労働問題が起きたとき、会社と労働者とのトラブルをできる限り早期に解決することは、会社側にとっても労働者側にとっても有益なことです。
しかし、労働訴訟は、事実関係について労使間の乖離が大きく、長期間かかることが少なくありません。
労使いずれの立場からも利用可能で、裁判に比べて費用も時間も削減できる制度として、「あっせん制度」があります。あっせん制度は、訴訟や労働審判に比べて、第三者による最終判断を下してもらえないなど、解決力の弱い面もありますが、有効活用すれば、労働トラブルを早期に解決するのに役立ちます。
そこで今回は、あっせん制度を利用して、労働トラブルを早期解決する方法について弁護士が解説します。
「労働問題」弁護士解説まとめ
目次
あっせんとは
あっせんは、裁判外紛争解決手続き(ADR)の一種で、あっせん委員が労使の間に入って話し合いを仲介し、和解を目指す制度です。
あっせんは、パワハラや職場いじめ、嫌がらせなど、裁判ではっきりと白黒つけるのは困難な労働問題について、話し合いで解決をするために利用されることが多いです。労働審判や裁判などの手続きよりも、費用や時間がかからないため、労働者にとって利用しやすい制度です。
あっせんを行う場所
あっせんは、都道府県労働委員会、労働局などで行うことができます。どちらを選択すべきかについては、労働問題の内容や方針、目指す解決などによって適切な手続きを決めます。
あっせん制度は、あくまでも話し合いで解決する制度であり、勝ち負けを決めるのには適していません。
一方で、あっせん委員には弁護士や社会保険労務士など、労働問題の専門家が選ばれるため、一定の専門的判断に則った解決が可能です。
あっせんのメリット
労働問題の解決のためにあっせんを利用することには、多くのメリットがあります。
第一に、裁判や労働審判を行う場合に比べて、短期的な解決が期待できます。労働問題の裁判は、1年以上かかることも少なくなく、労働審判であっても平均審理期間は70日程度とされているところ、あっせん手続きは原則として1回で終結します。費用も無料もしくは裁判に比べて安価です。
第二に、あっせんは非公開で進めることができます。これに対して、労働審判は非公開ですが、訴訟は公開の法廷で行われます。
最後に、労働審判や裁判など裁判所における法的手続きでは、証拠を重視して審理が進みます。これに対して、あっせんは必ずしも証拠が十分でなくても話し合いを中心に進める手続きであり、パワハラや職場いじめなど立証に難のある案件で特に効果を発揮します。
あっせんのデメリット
一方で、あっせんを利用して労使トラブルを解決しようとすることには、残念ながらデメリットもあります。
特に重要なのが、あっせんはあくまでも話し合いを前提とした制度であり、労使の対立が激しいケースでは最終的な解決があっせんだけでは困難なことがある点です。
あっせんは、参加が強制ではないため、労働者側があっせん申請を行っても、労働者側の主張と大きな隔たりのある会社側が、あっせんに参加をしないおそれがあります。片方があっせんの不参加を選択すると、あっせん手続きを継続することができず不成立となります。そのため、あっせんだけでは問題解決ができません。
この場合には、あらためて労働審判、訴訟など、裁判所で行われる、より強制力の強い制度の利用を検討することとなります。
あっせんと労働審判・裁判との違い
あっせん制度を、労働問題の解決のために利用するとき、そのメリット・デメリットをよく理解し、適切な手続きを選択するためには、他の選びうる紛争解決手段と比較することが重要です。
個別労使紛争を解決する手段として、特に重要なものが、労働審判と裁判(訴訟)です。
労働審判と裁判(訴訟)は、いずれも、裁判所において、裁判官が中心となってお互いの言い分、主張を聞き、主張を基礎づける証拠を審理した上で、裁判所としての最終決定を下すという手続きです。
労働審判の場合には、労働審判委員会(裁判官である労働審判官と、労使双方の委員によって構成される合議体)が判断を担い、最終決定として下される「労働審判」に対して労使いずれかが異議申立てをする場合には、自動的に裁判(訴訟)に移行するという点が特徴的ですが、裁判官である労働審判官が中心となって下す「労働審判」には、最終決定として一定の意義があるという点で、とても解決力の高い制度です。
これに対して、あっせんは、労使双方が互いの主張をあっせん委員に伝える点では変わりありませんが、あっせん委員は、問題解決のための最終判断を下すことはありません。労使いずれかの勝敗を決することもありませんし、金銭の支払を命じることもありません。
そのため、あっせんでは、話し合いがまとまらないときは、不成立となり終了することとなるのです。打ち切りとなった労働問題については、同じ問題で再度のあっせん申請を行うことはできません。
あっせんによる労働問題を解決するときの流れ
労働紛争に直面した労働者が、あっせんお申請を行い、話し合いによって労働問題を解決するまでの流れについて、弁護士が解説します。
なお、あっせん申請は、労働問題の場面では労働者側から行われることが多いですが、会社側から行うこともでき、また、双方からあっせん申請することも可能です。
労働問題の交渉を行う
あっせんを申請するためには、労働問題が紛争状態にある必要があります。労使が協調的であり、紛争がなければ、あっせん申請をすることができません。
そのため、あっせん申請を不意打ちで行うのではなく、まずは申請前に、労使間で協議、交渉を行い、話し合いによる解決が可能かどうか検討することが必要です。
ただし、労使間の力関係は、どうしても雇っている側である会社側が強くなってしまい、対等な話し合いの実現が困難なことがあります。内容証明郵便の形式で通知書を送って回答を求め、会社から誠実な回答を得られなかったときは、これ以上交渉を続ける必要はなく、あっせんなどの手続きの利用を検討して良いです。
あっせん申請
交渉が決裂したときは、あっせん申請を行います。あっせん申請をするには、あっせん申請書を作成し、労働委員会もしくは労働局に提出します。
あっせん申請書の所定の欄が狭くて主張が書ききれないときは、「別紙の通り」と記載し、別紙を添付して事件の経緯や労働者側の主張を詳しく記載しておくことがお勧めです。
合わせて、主張を基礎づける客観的証拠を整理し、添付します。労働問題の場合、雇用契約書、就業規則、給与明細などの労働契約の内容を証明する書面、タイムカード、解雇予告通知書、解雇理由書などの労働問題の内容をわかりやすくあらわす証拠などが手元にあれば、必ずあっせん申請時に提出しておきます。
なお、弁護士をあっせん申請の代理人とする場合には、代理人許可申請書を提出してください。
あっせん開始
あっせん申請がなされると、あっせんの相手方となる会社に対して書面で通知が送付されます。会社側は、あっせん申請がなされたことを知ると、これに対して参加するか、不参加とするかを実施期間に対して回答をします。
会社側があっせん申請に応じる場合には、通常、労働者側の出したあっせん申請書に対して、会社側から答弁書が提出されて反論がなされ、合わせて、その反論を基礎づける証拠の提出がなされます。
労使間の対立がそれほど大きくなかった場合には、あっせん申請をしたことをきっかけとして、再度の交渉の場がもたれ、あっせん申請当日になる前に和解で解決できることもあります。
あっせん当日
あっせん当日は、労使が交代に、あっせん委員から事情聴取を受け、聞き取りを行った上で、調整が進められます。
あっせん手続きは、労使双方が同じ場所につくことはなく、顔を合わせることは基本的にはありません。そのため、社長からのパワハラなどの労働問題が火種となっている場合でも、労働者側としても安心してあっせんに臨むことができるというメリットがあります。
労使間の主張が食い違う場合でも、労働審判や裁判のように、事実認定を厳格に行うことはなく、あっせん委員が勝ち負けを決めてくれることもありません。あっせん委員が行うことは、主に、金銭解決を行う場合の金額の調整など、話し合いの調整です。
そのため、あっせんで労働問題を解決しようとするとき、労働者側においても一定の譲歩が必要となる場合が少なくありません。
あっせん終了
あっせん申請を行ったけれども使用者側が不参加の場合や、あっせん当日に調整を行ったけれども隔たりが大きく和解が難しい場合には、あっせんは不成立となり終了します。
この場合には、同一の労働問題について再度のあっせんはできないため、労働審判や訴訟など、別の解決手段を検討することとなります。
あっせん当日の話し合いで、労使間で一定の合意に達したときは、和解書を作成し、署名を行うことで、労働問題を解決し、あっせんを終了します。
あっせんによる労働問題の解決を弁護士に依頼するメリット
あっせん制度を利用して労働問題を解決することは、労働者側にとって、会社側と完全に敵対することなく、しかしながら社内での話し合いではなかなか調整の難しい労使対立を、スピーディに解決することができるメリットがあります。そして、このことは会社側にとってもメリットであり、対立がそれほど激化する前であれば、会社も応じてくれる可能性が高まります。
一方で、あっせん手続きは、労働局、労働委員会という労働問題の専門的な機関が関与する手続きであり、専門的な用語が使われることがあります。あっせん終了時に交わす和解書が、自分にとって不利なものとなっていないかも検討しなければなりません。
そのため、あっせんによる労働問題の解決を目指すにあたって、弁護士を代理人としてつけるメリットがあります。
あっせん時に弁護士を依頼する労働者側のメリットは、次のとおりです。
- 法律の専門知識を補うことができる
:あっせんは、話し合いの場として活用されることが多く、労働法の専門的な争点について法律論が交わされることは少ないです。しかし、関与するあっせん委員は労働法の知識豊富な専門家であり、解決に至る方針について、労働法の専門知識を有していたほうが理解が容易となることが少なくありません。労働問題を得意とする弁護士にあっせんの代理人を依頼することで、当事者だけでは不足する法律の専門知識を補うことができます。 - 書面作成の手間を省くことができる
:あっせん申請の際に提出するあっせん申請書の作成、証拠の収集・整理にはとても手間がかかります。あっせん申請書には、過不足なく必要な情報を記載し、できるだけわかりやすく、かつ、自分の主張を有利に評価してもらえる記載としなければなりません。労働問題を得意とする弁護士は、あっせんはもちろん、労働審判や訴訟などの法律書面を多く記載しており、依頼することで書面作成の手間を省くことができます。 - 当日の対応を任せることができる
:あっせん当日は、あっせん委員の質問に対して、適切な対応を行う必要があります。どのような対応をするかは、あっせんで労働問題を有利に解決できるかどうかに大きく影響します。労働問題を得意とする弁護士は、労働問題に関する多くの交渉を経験しており、会社側の対応を予測し、最良の対応を選択することができます。 - 和解の相場観を知ることができる
:あっせんを、和解によって終了するとき、多くの場合には、会社側から労働者側に対して一定の金銭が支払われることがあります。この金銭を「解決金」と呼びます。労働者側に不利とならないようにするためには、労働問題のケースごとに解決金の相場観を知り、相当な解決金を取得することを内容とする和解にする必要があります。また、和解書の中に、労働者側にとって不利な内容が記載されていないかも、締結前にチェックが必要です。
なお、弁護士を依頼するタイミングは、あっせんを決意したときではなく、もっと前でも構いません。むしろ、弁護士を窓口として会社と交渉し、あっせん前に労働問題を解決できる場合も少なくありません。
交渉からあっせんに至る流れは、必ずしも会社と完全に敵対する流れではありません。労働審判や訴訟に進んで徹底的に戦う方向とは異なり、弁護士を間に入れたとしても、労使間の公平をバランスよく調整してもらうことができます。
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今回は、労働問題を解決するにあたり、労働者側においてあっせん手続きを利用するメリットやその方法、進め方を弁護士が解説しました。
あっせん手続きは、適切に利用すれば、労働問題を円満かつ迅速に解決するのにふさわしい、良い方法です。しかし、利用方法を誤ったり、利用すべきでないケースに利用する場合には、あっせんにはデメリットもあります。結局、労働審判や訴訟で解決せざるを得ず、時間を無駄に浪費することにもなりかねません。
労働問題にお困りの方で、あっせん手続きの利用を検討している方は、ぜひ一度、当事務所へ法律相談をご依頼ください。
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