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あっせん制度を利用して、労働問題を早期解決する方法【弁護士解説】

あっせんは、労働者側で、労働問題をすみやかに、かつ、柔軟に解決したいときに利用できる制度です。

労働問題によって被害を受けてしまったとき、労働審判、労働訴訟などで争う手もあります。しかし、労働審判、労働訴訟などの手続きは、事実の認識が労使間で異なるときには、長期間かかるケースも少なくありません。

あっせんは、労働審判、労働訴訟にくらべて費用も時間も節約できます。あっせんを有効活用すれば、労働トラブルの早期解決に役立ちます。一方、あっせんは、裁判所の手続きとは違って、最終判断を下してはもらえないというデメリットがあり、解決力の弱いため、あっせんには向かないケースもあります。

今回は、あっせんで労働問題を解決するまでの流れとメリットなどを、労働問題にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • あっせんは、労働局、労働委員会で行われる話し合いの手続き
  • あっせんは、原則として1回の期日で、スピーディに労働問題を解決できる
  • 労使の主張に大きな差がある場合など、争いが深いケースはあっせんでの解決には向かない
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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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あっせんとは

本

あっせんは、裁判外紛争解決手続き(ADR)の一種です。あっせん委員が労使の間で話し合いを仲介し、和解を目指します。裁判ではない場所で、話し合いを中心として問題解決を図るのが、ADR(Alternative Dispute Resolution)の特徴です。

あっせんは、パワハラや職場いじめ、嫌がらせなど、裁判で白黒つけるのが困難な労働問題について、話し合いで解決するために利用されます。労働審判や裁判などの手続きより費用や時間がかからず、労働者にとって利用しやすい制度です。

まずは、あっせんの基礎知識について解説します。

あっせんの種類

あっせんには、あっせんの行われる団体や組織によって種類があります。この点は、労働審判、労働訴訟が裁判所のみで行われるのと異なります。

よく利用されるあっせんの制度は、労働委員会によるあっせんと、労働局によるあっせんです。労働問題の内容や方針、目指す解決などによって適切な手続きを選択しなければなりません。いずれの制度も、あくまで話し合いでの解決を目指すため、勝ち負けを決めるのには適していません。一方で、あっせん委員は、労働問題について知識のある専門家なので、専門的判断にもとづいて解決できます。

労働委員会によるあっせん

都道府県労働委員会によるあっせんには、労働組合と会社との集団的労使紛争を調整するあっせん手続きと、労働者と会社との個別労使紛争を調整するあっせん手続きがあります(なお、東京都では例外的に、個別労使紛争の調整を行うあっせんは、労働委員会ではなく東京都労働相談情報センターで行われています)。

労働局によるあっせん

労働局によるあっせんは、労働者と会社との個別労使紛争の調整を行うあっせんです。

あっせんのメリット

労働問題の解決のためにあっせんを利用することは、労働者側にとって多くのメリットがあります。

あっせんのメリット
あっせんのメリット

第一に、裁判や労働審判を行うのに比べて、短期的な解決が期待できます。労働問題の裁判は1年以上かかることも少なくなく、労働審判も平均審理期間は約70日とされるところ、あっせん手続きは原則1回で終結します。費用も原則かかりません。

第二に、あっせんは非公開で進められます。これに対して、労働審判は非公開ですが、訴訟は公開の法廷で行われます。

最後に、労働審判や裁判など裁判所における法的手続きは、証拠を重視して審理が進みます。これに対して、あっせんは証拠が十分でなくても話し合いを中心に進める手続きで、パワハラや職場いじめなど立証に難のある案件で効果を発揮します。

あくまで話し合いを申し出る方法であることから、今後も会社に在職し続けるとき、会社と完全に敵対することを避けることもできます。

あっせんのデメリット

あっせんを利用して労使トラブルを解決する方法には、残念ながらデメリットもあります。重要なのは、あっせんは話し合いを前提とした制度であり、労使の対立が激しいケースは、あっせんだけでは最終的な解決ができないという点です。

あっせんのデメリット
あっせんのデメリット

あっせんは、参加が強制ではありません。労働者があっせん申請をしても、労使の主張に大きな隔たりがあると、会社はあっせんに参加しないおそれがあります。会社側が不参加を選択すると、あっせん手続きを継続できず不成立で終了します。そのため、対立の大きいケースはあっせんだけでは問題解決ができません。この場合、あらためて労働審判、訴訟など、裁判所で行われる、より強制力の強い制度の利用を検討することとなります。

あっせんは、あくまで話し合いにより労使間の妥協点を探る手続きなので、会社側が、最初から譲歩の余地が一切ないとか、訴訟で徹底的に争うと明らかにしているとき、手続きに参加してこないおそれがあります。

あっせんと他の制度との違い

ポイント

あっせんを、労働問題の解決手段として利用するときには、メリット・デメリットをよく理解するためには、その他の解決制度と比較することが役立ちます。

個別労使紛争を解決する手段として、他の選択肢とも比較し、適切なものを選ばなければなりません。特に重要なのが、あっせんと労働審判、訴訟との違いです。

あっせんと労働審判の違い

あっせんと労働審判の違い
あっせんと労働審判の違い

労働審判は、労働審判官(裁判官)と、労使それぞれの委員1名ずつの計3名で構成される「労働審判委員会」が労働問題の判断を担います。

労働審判では、労働問題について労使双方の主張立証を整理して、調停手続きによって調整をし、調整が不可能なときには「労働審判」という最終決定を下します(労使いずれかが2週間以内に異議申立てをすると、訴訟に移行します)。

労働審判は、法律の専門家である裁判官が、最終的な判断を下してくれるという点で、あっせんとは異なります。この点で、あっせんは、最終的な判断を下してくれる第三者は存在せず、話し合いによって合意がまとまらなければそれで終了してしまいます。

そのため、労働審判は、あっせんよりも、解決力の高い制度です。

あっせんと訴訟の違い

訴訟は、裁判官が、労使双方の主張を聞き、証拠を審理し、裁判所としての最終決定を「判決」として下す手続きです。

訴訟の審理中に、裁判官が機をみて和解を勧めてくることがありますが、基本的には、訴訟は最終的な判断を下してもらうための手続きです。

これに対して、あっせんは、労使双方が互いの主張をあっせん委員に伝える点では変わりありませんが、あっせん委員は、問題解決のための最終判断を下すことはありません。労使いずれかの勝敗を決することもありませんし、金銭の支払を命じることもありません。

あっせんによる労働問題を解決するときの流れ

ジャンプ

労働紛争に直面した労働者が、あっせん申請し、労働問題を解決するまでの流れについて、弁護士が解説します。

なお、あっせん申請は労働者側から行われることが多いですが、会社側からのあっせん申請、双方からのあっせん申請も制度上認められています。

労働問題の交渉を行う

あっせん申請するには、労働問題が紛争状態でなければなりません(労使が協調的でトラブルがなければ、あっせん申請できない)。そのため、不意打ちであっせん申請するのではなく、まずは、労使間で協議、交渉を行い、話し合いで解決できないかを検討する必要があります。

交渉のスタートは、内容証明を送ることではじめます。内容証明を使うことで、送付日、送付内容などについて郵便局に証拠化してもらうとともに、労働者側の本気度を伝えることができます。

内容証明とは
内容証明とは

ただし、労使の力関係は、雇用している会社側がどうしても強くなってしまい、対等な話し合いの実現が困難なケースも少なくありません。内容証明を送っても誠実な回答を得られないときには、それ以上の交渉をつづける必要はなく、あっせんや、労働審判、訴訟などの解決手段を利用するようにしてください。

あっせん申請

交渉が決裂したときは、あっせん申請を行います。あっせんを申請するには、あっせん申請書を作成し、利用する機関(労働委員会もしくは労働局)に提出します。

あっせん申請書の所定の欄がせまくて主張が書ききれないときは、「別紙の通り」として、別紙を添付し、事件の経緯や労働者側の主張をくわしく書くのがおすすめです。

あわせて、主張を基礎づける客観的証拠を添付します。労働問題の場合、雇用契約書、就業規則、給与明細などの労働契約の内容を証明する書面、タイムカード、解雇予告通知書、解雇理由書など、問題の内容に応じて適切な証拠を入手し、あっせん申請時に提出するようにしてください。

なお、弁護士をあっせん申請の代理人とするときは代理人許可申請書を提出します。

あっせん開始

あっせん申請がなされると、あっせん相手となる会社に、労働委員会または労働局から通知が送られます。会社側は通知によりあっせん申請が行われたことを知り、これに参加するか、不参加とするかを所定の期日までに回答します。

会社側があっせん申請に応じる場合には、労働者側の出したあっせん申請書に対して、会社側から答弁書により反論が提出され、あわせて、反論を基礎づける証拠が提出されます。

労使間の対立がそれほど大きくないときには、あっせん申請をしたことをきっかけに再度交渉の場がもたれ、あっせん当日を待たずに話し合いによる和解で解決できることもあります。

あっせん当日

あっせん当日は、労使が交互にあっせん委員から事情聴取を受け、それぞれの主張をつたえ、調整をしてもらいます。

あっせん当日は、労使が同席することはなく、顔を合わせることは基本的にありません。そのため、社長からのパワハラなどの労働問題が火種となっている場合でも、労働者側としても安心してあっせんに臨むことができます。

労使間の主張が食い違うときにも、労働審判や訴訟のように証拠審理や事実認定を厳密に行うことはなく、あっせん委員は勝ち負けを決めてはくれません。あっせん委員がするのは、主に、金銭解決するときの金額の調整など、話し合いの調整です。そのため、あっせんで労働問題を解決しようとすると、労働者側でも一定の譲歩を求められることがあります。

あっせん成立による終了

あっせんによる調整の結果、労使の譲歩などがあり合意が成立するときには、あっせん成立により手続きが終了します。

あっせん成立・不成立
あっせん成立・不成立

あっせんの話し合いにより合意に達したときには、和解書を作成し、労使双方が署名押印し、労使間の約束としておくことが大切です。特に、あっせん解決後も、その会社で働き続けるとき、同種の労働問題、違法行為が再発しないよう、必ず最終的な解決を書面化することが重要です。

あっせん不成立による終了

あっせんに会社側が参加してくれない場合や、あっせん当日の調整によっても隔たりが大きく和解が困難なとき、あっせんは不成立となり、手続きが終了します。

特に、あっせんは、会社側が弁護士を依頼していないことも多く、労働法についての間違った知識や価値観、思い込みに固執していると、和解が困難なことがあります。

あっせん不成立によって終了するときには、同一の労働問題について再度あっせん申請することはできないため、次は、労働審判や訴訟など、より解決力の高い別の手段による解決を試みることとなります。

あっせんによる労働問題の解決を弁護士に依頼するメリット

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

あっせんを利用することは、会社と完全に敵対することなく、当事者同士ではなかなか調整の難しい労使対立を、スピーディに解決できるメリットがあります。このことは、労働者側だけでなく、会社側にもメリットとなり、対立がそれほど激化する前であれば、会社も応じてくれて解決に至るケースも多いです。

あっせんは、労働局、労働委員会といった専門機関での手続きであり、法律用語が使われることがあります。あっせん終了時に交わす和解書が不利なものとなっていないかの検討も必要です。そのため、弁護士にあっせんを依頼する大きなメリットがあります。弁護士に、書面を作ってもらったり、あっせん期日に同席してもらったりして、有利に進めることができます。

あっせんで弁護士を依頼する労働者側のメリットは、次のとおりです。

弁護士を依頼するタイミングは、あっせんよりもっと前でも構いません。交渉から任せれば、あっせん前に解決できるケースもあります。交渉からあっせんへの流れは、会社と完全に敵対する流れではなく、弁護士を入れたとしても、労使間のバランスを調整してもらうにとどめることができます。

法律知識をおぎなえる

あっせんは、話し合いの場として活用されることが多く、労働法の専門的な争点について法律論を戦わせることは少ないです。

しかし、関与するあっせん委員は労働法の知識が豊富な専門家であり、解決方針については、専門知識があったほうが理解しやすいです。弁護士にあっせんの代理人を依頼することで、当事者だけでは不足する法律の専門知識をおぎなえます。

書面作成の手間を省ける

あっせん申請書の作成、証拠の収集・整理にはとても手間がかかります。

あっせん申請書には、過不足なく必要な情報を記載し、できるだけわかりやすく、かつ、自分の主張を有利に評価してもらえる記載としなければなりません。

弁護士は、あっせんはもちろん、労働審判や訴訟などの法律書面を多く作っており、依頼することで書面作成の手間を省くことができます。

当日の対応を任せられる

あっせん当日は、あっせん委員の質問に、適切に対応する必要があります。どのような対応をするかは、あっせんで労働問題を有利に解決できるかどうかに大きく影響します。

労働問題にくわしい弁護士は、労働問題について多くの交渉を経験しており、会社側の対応を予測し、最良の対応を選択することができます。

和解の相場観を知ることができる

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

あっせんを、和解によって終了するとき、多くの場合には、会社側から労働者側に対して一定の金銭が支払われることがあります。この金銭を「解決金」と呼びます。

労働者側に不利とならないようにするためには、労働問題のケースごとに解決金の相場観を知り、ふさわしい解決金を獲得できる和解内容としなければなりません。和解書の中に、労働者側にとって不利な内容が記載されていないかも、締結前にチェックが必要です。

まとめ

労働問題を解決するにあたり、あっせん手続きのメリットや利用方法、進め方について、労働者側の立場から解説しました。

あっせん手続きをうまく活用すれば、労働問題を円満かつ迅速に解決することができます。しかし、利用方法を誤ったり、利用すべきでないケースに利用する場合には、あっせんにはデメリットもあります。結局、労働審判や訴訟で解決せざるを得ず、時間を無駄に浪費することにもなりかねません。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、労働問題を得意としており、経験と知識を豊富にご提供することができます。

労働問題にお困りの方で、あっせん手続きの利用を検討している方は、ぜひ一度、当事務所へ法律相談をご依頼ください。

労働問題のよくある質問

あっせんとはどのような制度ですか?

あっせんは、労働委員会、労働局で行われるADR(訴訟外紛争解決)の一種で、労働審判、訴訟など他の手段に比べて、スピーディに話し合いで解決できるメリットがあります。もっと詳しく知りたい方は「あっせんとは」をご覧ください。

あっせんで労働問題を解決するとき、どんな流れで進みますか?

あっせんで労働問題を解決するには、まずあっせん申請書を作成し、労働委員会か労働局へ提出します。あっせんに会社が参加してくるときには、あっせん当日、あっせん委員に主張をつたえ、調整をお願いします。あっせんが成立すると、和解書を作成して終了します。詳しくは「あっせんによる労働問題を解決するときの流れ」をご覧ください。

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