労働問題

未払い残業代を請求する労働者側が理解すべき全知識【弁護士解説】

2021年7月1日

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野英之(第一東京弁護士会所属)です。当事務所は「労働問題」に注力し、豊富な実績を有しています。労働は人の生活に密接に関わる重要な法律問題です。

一人で会社と戦うのが難しいとき、法律の専門知識を活用することで速やかに解決できることがあります。ぜひ一度当事務所へご相談ください。

未払い残業代を請求したいと考えている労働者側に向けた解説です。

「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超えて労働したとき、「1週1日もしくは4週4日」の法定休日に労働したとき、そして、「午後10時以降、午前5時まで」の深夜労働をしたとき、会社には残業代を支払う義務があります。このことは、業種、業態や会社の規模を問わず、労働基準法で定められたルールです。

ブラック企業にお勤めだと、残業代を請求しようとしてもあれこれ言い訳されて支払われないことがあります。そのようなとき、労働者側で対抗して未払い残業代を回収するためには、労働法の知識が必須です。

そこで今回は、未払い残業代を請求するために、労働者側で理解しておきたいすべての知識について、労働問題を多く取り扱う弁護士が解説します。

残業代の計算方法

まず、未払い残業代請求をするとき、いくら請求したらよいのかを知っておく必要があります。

未払い残業代の計算方法は、次の計算式によって算出します。

残業代=基礎単価×割増率×残業時間

「基礎単価」とは、わかりやすくいうと労働者の時給のことです。ただし、次のお金については「時間に対して支払われるお金」という性質ではないため、「除外賃金」とされており基礎単価には含まれません。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

固定残業代・残業手当など、残業代に充当する趣旨で支払われる金銭もまた、基礎単価から控除されます。

これらの除外賃金を控除した月額賃金を、月平均労働時間数で割り、割増率と残業時間をかけると、未払い残業代を計算することができます。

割増率は、残業の種類に応じて、次のように決められています。

残業代労働の種類割増率
時間外労働法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える労働25%
(月60時間を超える場合50%)
深夜労働午後10時以降、午前5時までの労働25%
休日労働法定休日(1週1日)の労働35%

残業代を請求する方法と、具体的な流れ

次に、未払い残業代を請求するときの方法と、その具体的な流れについて解説します。弁護士に残業代の回収を依頼したときには、この順序で進めていくこととなります。

労働時間の証拠を収集する

会社に対して実際に残業代を請求する前に、まずは証拠の収集を行います。必要となる証拠については次章以降で解説します。

会社が支払いに応じないとき、裁判所で未払い残業代を認めてもらうためには、証拠が必要だからです。未払い残業代を正確に計算するためにも証拠が重要です。

残業代支払いの対象となる「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされており、必ずしも業務に従事している時間だけでなく、その前後の時間も含まれます。

ただし、労働者と使用者の関係において、労働者の手元には残業代を証明するために十分な証拠がないことが多いです。このようなときでも、会社に対して証拠の開示を求めていくことができるため、あきらめる必要はありません。

なお、仮眠時間、移動時間、手待ち時間、明示の残業命令はないが黙示に残業を指示されていた時間などの時間は、残業代支払の対象となる「労働時間」にあたるかどうかについて判断が必要となります。

この点についても、労働時間の判断基準のとおり「使用者の指揮命令下に置かれているかどうか」で判断します。

未払い残業代を計算する

収集した証拠にしたがって、前章で解説した計算式にあてはめ、未払い残業代を計算します。

残業の種類が複数あったり労働時間が長時間だったり、会社がみなし労働時間制などの特殊な労働時間制を採用していたりするとき、残業代の計算は複雑になることがあります。実務では、残業代計算用に組まれたエクセルで計算することが通常です。

会社に未払い残業代を請求する

次に、計算した未払い額を会社に請求します。具体的には、請求金額を記載した通知書を、配達証明付き内容証明郵便で会社に送付します。配達証明付き内容証明郵便は、配達日時と、送付した内容を、郵便局が証拠として保存してくれる方法です。

残業代の時効が迫っているとき、配達日時を証拠に残しておく必要があります。また、支払いを拒絶されて労働審判や訴訟に移行するときは、会社の不誠実な交渉過程を証拠にしておくことが有益です。

交渉の結果、未払い残業代が支払われることで合意ができたときは、合意書の形で書面に残しておきます。約束どおりに支払われなかったとき、すぐに労働審判や訴訟に移行することができるからです。

労働審判

会社と話し合いをしても、未払い残業代の支払いについて合意することができないときは、労働審判の申立をし、裁判所で争う方法が有効です。

労働審判は、訴訟では長期間かかりすぎて労働者の負担が大きくなってしまうところ、労働者保護の観点から、簡易迅速に解決するために用意された制度です。

労働審判では、原則として3回以内の期日(平均審理期間70日程度)で、未払い残業代請求に関する裁判所の判断をもらうことができます。

訴訟

話し合いや労働審判で解決できないとき、訴訟提起する方法も有効です。労働審判を申し立てたときにも、労使のどちらかが労働審判に異議申し立てをすると、自動的に訴訟に移行します。

残業代請求は、労働審判の場で証言を聞きながら話し合いをするというよりは、タイムカードなどの客観的証拠をもとに金額を算出し、請求することに適しています。

そのため、残業代請求を基礎づける証拠が十分にそろっている事案では、労働審判ではなく訴訟を選択するほうがかえって早期に解決できることがあります。

強制執行

最後に、労働審判や訴訟における判決で、裁判所の判断が下されたにもかかわらず、会社が決められた残業代を支払わないときは、強制執行(財産の差押さえ)を行います。

未払い残業代で会社に対して行う強制執行では、会社名義の不動産、預貯金口座の差し押さえが多いですが、これ以外に、会社が取引先に対して有する債権の差し押さえもできます。強制執行をすれば会社の業務に支障が生じるおそれがあるため、会社も支払いに協力的となることが多いです。

なお、会社が倒産してしまうときには、できる限りの支払いを確保するため、未払賃金立替払制度を利用することがおすすめです。

参考解説

残業代請求するために必要な証拠とは

残業代請求では証拠がとても重要です。「法定労働時間を超えて働いていたこと(残業をしていたこと)」については労働者側が立証しなければならないからです。

「残業」の事実を全く立証できないとき、労働審判や訴訟などの法的手続きでも未払い残業代を認めてもらえません。

残業代請求するために必要な証拠は、①労働時間を証明する証拠と、②労働条件を証明する証拠の2つに分けることができます。それぞれの証拠には次のようなものがあります。

労使関係の資料は一般に会社側が保管していることが多いため、実務的には、労働者側で「残業」の事実を完璧に証明できなくても、会社に証拠の開示を求めたり、概算的に計算したりといった方法で救済を受けることができます。

労働時間を証明する証拠

まず必要な証拠が、「残業」となるだけの時間を労働したことを証明する証拠です。

タイムカード

労働時間を証明するのに最もよく利用されるのがタイムカードです。最近では、紙に打刻する方式だけでなく、パソコンで記録したり、クラウド上で打刻したりといったさまざまなタイムカードがあります。

なお、タイムカードを導入してくれていない会社や、タイムカードが実態を示していない場合(タイムカードを決まった時間に打刻するよう指示されている、勝手に打刻されるなど)には、その他の証拠も併用して証明していきます。

業務日誌・日報・週報など

会社に報告するために、業務日誌・日報・週報などをつけているとき、そこに記載された始業時刻・終業時刻が、労働時間の証明になります。

会社に提出し、会社の承認を受けているときは、会社もまたその時間まで労働者が働いていたことを認めていることを意味します。

業務報告のメール・チャット

紙や冊子で業務報告を提出しているときはもちろんのこと、メールやLINE、チャット上で業務報告を義務付けられているときも同様に、労働時間を証明する証拠となります。

なお、電話で業務終了の報告をしているとき、その着信履歴だけでは、その時間まで働いていたことの証拠としては不十分であり、他の証拠をあわせて検討する必要があります。

業務用パソコンのログ履歴

オフィスで事務仕事をしている方のように、「パソコンに向かっている時間=仕事をしている時間」といえるケースでは、業務に使用しているパソコンのログ履歴が、労働時間を証明する証拠となります。

パソコンは、起動したりシャットダウンしたり、ログインしたりログオフしたりするときの履歴を記録しています。

入退室の記録

会社内での業務が多いときには、入退室の記録が残っていないかどうかも確認しておきましょう。社員カード、セキュリティカード、IDカードなどに、入退室の記録が残っている場合、これが労働時間を証明する証拠となります。

これらの証拠により、遅くまで社内にいたことを証明できれば、「会社にいたが、労務はしていなかった」という反論があるのであれば会社側が逆に証明すべきだからです。

会社からの指示の電話・メール・チャットなど

会社から指示の電話・メール・チャットなどがあるとき、少なくともこれに対応する時間は、仕事をしていたと証明することができるため、残業を証明する証拠として役立ちます。

特に、深夜の時間帯や、休日の時間帯に、頻繁に業務指示がみられるようなとき、悪質な長時間労働があったと主張できることもあります。

交通系ICカードの使用履歴

交通系ICカードを利用して通勤しているとき、その使用履歴が労働時間を証明する証拠として役立ちます。

会社の最寄り駅から自宅の最寄り駅まで、毎日ある程度決まった時間帯に移動しているとき、その行き帰りの間は会社で労働をしていると考えることができるからです。

同居の家族の証言

同居の家族の証言が、その時間まで働いていたことの証拠として活用できます。

特に、毎夜、家族に「今から帰る」などのメールやLINEをしているときは、家族がこれらの履歴を保存している可能性があるので確認していてください。

日記・手帳

残業をしていた当時につけていた日記や手帳も、証拠となることがあります。

日記・手帳のように労働者側がつくった証拠を活用するためには、「あとからまとめてつけたのではないか」、「記憶にしたがって捏造したのではないか」という反論を受けないよう、当時から日常的に、こまめにつけていたものを使うのが有効です。

労働条件を証明する証拠

次に必要な証拠が、残業代計算の基礎となるべき労働条件を証明する証拠です。

就業規則・賃金規程

残業代の計算方法を知るために、最重要なのが就業規則・賃金規程です。ここに、会社がとっている残業代の計算方法や、労働時間制が記載されているからです。

就業規則は労働者に周知する義務がありますから、「見せてもらえない」ということ自体違法です。また、就業規則に記載されていない理由で会社が残業代を支払わないとき、そのような反論は無効の可能性が高いです。

なお、就業規則といえども法律違反の内容を定めることはできないため、就業規則の内容が労働者に著しく不利なときは、「法律違反で無効なのではないか」という検討も必要です。

雇用契約書・労働条件通知書

会社は、入社時に労働者に対して労働条件を示さなければならず、このとき作成されるのが雇用契約書・労働条件通知書です。

就業規則にかかれていない労働条件や、個別に労働者と合意している内容についてはこれらの書類に記載があるため、残業代計算をするときに重要な証拠となります。

直近の給与明細

未払い残業代の金額を計算するためには、実際にいくらの給与が毎月支給されているかを知る必要があります。

総額がいくらかという点だけでなく、どのような費目・手当で支払われているかを知ることにより、残業代の計算方法で解説した「基礎単価」を正確に計算することができます。

残業代の証拠が手元にないときの対応方法

残業代請求に必要な証拠が十分に手元にないとしても、まだあきらめてはいけません。

むしろ、労使関係について重要な証拠は、会社の手元にあることが多いため、残業代請求のトラブルでは、ある程度証拠が不足していても残業代を支払ってもらうための対策があるからです。

在職中にできる限り収集する

はじめに、在職中に収集できる証拠についてはできる限り在職中に集めておいてください。退職してしまったり、休職や欠勤してしまったりした後では、オフィスで収集すべき証拠は容易には入手できないからです。

残業代請求を検討しているときは、証拠収集も含めて、できる限り早めに弁護士にアドバイスをもらうことがおすすめです。

会社に証拠の開示を求める

残業代請求の通知書を送るとき、会社に対して、労働者側では集めきれなかった証拠の開示を求めることが実務では通常です。

会社は、労働者の労働時間を把握する義務を負っています。また、会社は、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿という、いわゆる「法定三帳簿」を3年間保存する義務を負っています。そのため、残業代請求に必要となる①労働時間を証明する証拠、②労働条件を証明する証拠について、少なくとも時効期間と同じ3年間は、十分な証拠を有しているのが当然です。

あなたがまだ社員であれば、就業規則・賃金規程を社員に周知する義務があることから、これらの書類についても見せてもらえる権利が労働者側にはあります。

弁護士がついて通知書を送付することにより、誠実に証拠を開示しなければ訴訟に進むというプレッシャーを加えることができ、証拠の開示を受けやすくなります。

概算で計算する

会社が証拠を開示してくれず、もしくは、会社もまた十分な証拠を保存する義務を怠っていたという場合、正確な残業代はもはや計算ができなくなってしまいます。

このようなとき、できる限り労働者側に有利な計算方法で、残業代の概算額を計算して請求するのが実務的です。例えば、「全期間分の証拠はないが、直近1ヶ月分の証拠はある」というとき、直近1ヶ月分の計算をし、過去も同様の働き方であったと主張して月数分をかけて請求するという方法です。

会社が証拠を隠し持っており、概算額よりも正確な計算のほうが会社に有利なときには、このような概算額の請求をすることが、会社の証拠開示につながります。

証拠保全

弁護士から通知書を送付して証拠開示を求めても、これに応じないような不誠実な会社の場合には、労働審判・訴訟で残業代が認められる前に、証拠を捨ててしまうおそれがあります。

そのため、開示に応じない不誠実な会社に対しては、証拠保全を先に申し立てておくことがあります。証拠保全の手続きは、あらかじめ証拠調べをしておかなければ証拠がなくなってしまうおそれがあるときに、裁判所に申し立てをし、証拠を確保しておく方法です。

退職後に残業代請求するときの注意点

退職後でも、残業代を請求できます。退職してしばらく経つと、「前職の会社と関わるのが嫌だ」と放置してしまう方もいるでしょうが、残業代請求は弁護士に代わりに行ってもらうことができます。

退職後であれば、人間関係が悪化することも気にしなくて済みます。

ただし、退職後に残業代請求するときは、時効に注意が必要です(「残業代請求の時効」は次章で解説します)。

退職後に残業代請求するときには、在職中にもまして証拠収集が難しいことがあります。タイムカードなど、在職中であれば容易にコピーできた証拠が入手しづらいことがあるからです。そのため、退職後に残業代請求する可能性があるときは、在職中からしっかりと準備を進めておくことがおすすめです。

残業代請求の時効

残業代請求の時効は、3年です。この時効期間は、残業代の支払日から起算します。

つまり、例えば、2021年5月末に支払われるべきであった未払い残業代の時効は、2024年5月末に時効にかかってしまうということです。このように、未払い残業代はその全額がいっきに時効になるのではなく、1ヶ月分ずつ時効によって消滅していきます。

残業代請求の時効は、2020年4月1日施行の改正民法の影響を受け、それまでの2年から3年に延長されました(今後、改正民法施行から5年間の経過を踏まえ、将来5年間に時効が延長される可能性があります)。

〜2020年3月31日時効期間 2年
2021年4月1日〜時効期間 3年

残業代請求が時効にかかってしまいそうなとき、速やかに請求をしなければなりません。請求をしておけば、これは法律上の「催告」にあたり、6ヶ月間時効の進行を止めておくことができます。この6ヶ月の間に労働審判、訴訟などの法的手続きを行えば、時効は中断します。

なお、時効を止めるために残業代請求をするときには、「いつ通知を送ったか」ということを証拠に残すため、必ず配達証明付き内容証明郵便の方法を利用してください。

参考解説

残業代が請求できないケースと、その対処法

残業代は、あなたが労働をした対価であり、要件を満たす限り必ず払われるべきものです。

しかし、ごく例外的に残業代の請求ができないケースがあります。残業代の請求ができないケースとは、労働基準法において「残業代が発生しない」と定められているケースで、よく会社からいわれるものには次のものがあります。

重要なポイントは、「残業代が発生しない」という労働法の定めはいずれも、労働者保護の観点から、厳しい要件が定められているという点です。

そのため、会社がこれらの理由から残業代を支払わないと伝えてきたとしても、すぐあきらめてはいけません。そもそも法律上の要件を満たせていないとき、会社がとった制度自体が無効となり、残業代を請求できるからです。

管理監督者

管理監督者とは、労働基準法41条2号で定める「監督若しくは管理の地位にある者」のことです。他社員の監督、管理を行うのであれば、労働時間に縛られることなく働く必要があることから、残業代支払いの対象外とされています。

重要なポイントは、会社が「管理職」として扱ったからといって、必ずしも労働基準法の「管理監督者」にあたるとは限らないことです。つまり、会社から「管理職だから残業代は支払わない」といわれたとしても、法的な判断としては「管理監督者」にあたらず残業代請求できるケースも多いということです。

会社から「管理職」とされながら、実際には労働基準法の「管理監督者」にあたらない労働者を「名ばかり管理職」といいます。労働基準法の「管理監督者」にあたるためには、①経営者と一体的な立場にあり、②権限と責任が与えられ、③労働について時間的・場所的裁量があり、④相応の待遇がなされているという要件を満たす必要があります。

名ばかり管理職は、会社からは「管理職」とされて大変な仕事を押し付けられながら、残業代を支払ってもらえないという苦しい立場に置かれます。次のような場合、「名ばかり管理職として不当な扱いを受けているのではないか」と疑い、残業代請求を検討してください。

  • 「部長以上は管理職」と形式的に決まっているが、実態を伴っていない
  • 管理職になる前と業務内容が変わらない
  • 管理職だが、始業・終業時刻が厳しく決められている
  • 管理職でない他の社員のほうが、残業代と合計すると給与の総額が多い

参考解説

裁量労働制

裁量労働制は、時間による管理になじまない専門性の高い業務を行う労働者について、労働時間にかかわらず一定時間だけ働いたものとみなす労働時間制です。

裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」がありますが、よく使われるのが専門業務型裁量労働制です。これは、学術研究、情報システムの分析・設計や公認会計士、弁護士など、専門業務を生かして働いているため時間による管理になじまない職種に認められた裁量労働制です。

ただし、裁量労働制を有効に運用するためには、みなし時間など細かいルールを労使協定に定め、労働基準監督署に届出なければなりません。

そのため、このような手続きなく「専門職だから」というだけの理由で残業代が請求できないわけではありません。会社から「裁量労働制だから残業代を支払わない」といわれても、次のような事情があるときは残業代をもらうことができます。

  • 裁量労働制について、就業規則の規定、労使協定の届出がされていない
  • 裁量労働制の認められるような専門的な業務を任されていない

事業場外労働のみなし労働時間制

事業所の外で働いた時間について、一定の時間だけ労働したものとみなす労働時間制度のことを「事業場外労働のみなし労働時間制」といいます。外回りや出張の多い社員の労働時間を把握することが困難なことがあるために認められた制度です。

この制度をとっている会社では、会社外で働いた時間について実際にはもっと長かったとしても、定められた一定時間しか労働していなかったものとみなされてしまい、残業代が発生しなくなってしまうことがあります。

ただし、この制度を適切に利用するためには就業規則に規定する必要があるほか、みなし時間が実態と合っている必要があります。また、事業場外の労働について、「把握しづらい」ことが要件とされています。

そのため、次のようなケースでは、会社が「事業場外労働のみなし労働時間制だから、残業代は支払わない」といってきても、その制度は無効の可能性が高く、残業代を請求すべきです。

  • そもそも就業規則に「事業場外労働のみなし労働時間制」の規定がない
  • みなし時間が、実際の労働時間と比べて明らかに短すぎる
  • 業務報告をさせるなど、一定の工夫をすれば労働時間の把握が容易である

参考解説

高度プロフェッショナル制

高度プロフェッショナル制は、働き方改革による多様な働き方の1つとして導入された労働時間制で、高度な専門的知識を生かして働く労働者について残業代・休日などの労働基準法の適用を除外する制度です。

高度プロフェッショナル制度は、その要件と手続きの厳格さから、まだあまり利用が進んでいません。

高度プロフェッショナル制の対象とするためには、金融商品の開発・資産運用などの専門的な業務に従事し、一定の年収要件(1075万円以上)を満たすなどの厳しい要件のほか、労使委員会の決議と労働者本人の同意を必要とし、年間104日以上の休日確保措置、健康管理時間に応じたインターバルの設置など、複雑な手続きが定められているからです。

したがって、会社から「高度プロフェッショナル制にもとづき、残業代を支払う必要がない」といわれたときは、これらの要件を満たしているかどうか、専門的な検討が必要となります。

固定残業代・固定残業手当

あらかじめ残業代の一定額を支払っているとき、残業代を請求できないケースがあります。このようにあらかじめ残業代の一部を支払うやり方は、「固定残業代制」、「固定残業手当」などと呼びます。

基本給に残業代の一部を含んで支払う方法と、残業代に充当することを明示して手当を支払う方法に分けられます。

ただし、この場合、裁判例では、①残業代として支払う部分が明確に区別されていること、②あらかじめ支払われた分を超える残業がある場合には差額を支払うこと、の2つが要件とされています。そのため、次のような場合には、固定支払い自体が無効となり、働いた分の残業代を請求することができます。

  • 「残業代があらかじめ含まれている」といわれたが、結局いくら払われたか不明
  • 低額の固定残業代が払われ、「これで一切残業代はなし」といわれたが、明らかに少ない

また、固定支払い自体が無効ではないときでも、さきほど解説したとおり、あらかじめ支払われた分以上に働いたときには、差額の残業代を請求できます。

未払い残業代の相談先

未払い残業代の問題について、労働者が個人で会社と戦うことはとても難しいことです。会社が組織ぐるみで対抗してくる中で、あなたは一人で証拠集めや請求をしなければならないからです。

会社にとって、請求された残業代を支払うことは、お金が流出することを意味しており、できれば支払いたくないでしょうから、必死になって戦ってきます。

会社組織と対峙して、個人で戦うことに限界を感じたときは、次の相談先への相談を検討してください。

労働基準監督署

未払い残業代問題を労働基準監督署に相談することも有効です。労働基準監督署は略して「労基署」、「労基」と呼ばれることもあります。地域ごとに管轄があるため、会社の所在地の近くにある労働基準監督署に相談するのが適切です。詳しくは「労働基準監督署の管轄地域と所在地一覧」(労働局)参照。

労働基準監督署は、企業が労働基準法などの労働法を遵守しているか監督する行政機関であり、労働基準法に違反して残業代を支払わない会社に対して、指導や是正勧告の方法で警告を加えてくれます。

「残業代の未払い」という労働基準法違反には刑事罰がついているため、悪質なケースでは立入検査(臨検)し、逮捕・送検して刑事事件化してくれることもあります。

ただし、労働基準監督署はあくまでも行政機関であるため、労働者のために必ず動いてくれるとは限りません。また、労働基準監督署による指導、是正勧告は、将来の改善をうながすものであり、過去分の未払い残業代について、時効期間分のすべてを回収してくれるとは限りません。

労働局

労働局は、労働基準監督署と同様に、労働問題を取り扱う行政機関であり、全国の都道府県ごとに設置されています。

労働局では、あっせん手続きにより労働問題を解決してもらうことができます。あっせんは、労働局の職員が労働者と会社の間に立って、話し合いを仲介してくれる制度です。

ただし、あっせんは話し合いを重視した手続きで、会社が残業代の支払いを断固として拒んだり、そもそもあっせんに参加してこなかったりするとき、労働局での解決は困難です。

参考解説

労働組合

労働組合は、労働者側の味方となって戦ってくれる団体です。労働組合には、社内の労働組合のほかに、社外で1人からでも加入できる合同労組(ユニオン)があります。

社内の労働組合はいわゆる「御用組合」が多く、会社に遠慮して労働者のために真剣に戦ってくれないことがあります。そのため、未払い残業代の問題を労働組合をつかって解決したいのであれば、合同労組(ユニオン)に相談します。

労働組合は、労働組合法で認められた団体交渉権を活用し、団体交渉という会社との話し合いの場を設定してあなたの要求を会社に強く伝えてくれます。

弁護士

最後に、残業代請求をはじめとする労働問題について、最も解決力が高いのが、弁護士に相談する方法です。

労働審判、訴訟など、前章で解説した法的手続きについて、弁護士はあなたの代理人となって代わりに戦い、裁判所に対してあなたにとって有利な主張を伝え、証拠を提出してくれます。

労働問題を多く取り扱う弁護士であれば、相談の段階から、残業代請求に必要となる証拠収集や、会社が残業代を支払わない理由に対する的確な反論など、トラブルになる前段階からアドバイスし、サポートすることができます。

残業代請求は浅野総合法律事務所にお任せください!

未払い残業代は、労働の対価であり、請求をすることに後ろめたいことは全くありません。

そして、残業代の問題は、不当解雇やハラスメントなど、その他の労働問題と比べて、労働者の非を全く考慮する必要がなく、しっかりと残業時間だけ働いていたのであれば、必ず支払ってもらうことができます。

必ずしも十分な証拠が手元になかったとしても、労働審判や訴訟など、法的手続きを駆使することによって、残業代の回収に成功した実績もありますので、あきらめるのは早いでしょう。

未払い残業代の請求についてお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野英之(第一東京弁護士会所属)です。当事務所は「労働問題」に注力し、豊富な実績を有しています。労働は人の生活に密接に関わる重要な法律問題です。

一人で会社と戦うのが難しいとき、法律の専門知識を活用することで速やかに解決できることがあります。ぜひ一度当事務所へご相談ください。

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