなくその実質で判断されますから、会社名義の事業用財産でも、実質が夫婦の共有財産であれば、財産分与の対象となるということです。法人名義の財産の実質については、次の要素を検討して判断します。

  • 会社名義の事業用財産の管理の実態(個人の財産と区別されていたか)
  • 会社の規模(資本金・売上・社員数など)
  • 株式を100%保有しているか、他に株主がいるか
  • 会社が設立された時期(結婚前か、結婚後か)
  • 会社財産を取得した時期(結婚前か、結婚後か)

ここでは、実質が夫婦の共有財産となるようなケースについて、3つに分けて解説します。

なお、財産分与を受ける側(会社経営者の配偶者側)としては、会社名義の財産の分与を主張するためにも、財産調査が重要です。話し合いでは、決算書などの重要資料が開示されない場合には、調停手続きを申し立てて財産分与を争うという方法が有効です。

法人と個人の財産が明確に区別されていない場合

法人と個人の財産が明確に区別されていない場合には、例外的に、会社名義の事業用財産が、会社経営者の離婚のときの財産分与の対象となることがあります。

明確に区別されていない以上、そこに夫婦の共有財産が紛れ込んでいる可能性があり、このような場合にまで一律に財産分与の対象外としてしまうと財産隠しのおそれもあるからです。一方で、会社経営者の側でも、このような疑いをかけられないよう、法人と個人の財産の区別ははっきりと行わなければなりません。

例えば、法人と個人の財産が区別されていない例として次のような事情が挙げられます。

  • 事業用口座と個人用口座が区別されていない。
  • 事業による売上が、個人口座に入金されている。
  • 会社経営者の生活費が、事業用口座から引き落とされている。

法人格否認の法理が適用される場合

前章で解説したとおり原則として個人と法人は法律上別人格とされますが、このように考えると正義に反する場合、裁判例で認められるのが「法人格否認の法理」です。

法人格否認の法理は、法人格が違法・不当な目的のために濫用されたり、法人とは名ばかりであって実際は会社経営者個人とは変わらないほどに形骸化していたりするとき、法人と個人を同一視するという考え方です。

このようなケースでは、そもそも法人と考えるのが正義に反するほどの状況であるため、財産分与においても、会社名義の事業用財産が財産分与の対象と考えられることがあります。

例えば、オーナー経営者であり「社長=会社」といえるほど財産が混同し、株主総会や取締役会も開かれておらず、実際には事業もしていないといった事例がこれにあたります。

本来夫婦の共有財産とするべき、婚姻期間中に購入したマンションを、管理するための資産管理会社のように個人的色彩の強い会社の例もこれにあたります。

夫婦の協力により会社経営していた場合

「家族経営の会社で、夫が社長、妻が経理をやっている」という事例のように、夫婦の協力により会社経営していたという家庭は少なくありません。このような場合には、夫婦の協力によって増加した会社名義の財産は、例外的に、財産分与の対象となる可能性があります。

たとえ家族経営でも、原則としては会社財産は個人財産とは別であり、財産分与の対象となりません。しかし、夫婦の協力のもとに財産を形成・維持しており、本来であれば夫婦の共有財産とすべきであるが、名目上会社名義にしていたに過ぎないといった場合には、例外的に、財産分与の対象としたほうが公平に叶います。

会社名義で家族に生命保険をかけていた場合にも、その保険料の原資が夫婦の共有財産から支出されていたときは、生命保険を財産分与の対象とすべきと考えられます。

保有する株式は財産分与の対象となる

「会社名義の事業用財産が財産分与の対象となるか」という問題について、原則としては対象とはならず、例外的に、実質が夫婦の共有財産であるときには対象となるというのが結論です。

ただし、たとえ会社名義の事業用財産が財産分与の対象とはならないケースであっても、配偶者が所有する、その経営する会社の株式は、財産分与の対象となります。オーナー経営者だと、自分の経営する会社の株式を保有していることが多いでしょうが、その保有する株式は(自社のものであれ他社のものであれ)、財産分与の対象とするのが実務なのです。

保有する株式の財産分与では、基準時が重要となります。財産分与の対象財産の「確定」の基準時は「別居時」とするのが原則ですが、その価値に増減があるときには、「価値評価」の基準時は「離婚時」とするのが実務では一般的です。

対象財産の「確定」の基準時
対象財産の「確定」の基準時

そのため、会社株式の評価のため、離婚協議、離婚調停、離婚訴訟などの離婚の争いの中で、会社の決算書の提出などを求めていくことが重要です。

まとめ

会社名義の事業用財産は、名義がどうかにかかわらず、「夫婦で協力してつくりあげた財産かどうか」という実質で判断するのが財産分与の実務です。実質が夫婦の共有財産であれば、会社名義だとしても財産分与の対象となります。

あなたが財産分与をする側(会社経営者側)のとき、法人名義の財産をとられたくないなら、個人の財産ときちんと明確に区別しておいてください。財産管理の利便性や税金逃れ、財産隠しを重視すれば、その財産は個人の財産と混同し、財産分与の対象となってしまう危険が高まります。

財産分与を受ける側(会社経営者の配偶者側)では、法人と個人の財産が混同しているとき、法人の財産までしっかり把握するための調査が重要です。弁護士に依頼して弁護士会照会を利用したり、離婚訴訟を申し立てて調査嘱託を利用したりといった方法も有効です。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所
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弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題に精通しており、経営者の財産分与がからむ複雑なケースについても、多くの相談実績があります。

離婚問題にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

財産分与のよくある質問

会社名義の財産は、財産分与の対象になりますか?

会社名義の財産は、財産分与の対象にはならないのが原則ですが、例外的に、そのなかに夫婦の共有財産が含まれると考えられるときには、その部分について、財産分与の対象となります。もっと詳しく知りたい方は「【原則】会社名義の事業用財産は財産分与の対象にならない」をご覧ください。

財産分与で、事業用の財産をとられてしまわないため、どんな注意が必要ですか?

事業用の財産をとられてしまわないようにするためには、法人と個人の財産を明確に区別し、混同させないよう注意してください。区別が曖昧になってしまえば、財産隠しを疑われ、財産分与の対象とされてしまうおそれがあるからです。詳しくは「【例外】会社名義の事業用財産が財産分与の対象となるケース」をご覧ください。

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